CFA 協会ブログ

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2015 年 5 月 21 日
No.232
欧州資本市場同盟:投資家にとって単一市場創設のハードルは何か?
EU Capital Markets Union: What Do Investors See as Hurdles to Forming Single Market?
マイユ・ハムネン
これから 4 年弱の間に欧州連合(EU)の政治には何が
で最も注目されるのは、証券の所有と移転に関する課
できるでしょうか。欧州委員会は、明らかに大がかり
税方法と法的枠組みの違いが EU の資本市場の発展の
な計画を持っています。2015 年 2 月に欧州委員会は、
最大の障害だと協会員が考えているということです。
欧州における資本市場同盟(CMU)の創設に関するグ
リーンペーパー(市中協議文書)を公表し、2019 年ま
でに実施することを計画しています。
CMU の目的は、
EU 域内の成長と雇用の促進、資金調達面で資本市場
が果たす役割の改善です。例えば、安定的かつ透明性
のある証券化で、中小企業(SME)のための資金調達
を促進することです。さらに委員会は、加盟国による
クロスボーダー投資を増やすことで、EU の資本市場
の厚みを増してより良い形で統合できる手段を模索
しています。
委員会の CMU に関する計画では、例えば目論見書指
(Ctrl キーを押しながらクリックしてリンク先を表示(以下同様))
令(Prospectus Directive)のような現在の EU の法令の
見直し、および加盟国間の現行規則の統一化が含まれ
ます。委員会はまた、現行法を緩和し、新しい諸法令
課税方針の変更はありそうにない
を提案するかもしれませんが、詳細が明らかになるの
協会員の 3 分の 2(65%)は、国によって課税方法が
はグリーンペーパーに対する見解を委員会が判断す
異なることが汎欧州の資本市場創設の重大な障害に
る今秋になりそうです。
なっていると考えています。それぞれの国で似たよう
CFA 協会員の見方:EU の資本市場創設の障害
な商品の課税水準がバラバラであるとの指摘もあれ
ば、長期投資に対するインセンティブのある加盟国が
グリーンペーパーの公表後、CFA 協会は欧州の協会員
わずかであるとの回答もあります。CFA 協会では、例
が CMU の計画をどう考えるのか調査しました。EU と
えば、新興企業、ベンチャーキャピタル、中小企業へ
スイスで投資の専門家として働く 700 近い協会員から
の投資への税優遇や、株式と比べて存在する(金利に
2015 年の 3 月から 4 月の間に回答を得ました。また、
対する課税は税控除できるようにするといった)債券
EU 各地の協会幹部からも所定の回答を得ました。こ
投資の税優遇措置を減らすか無くすような税制改革
うした情報に基づいて、このグリーンペーパーに対す
が、欧州の長期投資のインセンティブになると考えて
る CFA 協会としての見解を提出しています。この調査
います。
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それにもかかわらず、EU において徴税権は純粋に各
であることは、今回の調査の自由投稿欄で最も多く指
加盟国の権限なので、欧州委員会が課税方針の変更を
摘されていることの一つです。
押し進めるのは困難でしょう。税の共通化を提案する
ことは政治的にセンシティブであるだけでなく、その
流動性の問題
ような提案は各国政府から激しい反発を受けるでし
およそ半数(47%)の回答が、社債の流通市場での流
ょう。
動性不足が EU の資本市場発展の重大な障害だとして
現行法制の統一化が必要
います。社債の流動性を高める最適な方法は、発行の
標準化を進めること、流通市場における電子化を進め
さらに調査では、CFA 協会員による回答の 63%は、
ること、社債市場の値付けの透明性を高めることだと
現在の証券保有に関する諸規則が、EU の資本市場創
ほとんどの回答者は考えています。CFA 協会は最近、
設の大きな障害だと答えています。先のグリーンペー
シャドーバンキングに関する報告書を出し、証券化、
パーに対する協会の見解は、投資家が自国以外の市場
とりわけ証券化による資金調達取引に係わる問題を
でさらに多くのファンドを利用できるように、追加的
調査しています。ここで分かったことは、株式以外の
な方策を取るべきだというものです。例えば、ドイツ
市場の透明性の分野で、MiFID II(金融商品市場指令)
の投資家がイタリア国債を買うのは登記上の制約で
の改革が重要であることです。
ほぼ不可能だという指摘が協会員からありました。
例えば、自国以外の加盟国で投資をするのが安心で確
実となるよう UCITS(譲渡可能証券への集団投資のた
めの引受)指令の統一化を推進することなどで、同様
の障害や現在の自国バイアスは克服できるのかもし
れません。ファンドの報告や情報開示の規則における
リスクの可視化と透明性の改善も、こうしたことに含
まれます。UCITS 指令はまもなく 6 回目の改定がなさ
れますが、法整備が加盟国でバラバラであると多くの
協会員が感じています。UCITS 規則の実際の適用や
UCITS ファンドの取り扱いが、例えばフランスとルク
センブルクでも違うので、国外への投資は困難だと大
勢が感じています。
グリーンペーパーに関する我々の見解には、クラウド
ファンディング、ソーシャルレンディング(長期投資)
のような代替的な資金調達手段が含まれ、汎欧州年金
さらに、協会員への調査によると回答の半数以上
商品の標準化も含まれるかもしれません。
(58%)が、破綻の枠組みが国によってまちまちであ
ることが投資の障害だと考えています。それゆえに、
CFA 協会では、EU の破綻に関する法律が統一化され
ることを広く支持しています。債権の申告と審査の統
一も、国外の債権と担保への強制適用も、これに含ま
れます。それぞれの加盟国で破綻処理の内容が不確実
調査への回答によれば、CMU が概念ではなく現実に
なるのには、成すべきことが多くあります。取り組む
べき問題が多くありますが、委員会は CMU への道の
りを計画的で一貫性があるものとする必要がありま
す。9 月に委員会が CMU 構想への道のり(roadmap)
の詳細な計画を公表するのを、CFA 協会は心待ちにし
ています。CMU がこの 4 年間に実現するかどうかに
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かかわらず、CFA 協会は、2019 年までもそれ以降も、
協会員に代わってこのトピックについて積極的にフ
ォローしてゆきます。
執筆者
マイユ・ハムネン
(翻訳者:今井義行、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
http://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/2015/0
5/21/eu-capital-markets-union-what-do-investors-se
e-as-hurdles-to-forming-single-market/
注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記
事を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版お
よび英語版で内容に相違が生じている場合には、英語
版の内容が優先します。
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