2015 年度前期 有機化学演習 第1回 電子構造・酸と塩基 1. (1) 原子軌道とは何か説明しなさい。(2) 1s, 2s, 2p 軌道を図示し、その違いに ついて説明しなさい。 (1) 原子軌道とは、原子核の周りの電子の状態を量子力学的に表す波動関数の ことである。 (2) 1s 2s 2p 1s と 2s の違い=原子核からの距離(2s の方が遠い) 2s と 2p の違い=2s は球対称で節面を持たない。2p は1つの節面を持ち、節面 の方向が異なる3種類の軌道が存在する。 2. (1) H–Cl の結合にはどのような原子軌道が使われているか、図示して説明し なさい。(2) H–Cl と H–Br の結合はどちらの方が長いか、またその理由を説明 しなさい。 (1) H の 1s 軌道と Cl の 3p 軌道。 反結合性軌道 H 1s Cl 3pz 結合性軌道 (2) HBr の方が長い。H と Br の結合は Br の 4p 軌道を使っているが、3p よりも 4p の方が原子核から離れているため。 3. (1) 水素分子イオン H2+は、2つの水素原子核と1つの電子から成る分子であ る。この電子がどのような軌道にいるか説明しなさい。(2) H2+は H2 ほど安定で はない。その理由を、軌道のエネルギーを使って説明しなさい。 (1) H 1s 反結合性軌道 H 1s 結合性軌道 (2) H2 の場合、1s 軌道の2つの電子が結合性軌道に入るため、「1s 軌道と結合 性軌道のエネルギー差」 2の安定化が起きるが、H2+の場合は電子が1つしか ないので、安定化エネルギーがおよそ半分しかないため。 4. HCHO, HCN, CF3Cl のそれぞれの分子で、炭素原子はどのような混成軌道を 使って結合を作っているか。また、炭素原子の周りの結合角のおよその値を求 めなさい。 約180° 約120° H C H O C F N F Cl H sp2 C 約109.5° F sp3 sp 5. アレン H2C=C=CH2 の4つの水素原子は同一平面上にない。この分子がどの ような軌道を使って結合を作っているか考え、分子の形について説明しなさい。 両端の C は sp2 混成、真ん中の C は sp 混成である。こ のため、2つのπ結合は互いに直交している。従って、 H 左端の CH の平面と右端の CH の平面は互いに直交し H 2 H C C C 2 H ており、右のような構造である。 6. アンモニア・ボラン錯体 H3NBH3 は、アンモニア NH3 とボラン BH3 が N–B 結合を作ってできる化合物である。この分子の構造を、ルイス式・ケクレ式・ 透視式を使ってそれぞれ書きなさい。 H H H N B H H ルイス式 H H H N H H B H ケクレ式 H H H N H H B H H 透視式 7. ピリジン(共役酸の pKa = 5.2)を 0.1 mol/L の濃度で水に溶かし、酢酸(pKa = 4.8)を適量加えて pH = 6.0 に調節した。溶液中に存在するすべての化学種(中 性分子とイオン)の濃度をそれぞれ求めなさい。 ピリジンを Py, その共役酸を PyH+, 酢酸を AcOH, その共役塩基を AcO‒と表す。 pKa の定義式より [Py][H + ] = 10 −5.2 mol/L , [PyH + ] [AcO − ][H + ] = 10 −4.8 mol/L [AcOH] pH = 6.0 より、水のイオン積を 10‒14 mol2/L2 として [H + ] = 10 −6 mol/L, [OH − ] = 10 −8 mol/L € € 最初に加えたピリジンの量から [Py] + [PyH + ] = 0.1 mol/L(酢酸を加えても体積は ほとんど変化しなかったと仮定) € [Py] 10 −5.2 = = 10 0.8 =€ 6.31, よって [PyH + ] [H + ] [PyH + ] = € € € € 0.1 = 1.37 × 10 −2 mol/L , [Py] = 6.31 × [PyH + ] = 8.64 × 10 −2 mol/L 1+ 6.31 電気的中性の原理より [PyH + ] + [H + ] = [AcO − ] + [OH − ] これより € [AcO ] = [PyH ] + [H ] − [OH ] = 1.37 × 10 −2 mol/L € [AcO − ][H + ] [AcOH] = = 8.64 × 10 −4 mol/L −4.8 10 − + + − , なお、加えた酢酸の量は 1.37x10‒2 + 8.64x10‒4 = 1.46x10‒2 mol/L = 0.83 mL/L であり、 「酢酸を加えても体積はほとんど変化しなかった」という仮定は妥当で ある。 8. 水素化ナトリウム NaH はフッ化ナトリウム NaF と比べると極めて強い塩基 である。理由を説明しなさい。(注:H–, F–の電子構造から安定性や反応性を推 測して説明すること。 「H2 が極めて弱い酸だから」は単なる言い換えでしかなく、 説明とは言えない) H‒, F‒ はどちらも中性原子が1個の電子を受け取った陰イオンである。F は電気 陰性度が高いため、電子を受け取りやすいが、H は電気陰性度が低いため、電子 を受け取りにくい。従って、陰イオンとしては H‒の方が不安定である。このた め、H‒の方が強い塩基となる。
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