わかりやすい悪性腫瘍の話 咽頭がん 咽頭がんの診断 上咽頭がんについて

わかりやすい悪性腫瘍の話 咽頭がん
2015.9.10
咽頭がんの診断
◆上咽頭がんについて
人間の「のど」は咽頭と喉頭からできています。
咽頭は、鼻の奥から食道までの、食べ物と空気の
両方が通る部分で、上咽頭・中咽頭・下咽頭に分
かれています。
上咽頭は鼻のつきあたり、口蓋垂や扁桃腺の後上方
のスペースで、直接見ることはできません。
上咽頭がんとは?
上咽頭は、アデノイド(腺様増殖症)と呼ばれる
疾患の周辺に発生する悪性腫瘍です。
上咽頭の側壁には、耳管開口部と呼ばれる中耳と連絡する管の出口があります。このため、上
咽頭がんでは鼻症状のみでなく、耳に関連した症状も出現します。
原因としては、喫煙、飲酒、熱い飲食物もリスクを高くすることが確実とされています。ま
た、遺伝や EB ウイルス(Epstein-Barr virus:エプスタインバーウイルス)が関係している
と考えられています。日本では 1 年間に約 500 人の方に発生すると言われています。
症状
上咽頭がんの症状としては、「くびのリンパ節の腫れ」があげられます。この腫れは、上咽頭
がんの頸部リンパ節への転移によるものです。耳介(じかい)の下斜め後方にあるリンパ節
(副神経リンパ節)が腫れることが多く、病気が進むと別の頸部リンパ節も腫れてきます。
頸部リンパ節の腫れだけを自覚症状として外科や内科を受診し、なかなか診断がつかず、頸
部リンパ節の組織を採取して検査して初めて頭頚科(耳鼻咽喉科)で上咽頭がんの診断が確
定することもあります。
1) 鼻症状
鼻づまりと鼻出血が主なものです。鼻腔から血液が流れ出す状態(鼻血)だけでなく、鼻
をかむと鼻汁に血液が混じる状態が継続します。
2) 耳症状
がんによって、耳管開口部が閉塞し、耳の詰まったような感じや、難聴(多くは片側性)
の症状が起きます。
3) 脳神経症状
がんが脳神経を圧迫、あるいは直接侵すことによって発症します。どの脳神経にも侵され
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る可能性がありますが、眼球を動かす神経(外転神経)が障害されると物が二重に見える
ことがあります。
また、視覚を司る視神経に障害が起きると、視力障害を起こしたり、目や顎の感覚を連
動をコントロールする三叉(さんさ)神経が圧迫されたり、侵されたりするため、疼痛(と
うつう)などがあります。
上咽頭がんは、*低分化型扁平上皮がんが多いため、頭頸部の別の部位にも遠隔転移が多
く認められます。肺・骨・肝臓が遠隔転移の最も多い部位です。肺転移による胸部レントゲ
ン写真上の異常陰影、骨転移による骨の痛み、肝手による腹部超音波検査での異常像などに
より、遠隔転移が先に発見されることもあります。
*低分化型扁平上皮癌:分化度
人のからだを構成する細胞は、分裂を繰り返して様々な機
能や形態を持つ細胞に変化します。これを細胞の「分化」といいます。分化の進み具合を
「分化度」と言い、成熟の度合いに応じて、未分化、低分化、高分化などと表現されます。
分化度の低い細胞は、活発に増殖する傾向があり、がん細胞では、病理検査・病理診断
によって分化度を調べることで、悪性度の評価や抗がん剤に対する治療効果の予測などを
行います。
◆中咽頭がんについて
中咽頭は、口を大きく開けたとき、口の奥に見える場所です。食物や空気を飲み込む嚥下
や言葉を話す構音をうまく行うための重要な働きをしています。扁桃腺や舌根(下の付け
根)に生じやすく多くは扁平上皮がんと言われるタイプです。
中咽頭がんと下咽頭がんは、圧倒的に男性に多く喫煙や過度の飲酒が大きな要因と考えら
れています。どちらのがんも 50 歳代~60 歳代に診断されることが多いです。中咽頭がん
や下咽頭がんでは食道や口の中にもがんができることがあるので注意が必要です。
また、最近では、中咽頭がんとヒトパピローマウイルス(HPV)の関係が指摘され始めて
おり、日本でも 20%程度の患者はこのタイプの発症を示唆する報告も出てきています。
頭頸部がん自体の発生頻度が少なく口腔・咽頭を合わせた発生数はがん全体の約 2%で中咽
頭がんはそのうちの 10%前後です。日本では年間 1000~2000 人程度に発症し、九州や沖
縄など南の地域に多い傾向があります。これは強い酒が原因ではないかと言われています。
症状
初期症状は、食物を飲み込むときの違和感、しみる感などです。やがてのどの痛みやのみ
込みにくさ、しゃべりにくさなどが少しずつ強くなり、進行すると耐えられない痛み、出
血、開口障害、嚥下障害、呼吸困難など生命に危険を及ぼす症状が出現してきます。
ときには、がんそのものによる症状がほとんどなく、頸部へ転移したリンパ節の腫れだけ
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が唯一の初発症状となることもありますので注意が必要です。頸部リンパ節が腫れてきた
場合、がん(特に頭頸部がん)の転移の可能性もありますので、耳鼻咽喉科(頭頚科)で
検査してもらうことが大切です。
◆下咽頭がんについて
下咽頭は、のどの一番底の部分で、
「のどぼとけ」の後ろにあります。
ヘビースモーカーで飲酒量の多い人ほど下咽頭がんにかかりやすく、50 歳~60 歳代に多く、
男性は女性の 4~5 倍の頻度で発生します。また、下咽頭の輪状後部という部位
にできる
がんは、貧血を持つ女性に多く発症します。下咽頭がんの 20~30%に食道がんも見つかり
ます。下咽頭癌の 60%以上は、初診時には既に喉頭に浸潤していたり、頸部リンパ節転移
が起きていたりと進行した状態で見つかります。
症状
1)下咽頭は食べ物の通り道なので、内腔に腫瘍が付き出してくると、嚥下時に何か引っか
かる感じやスッキリのみ込めない感じが続きます。潰瘍(ただれたような状態)型の腫
瘍では、焼けつくような痛みが出てくることもあります。
2)嚥下時に耳の奥に鋭い痛みが走り、中耳炎のような症状が起こります。下咽頭がんや進
行した喉頭がんの患者さんに特徴的に表れます。
3)風邪でもないのにしわがれ声が続き徐々に進行します。これはがんが喉頭に浸潤したり、
声帯を動かす神経を麻痺させたりするために起こる症状です。さらに進行すると空気の
通り道が狭まるために、ゼーゼーして息苦しく苦しくなります。
4)頸部リンパ節に転移しやすいため、約 60%の人が初診時には既に転移しています。頸部
リンパ節が腫れ、グリグリができます。のどの症状は全くなく、このリンパ節の腫れが
唯一の自覚症状であることもまれではありません。
◆検査
視診・触診
鼻や耳の穴に光を当てて中を観察したり、口から小さな鏡の付いている器具を入れて鼻やの
どの奥を観察したりします。触診は、口の中に指を入れて直接疑わしい部分に触れて、がん
の大きさや硬さ、広がりなどを調べます。さらにくびの周りを丁寧に触って、リンパ節への
転移がないかを調べます。
内視鏡検査
咽頭反射(舌の奥を抑えられるとゲェーッとえずく反応)が強い方や、がんを直接みること
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ができないときには、鼻の穴から内視鏡を入れて、モニターを使って鼻やのどの奥を観察し
ます。局所麻酔をかけて行うことが多く、痛みはほとんどありません。中、下咽頭がんでは、
口から内視鏡を入れて、食道がんができていないか調べます。
生検
咽頭や喉頭に局所麻酔を行い、咽頭反射と表面の傷みを除去した後、内視鏡で観察しながら
疑わしい組織の一部を切り取り、病理診断を行います。
超音波検査
体表面から超音波検査を行います。くびにあるリンパ節への転移の有無を調べます。頸部の
動脈や静脈、気管など周辺臓器との関係も調べます。
CT・MRI 検査
がんがどの程度広がっているかを調べます。
頭頸部や胸部の断層撮影を行います。CT は X 線による、MRI は磁気による検査です。
◆病期について
T1
上咽頭にとどまっている
T2a
中咽頭・鼻腔に広がっている
T2b
咽頭の側方に広がっている
T3
頭蓋骨や*副鼻腔に広がっている
T4
頭蓋内や下咽頭、**眼窩に広がっている
*鼻腔の周りの骨にある大小の穴
**眼球が入っているくぼみ
リンパ節への転
移がない
癌と同じ側に
6 ㎝以下の転移
がある
がんと反対側の
リンパ節も含め
て 6 ㎝以下の転
移がある
6 ㎝を超え
るリンパ
節転移が
ある
*鎖骨上窩
に転移があ
る
遠くの臓器に
転移がある
T1
Ⅰ
ⅡB
Ⅲ
ⅣB
ⅣB
ⅣC
T2a
ⅡA
ⅡB
Ⅲ
ⅣB
ⅣB
ⅣC
T2b
ⅡB
ⅡB
Ⅲ
ⅣB
ⅣB
ⅣC
T3
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
ⅣB
ⅣB
ⅣC
T4
ⅣA
ⅣA
ⅣA
ⅣB
ⅣB
ⅣC
*鎖骨の上にあるくぼみ
日本頭頸部がん学会
治療ガイドライン
2103
参考:がんの教科書 中川恵一著 三省堂・国立がん研究センターホームページ 各種がんの解説咽頭がん
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