平成28年12月号 ≪今月号のメニュー≫ 中国の農業政策について 激変の中国、理解していますか? ~理解できる人材、備えていますか?~ (矢野経済信息諮詢(上海)有限公司) 千葉銀行上海駐在員事務所 1.はじめに 1970 年代以降で急速な経済成長を続けている中国ですが、地域間の経済格差が表面化してい ます。計画的な経済政策を維持するため中国は、市民の移住を制限する戸籍制度を長く採用し てきました。2015 年末時点の中国の総人口約 13 億 7 千万人のうち、農村部の人口は約 6 億人 に達しています。 現在は改革が進んでいるもののこの戸籍制度が、都市部と農村部という経済の 2 層構造を生 み出した要因の一つと言われていまが、中国にとって「地域間経済格差の是正」は、「農村部 の発展」とほぼイコールで、早急に解決すべき重要な課題です。 今月は、この農村部の発展に向けた政策についてみてまいります。 2.農業改革に関する政策文書 中国の人口はここ 30 年以上増加傾向にあり、食糧の安定的な供給が長年の課題とされてい ます。かかるなか、2003 年の胡錦濤・温家宝政権発足後、中国政府は毎年、「1 号文書」と呼 ばれる農業改革に関する政策文書を発表し、農業に関する各種税金の撤廃などの優遇政策を実 施することで、農家の生産意欲を高め、食糧生産の増強に努めてきました。 各種農業政策の実施により、食糧生産量は、4 億 6,947 万トン(2004 年)から 6 億 2,143 万 トン(2015 年)に増加し、農民と都市住民の所得格差も 3.2 倍(2004 年)から 2.7 倍(2015 年)へ縮小するなど一定の効果も表れています。 3.「全国農業現代化計画(2016~20 年)」の発表 今年 1 月に発表された「2016 年版 1 号文書」では、食糧・農産物の効率的な生産を行うこと が重要であるとし、供給側の農業構造改革の必要性について述べられています。 同文書に基づき、2016 年 10 月、中国国務院(中央政府)は、今後 5 年間の農業改革の指針 などを示した「全国農業現代化計画(2016~20 年)」を発表し、2020 年までに全国の農業現 代化(※)を促進すると共に、食糧・農作物の安定的な供給、供給体制の効率化、農業分野に おける国際競争力の強化を目標に掲げました。 (※)伝統的な農業に IT などの最新技術を導入し、農業の生産性を高めること この目標達成に向け、穀物生産力を 2020 年までに 5.5 億トン(2015 年末時点同生産力:5.0 億トン)、農民 1 人あたりの労働生産性を 2020 年までに 4.7 万元(約 75 万円)(2015 年末時 点同労働生産性:3 万元(約 48 万円))に向上させるなど、具体的な数値目標が定められました。 -1- また、農業改革の他に、農地改革の全面的な推進を行うことを明記しました。中国では、農 地の使用権にあたる「請負経営権」が各農家に認められてきましたが、「請負経営権」の登記 がされていなかったため、都市部への移住を希望する農民が自身の農地を他者に奪われないよ うにするために、離農できないといった問題が発生していました。 この問題を解消するために、2018 年までに各農地の「請負経営権」の登記を完了させ、農地 の「請負経営権」を他者へ有償譲渡可能にすることや、この「請負経営権」をさらに「請負権」 と「経営権」の二つに分離する方針も掲げられています。 「請負権」が明確化されることで農地経営を他者に委ねやすくなり、「経営権」が保障され ることで、農地経営を受託しやすくなる効果があります。 4.その他政策について (1) 農業従事者の起業支援策 中国では、経済の発展や都市化の進展により、農村部の労働者が都市に出稼ぎをするよう になりました。中国国家統計局によると、2015 年末時点の全国の出稼ぎ労働者(農民工)数 は 2 億 8 千万人(前年比+1.3%増)と、農村人口の約 45%を占めています。 農民工が中国経済の発展を支える重要な労働力とされている一方で、農村部の発展の遅れ の要因となっています。中国国務院(中央政府)は 2016 年 11 月、農民工による起業を支援 し、農村資源を活用した第 1 次産業と、農産物の加工や流通などの第 2 次・3 次産業との融 合を促進するための政策ガイドラインを発表しました。 同政策ガイドラインは、農村部へ U ターンまたは I ターン(都市部生まれの人が、地方へ 移住すること)をして事業を始める人や、大卒者などの起業を支援するものです。具体的な 支援策として、企業時に必要な書類・手続きの簡素化や、起業時に直面する資金問題を解消 するための担保制度の導入や、金融商品の開発などを銀行に働きかけるとしています。 このほか、起業能力を高めるためのトレーニング制度の推進なども盛り込まれ、2020 年ま でに、起業希望者や既に起業している農民工が全員、起業訓練を受けられる機会を提供する としています。 (2) 財政・金融支援について 中国財政部(日本の財務省に相当)と中国国家税務総局(日本の国税局に相当)は今年 1 月、農産物を専門に扱う卸売市場と小売市場に対し、2013 年から 3 年間の期限付きで実施 してきた不動産税と土地使用税(日本の固定資産税に相当)の免除を、2018 年末まで継続 することを発表するなど、税制面での優遇政策継続により、農産物取引の活性化も図られて います。 -2- また、今年 3 月には、中国人民銀行(中央銀行)が、耕作を請け負っている農家の土地の 「請負経営権」と農家の「住宅財産権」(農家が居住用として使用している建物にかかる所 有権)を担保とした融資を一部地域で試験導入するための通知を発表するなど、金融制度の 改革も行われています。 5.おわりに 中国の農業分野は、様々な政策が打ち出されていることや、農業の生産・経営・管理におけ る IT 導入の推進、農村の文化や自然環境を生かした観光・教育・健康などの関連産業の強化 などが行われていることから、今後更なる発展が期待されています。 中国政府が進めている農業現代化により、異業種産業の参入も見込まれることから、今後中 国の農業政策に注目が集まるでしょう。 千葉銀行 上海駐在員事務所では、最新トピックスや投資環境など、中国に関する情報をタイ ムリーに提供する体制を整えております。中国に拠点をお持ちのお客様や、中国への進出を 検討されているお客様は、最寄りの取引店を通じ、お気軽にご相談下さい。 以 上 ※ ここに掲載されているデータや資料は、投資等の判断となる情報提供を目的としたものであり、 投資勧誘を目的としたものではありません。投資等の最終決定は、ご自身のご判断でなされる ようお願いいたします。また、弊行はかかる情報の正確性や妥当性については責任を負いません。 ※ 本レポートに関するお問合わせは、千葉銀行 市場営業部 海外支店統括グループ ( Tel:03-3270-8526、 Email:[email protected]) ま で ご 連 絡 下 さ い 。 -3- 矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司) 【以下は、矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)によるレポートです】 激変の中国、理解していますか? ~理解できる人材、備えていますか?~ 近年はまさに中国市場に日本が左右された期間であった。特にこの 2、3 年は「越境 EC」、 「インバウンド&爆買い」など、中国の動向がメディアを騒がせた。では今後はどうなる のだろう。本年最後に対中国市場のカギについて考えてみよう。 1.国営、国有企業の問題 まさに中国経済は大きな転換を迎えようとしている。きわめて高いレベルで中国経済と 連結している日本にとって、この転換は大きな影響を及ぼしている。 その中国市場は今後どうなっていくのか、企業の性質から見てみよう。 中国の抱えている問題として国営、国有企業の改革があげられる。実際に「ゾンビ企業」 などともいわれ、古い体制のまま存在し続けている国営、国有企業は、中国にとっての「贅 肉」となっている。 データを見ると、国営、国有企業の多くは営業利益の伸び率は徐々に小さくなりながら、 資産はかなりの比率で拡大を続けている。設備投資などを拡大させているのである。しか し、それと同時に増えているのは負債、すなわち借り入れ。つまり外からの資金を借り入 れて自社の資産を増やしているという、一般的な企業経営から見ると「異常」な状況にあ る。 それを経済成長したまま、いかにして処分していくかに注目が集まっている。一部の情 報によると、中国は「無意味な国営、国有企業の廃止」も辞さない構えで改革を進めてい くという。つまり、ダラダラと赤字を垂れ流しているような国営、国有企業は取り潰し、 もしくは上位企業による統合をし、数そのものを減らしてしまおうというのである。 かなり乱暴な方法かもしれず、一時的に中国の経済成長にブレーキを掛ける事にもなる が、もしその処理が成功となれば、中国はよりスリムな体型へと変化し、再度の経済成長 が望めるだろう。 2.民営企業は? 国 営 、国 有 企業 に 比して 、堅 実 な 経営 を してい る の が民 営 企業 だ 。特 に 彼 らは 景 気に よ っ て はす ぐ に淘 汰 され る 可 能性 が ある た め、生 き 残 りの た めに 必死 に な って い る 。そ の た め 、企 業 の リノ ベー シ ョ ン、改 革 、新 規事 業 な ど、き わ めて 早い ス ピ ード で の展 開 を 考 え てい る 。 -4- 矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司) そ こ で 注 目 さ れ て い るの が 日 系 企 業 で あ る 。民 営 企 業 の 多 く は 中 国経 済 の 急 成 長によ っ て 自 然に 拡 大し た 部分 が 大 きく 、 逆境 で の経 営 慣 れを し てい な い。 さ ら にゼ ロ か ら 1 を 作 り 出す こ とに は 不得 手 で ある た め 、そ れを 補 え る対 象 、日本 の企 業 に 注目 が 集ま っ て い る ので あ る 。実 際に 中 国 から 日 本に 対 する M&A ニ ー ズ を見 て みて も 、民 営上 場 企業 か ら の ニー ズ が多 い 傾向 に あ る。 そ う し たニ ー ズに 日 系企 業 は どう 対 応す べ きか ? い き な り M&A とい う のは 日 本 側も 受 け入 れ がた い 。ま ずは 相 手の 力、気 質 を 見る ため に 事 業 提携 、も しく は自 社 商 品の 販 売先 の 相手 と し て対 応 する の がよ い と 思わ れ る 。重 要 な 事 は「 テ ー ブル に着 く 」こと に あ り、その テ ー ブル の 席で 情 報を 得 な がら 、相 手を 見 極 め て行 け ばよ い だろ う 。 3.日本に足りない物 こうした中国市場に対し、日本側が不足している部分がある。それは「情報」および「人 材」である。 まず、日系企業は中国の「現地の情報」に疎い。数多くの日系企業が現地法人を構えて いるにもかかわらず、情報が欠けている。 日本のメディアを見ても、中国の動向をリアルタイムで、そして現場に根差して報道し ているメディアはほぼゼロと言ってよく、近年の爆買い騒動などの追随記事を掲載するメ ディがほとんどである。 しかし、中国の状況は常に変化をしており、日本が中国現地の情報を待っている間にも その内容は大きく変わっている。さらに言えばその範囲は広く、地域の状況差は限りなく 大きく、深い。それを理解、体験していないと、本当の中国情報を得ることはできない。 そのため日系企業の本社は常に中国の変動をリサーチ、現場視察などの手法によって情 報を得ていく必要がある。 しかし、それではまだ足りない。目に見える、もしくは報告書となって現れる情報を理 解し、精査できる人材が必要である。実はここが日本企業に最も足りていない部分と言え る。 繰り返しになるが、中国市場の変化は激しく、地域格差は大きい。それらを理解した上 で、見える情報を分析する人材が必要なのだ。残念ながら中国滞在歴が 3~5 年の駐在員 ではそれは難しい。もっと長く、かつ深く中国生活に入り込んだ人材でなければ、情報の 「裏」を読み取ることは難しい。 昨今、日本でも中国人人材の採用が始まっているが、同時に活用できるのは上海や北京 といった大都市で長期に亘り働いてきた人材の活用だろう。人数は減ったものの、滞在歴 10 年、15 年と言った日本人人材は中国で未だに活躍している。こうした人材をヘッドハ ンティングし、本社の中国事業の担当者にしていくことも、人材不足を補う良い手法だと いえるだろう。 -5- 矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司) 何度も繰り返すが、国営、国有企業にせよ民営企業にせよ、そして消費者ニーズにせよ、 中国は日本とは比べ物にならないほど、急激に変化している。同時に、それを避けること ができないほど、日中の経済領域での距離は縮まっている。 今後はそうした変化を、よりリアルタイムに把握し、本社と現地法人が中国の事情に根 差した理解・分析をしていく事が必要不可欠である。この理解・分析が日本経済の明暗を 分けるだろう。 以 上 【矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)によるレポートについての お問い合わせ先】 記事に対するご質問、ご感想、希望テーマをお寄せ下さい。 お問い合わせは、[email protected] までお願いいたします。 矢野経済信息諮詢(上海)有限公司 総経理 吉田章弘 TEL:+86-21-6218-1805 http://www.yanoresearch.cn/ 矢野経済信息諮詢(上海)有限公司 日本のマーケティングリサーチ企業・㈱矢野経済研究所 100%出資の上海現地法人 (2004 年代表所設立、2007 年に現地法人化)。中国(香港・台湾)においてライバル 企業調査や代理商調査、リテール市場調査などのリサーチ業務を、業種を問わず展開 中。また、業務において培った人脈を活用し、日系企業と中国現地企業との橋渡しを 行うマッチング業務(提携・販売)においても多くの実績を有している。 -6-
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