乳がんの診断と治療

乳がんの診断と治療
一般外科学部門 准教授 藤田 崇史
現在、わが国の乳がんの罹患数は 8 万人、死亡者数は 1 万 3 千人を越えています。
乳がんによる死亡数を減らすためには、乳がん検診の受診を奨励し早期発見に努めることはもとより、
手術、放射線療法、薬物療法を駆使した集学的治療が不可欠です。さらに個々の乳がんのタイプおよび
進行度に応じて、治療方針を選択する個別化治療の方向にも進んでいます。
○診断
乳腺疾患においては、侵襲の少ない検査から行うのが基本であり、外来では、まず視触診、マンモグ
ラフィ、乳腺超音波を行い病変の有無を確認することから始まります。
病変の確定診断においては、乳腺超音波で確認できるものには穿刺吸引細胞診を行い、次に針生検ま
たは超音波ガイド下吸引式組織生検と徐々に侵襲の大きい検査を行います。それでも確定診断がつかな
い場合にのみ、乳房 MRI 等で病変の広がりを確認した後、病変の範囲が広い場合は局所麻酔下に切開生
検を、病変が小さい場合は全身麻酔下に治療と診断を兼ねた乳房部分切除術を行います。
乳腺超音波では確認できない、マンモグラフィのみで確認できる病変(石灰化病変)に対しては、ス
テレオガイド下(マンモグラフィガイド下)吸引式組織生検を行います。
○治療
乳がん治療は手術主体の局所療法から、手術に放射線療法、薬物療法(化学療法、ホルモン療法および
分子標的薬療法)を併用した全身療法へと移行しています。
1)手術
乳癌の手術は、縮小化、低侵襲化の傾向にあります。乳房に対しては、乳房切除術に代わって乳房温存
療法が増加傾向にあり、既に乳房温存療法の施行総数は乳房切除術を超え、全体の 60%を超えています。
また乳癌における腋窩リンパ節に対する手術では、腋窩リンパ節郭清がおこなわれてきましたが、早期
乳がんにおいては、腋窩リンパ節郭清に代わって、上肢の浮腫等の後遺症の少ないセンチネルリンパ節
生検が 2010 年より保険適応となり一般的に行われています。
2)薬物療法
乳がんは生物学的に多様性を示すため、化学療法剤、ホルモン剤および分子標的薬の薬剤感受性・効
果(タイプ)が個々の癌によって異なります。このため薬物療法においては乳がんのタイプを考慮し、個々
の乳がんに適した治療を行なう必要があります。実際には乳がんのタイプに、患者さんの状態(年齢、
閉経状況、併存疾患)および癌の進行度を加味して、化学療法剤、ホルモン剤および分子標的薬を組み
合わせて使用することにより生存率の改善が期待できます。
また薬物療法は、その目的別に①術前薬物療法、②術後薬物療法、③再発治療があります。
①術前薬物療法は強力な化学療法剤を中心とする方法であり、病理学的な完全寛解(癌の消失)を目標
とし、場合によっては乳房温存率の向上が見込めます。また閉経後乳癌患者の一部には術前ホルモン療
法施行も行われるようになってきています。
②術後薬物療法は、乳癌診断時にすでに存在している微小転移の根絶により再発を予防し、生存率の改
善を目的とします。現在では適切に薬剤を使用することにより、50%程度の再発リスクを減らせるよう
になってきています。
③残念ながら再発後の根治は極めて困難なため、再発治療においては、継続して治療行い生活の質を保
ちながら生存期間を延長することが主目標となります。ただしハーセプチンⓇ、タイケルプⓇ、パージェ
タⓇに代表される分子標的薬や血管新生阻害薬(アバスチンⓇ)および新規ホルモン剤(フェソロデックス
Ⓡ
)
・化学療法剤(ハラヴェンⓇ)等の導入、薬剤の新たな組み合わせにより再発後生存期間は延長する傾
向にあります。
3)放射線療法
術後治療として、乳房部分切除後には、原則として残存乳房に対して放射線療法を行います。また腋窩
リンパ節転移が多数認められた場合や腫瘍径が大きい場合にも、胸壁・鎖骨上領域に対して放射線療法
を行います。
再発時の治療として、骨転移および脳転移の病巣部に対して放射線治療を行う場合があります。
≪講師略歴≫
氏
名
学歴及び職歴
藤田 崇史(ふじた たかし)
1991 年 岡山大学医学部卒業
1991 年 岡山大学医学部第二外科(現胸部・乳腺内分泌外科)医員
2000 年 因島総合病院 外科医長
2004 年 愛知県がんセンター中央病院 乳腺科 医長
2015 年 自治医科大学付属病院 乳腺科 病院講師
2016 年 自治医科大学 外科学講座一般外科学部門准教授、乳腺科科長
主 な 著 書
藤田崇史:術式の適応基準 乳癌診療ハンドブック 中外医学社:85-98, 2005
藤田崇史;乳腺超音波ガイド下インターベンション手技マニュアル 超音波ガイド下マ
ンモトーム生検 実際の手技 50-51, アトムス 2009
藤田崇史:骨転移治療において BP 治療を実施するメリットは何か?:がん骨転移治療,
先端医学社,
36-42,
2012
藤田崇史:がん化学療法の薬 はや調べノート プロフェッショナルがんナーシング,
148-153, 2013