道徳資料 トムトムが見たものは きょうは、南の島のトムトムのおたん生日です。みんな楽しそうに、おいわいのお昼のご ちそうを食べています。 「こんなおいしい貝を食べたのは、はじめてだ。もっと食べたいなあ。」 「もう、これだけしかないのよ。これはジムおじさんからのプレゼントなの。海のそこふか くにすむ、めったにとれないめずらしい貝なのよ。」 「それなら、よけいに食べたいなあ。たのんでよ。」 「いけません。そんなむりなことを。 」 「ジムおじさんならきっと聞いてくれるよ。ねえ、ねえ、すぐにたのんでよ。」 「………」 トムがあまりにも強く言うので、お母さんはだまってへやを出て行きました。 トムトムは、いつお母さんがもどってくるかと、気にしながら食事をしていました。しか し、なかなかもどってきません。 (いったい、何をしてるんだ。おそいなあ、お母さんは……) トムトムは、 「ごちそうさま」も言わないで、自分のへやへもどって行きました。 夕方近くになって、トムトムはヤシの木にのぼり、つつのようなもので、あたりをながめ ていました。それは、おたん生日のおいわいに、となりの島のおばさんからいただいたばか りの遠めがねだったのです。 (これはすごい。遠くの島がこんなに近くに見える。) (ワァー、遠くの船も、目の前を走っているようだ。) トムトムはうれしくなって、つつをのばしたり、ちぢめたりしながら、あちらこちらをな がめていました。 (おやっ、あれは……) トムトムは、動かしていた手をとめ、何かをじっと見つめています。 (小ぶねから、海にとびこんでいる人がいる。) (いったい、何をしているんだろう。 ) ふしぎに思ったトムトムは、遠めがねのつつをまわして、もっと近くを見えるようにしまし た。 (あっ、ジムおじさんだ!) なんと、そこに見えたのは、トムトムの大すきなジムおじさんの顔でした。しかし、いつ もとちがって、とても苦しそうです。ハアハアとはく息の音が、つたわってくるようです。 (もしかしたら……) トムトムは、まっかな夕日をうけて何度も何度も海にとびこむジムおじさんのようすを、 じっと見つづけました。そのうちに、トムトムの目になみだがうかんできました。 トムトムは、何かを思いついたように、するすると木をおりると、家にとびこんで行きま した。そして、お母さんの顔を見るなり、 「お母さん、お昼のときはごめんなさい。あんなにおいしい貝を食べることができて、とて もうれしかったよ。それなのにぼく…。ジムおじさんにあやまってくるよ。」と、言って、ま た、急いで外へとび出して行きました。 〔出典 文部省道徳教育指導資料(指導の手引き)1〕
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