2015年度選考委員長講評

審査講評 公益財団法人ロッテ財団 研究助成事業 選考委員長 1.2015 年度研究助成の応募状況 当研究助成事業の第 2 回目となる今年度の応募数は、
「研究者育成助成〈ロッテ重光学術賞〉」が 34 件、
「奨励研究助成」が 95 件であり、特に、女性からの申請の増加が著しく、昨年度対比で大幅に増加した。 また、研究内容としては、食品科学系、脳科学系、疾病予防等、食と関連した幅広い分野からの申請が
多く見られた。一方、人文・社会科学分野からは、地域の食文化、食生活や食の流通・普及等のテーマ
で社会学的観点からの研究や、独創的かつ実践的な内容の申請を頂いた。申請者の所属先については、
主要大学および研究機関に偏重することなく、全国の諸大学・研究機関等から応募があった。また、Max Planck Institute(ドイツ)、コペンハーゲン大学(デンマーク)等、前回に引き続き、国外研究機関に
所属する研究者からも応募が寄せられた。 2.選考の方法、観点 当助成事業の選考委員会は 7 名で構成され、この 7 名全員で申請書全件の書面審査を行い、選考委員
会にて活発な議論を交わしたうえ、最終候補者を決定した。なお、
「研究者育成助成〈ロッテ重光学術賞〉」
においては、面接審査も併せ実施した。 選考にあたっては、以下の観点を踏まえて審査を行った。 「研究者育成助成〈ロッテ重光学術賞〉」は、「食と健康」に関する分野において、将来的に卓越した
世界水準の研究を成し遂げると期待される若手研究者を見出し、育成することが大きな特徴となってい
る。このため、申請者が将来、自身の研究分野を切り開き、かつ背負って立つ人物たりうるかどうかに
主眼をおいて審査した。また、当助成では、申請者は、研究内容の独創性や先進性だけでなく、研究の
独自性・主体性を保つことができるかという点も審査の重要なポイントとなった。 一方、
「奨励研究助成」は、将来、国際的に活躍する可能性を秘めた、優秀で志の高い若手研究者を対
象としており、自然科学から人文・社会科学までの広域にわたる「食と健康」の分野において、研究上
の自立性・独創性、チャレンジ性、萌芽性および将来性について審査した。 3.選考結果 2014 年 9 月 11 日の第 1 回選考委員会で、「奨励研究助成」の助成対象候補者 12 名を選出し、9 月 19
日の理事会において採択を決定した。また、同選考委員会では、
「研究者育成助成〈ロッテ重光学術賞〉」
の面接候補者も併せて選出した。「研究者育成助成〈ロッテ重光学術賞〉」の面接候補者については、10
月 23 日に面接審査を行い、2 名を助成対象候補者として選出し、10 月 30 日の理事会において採択を決
定した。 4.採択課題の紹介 採択課題の中から、
「研究者育成助成〈ロッテ重光学術賞〉」2 名と「奨励研究助成」2 名の課題につい
て紹介する。 まず、「研究者育成助成〈ロッテ重光学術賞〉」においては、 (1) 日本医科大学付属病院の浅井明氏(農学博士)による研究課題「過食の出現における遺伝子・環境
相互作用:メタボリックシンドロームの根源を探る」については、新たに確立したモデルマウスを
用いつつ、「メタボリックシンドローム」の成因(過食)から血管合併症までを生体レベルで総合的
に検討するという、食品研究と医学研究の両面にわたる予防医学的観点からの包括的な研究である。
研究手法にオリジナリティがあり、将来性が期待できる。 (2) 東京大学大学院農学生命科学研究科の早川晃司氏(農学博士)による研究課題「エピジェネティク
ス情報を利用した栄養素の選択」については、
「栄養-代謝中間体によるエピジェネティクス制御」
の創出により、老化や肥満によって引き起こされる細胞機能の低下の改善・回復を目指すものであ
る。方法論的にも新しい手法を使って研究しており、まさに研究の独自性、オリジナリティがエピ
ジェネティクス研究への情熱として発現されている。今後、育成支援教員のサポートも得て国際的
研究に踏み出す非常に若い研究者として、さらなる成長が期待できる。 一方、
「奨励研究助成」においては、申請者の年齢分布や研究形態及び研究期間等で多岐にわたるバラ
ンスのよい数多くの応募に接し、独創的かつ先端的な研究と認められる研究課題を採択した。特記する
ものとして、 (1) 東京大学大学院農学生命科学研究科の朱美華氏による研究課題「低温流通食品の普及過程に関する
日・中・韓比較研究」については、コールドチェーンの普及過程と食生活への影響を日・韓・中で
フィールドワークするという研究手法をとっている。当該研究の最終ゴールは、この研究で開発さ
れた新システムを中国に導入したいとする実践的かつ未来志向的な研究であるとして助成対象と
なった。 (2) お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科の長谷川直子氏による研究課題「ご当地グルメを
通じて地域理解を促すための実践的研究」については、地域性という文化の一つの基本的な単位に
着眼し、食文化を題材とした点を評価した。研究成果をガイドブックにして出すという大変面白い
試みであるユニークさにも着目した。 他にも、独創的かつ先端的な研究が認められた 10 名を加え、12 名が今回の助成対象者となった。 以上、2015 年度の研究助成事業において、第 2 回研究助成対象者としてふさわしい優秀な若手研究者
が選出されたことを、大変慶ばしく感じている。