群読台本「おかあさんの木」

群読台本「おかあさんの木」
役
割
本
文
第1幕
少し昔のことだけど・・・・。
あるところに,一人のお母さんがおって,
そのお母さんには,七人の息子がおったそうな。
アンサンブル(班)
お母さんがおって
一番上の一郎からから順々に
一郎,おはよう。
二郎,おはよう。
三郎,おまえも戦地で元気かいな。
ひきょうなまねはせんと,お国のために手柄をたて
ておくれや。
大戦争へ
大きくなった息子たち
は,
少しずつ違う背丈で,すっくら伸びた。
広がってしもうた
陸軍だの(男)
海軍だの(女)
とられていった
と,名前も付けた
元気かいな。
手柄をたてておくれや。
四郎も行ってしもうたに,きりの木もう一本,仲間
にくわえにゃいけんのう。
第2幕
三年過ぎ,四年が経った。
息子たちの桐の木は,
効果音①
足踏みをして兵隊の
雰囲気を出す。
とーうとう(女)
兵隊にとられていったそうな。
そのときお母さんは,なんと思いなさってだろう。
息子たちが兵隊にとられるたんびに,裏の空き地
へ,桐の木の苗を一本ずつ植えて,
「一郎」,
「二郎」,
「三郎」
お母さんがおって
おったそうな。
昭和12年と言う年,
とうとう
世界中を相手にするような
大川 悦生
読み方・工夫
コーラス(全員)
五本に増え,
六本に増えして,
一郎,おはよう
二郎,おはよう
三郎,おまえも戦地で元気かいな
四郎,風邪をひかずにおるか
五郎,ひきょうなまねはせんと,
お国のために手柄をたてておくれや
六郎,七郎,正々堂々と
戦っておくれや
おはよう
おはよう
元気かいな
元気かいな
ひきょうなまねはせん
と
正々堂々と
ところが,ある日。
その木はなんの変わりもなかったに,役場の人があ
らたまってやって来た。
メイヨノセンシヲトゲラレタ
メイヨノセンシヲトゲ
ラレタ
お母さんは
たいそう驚きなさったけれど,
効果音②
メイヨノセンシヲトゲ
ラレタ
胸もつぶれんばかりに,
じっとこらえて,
手をついて,
-1-
「ごくろうさまでござんした。あの子が,お国のお
役に立てて,うれしゅう思います。」
やがて,一郎の遺骨が,白木の箱に入れられ,白
いきれに包まれて帰ってきた。
そのときも,お母さんは,人前では,涙ひとつぶこ
ぼさんかった。
でも,お葬式がすんで,親類や近所の人が戻って
しもうと,こらえきれんように,裏の空き地へとと
んでいった。
「一郎」の木にとりすがり,硬い幹に頬ずりしなが
ら,
「一郎,一郎,さぞつらかったろうね。弾に当たっ
て,どんなにか痛かったろうね,死にたくなかった
ろうね。」
というて,泣きなさったそうな。
と,言いなさった。
一郎 一郎 一郎
一郎 一郎 一郎
一郎 一郎 一郎
一郎 一郎 一郎
一郎 一郎 一郎
一郎 一郎 一郎
一郎 一郎 一郎
一郎 一郎 一郎
一郎 一郎 一郎
いちろーーーう
一郎が戦死してからというもの,毎朝,桐の木に
話し掛けるお母さんの言葉は,すっかり変わってい
った。
「二郎も,三郎も,四郎もな,一郎兄さんみたいに
死んだらいけん。
死んだらいけん。
手柄なんて,たてんでもいい。隊長さんに誉められ
んでもいい。きっと,
きっと,(女)
きっと,(男)
生きて帰ってきておくれや。」
と,言いなさるようになった。
そして,あるときは,一郎の写真を抱きしめ抱きし
めして,
「今だから言うよ。おまえがお国のお役に立てて,
うれしいなんて,本当なものか。
戦争で死なせるために,おまえたちを産んだのでな
いぞえ。
一生懸命大きくしたのでないぞえ。」
本当なものか。
産んだのでないぞえ。
大きくしたのでないぞ
え。
と,生きている人に話し掛けるように,言いなさっ
た。
おかあさんは,ただ,戦死した一郎が,かわいそ
うでならなくて,他の息子たちが案じられてならな
くて,そう願っただけじゃった。
第3幕
長い八年もの戦争じゃった。
東京や,大阪が丸焼けになって,大勢の人が死ん
だ。
広島と長崎にピカドンの原爆が落ちて,また,数
え切れんほどの人が死んだ。
そして,夏の暑い日のこと,田舎に月遅れのお盆
がきたときに,日本は負けた。
負けた
「とうとう,日本中が不幸せになってしもうたのう。
今では,もう,息子たちみんなを帰してと,祈るこ
ともできん。けど,一人でいに,一人でいいに,ど
うぞ帰してくだされや。」
やがて,秋がきて,裏の空き地の桐の葉が,
ハタリ
ホタリ
と散り始めた。
すると,お母さんは,散り落ちた葉を,一枚一枚,
「この大きいのは,二郎の葉・・・
この厚ぼったいのは,三郎の葉・・・
先がとがって,細長いのが,四郎の葉・・・
これは,五郎,すばしっこくて,負けん気で,弾
になど当たる子ではなかったに・・ これは六郎,
兄弟の中で,一番やさしい子じゃったが・・・ そ
して,この小さいのが七郎の葉。」
「なにも,おまえたちのせいではないぞえ。日本中
の,父さんや母さんが弱かったんじゃ。
みんなして,息子を兵隊にはやれん。
死んだらいけん。
弱かったんじゃ。
-2-
産んだのでないぞえ。
大きくしたのでないぞ
え。
負けた
・セリフ以外の人
・山彦のように
・セリフを消さない
ように
・最後は全員で心の
底から叫ぶ
息子を兵隊にはやれん。
戦争は嫌じゃ
戦争は嫌じゃ
と,一所懸命いうておったら,こうはならんかった
でなあ。」
お母さんは一生懸命祈りなさったが、誰一人帰っ
てこないで,一年が過ぎた。
いつやら,お母さんの目はかすみ,ほおはこけ,腰
もすっかり曲がってしもうた。
「この大きいのは,二郎の葉・・・
この厚ぼったいのは,三郎の葉・・・
先がとがって,細長いのが,四郎の葉・・・
これは五郎,すばしこくて,負けん気で,弾にな
ど当たる子ではなかったに・・・。」
第4幕
そんなある日,はがきが一枚こなんだが,やぶけ
た服を着,びっこを引いた兵隊が,汽車から降りた。
お母さんの家のほうへやってきた。
やっとこ,戸口へたどり着くと,兵隊は,懐かし
そうに顔を上げ,
「お母さん,おどろかんでください。
五郎が今,生きて帰って来ましたよ。」
夢ではない。
歩いては休み,(男)
休んでは歩きして,
(女)
おどろかんでください
帰って来ましたよ
夢ではない。
ビルマのジャングルの戦いで,行方知れずになった
という,五郎じゃった。
でも,なぜか知らん,家の中はひっそりとしてお
って,返事ひとつ聞こえんかった。
五郎は不思議に思うて,裏の空き地へ行ってみた
ら,お母さんは,拾った桐の葉を抱きしめ,「五郎」
の木に,もたれたままになっていなさった。
「お母さん、お母さん
お母さん
お母さーん。」
お母さん
呼んでも,
ゆすぶっても,
もう目を開けては下さらんかったそうな。
自分のめあて
班のめあて
-3-
おどろかんでください
帰って来ましたよ
夢ではない。
お母さーん