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平成27年4月号
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◆ シルクロード経済圏構想とは
◆ PR から代理商探しまで??
中国市場開拓で無視できぬツール「微信」
(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)
千葉銀行 上海駐在員事務所
○はじめに
中国が主導する「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の創設メンバーとしての参加申
し込みが、3 月 31 日に締切られました。日本は参加申し込みをしていないことが明らか
になっていますが、3 月 12 日にイギリスが参加を表明して以降、欧州各国も追随し、最
終的に 57 カ国が創設メンバーとなりました。
今回設立されるアジアインフラ投資銀行(本レポート平成 26 年 12 月号で取り上げて
おります)は、今後アジアで必要とされるインフラ整備の需要を取り込み、アジア経済
の発展に資することを目的としています。アジア開発銀行(ADB)が 2009 年に発表した
試算によると、2010 年から 2020 年までのアジアのインフラ需要は、約 8 兆ドル(約 960
兆円)としており、世界銀行やアジア開発銀行など既存の国際金融機関だけでは、その
需要に対応するのが難しいと予想されることから、アジアインフラ投資銀行の設立の動
向に注目が集まっています。
さて今月は、アジアインフラ投資銀行とともに、中国の習近平国家主席が打ち出し、
アジアインフラ投資銀行設立と密接な関係が指摘されている「シルクロード経済圏構
想」について見てまいります。
○シルクロード経済圏構想とは
シルクロード経済圏構想とは、古代シルクロードの再現を意識したものであり、中国
及びその近隣諸国が相互に連携し、巨大な経済圏をつくる計画であり、中国のみではな
く、関係国・地域の共同発展(政策面の意思疎通、インフラ整備、貿易の拡大、金融協
力、民間交流の 5 分野)を目指すとしていることが特徴です。中国の報道によりますと、
シルクロード経済圏は、約 60 カ国をカバーし、総人口 46 億人、GDP は世界全体の 1/3
に相当する 20 兆ドル(約 2,400 兆円)にのぼるとしています。
シルクロード経済圏構想には、「陸」と「海」の 2 つのシルクロードがあります。習
近平国家主席は、2013 年 9 月にカザフスタンの大学で「シルクロード経済ベルト(陸の
シルクロード)」、同年 10 月には、インドネシアの国会で「21 世紀の海上シルクロー
ド(海のシルクロード)」の構築を提唱しました。中国語では、この 2 つを合わせて「一
帯一路※」と呼ばれています。なお、陸のシルクロードの「始点」は陜西省の西安、海
のシルクロードの「始点」は福建省の福州とされています。
※「一帯」は陸のシルクロード、「一路」は海のシルクロードを表します。
陸のシルクロード、海のシルクロードはそれぞれ以下の通りです。
陸のシルク
ロード
海のシルク
ロード
中国から中央アジア、ロシアを通りヨーロッパへのルート
中国から中央アジア、西アジアを通り、ペルシャ湾・地中海へのルート
中国から東南アジア、南アジアを通り、インド洋へのルート
中国沿海部から南シナ海を通り、インド洋やヨーロッパへのルート
中国沿海部から南シナ海を通り、南太平洋へのルート
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中国の首脳(習近平国家主席、李克強首相)は、シルクロード経済圏構想を推進する
ために、関係各国を訪問するほか、昨年 11 月に行われた G20 首脳会議の中でも同構想
を提案するなど、実現のための首脳外交に力を入れています。すでに約 60 の対象国に
加え、ASEAN や EU などの組織も支持を表明、カザフスタンやカタールなどの国とシルク
ロード経済圏構想の協力覚書を締結するなど、関係各国の支持を固めつつあります。
次に、中国政府が進めている資金面の取り組みについて見てまいります。
○シルクロード基金の設立
シルクロード経済圏構想に含まれる関係各国・地域は、発展途上の国が多いため、大
規模なインフラ整備が必要となります。中国政府は 2014 年 11 月、400 億ドル(約 4 兆
8,000 億円)の「シルクロード基金」を創設すると発表し、同年 12 月に北京で設立、運
営を開始しました。当初の資本金は 100 億ドル(約 1 兆 2,000 億円)で、最終的には 400
億ドルの資本金を目指す計画です。責任者は、中国人民銀行の幹部が務めます。
なお、新たに設立が予定されているアジアインフラ投資銀行の投資先として、シルク
ロード経済圏構想によるインフラ整備があるとの見方もあり、両者は密接に関係してい
るといわれております。
【シルクロード基金当初 100 億ドル出資内訳】
出資元
金額
外貨準備
65 億ドル
中国投資有限責任公司(CIC)
15 億ドル
中国出入銀行
15 億ドル
国家開発銀行
5 億ドル
(出所:中国人民銀行・報道等)
○おわりに
中国にとって、シルクロード経済圏構想を推進する理由は以下の 3 点です。
1 点目として、中国にとって最大の貿易相手国である EU、及び、中東や中央アジアの
資源国につながる地域への影響力を強めることで、安定した貿易ルートを確保する狙い
があると考えられています。
2 点目として、高成長を前提とした先行投資の拡大と、最近の成長鈍化を原因とする
過剰生産問題の解決があげられます。シルクロード経済圏構想による、インフラ投資や
輸出の増加がこの解決につながるとの期待があります。
最後に、アジアでの貿易や投資で人民元の流通量が増えることで、人民元を国際通貨
に育てるという点があげられます。
-2-
中国の一部メディアは、シルクロード基金やアジアインフラ投資銀行の設立をはじめ、
シルクロード経済圏構想の実現に向けた中国政府の一連の取組みを、第二次世界大戦後
のアメリカが、西欧諸国を対象に実施したマーシャルプラン※に似ていることから、
「中国版マーシャルプラン」と呼んでいます。今後も、経済的覇権を強める中国の動き
を注視する必要があるでしょう。
※アメリカは第二次世界大戦後、西欧諸国の復興を援助し、西欧諸国は援助で得た多額の米ドル
を使いアメリカから物資を買い入れました。これにより米ドルが世界に広がり、ドルの基軸
通貨化が加速しました。
以
上
千葉銀行 上海駐在員事務所では、最新トピックスや投資環境など、中国に関する情報をタイ
ムリーに提供する体制を整えております。中国に拠点をお持ちのお客様や、中国への進出を
検討されているお客様は、最寄りの取引店を通じ、お気軽にご相談下さい。
※ ここに掲 載されているデータや資 料は、情報 提 供のみを目的としたもので、投 資勧 誘 等 を目的と
したものではありません。投資 等 の最 終 決定 は、ご自身 の判断 でなされるようお願 いいたします。
※ また、弊行 は、かかる情 報 の正 確 性や妥当 性 については、責 任を負うものではありません。
本レポートに関するお問い合わせは、千葉銀行 市場営業部 海外支店統括グループ
(Tel:03-3270-8526、e-mail:kaigai_tokatsu @chibabank.co.jp) までお願いいたします。
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矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)
【以下は、矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)によるレポートです】
PR から代理商探しまで??
中国市場開拓で無視できぬツール「微信 」
近年、世界が縮まっている。ツイッター、フェイスブック、LINE など次々に登
場するコミュニケーションツールは、時間や場所を選ばず好きな人とつ ながるこ
とが出来るようになった。もちろん中国でもその流行に後れてはいない。なかで
も現在絶大な人気を誇っているのが「微信」である。中国市場開拓の観点から微
信を見てみよう。
微信はチャットソフト「QQ」を開発したテンセント社によるスマートフォン用
のコミュニケーションソフト(いわゆる SNS)です。一部では「中国版 LINE」と
も言われるように、機能の多くは LINE と非常に似通っており、使い勝手は非常
にいい。また、もともと QQ が幅広く浸透していたこともあり、ユーザー数も短
期間で増加。下のグラフを見ても分るように、 1 年間で約 2 倍。現在はそのアク
ティブユーザーが 5 億ユーザーを突破し、年内には 7 億ユーザーに達するのでは
とも言われている。中国においては「中国版ツイッター」などとも言われた 「微
博」が先に定着していたが、微信はコミュニケーションに重点を置いておること
(音声通信も可能)、また情報共有スペースに文字数制限がないこと(微博は最
大 170 文字)などから、多くのユーザーが微博から微信へと乗り換えている。
2013 年~2014 年第 2 四半期のアクティブユーザー数推移(単位:百万ユーザー)
出所:「騰訊科技(テンセント社)」、中国関連報道により矢野経済信息諮詢上海有限公司が作成。
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矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)
○ 貴重な情報源となった SNS
中国で爆発的なまでの広がりを見せる SNS。主目的は個人間におけるコミュニ
ケーションや情報共有であるが、そこには別の背景が見え隠れする。行政による
情報統制である。知っての通り、中国ではメディアを通じて公開される情報には
一定のフィルターがかけられている。いわゆる「中国の一体感を乱す情報」に関
しては行政は厳しい処置をとっている。もちろんそれはネットにおいても例外で
はない。
しかし、一般のインターネットサイトとは異なり、SNS では政府の検閲よりも
早く、大量のユーザーに向けてのリアルタイムでの情報発信が可能となる。特に
微信には「朋友圏」というサークル機能を有しており、そこで個人の行動や転載
機能を利用した気になるニュースの共有が可能になっており、一般メディアでは
取り上げることが出来ないような情報も多く閲覧されており、微信から今まで注
目されなかった社会問題がクローズアップされたり、不正が摘発されたりといっ
た例もあり、「微信が中国に真の“民主”をもたらした」とも言われるほどにな
っている。
○ 企業のイメージ戦略として利用される微信
いずれにせよ、微信はすでに中国消費者の一般生活に溶け込んだツールとなって
おり、通勤や仕事中など、スマホ片手に微信に「情報発信」や「情報収集」を行っ
ている若者を多く見ることが出来る。そしてこうした状況はメーカーや広告代理店
にとって、新たな自社の宣伝手法として取り入れられている。主にリテール商材を
扱っているメーカーでは、すでに微信上に「公衆号(パブリックアカウント)」を
取得し、自社商品の宣伝やイメージ浸透、また消費者とのつながり強化などに 活用
している。
ただ注意が必要なのが、微信は まだ完璧なツールではなく、パブリックアカウン
トを作っても必ず期待する効果がある、というわけではないことである。かつて日
本でも企業のホームページ開設がブームになった際に、「作ればすぐ問い合わせが
ある」といった短絡的な思考で開設したものの、更新や情報発信をしないまま放置
し、結果として無駄なコストをかけてしまったというケースが多く現れた。それと
同様のケースは現在企業の公式ツイッターなどでも見受けられ ているが、微信にお
いても同様である。専属の担当者を置き、どういった情報をどういったスパンで発
信していくか。そしてそれによってどのような 効果を狙うのかといった戦略を明確
にせねば、単なる情報の垂れ流しで終わってしまうのである。
こうした点においては大手メーカー(特に欧米系企業)では専門の広報部による
微信部隊の設置、情報発信を行っているが、日系企業でこうした活用を行っている
のは大手以外ではまだ少ないのが現状である。
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矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)
○ B to B でも「微信」活用のメリットが
さて、企業のイメージ戦略において、前述のようにメーカーが微信を含む SNS
を事業拡大に利用するのは、世界でも見られる行為である。日本でもツイッター
やフェイスブックを活用している企業も 、多くがメーカーである。しかし、中国
においては B to B 商材においても、幅広く微信が活用されている。
まず、下のグラフを見て欲しい。現在、微信を活用しているアクティブユーザ
ーの職業である。
アクティブユーザーの職業分布
出所:「騰訊科技(テンセント)」、中国関連報道により矢野経済信息諮詢上海有限公司が作成。
これを見ると「会社員」そして「個人事業者・フリーランス」 が 6 割を占めて
いるのがわかる。そして彼らは多くのビジネス情報を微信上でやり取りし ている
のである。ではなぜ微信上の情報にビジネスマンが飛びつくのか。
一つは友人機能による人脈作りの容易さである。常に閲覧するツールである微
信上に情報を流すことによって、これまで訪問や接待だけに頼っていた人脈作り
およびその維持を比較的容易にすることが出来る。そしてもう一つは「生の情報」
が得られるという点である。中国のメディアでは数多くの宣伝が為されているが、
こうした広告宣伝は真偽が定かでないケースが多い。
特に後者、すなわち自身で会社を立ち上げ、ビジネスを行っている人物にとっ
ては、微信は重要なビジネスツールとなっている。人脈作り、関連業態の微信グ
ループチャットなどなど、多くの情報が飛び交い、そして新たな商機を生み出し
ている。日本の企業や生産現場向けの商材を取り扱う代理商なども、微信の関連
グループ上で製品情報などを交換しており、時には微信のつながりで新たなビジ
ネスを得るといったケースも存在している。
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矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)
近年、中国市場への参入を考える 産業が増加している。こうした企業にとって
も 市 場 拡 大を図るにおいて微信は無視できぬ存在になっているといえるだろ う 。
リテール商材においても B to B 商材においても、微信を上手に活用でき るかが、
今後の中国市場攻略、特に若年層の消費者を獲得するため の鍵となっている。
以
上
【矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)によるレポートに
ついてのお問い合わせ先】
記事に対するご質問、ご感想、希望テーマをお寄せ下さい。
お問い合わせは、[email protected] までお願いいたします。
矢野経済信息諮詢(上海)有限公司
経理課 吉田章弘
TEL:+86-21-6218-1805
http://www.yanoresearch.cn/
矢野経済信息諮詢(上海)有限公司
日本のマーケティングリサーチ企業・㈱矢野経済研究所 100%出資の上海現地法人
(2004 年代表所設立、2007 年に現地法人化)。中国(香港・台湾)においてライバ
ル企業調査や代理商調査、リテール市場調査などのリサーチ業務を、業種を問わず
展開中。また、業務において培った人脈を活用し、日系企業と中国現地企業との橋
渡しを行うマッチング業務(提携・販売)においても多くの実績を有している。
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