お母さんも闘っている

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生がいることは、書籍で読んで知ってい
ましたが、本当にいるのだと驚きました。
しかし、そのときはまだ、先輩の先生
方がよく言うように、一年生にとっては
はしかみたいなものだから、すぐ普通に
﹁治る﹂と思っていました。
案の定、美香さんは次の日から親友と
一緒に元気に登校を続けました。
ところが、ゴールデンウィークが終わ
った頃から、また、登校をしぶり出した
のです。理由は、
﹁保育園のころからの友
達と、クラスが替わってからあまり仲が
よくなくなった﹂とか、
﹁給食当番ができ
るかどうか不安﹂などと、そのたびに変
三日目のことでした。一年生の導入期に
による疲れかな﹂と一般的な解釈をして
美香さんは授業態度もよく、常に意欲
的でした。ですから私は、
﹁がんばりすぎ
わりました。
はよくあることだとウワサには聞いてい
自分を納得させようとしました。
して寂しかった﹂とのことでした。
﹁寂し
その日、美香さんの家庭に連絡を入れ
てみると﹁仲良しのお友達が昨日、欠席
に来させました。美香さんは、その時間
学校にいる﹂と約束して美香さんを学校
としないお母さんは、朝、
﹁○時間目まで
わからない私は、やはり戸惑いました。
いから学校に行きたくない﹂と言う一年
そのころから彼女のパートタイムの登
校が始まりました。休ませることをよし
ましたが、初めての一年生担任で勝手の
美香︵小一女子、仮名︶さんが、登校
をしぶり始めたのは、入学式から数えて
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お母さんも闘っている
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いろんな子どもや保護者に出会っ
てきましたが、肝に銘じているのは、
子どもにとってどんな親もかけがえ
のない存在だということです。この
ことを原点に、保護者とかかわりな
がらどんなふうに子どもたちを育
て、学級を育てていくのかを考えて
いきたいと思います。
第1回
月刊学校教育相談 2015年4月号 50
授業が始まってしまえば、まったく普通
玄 関 で は 不 安 そ う な 表 情 を し て い て も、
までがんばればいいと思っているようで、
て去って行ったのです。
お母さんが、うつろな目でため息をつい
した瞬間、いつもはキリッとした表情の
に美香さんを引き渡す際、娘から手を放
たにしました。
んのことも支えなくてはと、気持ちを新
ところでした。美香さんと同時にお母さ
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に、むしろ他の子どもたちよりも元気に
お 母 さ ん と﹁四 時 間 目 ま で が ん ば る﹂
と約束していた日に、元気な彼女の姿に
まま完全な不登校になり、小学校、いや、
どこにもなかったからです。もし、この
じけて帰宅したり、たとえ学校までたど
美香さんは、二学期も、同じような状
況でした。朝、泣いたり、登校途中にく
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私が欲を出して、
﹁五時間目までいてくれ
中学校やその先まで登校できなくなって
り着いても、午前中だけの出席だったり
過ごしていました。
ると嬉しいな﹂と言ってみたこともあり
しまったら⋮⋮と不安に苛まれる日々を
かく言う私も不安でした。
﹁麻疹﹂かも
しれませんが、それで終わる保証なんて
ました。しかし、
﹁帰る﹂とキッパリと断
する日々でした。
みえました。
登校できなかったある日、仕事を終え
たお母さんが、美香さんを連れて学校に
過ごしていました。
お母さんとの約束は絶対のようでした。
しかし、お母さんは、私よりもっと心
配だったはずです。このときのお母さん
られました。
の表情を見て、
﹁この方も闘っておられる
お母さんは、まっすぐにこちらの目を
見て自分の考えを伝えてくださる方です。
させたい衝動にかられていました。実際
私はちっぽけな自分の体面ばかりを気
にして、力尽くでも美香さんを教室にい
で伝えてくれました。私も、自分の気持
さんといたい﹂などのことを自分の言葉
い﹂でも﹁くたびれる﹂、そして、﹁お母
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しかも、冷たさや厳しさを感じさせない、
に、低学年の登校しぶりをそうした力業
ちを話してくれたことに感謝を伝えまし
のだな﹂と感じました。
聡明なしっかり者という印象の方でした。
で解消した事例を多く耳にしていたから
三人でとりとめのない話をしましたが、
そ の 中 で 美 香 さ ん は、﹁学 校 は 嫌 じ ゃ な
美香さんが登校をしぶるたびに連絡を取
た。そして﹁お母さんが無理だと思った
美香さんの言葉からすぐに思いついた
のが、﹁母子分離不安﹂という言葉です。
ら休ませてください﹂とお願いしました。
です。
のです。危うくお母さんの不安を見逃す
しかし、それは、美香さんやお母さん
のためというよりも、自分のためだった
り合っていましたが、私はあることを見
落としていたことに気づきました。
それは、お母さんの不安や疲れでした。
美香さんを児童玄関まで連れて来て、私
51 学級から広げる 勇気づけの子育て・親育ち
でした。そうしたメッセージを発して保
わってあげてください﹂とは言いません
しいようなので、もっと美香さんにかか
と言ったからといって、お母さんに﹁寂
美 香 さ ん が﹁お 母 さ ん と 一 緒 に い た い﹂
がとう。先生、本当に嬉しかったよ﹂
います。美香ちゃんも、来てくれてあり
かったです。お母さん、ありがとうござ
諦めていたのですけど⋮⋮いやあ、嬉し
は、美香さんに会えないかなあと思って
ませんでした。休んでも得しないことを
れて、仕事場へは美香さんを連れて行き
た。お母さんは、それをよく理解してく
続くおそれがあることを私から話しまし
欠席して心地よい思いをすると、欠席が
欠席した日、お母さんは美香さんをド
ライブに連れ出したそうです。最初は楽
った翌週に面談をしました。
それでもやはり美香さんの遅刻や欠席
は続きました。そこで、週末に欠席があ
学んでほしかったからです。
護者との信頼関係を断ち切ってしまった
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二人は、にっこり笑って手をつないで
教室を出ました。
教師の話を数多く知っていたからです。
美香さんが、お母さんを求めているこ
とは事実かもしれません。しかし、だか
らといってお母さんが美香さんに﹁かか
わっていない﹂とは言えません。お母さ
しい母娘の小旅行を楽しんでいたようで
すが、二人で話しているうちに、お母さ
美香さんが登校をしぶった日には、必
ずお母さんと面談をしました。できない
ときは、手紙や電話で連絡を取りました。
んは涙があふれてきたそうです。
んはかかわっている。しかし、美香さん
の求めるレベルに届いていないだけ、と
伝えたことはたいしたことではなく、お
およそ次の三つでした。
①美香さんは必ず普通に登校できるよう
に雨も降ってきて、濡れた町並みの中を、
なおもおしゃべりを続けていると、美
香さんも泣き始めたそうです。そのうち
考えるべきです。
それに、お母さんのかかわりが足りな
いとしても、十分にかかわれない背景や
事情があってのことだと思います。それ
二人とも涙でぐしゃぐしゃになりながら、
でも、笑顔を浮かべながらドライブを続
になる。
②学校ではとっても元気に過ごしている。
なのに、たった数度しか顔を合わせてい
ない他人に、
﹁あなたは努力不足だ﹂と言
けたそうです。そんな話を、涙を流しな
﹁お母さん、本当にありがとうございま
それを聞きながら、私もこみ上げてく
るものを抑えながら言いました。
がらしてくれました。
③休んだときにはそれが〝得〟にならな
お母さんは、①と②に希望を見出して
くれているようでした。 ③については、
いようにしてほしい。
い放つような真似は、あまりに僭越では
ないでしょうか。
﹁今日はありがとうございました。今日
この日は、他愛のないおしゃべりのあ
と、お母さんに次のように伝えました。
月刊学校教育相談 2015年4月号 52
す。美香さんにとっては、とっても幸せ
なんとか今日まで彼女は学校に来ていま
なんです。 でも、 お母さんのおかげで、
できる日が来ると思っています﹂
それからしばらくして、 美香さんは、
クラスメートと給食を食べて午後の授業
でもまだときどき登校をしぶることはあ
もたちに日記を書かせて、毎日見てくだ
きが同封されていました。
した。そして、上のような新聞の切り抜
﹁先生への感謝の気持ちを書いたら、新
聞に掲載されちゃいました﹂とのことで
学年末のある日、お母さんからお手紙
をいただきました。
した! もう、だいじょうぶです!﹂
宣言通り、美香さんは三学期、一度の
遅刻も欠席もしませんでした。
﹁みなさん、いままでご心配をおかけし
ました。美香は、学校が大好きになりま
なにこう宣言したそうです。
そして、ドラマは冬休みに起きました。
お正月のある日、美香さんは家族をリ
ビングに集めたそうです。そして、みん
りましたが、午前中しか学校にいられな
にも参加できるようになりました。それ
お母さん、大変申しわけありませんが、
もう少しお力をお貸しくださいませんか。
かった彼女には大きな進歩でした。
クラスの様子や自分の考えがわかりや
すいように、クラス便りを年間百枚以上
に引き出すことのできる方でした。
とても大切にし、子どものやる気を上手
ちの意見や自主性を、一年生といえども
もへの押しつけもありません。子どもた
先生だからと変に偉ぶった様子や、子ど
私は、学校に来ている美香さんの笑顔
を信じています。きっと笑顔で毎日登校
とをやってくださっているんです。
す。お母さんは、私には絶対できないこ
な時間でしたね。
私、いままでずっと思っていたんです
けど、お母さん、本当にすごいです。そ
こまでなさるお母さんを、心から尊敬し
ます。
美香さんが、周囲が願うように学校に
通えないのは、担任の私の力がないから
先生に救われた娘と私
娘が小一になったとき、少し学校にく
じけました。兄がそうだったように、娘
も喜んで行くものとばかり思っていたの
で、かなりショックでした。このまま不
登校になるのではという思いが常に頭に
娘を叱ったりおだてたりの繰り返しで、
かなり精神的に落ち込みました。そんな
さいました。とても真似できることでは
発行されました。それを読むことで子ど
娘と私を救ってくれたのが担任の先生で
ありません。そして、娘は学校が大好き
ありました。
した。娘が何に対してくじけているのか、
になりました。娘の笑顔を信じるとおっ
ちでいっぱいです。
もとの話もふくらみました。また、子ど
時 ど き に 応 じ て 親 身 に な っ て 私 と 考 え、
しゃってくださった先生に、感謝の気持
児童や親からも人気があるその先生は、
話し合ってくださいました。
53 学級から広げる 勇気づけの子育て・親育ち