ECR-RS 日本語版の作成 (1) —— 因子構造と信頼性の確認 —— ○古村健太郎 1・村上達也 2・戸田弘二 3 (1 筑波大学大学院・2 筑波大学・北海道教育大学) キーワード:アダルト・アタッチメント,関係性,測定 Development of ECR-RS Japanese version (1): Examination of factor structure and reliability. Kentaro KOMURA1, Tatsuya Murakami2 and Koji TODA3 1 ( Graduate School of University of Tsukuba, 2University of Tsukuba, 3Hokkaido University of Education) Key Words: adult attachment, relationships, measurement 目 的 確認的因子分析 各対象について確認的因子分析(CFA)を行 Fraley et al.(2010)は,ECR(Brennan et al,1998)などの成人のア った。その結果,いずれの対象においても回避の項目 5(自分 タッチメント・スタイルを測定する尺度の問題点として,以 が心の奥底で考えていることを知られたくない)の負荷量が 下の四点をあげている。第一に,項目数が多い点である。第 -.23 から-.37 と低かったため,この項目を削除して再度 CFA 二に,測定しているアタッチメント対象が曖昧なため,測定 を行った。その結果,いずれの項目も十分な負荷量を示して している関係の種類を明確にする必要がある点である。第三 いたが,適合度は良好ではなかった(Table 1 の model 1)。そこ に,恋愛関係や夫婦関係について尋ねる項目が多く,友人関 で,いずれの対象においても相関が高かった回避の項目 1 と 係や親子関係などのアタッチメント・スタイルを測定するの 項目 2 の間,項目 3 と項目 4 に誤差共分散を設定し,CFA を に不適切な項目が多く含まれている点である。第四に,個人 行った結果,RMSEA の値がやや高めであるものの,概ね良 が持つ複数のアタッチメント対象に対するアタッチメント・ 好な適合度を示した(Table 1 の model2)。 スタイルを適切に測定できないため,アタッチメント・スタ 信頼性 ECR-RS の内的一貫性を確認するため,各対象の回 イルの個人内変動を検討できない点である。Fraley et al.(2010) 避と不安のω係数を算出した。その結果,母親については回 は , こ れ ら の 問 題 点 を 解 決 す べ く , Experiences Close 避で.82,不安で.90,全体で.91 であった。父親については回 Relationships- Relationship Structure(ECR-RS) を 開 発 し た 。 避で.79,不安で.94,全体で.91 であった。配偶者/恋人につ ECR-RS は母親,父親,恋人/配偶者,友人の 4 対象ごとに いては,回避で.88,不安で.93,全体で.94 であった。最後に, 回避 6 項目,不安 3 項目への回答を求め,各対象のアタッチ 友人については,回避で.88,不安で.95,全体で.94 であった。 メント・スタイルを測定しようとするものである。本研究で 以上より,ECR-RS は十分な内的一貫性を有していることが は ECR-RS を邦訳し,その因子構造と信頼性を検討する。 示された。 方 法 引用文献 Fraley et al. (2011). The experiences in close Relationships — 尺度の邦訳 原著者である Fraley, R. C.に邦訳の許可を得た relationship structures questionnaire: A method for assessing attachment 後,項目の和訳を行った。その後,英語を専門とする大学教 orientations. Psychological Assessment, 23, 615-625. 員が和訳を確認し,必要に応じて項目を修正した。修正した Table 1 各モデルの適合度指標 χ2 df p CFI RMSEA SRMR AIC BIC 項目は翻訳会社によって英訳された後,Fraley によるチェッ Model 1 クを受け,修正箇所の指摘を受けた。指摘された項目を修正 mother 800.50 19 .00 .872 .200 .108 26043.79 26167.22 father 1080.65 19 .00 .849 .233 .133 25211.88 25335.32 した後,翻訳会社によって英訳され,再度 Fraley によるチェ spouse/lover 570.77 19 .00 .911 .188 .079 18779.93 18897.79 ックを受け,問題がないと判断された。 friend 774.3 19 .00 .907 .196 .129 22699.43 22822.86 調 査 対 象 者 株 式 会 社 マ ク ロ ミ ル が 保 有 す る モ ニ タ Model 2 mother 215.06 17 .00 .968 .106 .080 25462.35 25595.66 1,165,146 人から両親と死別していない 20 歳以上の人を対象 father 236.29 17 .00 .969 .112 .097 24371.52 24504.83 に調査を行った。その結果,配偶者のいる人 412 名(平均 40.36 spouse/lover 130.97 17 .00 .982 .090 .064 18344.14 18471.42 8.83 歳),恋人がいる人 412 名(平均 30.84 8.95 歳),配偶者 friend 394.59 17 .00 .953 .147 .126 22323.72 22457.03 も恋人もいない人 206 名(平均 35.15 8.92 歳)からの回答が得 Model 1 誤差共分散を含まないモデル Model 2 回避1と回避2,回避3と回避4の項目間に誤差共分散を設定したモデル られた。 結果と考察 Table 2 ECR-RSの対象ごとのCFAの負荷量,平均,標準偏差 母親 父親 配偶者/恋人 友人 項目間相関 各対象の回避と不安 CFA Mean SD CFA Mean SD CFA Mean SD CFA Mean SD の項目間相関を算出した。その結 回避 .732 3.84 1.77 .679 4.93 1.63 .863 2.77 1.47 .891 3.66 1.61 果,母親に対する回避は|r| =.16~.91, 1. 私は,その人に個人的なことを相談する 2. 私は,たいていその人に自分の問題や心配事を話す .771 3.78 1.77 .707 4.89 1.66 .874 2.71 1.45 .915 3.55 1.60 不安は|r| = .69~.85 であった。父親 3. その人は,私にとって頼りやすい人だ .795 2.98 1.59 .768 3.50 1.81 .863 2.60 1.39 .839 3.68 1.50 .931 3.90 1.78 .864 2.67 1.48 .861 3.57 1.53 に対する回避は|r| =.15~.91,不安は 4. 必要なときはその人に頼り助けてもらうことができる .892 3.08 1.64 -.563 3.08 1.54 -.487 3.49 1.68 -.580 2.64 1.48 -.367 2.97 1.39 |r| = .76~.91 であった。配偶者/恋 6.不安私は,その人に心を開くことを心地よく感じない 人に対する回避は|r| =.25~.92,不安 私がその人を大切に思っているほど,その人は私のこと 1. を大切に思っていないのではと心配になる .758 2.64 1.61 .855 2.41 1.43 .806 3.12 1.70 .860 2.94 1.42 は|r| =.76~.91 であった。友人に対 その人が私のことを本当は大切に思っていないのかもし 2. する回避は|r| =.18~.90,不安は|r| れないと,たびたび心配になる .916 2.62 1.55 .939 2.40 1.44 .965 3.02 1.68 .969 3.04 1.46 .966 2.36 1.43 .945 2.98 1.70 .959 2.96 1.45 =.83~.93 であった。回避の項目 1 3. 私は,その人に見捨てられるのではないかと不安に思う .926 2.49 1.52 .167 .266 .116 潜在変数間の相関 .215 と項目 2,項目 3 と 4 の相関が高い 誤差共分散 こと,回避の項目 5 と他の項目の .822 .658 .443 回避1回避2 .786 .464 .481 .501 回避3回避4 .304 相関が低いことが各対象で共通し 削除した項目:回避5(自分が心の奥底で考えていることを知られたくない),CFA:確認的因子分析の負荷量 ていた。
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