-1- 2015/05/16 15 年度「比較経済史」第 11 回講義 Resume -アメリカ

15 年度「比較経済史」第 11 回講義 Resume
-アメリカ経済発展の背景となった自然-
2015/05/16
今回から 10 回前後続けて「アメリカ資本主義」について見ていこう。アメリカ資本主義は、資本主義
の純粋型ともいわれ、「産業資本を純粋に培養させた」ともいわれている。また、近代国民国家はその基
抵に国民経済を備えているいる。それは異なる諸利害を国民的利害にまとめつつ、基本的に自国で自給で
きる経済体制を持つことで、F.リストは『政治経済学の国民的体系』(1841 年)の中で、「国民経済形成
の実験場」あったと述べている。
第2次世界大戦後の世界経済はアメリカ資本主義の下で再編された。圧倒的なプレゼンスは 1970 年以降
衰退して行ったが、冷戦体制崩壊後グローバリゼーションの進行の中で復活して来たという見方もある。
製造業の中心はアメリカから中国・インドなどの東アジアにシフトしつつあるが、金融&情報産業は未だ
にアメリカの掌中にある。
アメリカ資本主義の発展を通して資本主義の本質と将来の展望を探ろうと思う。
1.アメリカの経済と自然
1)、地理と気候
(1)、地理
・太平洋側には環太平洋造山帯の一部を占めるコルディレラ山系(海岸山脈、シェラネバダ山脈、ロッキー
山脈
・中央にオザーク台地
・大西洋側には古期造山帯のアパラチア山脈
・その間周辺を、大西洋側から海岸平野、ピードモンド台地、中央平原、グレートプレーンズ、コロラド
高原、グレートベーズン、セントラルバレー、海岸平野が広がっている。
(2)、気候
・北部から中西部、それに南部にかけては温暖湿潤気候(cfa)→アメリカの農業・工業・商業の中心
・フロリダ半島にはサバナ気候(aw)→唯一熱帯気候に属する地域
・cfa は大体西経 100 度の西側に現れ、年間降水量が 500 ㎜以上であるが、それ以西は 500 ㎜以下の乾燥
気候でステップ気候(bs)の地域が多い
・西海岸のカルフォルニアの北緯 32 度~ 40 度にかけてのセントラルバレー付近には地中海性気候(cs)が
現れ、オレンジ、レモンの柑橘類栽培、葡萄などの果実栽培が盛んである。植生的には、大西洋岸から落
葉広葉樹林・混合林、プレリー、ステップ、高山植生、砂漠、太平洋岸のカリフォルニア地域では温帯常
緑広葉樹が見られる。
・cfa の落葉広葉樹林の地域では、四季があり、特にグレートスモーキー国立公園には秋の紅葉を求めて
多数の観光客が集まり、日本と気候がよく似ている。
(3)、土壌帯
・大西洋岸から北部から中西部にかけての褐色森林土、南部の赤色土、中西部のプレリー土・栗色土、そ
れに砂漠土などが広がっている。
・世界の穀倉地帯である、カンザス(全米一の小麦生産州)、ネブラスカ、アイオア、サウスダコタ辺りと、
綿花生産が盛んなミシシッーピーのデルタ地帯は世界でも最も肥沃な土壌が広がっている。
(4)、資源他
・南東部では夏期にハリケーンが見舞い、南西部から南東部にかけてはトルネードが頻繁に発生する。ミ
シシッピー川は全長 6210 ㎞(世界 4 位)、面積 3248 平方㎡(世界 3 位)の大河で、経済発展にも大きく
貢献してきた。
・大西洋岸ニューイングランド沖は世界でも有数な漁場で、古くから漁業が栄え、太平洋岸でもカルフォ
ルニア沖は世界有数の漁場である。
・地下資源も豊富で、アパラチア山脈周辺の石炭、鉄鋼、石油、テキサスやルイジアナ沖の石油、ロッキ
ー山脈の金・銀、ウランの他レアメタリアルに属するモリブデンは世界最大の産出高を誇る。
2)、「地域 Section」区分
アメリカは日本の 25 倍も広い。1州だけで日本よりも広い州が幾つもある。それを「アメリカ」の一言
で片づける訳に行かない。そこで地域を区分する訳だが、日本でいう‘地域’とアメリカでいる‘Section
’とは若干意味が異なる。それは単なる地域(an area; a region; a district)とは異なり、むしろ「地帯構造」
といった方が適切であろう。伝統的には、「北部」、「南部」、そして「西部」の3つの「地域」に分けて理
解してきた。しかし、大陸横断鉄道の完成(1869 年)とともに、西部の開発が進み、それまでの「西部」
とは異なる「極西部」と呼ばれる地域が出現した。今日国勢調査局は、「北東部」、「中西部」、「南部」、そ
して「西部」の4つの地域に区分している。
2.国の仕組み-連邦と州及び地方
アメリカは、1215 年のイギリス「大憲章(マグナカルタ)」に端を発する、制度の上でも実験国家で、古
い歴史を有する他の国々とはいささか異なっている。契約「合州国憲法」(1787 年)が全てであり、国家
は憲法に基づいて成り立っている。だが、合衆国憲法は、国防、立法、司法等々、国民生活の根幹に係わ
る事柄だけ規定して(全7条+憲法修正条項)おり、その他の事は州に任せられている。50 州ある州は、
それぞれに州の憲法を持っており、あたかも独立国の如く州の軍隊さえ持っている。
3.「独立宣言」(1776)に見る建国の理念
成文化された「合州国憲法」も重要だが、成文化されていない建国の‘理念’こそ重要である。その全文
に曰く、
「我らは以下の諸事実を自明なものと見なす。すべての人間は平等につくられている。創造主によって,
生存,自由そして幸福の追求を含むある侵すべからざる権利を与えられている。これらの権利を確実なも
のとするために,人は政府という機関をもつ。その正当な権力は被統治者の同意に基づいている。いかな
る形態であれ政府がこれらの目的にとって破壊的となるときには,それを改めまたは廃止し,新たな政府
を設立し,人民にとってその安全と幸福をもたらすのに最もふさわしいと思える仕方でその政府の基礎を
据え,その権力を組織することは,人民の権利である。」
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4.研究史に見る経済発展の諸要件
(1)オーソドックスな経済学的視点
秋本英一氏は『アメリカ経済の歴史、1792-1993』(東京大学出版会)の中で、経済発展が順調に進む用件
として、次のようなものを上げている
1,地理的条件と天然資源の存在など、経済成長の起こる地域の条件
2,人口増加とその適切な分布
3,世界経済との貿易と資本の輸出入の関連の適切さ
4,中心的工業、特に製造業の発展
5,経済の担い手たつ企業家層の進取的エートス等の主体的条件
6,国家による経済政策のありかた
7,技術発展がうまく主導産業に取り込まれていること
(アメリカの場合これらの用件が全てに備わっていたという)
(2)「比較経済史」よりみたアメリカ資本主義の構造的特質からの視点
鈴木圭介氏は『アメリカ経済史の基本問題』岩波書店において以下の通り整理されている。
1,アメリカが広大な土地を有し、豊富な資源を専有していること。
2,アメリカにおいて農業の資本主義的発展が順調であること。
3,国内市場のひろくかつ深い展開がアメリカ資本主義の発展の特質の1つになった。
4,アメリカにおいて資本主義が形成され、また十分に確立されたとみなされる19世期末において、な
おヨーロッパ、特にイギリスの植民地的状態が存在したという問題。
5,工業の編成における工場制度の圧倒的優位。
6,産業資本に適応した銀行制度の樹立。
7,アメリカにおける独占資本の巨大な規模における展開。
(3)民間の経済調査に有名な日本貿易振興会(通称ジェトロ)の視点
ジェトロ米州課『米国経済ハンドブック』東洋経済新報社では、米国経済の特質を以下の通りに整理して
いる。
1,私企業の自由原則
2,自由と共に米国の精神的枠組みとなっている平等の原則、
3,地方分権制度、さらに米国経済の多極性をあげている。
その上で、経済発展の原動力を①地理的条件、②複合社会のバイタリティー、③戦禍にみまわれず国内産
業が温存された、④経済力の飛躍的発展による巨額の資本蓄積とこれに基づく技術革新、高所得型の消費
経済の確立、などをあげている。
(4)その他
浅羽良昌『アメリカ経済 200 年の興亡』東洋経済新報社でも、アメリカ経済の特徴と強さを幾つかの項目
にまとめて紹介している。
1,アメリカ人の倫理観
2,輸入代替・輸出奨励のための工業保護
3,資本・技術・資本財の積極的導入
4,国民経済の形成と自由放任政策
5,小さな政府
6,人的資源の重要性
7,内部成長経済の存在・成立
5.その他
1)、アメリカは「宗教国家」である
・中西正輝『アメリカ外交の魂』(集英社) &中谷巌『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社)において
「アメリカは宗教国家」であるという点を強調している。
・小室直樹『悪の民主主義:民主主義原論』(青春出版社)において、カルバン派の強調する「予定説
(perdestination)」 を引き合いに、「アメリカは宗教国家」であるという点を強調している。
2)、アメリカは「実験国家」である
先住民族(Indian)を除けばイギリスを中心にヨーロッパ諸国諸地域からの移民によって人工的に創られ
た国家である。国家成立の用件である、歴史、文化を欠いたまま、イギリスを手本に人工的に形成された。
「独立宣言」(1776)と「合州国憲法」(1787))にはこれらの工夫が施されている。
小室直樹前掲書参照。
3)、資本主義の「純粋型」としてのアメリカ資本主義
・レーニンの「農業における資本主義移行の2つの道」→アメリカ型とプロシア型
・
「後進国工業化の2つの道」→アメリカ型とプロシア型
・
「資本主義成立の2つの道」→「下からの道」と「上からの道」/(アメリカ型とプロシア型)
・
「国民経済論の系譜」における「国民経済内部成長型=アメリカ型」と「国民経済跛行型=プロシア型」
(
『経済思想の事典』有斐閣による)
・中村勝巳『アメリカ資本主義論』 に見る「資本主義の純粋型としてのアメリカ資本主義」等々
↑以上の如く「アメリカ資本主義」を理想型とする見方に反論も多数ある。
講義の進行の中で解説して行く。
*レギュラシオン学派や R.ドーアなど経済学者&社会学者の資本主義類型論は最後に講義で。
(HP)には参考資料として上げてあります)
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