第30回五大がんに関する市民公開講座 2015年5月8日 肺がんの臨床像と薬物療法 新潟市民病院 呼吸器内科 宮林貴大 肺がんの疫学① 2010年に肺がんと診断された患者数 107241人(男性 73727人、女性 33514人) 部位別がん罹患数順位(2010年) 1位 2位 3位 4位 5位 男性 胃 肺 大腸 前立腺 肝臓 女性 乳房 大腸 胃 肺 子宮 男女計 胃 大腸 肺 乳房 前立腺 肺がんの疫学② 2013年に肺がんで亡くなった患者数 72734人(男性 52054人、女性 20680人) 部位別がん死亡数順位(2013年) 1位 2位 3位 4位 5位 男性 肺 胃 大腸 肝臓 膵臓 女性 大腸 肺 胃 膵臓 乳房 男女計 肺 胃 大腸 膵臓 肝臓 肺がんの疫学③ がん死亡率の年次推移 肺がん 肺がん 1993年に男性は胃がんを抜いて肺がんが死亡率第1位 1998年には全体で肺がんが死亡率第1位 肺がんの疫学④ 肺がんの危険因子 (肺がんになりやすい人) 喫煙 年齢 アスベストの曝露 化学物質の曝露 慢性閉塞性肺疾患 (COPD) 肺がんの疫学⑤ 喫煙の影響 非喫煙者群のがん罹患リスクを1.0とした場合の 過去喫煙者群、現在喫煙者群の相対リスクおよび寄与危険度割合 4.5倍 男性 肺がん 女性 肺がん 2.2倍 やめた 4.2倍 3.7倍 吸う やめた 吸う 肺がんの予防 ・禁煙(予防効果が証明されている) ・早期発見 →検診(胸部レントゲン、喀痰細胞診) 特に40歳以上かつ喫煙者、アスベスト曝露歴 のある方は肺がん検診をお勧めします。 肺がんの診断① <肺の構造とがんの発生部位> 肺の構造 右肺 気管 気管支 がんの発生部位 左肺 肺門部 肺野部 肺野型 縦隔 腺がん 大細胞がん 肺門型 扁平上皮がん 小細胞がん 肺がんの診断② <症状> 一般的症状 呼吸器症状 咳、痰 血痰、胸痛 息切れ 声のかすれ その他の症状 疲れやすい 食欲不振 体重減少、発熱 顔や首のむくみ 転移による症状 頭痛、腰痛、肩痛 ※早期がんでは症状が無いことが多い。 肺がんの診断③ <診断の流れ> スクリーニング 確定診断 病期診断 胸部レントゲン 喀痰細胞診 胸部CT 気管支鏡検査 経皮針生検 外科的肺生検 全身CT、MRI 骨シンチ PET-CT 肺がんの診断④ <スクリーニング> 画像診断 レントゲン 喀痰細胞診 CT ・臨床症状 ・検診 ・他疾患 精査中 異常陰影? 異常陰影 がん細胞 肺がんの診断⑤ <確定診断> 気管支鏡検査 経皮針生検 擦過細胞診、生検 CTガイド下生検 病理検査へ 肺がんの診断⑥ <肺がんの種類(組織型)> 非小細胞肺がん 小細胞肺がん 腺がん 大細胞がん 扁平上皮がん 小細胞がん 肺野部 肺野部 肺門部 肺門部 肺がんの約50~60% 肺がんの約5% 肺がんの約20~30% 肺がんの約10~15% 喫煙との関連大 喫煙との関連大 肺がんの診断⑦ <病期(進行度)診断> T (原発巣) CT MRI 気管支鏡 N (所属リンパ節) CT PET-CT 気管支鏡 縦隔鏡 胸腔鏡 M (遠隔転移) CT MRI PET-CT 骨シンチグラフィ 原発巣の状態(T)、リンパ節転移の有無(N)、 遠隔転移の有無(M)で進行度を判定 肺がんの診断⑧ <病期> -病期分類- -TNM分類原発腫瘍(T) 潜伏癌 TX NO MO O期 Tis NO MO ⅠA期 T1aまたはT1b NO MO ⅠB期 T2a NO MO T1aまたはT1b N1 MO T2a N1 M0 T2b N0 M0 T2b N1 MO T3 NO MO T1aまたはT1b N2 M0 所属リンパ節 (N) T2a N2 M0 Nx: N0: N1: N2: N3: T2b N2 M0 T3 N2 M0 T3 N1 MO T4 N0 MO T4 N1 MO Tは関係なし N3 MO T4 N2 MO Tは関係なし Nは関係なし M1aまたはM1b Tx: 細胞疹のみ陽性 Tis: 上皮内癌(Carcinoma in situ) T1a: 腫瘍の最大径(≦2.0cm) T1b: 腫瘍の最大径(2cm<、 ≦3cm) T2a: 腫瘍最大径(3cm<、 ≦5cm)、気管分岐部より2.0cm以上離 れている、臓側胸膜に浸潤、片肺全野には及ばない無気肺 T2b: 腫瘍最大径(5cm<、 ≦7cm)、気管分岐部より2.0cm以上離 れている、臓側胸膜に浸潤、片肺全野には及ばない無気肺 T3: 腫瘍最大径(7cm<)、胸壁、横隔膜、縦隔胸膜 心膜に直接浸潤、気管分岐部より2.0cm未満 一側全肺の無気肺、同一肺葉内転移 T4: 縦隔、心臓、大血管、気管、食道、椎体、気管分岐部に浸潤 同側他肺葉転移 所属リンパ節が判定できない 所属リンパ節に転移がない 同側気管支周囲、同側肺門リンパ節転移、肺内リンパ節転移 同側縦隔、気管分岐部リンパ節転移 対側縦隔、対側肺門、同側対側斜角筋前・鎖骨上リンパ節転移 ⅡA期 ⅡB期 ⅢA期 遠隔転移 (M) Mx: M0: M1a: M1b: 遠隔転移が判定できない 遠隔転移がない 対側肺転移、悪性胸水、悪性心嚢水 他臓器への転移 ⅢB期 Ⅳ期 肺がんの治療① 局所療法 外科療法(手術) 放射線療法 全身療法 薬物療法 細胞障害性抗がん剤 分子標的薬剤 肺がんの治療② 外科療法 肺全摘術 肺葉切除 縮小手術 区域切除 リンパ節 腫瘍 切除された右肺 右肺摘除例 リンパ節 リンパ節 腫瘍 切除された肺葉 右上葉切除例 部分切除 腫瘍 切除された区域 右上葉区域切除例 リンパ節 腫瘍 切除された 組織 右上葉部分切除例 肺がんの治療③ 放射線療法 胸部放射線療法 予防的全脳照射 転移巣に対する照射 非小細胞肺がん 小細胞肺がん 小細胞肺がん 脳転移 骨転移 放射線治療装置 ガンマナイフ 肺がんの治療④ 薬物療法 適応と目的 ・切除可能な肺がん ・根治的化学放射線治療 が可能な肺がん 生存率の向上、治癒 切除不能な肺がん 延命、生活の質を維持 症状の改善 種類 細胞障害性抗がん剤 分子標的薬剤 肺がんの治療⑤ 非小細胞がんの治療方針 病期 手術 放射線療法 薬物療法 ⅠA ⅠB ⅡA ⅡB ⅢA ⅢB Ⅳ 肺がんの治療⑥ 小細胞がんの治療方針 リンパ節転移 進展型 限局型 ・ 原発巣が左右どちらかの肺、 縦隔、近いリンパ節に限局 ・ 以下のリンパ節に転移 同側の肺門リンパ節 同側の鎖骨上窩リンパ節 縦隔リンパ節 放射線療法 + 薬物療法 病期がⅠ期の場合は手術+薬物療法 限局型の範囲を 超えて進展して いる症例 肝転移 薬物療法 肺がんに使用する薬剤 1960年代 1990年代 2000年以降 細胞障害性抗がん剤 白金製剤 シスプラチン エトポシド UFT 分子標的薬剤 カルボプラチン イリノテカン TS-1 ゲムシタビン アムルビシン ビノレルビン ペメトレキセド パクリタキセル ドセタキセル ゲフィチニブ エルロチニブ アファチニブ クリゾチニブ アレクチニブ ベバシツマブ 細胞障害性抗がん剤の特徴 細胞障害性抗がん剤の副作用 種類 内容 血液毒性 貧血,白血球減少,血小板減少 消化器毒性 悪心・嘔吐,食欲不振,下痢,便秘 粘膜毒性 口内炎,出血性膀胱炎 肺毒性 間質性肺炎 心毒性 心筋障害,不整脈,心不全 肝毒性 肝機能障害 腎毒性 腎機能障害 神経毒性 手足のしびれ,中枢神経障害 皮膚毒性 にきび,手荒れ, 色素沈着,発疹,爪の変形 過敏症 呼吸困難,血圧低下,じんま疹 その他 脱毛, 性機能障害,2次発がん,血管外漏出など 血液毒性とは 各血球の主な働き 主な症状 白血球減少 (好中球減少) 生体防御(免疫力) 発熱 口内炎 感染症 赤血球減少 全身への酸素運搬 貧血 だるさ めまい 血小板減少 止血 出血傾向 鼻出血 紫斑 好中球は殺菌能を有し 生体防御に重要 血液毒性対策 医療処置 白血球減少 → G-CSF製剤注射 赤血球減少、血小板減少 → 輸血 生活上の注意 基本的な対策はうがい、手洗い ・口や皮膚、尿路、肛門からの感染が多いので体を清潔に保つ。 ・外から帰ったとき、食事やトイレ前後に手洗いを。 ・外出時は人ごみを避け、マスクをつける。 ・体調の良いときは毎日入浴、シャワー浴で体を清潔に。 吐き気、嘔吐、食欲不振対策 医療処置 抗がん剤点滴前に吐き気止めを使用 (予防が重要) 生活上の注意 ・身体を締め付ける服は避ける。 ・香水のようなにおいの強いものは避ける。 ・部屋の換気をする。 ・においの強い食事はさける。 ・冷たいもの、さっぱりしたものを食べる。 その他の副作用対策 分子標的薬剤とは① 分子標的薬剤とは② じゅうだん爆撃 抗がん剤 ピンポイント攻撃 分子標的薬 分子標的薬 ・がん細胞をピンポイント攻撃 ・正常細胞は攻撃しない ・抗がん剤のような血液毒性、 吐き気はほとんど認めない 抗がん剤 上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤 • 経口投与 • 日本で保険適応が通っている薬剤は3剤 ゲフィチニブ(商品名:イレッサ) エルロチニブ(商品名:タルセバ) アファニチブ(商品名:ジオトリフ) EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の作用機序 EGFRチロシンキナーゼ阻害剤 上皮成長因子受容体 (EGFR) チロシンキナーゼを阻害 チロシンキナーゼ 増殖シグナル伝達を遮断 増殖シグナル伝達 核 がん細胞の増殖を抑制 がん細胞増殖 がん細胞 EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が効きやすい人 患者背景 ・腺がん ・非喫煙者 ・女性 ・アジア人 遺伝子的背景 ・上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異 がん化の原因。 非小細胞肺がんの30~40%で認められる。 手術検体、生検検体、気管支擦過細胞、胸水検体で検査可能。 EGFR遺伝子変異の有無での 抗がん剤との治療効果の差 イレッサ 抗がん剤 抗がん剤 イレッサ EGFR遺伝子変異のある肺がんでは抗がん剤に 比べEGFRチロシンキナーゼ阻害剤が良く効く EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の特徴 • EGFR遺伝子変異がある肺がんに対して抜群の治 療効果を発揮する。 • 抗がん剤のような吐き気、血液毒性は少ない。 • 副作用として約5%の頻度で間質性肺炎を発症。 • 皮膚障害、下痢の頻度が高い。 ALK(anaplastic lymphoma kinase)阻害剤 • 経口投与 • EML4-ALK融合遺伝子のある肺がんで使用可能 • 日本で保険適応が通っている薬剤は2剤 クリゾチニブ(商品名:ザーコリ) アレクチニブ(商品名:アレセンサ) EML4-ALK融合遺伝子 ・がん化の原因。 ・非小細胞肺がんの約5%に認められる。 ・若年、非喫煙者、腺がんで検出される ことが多い。 ・手術検体、生検検体、気管支擦過細 胞、胸水検体で検査が可能。 EML4-ALK融合遺伝子のある肺がんでの 抗がん剤との治療効果の差 ザーコリ 抗がん剤 EML4-ALK融合遺伝子のある肺がんでは 抗がん剤に比べALK阻害剤が良く効く ALK阻害剤の特徴 • EML4-ALK融合遺伝子のある肺がんに対して極め て良好な治療効果をもたらす。 • 副作用として視覚障害、肝障害、消化器症状、味覚 障害などがある。 • 間質性肺炎の発症頻度は2%程度。 治療のスケジュール • 細胞障害性抗がん剤(シスプラチンを含む) 原則入院治療。 計3~4か月程度、入退院を繰り返して治療を行う。 • 細胞障害性抗がん剤(シスプラチンを含まない) 1回目は2週間程度の入院治療が無難。 2回目以降は、通院治療が可能。 治療期間は抗がん剤の種類によって様々。 • 分子標的薬剤 治療開始1~2週間は入院治療が無難。 それ以降は通院治療。 まとめ ・肺がんは予防が大切。禁煙を心がけましょう! ・定期的に検診を受け、早期発見を目指しましょう! ・ここ数年で有望な肺がん治療薬がいくつも登場。 ・副作用対策の薬剤も進歩してきているため、以前 と比べかなり楽に抗がん剤治療は受けられます。 ・副作用が少なく、優れた治療効果をもつ新たな 分子標的薬剤の登場に期待!
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