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「聞き」のアセスメントとトレーニングを行うソフトウエアの開発
○五藤博義 中川雅文
(レデックス株式会社)(国際医療福祉大学)
Ⅰ.問題の所在
検査音源として抽出した 700 語は、成人(男
発達障害者の検知探索行動は、視覚優位の
女)、幼児の 3 種の音声で作成し、本研究用音
場合が多い。人間は情報入手経路の 80%以上
源データとした。さらに、高い親密度の 180
を視覚に頼るとの報告(川端秀仁,2013)もあ
語については、音素(1モーラ毎)に分割し
り、学習支援などの場面における環境調整で
その音響特性を抽出した(サレジオ工業高等
視覚的に理解しやすくすることは有用である。 専門学校教授、森幸男氏の協力)。
一方、情報入手経路としてその占める割合が
2.ソフトウエア構成
小さいと考えられている聴覚は、視覚と競合
するものではなく相互に同等に補完しあうも
聴覚障害を調べるための聴力テストプログ
のである。しかし聴覚を活用した支援によっ
ラムと聴覚処理障害(Auditory Processing
て理解力を高める方策の検討は未だ充分に検
Disorder:APD)に関連する 5 種類のプログ
ラムを開発した。さらに、被験者一人ひとり
討されているとは言いがたい。
の聴覚レベルに合わせるための設定機能、取
Ⅱ.研究の目的
組結果を時系列に記録し、表示する記録参照
聴覚は、耳から音韻情報を入手し(Input)、
機能を用意した。
脳で意味的理解や判断を行う(Process)一連
の認知機能である。聴覚的理解力を高めるに
は、入力・理解・判断の各段階の機能を評価
し(Assessment)、それらの機能の活用のし
かたを体得させていく方法が考えられる。
本研究の目的は、任意の音源を用い、それ
をスピーカなどで出力、それに対する被験者
の反応パターンから聴覚的理解と認知を評価
するするソフトウエアの開発である。
Ⅲ.開発内容
1.音源データ
聴覚的理解・認知を評価する音声データは、
被験者にとってのことばの難易度(なじみや
すさあるいは親密度)の統制された単語など
を用いる必要がある。また、聴力レベルを考
慮した音圧レベルでの提示が必要となる。そ
のため本研究では「親密度別単語了解度試験
用音声データセット」(NTT、東北大)などの
先行研究を参考に、親密度のもっとも高い言
図 1 ソフトウエア構成
葉 121 語と、それに準じる言葉 579 語、合計
700 語を選出し、検査音源として用いた。高い
3.設定機能
親密度の 121 語に対し、類義語や聞き間違い
6 名まで利用者登録ができる。それぞれの利
やすい音素からなる語など3つを用意した。
用者について、音声は男性、女性、子どもの
~
音高別の聴力と聴覚統合機能
~
3種類の声のいずれかを選択できる。また、
人工内耳など聴力の低い被験者用に最適な音
圧レベルでの提示も可能な設計とした。
表示文字は、ゴシック体と教科書体を選択
できるようにした。生年月日の登録によって
小学2年生までの学年配当漢字が使用される
バージョンと、常用漢字までが使用されるバ
ージョンが自動設定される。このバージョン
の切り替えは指定もできる。
加えて、発達障害のある子どもの特徴を考
慮し、失敗時の効果音を 5 種類から選択、ま
たは効果音を出力しない設定も可能とした。
4.聴力テストプログラム
高親密度 121 語の中からランダムに課題語
が選ばれ、間違いやすい3つの言葉と共に四
択の形で解答欄が用意される。課題語が 50dB
の大きさで音声出力され、選択肢をクリック
(またはタッチパネル付タブレットではタッ
チ)する。もし、聞き取れない場合は「もう
一度聴く」をクリックすると、+5dB で再度、
音声出力され、それが繰り返される。
結果は、正誤の結果に加えて、間違えた選
択肢と正解の差分となる音素(周波数)を除
いたグラフ(スピーチバナナ、話声域の周波
数帯域)で示される。
5.APD 関連プログラム
以下の 5 種類を用意した。
①音素取り出し
出力された語の「最初の音」または「最後
の音」を、50 音表(濁音半濁音や拗音も含む)
のクリックで答える。
②雑音下の聞き取り
生活音の雑音が流れる状態で、課題語が出
力され、間違いやすい語と共に表示される選
択肢から四択で答える。解答するまで繰り返
し課題音が出力され、毎回、雑音は-5dB 小
さくなっていく。
③ワーキングメモリ
2 文字(音素)または 4 文字の音のつなが
りでスタートする。ランダムな音のつながり
が出力され、それを 50 音表で答える。正解す
ると文字が1つずつ増えていく。
④単語判断
カテゴリー(動物、乗り物等)が指定され、
そのカテゴリーに、出力される課題語が合致
するかどうかを判断し、Yes/No で解答する。
⑤カテゴリー分け
出力される課題語が、四択で示される選択
肢のカテゴリーのどれに当てはまるかをクリ
ックで解答する。
6.記録参照機能
前述の 6 種類のプログラムの結果はすべて
正誤が(一部のプログラムでは解答までの時
間も)勘案された点数で示される。さらに、
点数は中央値が 100、その 15%(一部 30%)
を標準偏差とした指数で示される。
取り組み結果はすべて自動的に記録され、6
つのプログラムのバランスチャートと、それ
ぞれのプログラムの時系列変化の折れ線グラ
フで示される。折れ線グラフのスケールは、7
日、30 日、90 日の切り替えができる。
※中央値ならびに標準偏差は仮に設定して
あり、後日、被験者のデータが一定数集まっ
た段階で、修正する予定。
Ⅳ.結果と今後の展開
児童の使用に先駆けて、発達障害のある児
童及び人工内耳を装用した児童の保護者及び
療育関係者に試用してもらった。児童に試用
させることのリスクは特に見当たらないと評
価いただいたので、次の段階として、発達障
害のある児童、人工内耳を装用した児童に試
用してもらい、その有用性について検証を行
っていく計画である。さらに、聴覚障害ある
いは聴覚処理障害の発見と、関連する認知機
能の発達支援の有効性について、引き続き調
査を進めていきたい。
また、平成 26 年 5 月現在、開発がほぼ終わ
っているのは Windows 版であり、iPad 版に
ついても平成 26 年 12 月を目標に開発を行う
予定である。
本研究開発は独立行政法人新エネルギー・
産業技術総合開発機構 福祉用具実用化助成
金に基づいて行った。
キーワード:聴覚障害,聴覚処理障害,LD