「Quantitative Methods in Finance 2014 (QMF2014) 」参加報告

フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.17(
(2015/4)
)
「Quantitative
Quantitative Methods in Finance 2014 (QMF2014)
QMF2014) 」参加報告
参加報告
1.カンファレンス概要
大会名:Quantitative Methods in Finance 2014
主催者:University of Technology, Sydney
開催地:Sydney, Australia
日時:2014 年 12 月 15 日~ 2014 年 12 月 20 日
本大会は数理的なアプローチによるファイナンス研究の国際的な発表の場となっており、今回はプレワーク
ショップを含め 6 日間のカンファレンスがシドニー中心部のホテルにて開催された。参加者は 200 名弱、発表者
は約 120 名であり、概ね例年通りであった。発表者は世界各国(20 カ国以上)から参加しており、国籍別ではオ
ーストラリア、欧州、アジアからの参加者が多かった。日本からの発表者は 15 人でオーストラリアに次ぐ発表者
数であり、ほとんどの参加者が大学関係者であった。
2.内容
以下では、聴講した発表の中から興味を持ったものをいくつか紹介する。
【高頻度データ解析】
[Yacine Ait-Sahalia, Dacheng Xiu, “Principal Component Analysis of High Frequency Data”]
高頻度データに対する主成分分析に関する研究。ジャンプを含む連続時間確率過程を仮定し、その分散共
分散行列の固有値・固有ベクトルの分布について近似的な解法を提案した。さらにこの手法を用いて、ダウ工
業平均構成銘柄の高頻度データを分析し、その結果について考察していた。ジャンプのない期間では上位3つ
のファクターでリターンの 50~60%を説明する程度だった一方で、金融危機の際には第1主成分の寄与度が
徐々に増大し、第1主成分だけで 70%以上説明できる状態になったとしている。この結果から、この分析をシス
テミックリスク増大のサインとして活用できると主張していた。
【ポートフォリオ最適化】
[Changki Kim, Sang-youn Roh, Bong-Gyu Jang, Changhui Choi, “Net Contribution,Liquidity,and Optimal Pension
Management”]
年金基金を対象とした、最適アセットアロケーションに関する研究。相対的リスク回避度一定の効用関数を
定義し、リスク資産とリスクフリー資産の最適配分を求めるもの。目的関数に微分不可能な点があるため、この
最適化問題は簡単には解けないが、本研究ではリスク資産を「買う」「売る」「何もしない」の3つの状態に分け
て解くという方法を開発し、最適配分を算出していた。金融危機の際には bid-ask スプレッドが拡大するため、
取引コストが無視できなくなるが、本研究では取引コストを考慮したモデルを採用し、取引コストがアロケーショ
ン変更に与える影響についても説明していた。最後にモデルから推定されたアロケーションといくつかの大手
年金基金の実際のアロケーションを比較し、金融危機時のアロケーション変更の良し悪し等について考察して
いた。CalPERS、New York State and Local Retirement System といった年金基金はモデルの結果に近い
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アロケーションをとっていた一方、韓国の年金基金はモデルから推定されたものより遥かに小さい割合
しかリスク資産を保有しておらず、本来得られるべきリターンを得られなかったと主張していた。
【行動経済学】
[Vicky Henderson, David Hobson, Alex S.L. Tse, “Randomized Strategies and Prospect Theory in a Dynamic
Context”]
累積プロスペクト理論に関連した研究。プロスペクト理論はファイナンスにおける意思決定を記述する理論で
ある。本研究では勝ち負け同確率で勝てばある金額を得られ、負ければ同じ金額を失うという賭けゲームを考
え、賭けをやめるタイミングとペイオフについて議論していた。プロスペクト理論では、各時点で賭けを続けた場
合と止めた場合の効用を比較して賭けを続けるかを決定論的に選択するが、本研究では賭けを続けるかどう
かを確率的に決定するエージェントを導入した。シミュレーションの結果、あるパラメータ下においては賭けを続
けるかどうかを確率的に決定するエージェントの方がより優れたペイオフを得られたと主張していた。
【状態空間モデル】
[Robert Elliott, “Filtering the Flash Crash”]
隠れマルコフモデルを用いたフィルターに関する研究。ジャンプ過程を観測するための最適フィルター及びス
ムーサーの推定を行うもの。自励系の連続過程を考え、そのパラメータが隠れマルコフに依存するとして推定
を行っていた。開発したフィルターを 2010 年 5 月 6 日に発生した通称フラッシュ・クラッシュ(数分間でダウ工業
平均が約 1000 ドル下落した)のデータに適用し、フィルターの有用性を検証していた。
【信用リスク】
[Jin-Chuan Duan, “Cascading Defaults and Systemic Risk of a Banking Network”]
銀行の連鎖倒産に関する研究。銀行ネットワークのシステミックリスクを計測する2つの指標を提案した。各
銀行の資産・負債、銀行間のエクスポージャーの推移等を定式化し、倒産が起こった際にその影響が他行にど
のように波及するかについてシミュレーションしていた。また英国15銀行の実際のデータを用いて、2008 年の
金融危機の際に、発表者の提案した2つのシステミックリスク計測指数が増大していたことを示した。
3.所見
本カンファレンスは、博士号取得を目指す学生から著名な教授まで数多くの研究者が参加しており、発表後
の質疑応答やランチ休憩時には、研究者同士の活発な議論や情報交換が見られた。また数は少ないながら産
業界からの参加者も見られ、最先端の研究を実務に取り込もうとする意識の高さが伺えた。発表内容としては、
確率モデルを中心とした数理的なものが大半であったが、実際の市場データを用いた解析もいくつかあり大変
参考になった。確率モデルでは「確率ボラティリティ」や「ジャンプ過程」、実証研究においては「大量データ」「高
頻度データ」といったキーワードが目についた。発表の中には実務への応用を意識した研究もあり、学術的な
知識のみならず、実務的な知識を得ることができ、非常に有意義な大会参加となった。
(金融技術開発部 仲山泰弘)
照会先:みずほ情報総研株式会社 金融技術開発部
東京都千代田区神田錦町 3-1
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