(疑い)事例において検出されたノロウイルスの遺伝子型別

 京都市衛生環境研究所年報 No.79(2013) 平成 24 年度の食中毒(疑い)事例において検出されたノロウイルスの遺伝子型別について
微生物部門
Genotype of Norovirus detected from stool and vomit specimens of food poisonings in the
2012/2013 season
Division of Bacteriology
Abstract
Infectious diseases by Norovirus (NV) prevailed in the 2012/2013 season. We detected 179 NV-positive
specimens(41 cases) from stool and vomit specimens of food poisonings in the 2012/2013 season. Then,
we studied genotypes of 60 specimens(40 cases) of them. As a result, 52 specimens(35 cases) were
genotype GⅡ/4. In Kyoto city, NV of genotype GⅡ/4 were prevalent in the 2012/2013 season. And,as a
result of further studies,the gene arrangements of many GⅡ/4 strains that had been detected in Kyoto
city were similar to the gene arrangements of Sydney/NSW0514/2012/AU strain reported as a new GⅡ
/4 variant in 2012.
Key Word
Norovirus ノロウイルス,genotype 遺伝子型
子型別は,Kageyama らの方法 1)及び片山の遺伝子型番号 2)
1 はじめに
ノロウイルス(以下「NV」とする)は,食中毒や感染症
に従って分類した。
の原因となるウイルスであり,冬季を中心に流行する。人
に感染する NV は GenogroupⅠ(GⅠ)と GenogroupⅡ(GⅡ)
4 結果及び考察
の 2 つの遺伝子群に分類され,さらにそれぞれ 15 と 18 あ
検査材料とした 40 事例 60 検体について,系統樹解析を
るいはそれ以上の遺伝子型(genotype)に分類される。
実施したところ,35 事例 52 検体が GⅡ/4,3 事例 5 検体が
平成 24 年度は,10 月以降全国的に NV の流行が見られ,
GⅡ/2,1 事例 2 検体が GⅡ/6,1 事例 1 検体が GⅠ/14 及び
食中毒(疑い)事例として当部門に搬入された検体のうち,
GⅡ/6 であった(表1)
。なお,同一事例において複数の検
41 事例 179 検体が NV 陽性であった。今回,検出された NV
体の型別を行ったものは,遺伝子型がすべて一致していた。
について遺伝子型別を行ったのでその結果について報告す
また,GⅡ/4 に分類された 35 事例 52 検体のうち 29 事例
る。
41 検体から検出された GⅡ/4 株は,平成 24 年 10 月以降全
国的に流行した変異型の Sydney/NSW0514/2012/AU 株に近
縁であり,事例数では全体の 72.5%を占めた(図 1)
。それ
2 検査材料
平成 24 年度に食中毒(疑い)事例として当部門に搬入さ
に 続 い て , 2006/2007 シ ー ズ ン に 流 行 し た
れ,NV 陽性と判定された 41 事例 179 検体のうち,GⅠ陽性
Nijmegen115/2006/NL 近縁株の事例が 4 事例(10%)あっ
の 1 事例を除く 40 事例 60 検体を検査材料(便 59 検体,吐
た。京都市では,この Sydney/NSW0514/2012/AU 近縁株は
物 1 検体)とした。
10 月の事例で初めて確認され,それ以降の NV 流行期の事
例から検出された NV 株の大部分は,この近縁株であった
(図 2)
。
3 方法
また,平成 24 年度に食中毒と断定された事例においては,
検体を PBS で 10%乳剤とし,QIAamp Viral RNA Mini Kit
を用いて RNA を抽出した。その後,キャプシド領域を増幅
10 事例中 9 事例から検出されたNV 株が GⅡ/4 に分類され,
する G1-SKF/G1-SKR 及び G2-SKF/G2-SKR プライマーを用い
そのうち 8 事例の GⅡ/4 株は Sydney/NSW0514/2012/AU 近
て RT-PCR 法を行った。得られた増幅産物を精製後,ダイレ
縁であった(表 2)
。平成 24 年度の市内の流行は,GⅡ/4 変
クトシークエンス法を実施し,塩基配列を決定した。遺伝
異型の影響が大きいことが確認された。
107
京都市衛生環境研究所年報 No.79(2013) 表 1 遺伝子型別結果
事例
番号
NV陽性
検体数
遺伝子型別
実施検体数
1
4
2
2
2
1
3
2
2
4
2
2
5
11
2
6
5
2
7
3
3
8
10
2
7
2
2
1
11
5
2
12
13
1
1
1
1
14
11
2
15
16
1
8
1
1
17
4
2
18
2
1
19
8
2
20
3
2
21
8
2
22
23
1
4
1
1
24
9
2
25
26
4
1
1
1
27
10
2
28
17
2
29
30
31
32
33
34
35
36
37
2
2
1
2
1
1
9
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
38
6
2
39
5
2
40
1
1
1-1
1-2
2-1
3-1
3-2
4-1
4-2
5-1
5-2
6-1
6-2
7-1
7-2
7-3
8-1
8-2
9-1
9-2
10-1
11-1
11-2
12-1
13-1
14-1
14-2
15-1
16-1
17-1
17-2
18-1
19-1
19-2
20-1
20-2
21-1
21-2
22-1
23-1
24-1
24-2
25-1
26-1
27-1
27-2
28-1
28-2
29-1
30-1
31-1
32-1
33-1
34-1
35-1
36-1
37-1
38-1
38-2
40-1
40-2
41-1
遺伝子型
GⅠ
GⅠ/14
GⅡ
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/6
GⅡ/6
GⅡ/6
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/2
GⅡ/4
GⅡ/4
GⅡ/2
GⅡ/2
GⅡ/2
GⅡ/2
GⅡ/4
図 1 遺伝子型別事例数(GⅠ事例を除く)
12
GⅡ/6
10
GⅡ/2
8
事例数
9
10
検体番号
他のGⅡ/4
6
GⅡ/4
(Sydney/NSW0514/
2012/AU近縁株)
4
2
0
4
5
6
7
8
9
10 11
12
原因施設
給食施設
飲食店
飲食店
給食施設
団体旅館
団体旅館
飲食店
飲食店
飲食店
ホテル
摂食者数
18
17
19
74
434
391
21
17
33
57
患者数
14
10
15
30
186
155
17
11
21
37
2
図 2 月別 GⅡ事例数(事例 2 を除く)
表 2 食中毒事例の遺伝子型
発生月
2012年10月
2012年11月
2012年11月
2012年11月
2012年11月
2012年12月
2012年12月
2012年12月
2013年1月
2013年3月
1
※
NV陽性数
3
10
5
11
4
8
8
9
17
6
遺伝子型
GⅡ/4(Sydney/NSW0514/2012/AU近縁株)
GⅡ/4(Sydney/NSW0514/2012/AU近縁株)
GⅡ/4(Nijmegen115/2006/NL近縁株)
GⅡ/4(Sydney/NSW0514/2012/AU近縁株)
GⅡ/4(Sydney/NSW0514/2012/AU近縁株)
GⅡ/4(Sydney/NSW0514/2012/AU近縁株)
GⅡ/4(Sydney/NSW0514/2012/AU近縁株)
GⅡ/4(Sydney/NSW0514/2012/AU近縁株)
GⅡ/4(Sydney/NSW0514/2012/AU近縁株)
GⅡ/2
※ NV陽性数は京都市での検査実施分の数
108
3
京都市衛生環境研究所年報 No.79(2013) 5
6
まとめ
参考文献
1)
平成 24 年度は,10 月頃から NV による食中毒(疑い)
Kageyama T., Shinohara M., Uchida K., Fukushi S.,
事例が多発し,京都市において最終的に NV による食中毒
Hoshino F.B., Kojima S., Takai R., Oka T., Takeda
と断定した事例数は,過去最多の 10 件であった。GⅡ/4
N., Katayama K. 2004. Coexistence of multiple
変異型により NV が大流行する年は,より一層の調理従事
genotyoes, including newly identified genotypes, in
者の健康管理及び手洗いが重要であると考える。
outbreaks of gastroenteritis due to norovirus in
Japan.
GⅡ/4 変異型は 2,3 年ごとに出現し,流行拡大の原因
3)
Journal
of
Clinical
Microbiology.
42,
2988-2995
になっていることから ,今後も,継続して NV の遺伝子
2)
型別を行い,流行株の動向について注視していきたい。
IASR「ノロウイルスの遺伝子型」http://idsc.nih.
go.jp/pathogen/refer/noro-kaisetu1.html
3)
IASR Vol.34 p45.48:20013 年 2 月号
遺伝子型 GⅡ.4 変異型の急速な拡大
109
ノロウイルス
京都市衛生環境研究所年報 No.79(2013) 110