機能性難聴と聴覚情報処理障害

平成 27 年度 第3回全国研修会
機能性難聴と聴覚情報処理障害
県立広島病院 小児感覚器科
益田 慎
機能性難聴と聴覚情報処理障害、一見すると別々の疾患群のように捉えられてしまうが、
外耳・中耳・内耳に器質的な障害を認めないにも関わらず、
「聴こえない」という点では共
通点を有している。言い換えればどちらも「聞こえているのに聴いていない」状態である。
いずれにしても聴覚における認知機能に踏み込まなければ問題の解決にはつながらない。
講演では自験例(すべて小児)を通して1)作業記憶のトレーニングが必要であった例、2)
聴覚過敏への対応を要求された例、3)語彙獲得に問題があった例、4)学習障害(文字の
読み書き困難)に進展した例、を提示し、それぞれについて「聴こえ」との関連について考
察する。
作業記憶が弱いと聴取できた情報を把持することができず、聴いたとしても聴いたこと
にはならない。聴覚過敏があると、聴こうとしても聴くことができない。語彙獲得が遅れて
いる場合には、聴いた言葉の意味が解釈できないので、聴いたことにはならない。いずれに
しても聴覚経由での情報取得が限られることから、それぞれの病態に合わせてどのように
情報補償をするのかが対応として求められる。
雑音環境下での言葉の聴き取り能力が低下する状態は、聴覚情報処理障害(APD)でよく
遭遇する。しかし、同様の状態は注意欠陥多動障害(AD/HD)でも見られ、両者を区別す
ることは時に困難である。雑音環境下での言葉の聴き取りをどのように補償するのかとい
う課題は両者に共通しているので、当初は両者を区別する必要はない。しかし、APD では
音韻意識の困難さから、文字の読み書き困難を伴う学習障害に進展しやすく、AD/HD にみ
える児から APD を有する児をなるべく早期に見つけ出す必要が出てくる。
機能性難聴の中には心因性難聴も含まれるが、機能性難聴を見つけたときに安易に心因
性難聴であると決めつけると言語聴覚士(あるいは耳鼻咽喉科医)が本来すべきアプローチ
の機会を失うことになりかねない。それは厳に慎むべきである。