CFA 協会ブログ

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2015 年 4 月 24 日
No.228
米国労働省が受託者責任規則を発表:投資家にとって一歩前進
DOL Unveils Fiduciary Rules: One Step Forward for Investors
ボブ・ダンハウザー、CFA
米国労働省は、退職年金制度や個人積立退職年金口座
るとの適切な理由に基づきます。教育と助言の間の区
の保有者に投資助言を提供する者に対して受託者責
別も行われています。具体的には、長寿リスクに関す
任を課す規則を公表し、パブリックコメントの募集を
る教育を投資家に提供する重要性と、年金商品の推奨
行っています。
を行わずに、受託者義務とはならない方法論が示され
300 ページ超の提案書の中で、労働省は、2010 年に行
った提案を蝕んだ厄介な事柄の多くをうまく回避す
ることによって、革新的なアプローチを取っています。
ています。同様に、投資家に助言と受け止められるか
も知れない特定の商品に言及しない限り、資産配分の
方法についても議論することができます。
特に、この規則は原則主義に基づいており、助言を提
労働省の提案内容は、正確性を犠牲にする代わりに規
供する者が自分たちに適した事業の構築を行えるよ
制上の柔軟性を与えますが、特に最初は、例えば助言
うにしながら、同時に投資家が高水準のサービスを受
提供に対する「合理的な報酬」が何を意味するのかと
けられるという安心感も提供する仕組みとなるかも
いった事柄のような困難を創出するでしょう。結果的
しれません。規則の中心には、新たな「最良利益契約
に、もしこれらの規則が最終的にそのまま採択される
の免除」が据えられています。これは、助言を提供す
と、初期にはこれらの事柄が投資家と助言者の双方、
る者が公平な扱いと受託者行為の基本的義務を果た
そして重要なのは裁判官によってどのように定義さ
すことに契約上同意する限り、投資家と企業と助言者
れるかということを巡っていくつかの法的な試練に
との間の利益相反を許容するというものです。ここで
さらされることを我々は覚悟すべきでしょう。しかし
言う受託者行為とは、顧客にとって最大の利益となる
長期的には、合理的な価格の規定は多くの投資家への
助言を提供すること、誤解を招きやすい言い回しを避
サービスの質と量に影響を与えるでしょう。
けること、合理的と考えられる以上の報酬を受け取ら
ないこと、そして助言の提供に関して州法と連邦法に
従うこと、として定義されます。
もう一つ懸念される分野は、潜在的な紛争として潜在
的な投資家補償の道筋がどのように裁定されるのか
にあります。規則は助言者に紛争仲裁の権限を与えま
規則は受託者責任に対して実用的なアプローチも採
すが、それは我々が 2014 年の出版物「投資家補償:
用していて、異なる種類の投資助言提供者にそれぞれ
国際的視野とベスト・プラクティス」で言及したよう
どのような監督規制が適用されるのかといった事柄
に、必ずしも投資家の利益にはなりません。規則は集
を考えなくてもよくなります。また、長期間継続する
団訴訟への参加を容認し、従って補償への「核の選択
助言の提供と、一度限りの投資推奨の区別を撤廃しま
肢」を維持しますが、それはほとんどの人が滅多に使
した。これは、例えば、401k 口座をどのように移管す
われないことを望むでしょう。
るのかといったことを考えれば分かるように、たった
一回の投資推奨でさえ重大な結果を招く可能性があ
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提案された規則が債券の店頭取引をどのように扱う
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かについても、意見の不一致に備えねばなりません。
められるものと同じくらい強固な受託者基準を一律
そうした取引は、助言者が二つの無関係な建値の提示
に課す規則を検討する必要がありますが、手数料ベー
を得て、最低でも独立の建値と同じくらい良い価格で
スのビジネスモデルは許容しています。労働省のアプ
顧客の取引を執行し、手数料を顧客に開示すれば許可
ローチは基準が収斂する最初のステップかも知れま
されるでしょう。ディーラーが在庫を減らし流動性が
せん。そしてパブリックコメント期間に、我々全員が
枯渇すると、建値を得ることは取るに足らない作業で
四苦八苦して詳細を詰めることに連れて、労働省が提
はなくなるでしょう。この過程によって生じるコスト
案した受託者義務は投資助言業者法で期待される行
は、より優れた執行によって得られる便益の一部を相
動に引けをとらないものであるという、より良い評価
殺する可能性があります。これは、今度は投資家に自
を我々は期待できるでしょう。しかしそれは最初の一
分自身の債券ポートフォリオを構築するよりむしろ
歩に過ぎず、投資家はそれ以上、つまり助言者はいか
ETF や投資信託に投資することを後押しするかもしれ
なる文脈においても投資家の利益を最優先に奉仕す
ません。これは投資家の目的と許容度を考えた時に最
るべきである、ということまで必要とします。
善の利益となるでしょうか?
我々は、いずれの場合でも投資助言業は投資家の最善
たくさんの弁護士がたくさんの理由を根拠にその規
の利益を基準とする方向へ向かうと見ていますが、規
則に挑戦しようと構えていることは想像に難くあり
制は不可避の進化を早め、複数の規則が乱立するこの
ませんが、ほとんどはそういった経済的影響を持つ規
紛らわしい時代を終わらせるでしょう。投資助言を提
則に法律が要求する費用便益分析の質を特に根拠と
供するものに適用される基準を変えることに反対す
するでしょう。ホワイトハウスの大統領経済諮問委員
る人々¾¾議会にはこの超党派連合が存在します
会は、紛争となった助言の費用に関する論拠を提供し
¾¾は、現在のシステムをいじることにより、様々な
ましたが、これはいくつかのデータや推計を疑問視す
投資家が放り捨てられ、不適切なテクノロジーの使用
る業界からの強烈な反応を引き起こしました。労働省
を迫られると主張しています。ロボット助言者が特に
の経済分析が攻撃されることは予想されうるでしょ
投資助言業の規模の経済性の問題を解決している時
う。にもかかわらず、投資家の最善の利益を考える助
代には、そのシナリオは益々有り得そうにないように
言者が投資家にとって良いサービスを提供するとい
思えます。仮に有り得たとしても、知識・経験・手段
う直感に挑戦することは困難です。
に乏しい投資家が、その投資判断、ひいては定年後の
我々は、規則がパブリックコメント期間を無事に通過
すること、そして証券取引委員会がそれに注意を払う
ことを望みます。助言者がどのようにビジネスを組織
しているか、問題となっている資産が退職年金資産か
否か、に依存して異なる行為基準が適用されることは、
投資家を当惑させます。労働省が提案した規則は、退
ための蓄えを、投資家の最善の利益となる助言を提供
することでは生活できない、あるいはするつもりのな
い助言者のなすがままにされることと比較すれば、そ
れは取る価値のあるリスクかもしれません。忠実、慎
重さ、及び配慮は単なる法的な概念ではありません。
それらは我々の将来のビジネスモデルなのです。
職した投資家に助言を提供する者に受託者責任行為
を要求し、現在の従業員退職所得保障法(ERISA)と
内国歳入法の間の拡大するギャップを埋めることに
よって、物事を改善します。証券取引委員会はドッ
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ド・フランク法により、最低でも投資助言業者法で定
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執筆者
ボブ・ダンハウザー(Bob Dannhauser)、CFA
(翻訳者:西村直哉、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
http://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/2015/0
4/24/dol-unveils-fiduciary-rules-one-step-forward-fo
r-investors/
注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記
事を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版お
よび英語版で内容に相違が生じている場合には、英語
版の内容が優先します。
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