中国レポート[PDF:604KB];pdf

平成27年3月号
《今月号のメニュー》
◆
2015 年中国経済の見通し
◆
より健康的な人生を
中国に生まれつつある「健康管理市場」
(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)
千葉銀行 上海駐在員事務所
○はじめに
中国政府は 2015 年 1 月、中国の 2014 年通年の GDP 成長率(速報値)が前年同期比+7.4%
であったと発表しました。2014 年の目標値である「7.5%前後」は達成された(7.4%は
7.5%前後に含まれる)としていますが、2013 年の GDP 成長率は同+7.7%でしたので、
2014 年は前年比で減速しました。
今月は、2014 年の中国経済を振り返るとともに、2015 年の見通しについて見て参り
ます。
○2014 年の中国経済
2014 年の中国経済を振り返ってみると、第 1 四半期(1~3 月)の成長率は同+7.4%
と、輸出の伸びの鈍化から 7.5%を下回りましたが、第 2 四半期(4~6 月)は、政府が
景気刺激策を打ち出した結果、同+7.5%と小幅に改善しました。しかし、第 3 四半期(7
~9 月)は同+7.3%と再び鈍化し、第 4 四半期(10~12 月)も同+7.3%と横ばいで、通
年の成長率が 7.5%を下回るのは 1990 年の同+3.8%以来です。
2014 年に経済が減速した主因は、固定資産投資が大幅に鈍化したことがあげられます。
固定資産投資額は同+15.7%となり、政府目標の同+17.5%を下回りました。これは、鉄
鋼やセメントなど過剰生産能力をもつ製造業への投資が抑制されたほか、住宅市場の低
迷を受けて、不動産開発投資が大きく鈍化したことが要因です。
【2014 年の主要経済指標数値】
数値
GDP
成長率(%)
63 兆 6,463 億元 (約 1,209 兆円)
7.4
第 1 次産業
5 兆 8,332 億元
(約 111 兆円)
4.1
第 2 次産業
27 兆 1,392 億元
(約 516 兆円)
7.3
第 3 次産業
30 兆 6,739 億元
(約 583 兆円)
8.1
固定資産投資額
50 兆 2,005 億元
(約 954 兆円)
15.7
小売売上高
26 兆 2,394 億元
(約 499 兆円)
12.0
消費者物価指数
-
2.0
国民一人当たり可処分所得
-
9.0
(出所:中国国家統計局)
-1-
なお、そうしたなか中国政府は、大規模な景気刺激策を実施せず、「量」より「質」
に重きを置く経済政策を維持しました。
これは、生産年齢人口が減少に転じたことや、資源・環境の制約などにより、10%を
超える経済成長率を維持していた高度成長期は終焉を迎え、「中成長の時代」に入った
との政府の認識があります。習近平政権は、中成長時代に入った中国の今後の経済成長
を「新常態(ニューノーマル)」と定義し、構造改革による経済の一定の減速を受け入
れる方針を明確にしています。
中国政府は、第 3 次産業が 2014 年の GDP に占める割合は、前年比 1.3 ポイント上昇
の 48.2%となり、第 2 次産業の割合を 5.6 ポイント上回ったことで、産業の構造改革の
調整は順調に進んでいるとしています。
○2015 年の中国経済見通し
それでは、2015 年の中国経済はどのように推移するのでしょうか。中国では例年 12
月に「中央経済工作会議」という会議が開催され、翌年の経済政策が決定されます。
2015 年の重点項目は以下のとおりです。
【中央経済工作会議の重点項目】
2015 年
2014 年
1
経済の安定成長の維持
国家の食糧安全を保障
2
新たな成長源の発掘・育成
産業構造の調整を推進
3
農業の発展モデルの転換加速
債務のリスクコントロール
4
経済発展の構造を改革
地域間の協調発展の推進
5
人々の暮らしの保障・改善
人々の暮らしの保障・改善
6
-
対外開放のレベルの深化
(出所:中国国内報道)
中央経済工作会議で決定された経済運営方針を受け、今年 3 月の全国人民代表会議(以
下全人代、日本の国会に相当)で、中国政府の経済成長率目標値が発表されました。
中国政府の 2015 年 GDP 成長率の目標値は 7.0%前後と発表され、2012 年から 3 年連
続して目標値としていた 7.5%から引き下げられました。「7.0%の成長目標」は 2004
年以来 11 年ぶりです。中国政府は、引き続き経済の減速を許容しつつ、構造改革を行
っていくことを明確に示したものといえます。
なお、主要機関が発表した 2015 年の中国経済成長率の予測は、以下のとおりです。
各機関とも、政府発表と同様に概ね 7.0%前後の成長を予想しています。
-2-
【2015 年中国経済成長率予測】
機関
成長率(%)
アジア開発銀行
7.2
世界銀行
7.1
中国人民銀行
7.1
国家情報センター
7.0
中国社会科学院
7.0
ゴールドマンサックス
7.0
IMF
6.8
(出所:中国国内報道等)
○おわりに
中国政府は、構造改革を今後も推進することや、ある程度の成長鈍化を容認すること
を明確にする一方で、2014 年 11 月には「政策金利の引き下げ」を、今年 2 月には「預
金準備率の引き下げ・再度の政策金利の引き下げ」など、景気刺激策としての金融緩和
を行っており、景気が急速に落ち込むことを回避する姿勢も見せています。
なお、中国の消費市場は約 500 兆円と、日本の GDP と同水準の規模にまで拡大してい
ます。2015 年の中国は、これまで代名詞であった「世界の工場」から「世界の消費市場」
としての地位を確立してゆく 1 年になりそうです。
-3-
千葉銀行 上海駐在員事務所では、最新トピックスや投資環境など、中国に関する情報をタイ
ムリーに提供する体制を整えております。中国に拠点をお持ちのお客様や、中国への進出を
検討されているお客様は、最寄りの取引店を通じ、お気軽にご相談下さい。
以
※ ここに掲 載されているデータや資 料は、情報 提 供のみを目的としたもので、投 資勧 誘 等を目的と
したものではありません。投資 等 の最 終 決定 は、ご自身 の判断 でなされるようお願 いいたします。
※ また、弊行 は、かかる情 報 の正 確 性や妥当 性 については、責 任を負うものではありません。
本レポートに関するお問い合わせは、千葉銀行 市場営業部 海外支店統括グループ
(Tel:03-3270-8526、e-mail:kaigai_tokatsu @chibabank.co.jp) までお願いいたします。
-4-
上
矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)
【以下は、矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)によるレポートです】
より健康的な人生を
中国に生まれつつある「健康管理市場」
今年の春節(旧正月)は、中国人観光客の「爆買 」が日本のメディアをにぎわせ
た。大挙して日本を観光し、みやげ物を大量購入する中国人の姿に、改めてこの国
の購買力の高さを見せ付けた。しかし、現在中国の消費者たちの感心ごとは物質的
な面から徐々に「健康」へと移っている。今回は今、物的欲求を満たしつつある中
国で注目されている健康産業の概要を紹介する。
現在の中国消費者たち、実は健康に関する悩みは非常に多い。
まずは環境問題である。日本で話題となった PM2.5 などの大気汚染のほか、住宅
内装におけるダイオキシン、野菜の残留農薬や加工食品の安全性、地方に行けば工
場排水や土壌汚染の問題も存在している。
また都市部における生活サイクルの変化も大きな影響をもたらしている。北京や
上海では従来のカラオケに加えてバー文化が浸透。深夜までお酒を飲みつつ騒いで
遊ぶといったスタイルが若者を中心に拡大している。
さらには日常生活において仕事の業務量の増加、不動産ローン など体や心に大き
なプレッシャーをかける要素が増加しているのである。
こうした生活環境の変化に、高血圧や心臓病、癌といった疾病が拡大。データを
見ると癌や高血圧患者は年間 300 万人のスピードで増加、心臓病による死亡者数も
年間 350 万人と、少なくない。
さらには生活スピードや負担の増加は「うつ病」といった、心の病をも生み出し、
現在中国国内には 9,000 万人ものうつ病患者がおり、毎年 20 万人がうつ病を原因
に自殺していると言われている。
■拡大する「健康管理市場」
こうした社会状況の中、拡大しているのが「健康管理市場」である。
いわゆる健康管理とは、病気の予防、健康状態の把握・維持を目的としたサービ
ス全般である。つまりは、「常に健康でいるために何が必要か」を提供するサービ
スである。
2014 年の健康管理市場の規模は 960 億元と予想されているが、中国における健
康意識の高まりとともに、2020 年には 3,000 億元規模へと成長すると見込まれて
いる。
-5-
矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)
中国健康管理市場の伸び
3500
単位:億元
3,000億元
3000
2500
2000
1500
1000
960億元
500
0
2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
2020年
この市場拡大の背景には健康への不安、そして医療に対する不信感などがある。
健康への不安に対しては上記の生活環境の変化によるもの、そして医療に対する
不信感とは病院が利益重視に陥り、患者の意向や経済状況を無視した治療を行なう
ケースが後を絶たないためである。
「こうした病院に費用をかけてしまうくらいなら、健康を維持するためにお金を
使いたい」という消費者心理の表れなのである。
■健康管理市場の中心、健康診断
この健康管理市場の中核をなしているのが、近年広がりつつある「健康診断施設」
である。中国では職場の入社時や入社後の福利厚生として健康診断を行 うケースが
多い。こうした際に利用されるのが健康診断の専門施設 である。
もちろん中国にも総合病院が数多く存在しており、そこでの健康診断も可能であ
る。病院によっては健康診断専用の窓口も存在しているのだが、健康診断施設を利
用するケースが増えているのはなぜだろうか ?
最も大きな理由が環境にある。中国の総合病院による健康 診断は、レントゲンな
ど一部の設備は外来患者に混じって受ける必要がある。こういった総合病院では患
者数が極めて多く、長時間待たされるケースがあるのである。さらに騒がしく、待
合室などの環境も決して良いとは言えない。
翻って、現在展開している健康診断施設では「高級感」や「優雅な環境」をうた
っているものが多く、リラックスした状況の中で診断を受けることができる。ある
上海の消費者は「病気になったのであれば仕方なく病院にいくが、健康な状態で検
査のためには(あの環境の病院には)行きたくない」と語っているように、「健康
診断ならば落ち着いた場所で」というニーズがあるようだ。
また、この健康診断施設だが、もう一つの市場と連動している。それは保険業界
である。
現在の中国では商業保険が注目されている。つまり毎年一定の保険料を支払い、
病気になった場合などには決められた金額内での保険金が給付されたり、ハイレベ
ルの 病 院 で キャッシュレスで治療 が受けられたりといったサービスが受けら れ る
ものである。
この保険加入の際には多くが事前健康診断が必要となる。その健康診断の指定施
-6-
矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)
設としても利用される。保険会社からしてみれば、加入顧客に対して「良い環境で
健康診断を受けてください」というセールストークにも繋がるため、非常に使い勝
手が良いのである。
こうした健康診断施設、その費用は実は決して安くはない。現在市場で人気の高
い「瑞慈医療」や「安康国賓」といった多店舗展開の施設では、もっともリーズナ
ブルなものでも 1,000 元強、高いものでは 1 万元近くするコースも存在している。
それでも利用者は増えているようで、前述の保険会社や企業の福利厚生として利
用されるほか、時には高齢者となった父母への親孝行の一環としてプレゼントされ
るケースまで、幅広く利用者が広がっている。
中国健康市場というと、これまでは「健康食品」などの市場が注目されていた。
しかし、こうした「健康管理」という新たなニーズも浸透、拡大している。
日本の医療技術に関しては中国でも高い評価を得ており、また「長寿の国」とし
てのイメージも根強い。こうしたイメージを背景に、日本的な健康管理サービスも
ニーズは高いと思われる。
【矢野経済研究所(矢野経済信息諮詢(上海)有限公司)によるレポートに
ついてのお問い合わせ先】
記事に対するご質問、ご感想、希望テーマをお寄せ下さい。
お問い合わせは、[email protected] までお願いいたします。
矢野経済信息諮詢(上海)有限公司
市場開拓部 主任 森下智史
TEL:+86-21-6218-1805
http://www.yanoresearch.cn/
矢野経済信息諮詢(上海)有限公司
日本のマーケティングリサーチ企業・㈱矢野経済研究所 100%出資の上海現地法人
(2004 年代表所設立、2007 年に現地法人化)。中国(香港・台湾)においてライバ
ル企業調査や代理商調査、リテール市場調査などのリサーチ業務を、業種を問わず
展開中。また、業務において培った 人脈を活用し、日系企業と中国現地企業との橋
渡しを行うマッチング業務(提携・販売)においても多くの実績を有している。
-7-