中国レポート[PDF:460KB]

平成27年5月号
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◆ 中国の金融政策
◆ 中国観光客の「爆買」と消費者~国家心理
(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)
千葉銀行 上海駐在員事務所
中国の金融政策
1.はじめに
5 月 10 日、中国人民銀行は貸出金利と預金金利を 0.25%引き下げ、1 年物貸出金利
を 5.10%、1 年物預金金利を 2.25%としました。半年の間で 3 回目の金利引き下げと
なります。また、金利引き下げと同時に、預金金利の上限幅拡大なども行われました。
今回の金利引き下げは、国内物価の上昇率鈍化から実質金利に上昇圧力が生じたこ
とが背景にあります。中国人民銀行は「利下げの焦点は、実質金利を経済成長・物価・
雇用の基調的トレンドに見合う水準に維持すること」としております。
今月は中国の金融政策について見てまいります。
2.政策金利の引き下げ
○金融政策決定の仕組み
中国ではどのように金融政策が決定されているのでしょうか。
日本では、日本銀行の政策委員会(日本銀行総裁等 9 名で構成されます)が、毎月
1~2 回開催される金融政策決定会合で金融政策を決定します。また、アメリカでは、
FRB(連邦準備制度理事会)の理事等 12 名で構成される FOMC(連邦公開市場委員会、
年 8 回開催)で、金融政策が決定されます。
中国の金融政策は、「中国人民銀行」が決定し発表します。中国人民銀行は、中央
銀行機能と市中銀行機能を併せ持つ、中国唯一の銀行として、1948 年に設立されまし
た。その後、1980 年代の半ばに中央銀行と市中銀行の分離が進み、1995 年の「中央
銀行法」により、中央銀行業務に特化することになりました。
金融政策決定に関する明確な規定や定期的な会合の予定、また決定にどういった
人々が関与しているか等は公表されていません。中国人民銀行が金融政策を決定し、
国務院(日本の内閣に相当します)へ報告するとの規定のみが公表されています。
今回の金利引き下げも、予告なしに発表が行われました。金融政策の変更は、市場
が閉まっている週末に行われることが多く、今回の発表も日曜日に行われています。
○預金・貸出金利の推移
中国の 1 年物貸出金利・預金金利は 2012 年 7 月以来、6.00%・3.00%で据え置か
れていましたが、昨年 11 月 21 日に中国人民銀行は 2 年 4 か月ぶりに、1 年物貸出金
利を 0.40%引き下げ 5.60%、1 年物預金金利を 0.25%引き下げ 2.75%としました。
今年 2 月 28 日には、1 年物貸出金利・預金金利を 0.25%引き下げ、それぞれ 5.35%・
2.50%としました。そして今回(5 月 10 日)、1 年物貸出金利・預金金利を 0.25%引
き下げ、それぞれ 5.10%・2.25%としたことで、1 年物貸出金利は計 0.90%、1 年物
預金金利は計 0.75%低下したことになります。
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【貸出・預金金利の推移】
(出所:中国人民銀行)
5 月 10 日に中国人民銀行が発表した最新の期間別の金利は、以下のとおりです。
【預金金利】
期間
普通預金
【貸出金利】
期間
1 年(1 年を含む)
金利
0.35%
金利
5.10%
3 カ月物定期預金
1.85%
1~5 年
5.50%
6 カ月物定期預金
2.05%
5 年超
5.65%
1 年物定期預金
2.25%
2 年物定期預金
2.85%
3 年物定期預金
3.50%
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3.金利自由化の動き
○預金金利の上限金利幅を拡大
中国では、銀行による預金金利・貸出金利の設定幅が厳しく規制されていましたが、
足もとでは規制の撤廃や緩和が行われています。
貸出金利については、2004 年 10 月に上限金利の規制が撤廃され、2013 年 7 月に下
限金利が撤廃(ただし個人向け住宅ローンは除く)されています。
一方、預金金利については、2004 年 10 月に下限金利は撤廃されていますが、上限
金利は中国人民銀行が発表する金利に対する上限幅が決められております。昨年 11
月の預金金利引き下げの発表と同時に、上限幅はそれまでの「中国人民銀行が発表す
る金利の 1.1 倍まで」から「同 1.2 倍まで」へと変更されました。また、今年 2 月の
金利引き下げ時には「同 1.3 倍」、5 月 10 日の発表では「同 1.5 倍」となり、各銀行
の裁量で決定できる上限幅は拡大しています。
【預金金利】
期間
普通預金
金利
0.35%
上限金利(1.5 倍)
0.525%
3 カ月物定期預金
1.85%
2.775%
6 カ月物定期預金
2.05%
3.075%
1 年物定期預金
2.25%
3.375%
2 年物定期預金
2.85%
4.275%
3 年物定期預金
3.50%
5.250%
金利の引き下げと同時に行われている預金金利の上限金利幅拡大は、金利の完全自
由化に向けた「地ならし」と言えます。今年 3 月には、中国人民銀行の周小川総裁が、
「預金金利の上限規制は今年撤廃する可能性が非常に高い」と発言しています。
○各銀行の対応と今後の注目点
預金金利の上限幅拡大を受けて、中国の各銀行が公表している預金金利に差が生じ
ています。中国銀行など規模が大きい銀行は、中国人民銀行が公表する金利の概ね 1.1
倍~1.2 倍の金利としているのに対し、中小の銀行は 1.2 倍~1.4 倍の金利を提示し、
大手銀行と競合する動きが見られます。
金利の自由化が実現した場合、預金者や企業がより有利な金利を提示する銀行を選
べることや銀行の商品・サービスの多様化に繋がること等のメリットがある一方で、
金融機関同士の競争が激しくなることで、将来経営難に陥る銀行が出てくるリスクが
あります。そのため、銀行等の金融機関が破たんした場合に、預金の払い戻しを行う
「預金保険制度」(払い戻し上限 50 万元(約 1,000 万円))も 5 月 1 日から導入さ
れています。
中国内でも金融機関の選別が進むことになることから、引き続き金利自由化に向け
た動きを注視していく必要があるでしょう。
以
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上
千葉銀行 上海駐在員事務所では、最新トピックスや投資環境など、中国に関する情報をタ
イムリーに提供する体制を整えております。中国に拠点をお持ちのお客様や、中国への進
出を検討されているお客様は、最寄りの取引店を通じ、お気軽にご相談下さい。
※ ここに掲 載されているデータや資 料は、情報 提 供のみを目的としたもので、投 資勧 誘 等を目的と
したものではありません。投資 等 の最 終 決定 は、ご自身 の判断 でなされるようお願 いいたします。
※ また、弊行 は、かかる情 報 の正 確 性や妥当 性 については、責 任を負うものではありません。
本レポートに関するお問い合わせは、千葉銀行 市場営業部 海外支店統括グループ
(Tel:03-3270-8526、e-mail:kaigai_tokatsu @chibabank.co.jp) までお願いいたします。
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矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)
【以下は、矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)によるレポートです】
中国観光客の「爆買」と消費者~国家心理
中国の爆買が世界を騒がせている。旧正月~花見シーズンにおける日本での
爆買だけではなく、フランスなどでも 6,400 人、1,300 万ユーロ(約 17 億 4,000
万円)に上る大社員旅行を行ったという記事 もメディアによって紹介された。
今回はこの「爆買」騒動と、そこから見える中国という国の意識を考えてみよ
う。
日本政府観光局(JNTO)によると、今年 3 月の訪日観光客数が 150 万人を超
え、単月過去最高を記録した。中国人観光客数を見てみると、その増加は顕著
である。JNTO の調べによると 2014 年の第一四半期の中国人訪日観客数は約 48
万人程度であった。しかし今年の第一四半期を見ると 92 万人と、倍近い成長
を遂げた。この急成長の大きな理由は 1 つには円安により、日本への旅行が割
安となっていること 、そして昨年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)での日
中首脳による「握手」を機に日中関係改善の兆しが出ていること があげられる
だろう。
ここで少し日本でありがちな誤解について述べたい。両国の関係悪化によっ
て中国からの観光客は急激に減少した。それを「反日の現れ」、「日本忌避」
などと見る動きがあるが、必ずしも正鵠を射ているものではない。現地に進出
している日系の観光関係業者によると、「上海などでは日本観光への興味は反
日期間中も衰えていない」と言う。にもかかわらず日本へと行かなかった理由
に「両国の関係悪化で中国人が日本に行くと殴られたりするのでは…」、「暴
力を振るわれるのではという不安」という意識があったという。日本人が聞け
ば一笑に付したくなるような話であるが、「そういうものだ」と思い込んでい
た彼らは「安全のために日本渡航を控えていた」のである。しかし、両国首脳
が「仲直り」した今、安心して日本観光が楽しめる環境が整ったのである。
○爆買で買うもの
さて、今回中国からの観光客が購入したメイン商品は「炊飯器」と「シャワ
ー付き便座」の 2 種類であった。このうち炊飯器に関しては昔からその高品質
が知られており、広く購入されていた。しかし、シャワー付き便座は今回初登
場である。
ある中国の経済学者が SNS に投稿した内容が物議を呼んだ。「中国で中国ブ
ランドによるシャワ ー付き便座を購入したが、 3 か月で壊れた」というもので
ある。彼が言わんとしているのは、「中国製品の品質もまだ向上の余地がある」
という意味合いであったが、結果として「日本製のほうがいい」という意識が
広がり今回の爆買につながったといわれている。また、一部の旅行者は来日後
にホテルなどで人生初めてシャワー付き便座を使用し、「同じものが欲し
い!」と感激して購入していったケースなどもあるという。
さらに、水筒や保温カップ。中国では「体を冷やしてはいけない」という考
え方があり、中高年は冷たい飲み物を控える傾向がある。そのた め、長く温度
を保つことができる保温カップなどはニーズが高いのである。特にサーモスは
中国でも高い知名度、人気を誇っている。
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○なぜ爆買するのか?
さて、なぜここまで中国の消費者は日本で「爆買」をするのか。
もちろん現在の円安によるお得感がある。
しかし、大きな理由の一つは為替レートを差し引いても「安い」という点で
ある。
「中国=物価が安い」という印象を持っている場合、意外に思われるかもし
れないが、事実である。もちろん、生活最低限の商品に関しては中国のほうが
断然安い。しかし、日本の一般生活レベルの快適、安全性を 求めると、おそら
く各方面において日本よりも高いコストが必要となる。
また海外からの輸入製品に関しては、1.5 倍から 2 倍程度の価格設定がされ
ている。これには輸送費(通関)のほか、代理商や小売店の利益などが加算さ
れるためである。特に中国の消費者には「国 のために税金分を負担するのはバ
カらしい」といった意識があり、店頭価格に対して疑問を感じることも多いよ
うだ。また代理商や小売店の利益に対しても「他人の利益のために高い買い物
をする必要があるか」というコスト意識が非常に強いというのも背景としてあ
げられるだろう。
こうした状況において中国の消費者は海外商品をより安く購入する方法を
求め続けている。その代表的なものが「代購」である。これは海外に住む家族
や友人などに購入を依頼し、中国に「個人使用品」として送付してもらう行為
である。もちろん、海外にいる人物には一定の手数料を支払うが、国内で正規
ルートによって輸入された商品を購入することを考えれば、非常に安く済むの
である。
ここで注目したい動きがある。中国国営大手企業・中信集団( CITIC)とタ
イの大手企業・CP グループ(正大集団)、そして日本の総合商社・伊藤忠グル
ープが共同で行う E コマースビジネスである。
このプロジェクトは 3 社合同出資による販売企業を上海の自由貿易区内に設
置することで、海外からの商品輸送・販売にかかる関税および諸手続きを抑え
ることで、日本の輸入商品もスピーディにまた通常より安く提供できるという
ものである。
これにより正規ルートよりも安く、「代購」よりも早く日本の商品が買える
ことになる。あとはこうしたメリットが「日本で購入した」という優越感ニー
ズ、そして「少ないながらも中間利益が存在している」といったコスト意識を
上回るかどうかがカギとなるだろう。
○浅析―爆買から中国の国家意識を見る
さて最後にこうした消費者心理から中国という国を見てみよう。
近年、日本のメディアを騒がせているのが中国の各方面における「対外進出
推進」である。経済的には国際銀行の設立や国家主導によるアフリカへの投資。
また軍事面においては空母就役以降も続く海軍力の強化と海洋進出などなど
である。
こうした中国の勢力拡大手法、爆買意識と微妙にリンクしているように見え
る。中国語でいえば「俺有了 钱了,为啥不能买?(金はあるんだから、欲しい
もの買って何がいかんの?)」といったところだろうか。
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つまり、これまでは中国という国は金持ちの欧米諸国や日本の拡大に 指をく
わえて見ていることしかできなかった。しかし、今は自分たちが金持ちになっ
た。だから以前彼らがやったような(たとえ大昔でも)国力増強ができる、い
や「やりたい」ように見える。「空母だって、これまではアメリカがたくさん
持っていた。今、自分たちの手元にはかつてのアメリカの ようなお金がある。
だからアメリカと同じものが欲しい!だから買う」という意識である。まさに
日本や海外で多くの富裕層がブランド品を爆買するのに近い意識のように思
えてならないのである。
急激に拡大した中国消費者も中国という国も、お金を使いたい、自分のこれ
まで欲しかったものを手に入れたい、そしてそれによって自分を誇示するとい
うことに意識が集中している。そんな意識を理解すれば、中国消費者そして中
国との付き合い方も見えてくるのではないだろうか。
以
上
【矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)によるレポートに
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矢野経済信息諮詢(上海)有限公司
経理課 吉田章弘
TEL:+86-21-6218-1805
http://www.yanoresearch.cn/
矢野経済信息諮詢(上海)有限公司
日本のマーケティングリサーチ企業・㈱矢野経済研究所 100%出資の上海現地法
人(2004 年代表所設立、2007 年に現地法人化)。中国(香港・台湾)において
ライバル企業調査や代理商調査、リテール市場調査などのリサーチ業務を、業
種を問わず展開中。また、業務において培った人脈を活用し、日系企業と中国
現地企業との橋渡しを行うマッチング業務(提携・販売)に おいても多くの実
績を有している。
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