東日本大震災における情報・通信システムの被害とその

東日本大震災における情報・通
信システムの被害とその教訓
2011年10月1日
地域産業復興調査研究シンポジウム
「東日本大震災からの地域経済復興へ
の提言」
東北大学大学院経済学研究科
川端望
長時間停電で暗闇となった東北地方
アメリカ海洋大気圏局(NOAA)が公開した、東日本大震災前後の衛星写真。
出所:NOAAウェブサイト。
情報・通信システムの全般的被害状況
• 売上高1億円以上企業中、3割で情報システムに
トラブル発生(矢野経済研究所[2011])
• 沿岸部の自治体で津波によりサーバ損壊(以下
本スライド中は日経コンピュータほか[2011])
– バックアップの所在によってはデータ喪失のおそれ
• 大手企業の基幹系システムは東北地方にサー
バがないため深刻な損傷はなかった。
• 東北地方に基幹系システムがある事業体ではシ
ステム全停止も
– 例:生活協同組合連合会コープ東北サンネット事業
連合
通信途絶はなぜ起こったか(1)固
定電話
• 「停電でも固定電話は通じる」という通念を覆す
不通状態の発生
– 100万回線(NTT東日本)不通(総務省資料)
– 原因
•
•
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•
•
地震・津波による設備・施設の物的損傷
輻輳の危険により、最大80-90%の通話規制
FTTH(家庭の光ファイバー回線)は停電とともに通話も停止
長時間停電により、収容ビル・中継局の非常用電源が枯渇
FAX等の複合機能を持った電話機の一部はAC電源必要
• 最優先でかかる公衆電話の無料開放が最後の
よりどころに
通信途絶はなぜ起こったか(2a)
携帯電話・スマートフォン
• 津波により基地局が流出したり、収容ビル・中継
局が損壊した場合は使用不能。
• 通話は通話規制により困難(固定電話に同じ)
• メール送受信、インターネットアクセスは可能
– 後述する回線特性による
• しかし、停電地域では3月11日夜半からネットも
次々アクセス不能に
– 基地局が停電→非常用バッテリーに切り替え→バッ
テリー切れ
– 流失・損壊・バッテリー切れ合計で2万9000局が停波
(瀬戸山[2011])
通信途絶はなぜ起こったか(2b)
携帯電話・スマートフォン
被災下における携帯電話・スマホの利用を左右した条件
津波被害
有
有
長時
間停
電
無
無
通話規制により通話困難。
基地局流失、収容
ネットアクセス、メール送受
ビル・中継局損傷
信は当初可能だったが数時
により使用不能
間から一晩で不通に(東北内
(東北沿岸部)
陸部など)
基地局流失、収容
通話規制により通話困難。
ビル・中継局損傷
ネットアクセス、メール送受
により使用不能
信は可能(首都圏など)
(東北沿岸部)
通信途絶はなぜ起こったか(3a)
インターネット・SNS・IP電話
• 代替経路が自動選択されるインターネットは
相対的に頑強
• 問題はサーバ被災の有無とアクセス方法
– ルータ・スイッチ被災も限度を超えると制約に
被災下におけるインターネットの利用を左右した条件
サーバ
無事ないし復旧
損壊または停電
メール、SNS、IP電話使用 使用不可能(地元自治体・
可能
企業・学校など)
アクセ
ス
使用不可能(地元自治体・
不可能 使用不可能
企業・学校など)
可能
通信途絶はなぜ起こったか(3b)イン
ターネット・SNS・IP電話
停電時におけるインターネットアクセスの利用を左右した条件(津波なし・ハードウェア損壊
なしの場合)
端末種別
デスクトップPC
ノートPC(バッテリー残量 携帯電話・スマートフォン
あり)
(バッテリー残量あり)
×
×
-
FTTH
×
×
-
ADSL
×
×
-
ダイヤルアップ ×
○→長時間停電で×
-
公衆無線LAN
-
×
×
携帯電話
-
-
○→長時間停電で×
○→長時間停電で×
○→長時間停電で×
アクセス方
法人等LAN
法
通信カード・小型
×
ルータ無線LAN
端末給電
UPSあれば短時間
×
のみ○→×
○(充電器・電池あれば)
分散型バックアップと分散型電源の必要
性
• さしあたりの強調点
– 公衆電話を減らさない
– 携帯ネットワークを頑強にする
• 分散型バックアップ(クラウド利用を含む)
– 遠隔地にバックアップサーバ機能
– 遠隔地にバックアップデータを持つ
• 分散型電源:インフラ整備(政策と技術開発必要)
–
–
–
–
非常用電源大型化
大規模基地局によるバックアップ
基地局設備の省電力化
太陽光発電付き機基地局
• 分散型電源:ユーザー側の備え(背景に政策と技術開発必要)
–
–
–
–
–
–
非常用自家発電機(企業・自治体)
衛星電話
家庭用太陽光発電+蓄電池
電気自動車orコンセントつき自動車
携帯電話の充電器+乾電池
接続方法の確認
東日本大震災後のICTソリューショ
ン市場をめぐる問題の所在
• 東北経済復興よりも、次の大地震への備え
• 大地震はいずれまたやってくる(Newton
Press[2011])
– 南関東直下型地震(30年以内発生確率70%程度、想
定規模M6.7-7.2)
– 東海地震(同87%、M8.0)
– 東南海地震(同70%、M8.1前後)
– 南海地震(同60%、M8.4)
• 東京、名古屋、大阪などが被災すれば今回より
大きなシステム被害が出る危険
– 公的機関・金融機関・企業の基幹系システムの被災
– 通勤困難下で業務を維持する必要性
災害対策ソリューション
• BCP
– 用意されていたのは1000人以上企業64.1%、10-299人企業
28.0%(松井[2011])
– 策定意欲は企業規模と相関する(矢野経済研究所[2011])
– 注目分野は分散型バックアップ、分散型電源に関係(図1)
• バックアップに特有の問題(矢野経済研究所[2011])
– 基幹システムバックアップは8割の企業が行っていたが、7割5
分は30キロ未満の地点にあった
– 遠隔地バックアップへの意欲も企業規模と相関する
– 海外バックアップは1000億円以上企業のみ強い意欲
• 在宅勤務システム
– シンクライアントを用いるなどセキュリティに配慮したシステム
– 必ずしも大規模な動きになっていない(矢野経済研究所[2011])
– 災害規模によって必要性が微妙に異なり、イメージしにくい?
→需要は顕在的にも潜在的にも強い
– 中小企業向けの使いやすい廉価なシステムに開発の余地
(Web版では省略)
図1 BCPやICT継続稼働の強化にあたって利用が進むシステム分野
出所:松井[2011]127頁。
参考文献
• 齊藤貴之[2011a]「なぜ震災直後より2日後のほうが電話がかからな
い?」(日経コンピュータほか[2011]所収)。
• 齊藤貴之[2011b]「震災にまつわるネットワークの疑問」(日経コンピュー
タほか[2011]所収)。
• 瀬戸山順一[2011]「東日本大震災における情報通信分野の主な取組:被
害の状況・応急復旧措置の概要と今後の課題」『立法と調査』第317号、
参議院調査室、6月1日。
• 玉置亮太・小笠原啓・吉田洋平[2011]「持ちこたえた自治体、流通、金融
製造業はダメージ、被害に差」(日経コンピュータほか[2011]所収)。
• 日経コンピュータほか[2011]『ITで実現する震災・省電力BCP完全ガイド』
日経BP社、2011年7月。
• Newton Press[2011]『別冊Newton 「次」にひかえるM9超巨大地震』
Newton Press、7月。
• 松井一郎「“ポスト3.11”時代のICT利用意識調査 『集中から分散』『所有
から利用』へ変化」(日経コンピュータほか編[2011]所収)。
• 矢野経済研究所[2011]『東日本大震災後の災害対策ソリューション市
場』6月。
• National Oceanic and Atmospheric Administration (NOAA)ウェブサイト
(http://www.nnvl.noaa.gov/MediaDetail.php?MediaID=697&MediaTypeI
D=1)(2011年9月20日閲覧))
Web公開にあたっての追記
• 本報告の内容は論文として取りまとめ、2012
年春に出版される共著に収録されます。詳細
はそちらでご確認ください(2012年1月9日)。