21H-7 大気圧 PIXE 分析装置の開発 研究代表者 東大・院工 高橋浩之 実験参加者 東大・院工 細野米市、 尾亦孝男、岩井岳夫 1.はじめに 一般に PIXE 分析法に用いられる特性 X 線の検出器は、液体窒素で冷却した Si 半導体検 出器が用いられる。この方法は、検出部を液体窒素で冷却することで高分解能特性を得て いる反面、値段が数百万円であり持ち運んで気軽に使用したりすることは出来ない。そこ で筆者らは、特性 X 線の検出に APD(アヴァランシェフォトダイオード)を用いる方式を 開発してきた。 しかし、APD は、端子間容量が 100pF 程度あり、暗電流もあることから、その後に接 続する電荷増幅器の S/N 比が悪化してしまい、Na や Mg の測定には不十分であった。そ のため今年度は、端子間容量の大きな APD を接続しても S/N 比が悪化しない電荷増幅器 の試作・開発を試みた。 2. S/N 比の改善方法 第 1 図に Na と Cl および微量の Mg 含有の塩の測定結果を示す。同図から明らかなよう に、分解能が不十分であり、Mg のピークが得られていない。これを改善するためには、 測定系の S/N 比の改善を行う必要がある。 測定系の S/N 比は電荷増幅器で決まる。それは、APD の熱雑音、ショットノイズ等で決 まる。熱雑音は、APD の端子間容量を C、温度を T、直列抵抗を Rs、FET の相互コンダ クタンスを gm{∂Id/∂VGS }とすると、 S/N 比 ∝ C√T(Rs+1/gm) ・・・ (1) で表すことが出来る。ここに Id は、J タイプ電界効果トランジスタ(以下単に FET と略)の ドレイン電流、VGS は FET のグリッド・ソース間電圧である。ショット雑音は、同図の電荷 増幅器の後ろにある波形整形回路の時定数(τ)に比例する。上記(1)式から、C と Rs お よび T が一定と仮定すると、gm 値を大きくすることが S/N 比改善に有効である。 電荷増幅器の入力部分に使用される FET の gm 値は、数十 mS(ミリシーメンス)が一般的で あり、大きな gm 値を得るには並列にすることが有効である。しかし、並列にすると、使 用する個々の gm 特性が問題となる。通常使用している 2sk291(Cis=8.5pF)を 100 本 購入し、特性を求めた結果を第 2 図に示す。同じ素子でも特性がバラツいている様子がよ くわかる。 特性の揃った 4 本を並列に用いた回路を第 3 図に示し、S/N 比の測定結果を第 4 図に示 す。この時の gm 値合計は、約 136mS であった。同図横軸は、波形整形回路の時定数であ り、縦軸は S/N 比である。入力にコンデンサーを付けない時の ENC は約 1.3x10-16[C]、 100pF を付けた時は約 1.8x10-16[C]であった。これに APD を接続した時、約 2.8x10-16[C] となった。悪くなった原因は暗電流の影響である。これまでに試作した電荷増幅器は、S/N 比が約 4.3x10-16[C]であったので、明らかに S/N 比が改善されている。 5. まとめ FET 特性のそろった素子を選んで APD 用の電荷増幅器を試作し、その S/N 比を求めた。 その結果、従来の回路よりも S/N 比を改善することができた。今後は、さらなる改善とこ の方式による大気圧 PIXE 分析法の開発をすすめる予定である。 第1図 第3図 塩の測定スペクトル 試作した電荷増幅器 第2図 第4図 FET の特性のバラツキ 電荷増幅器の S/N 比特性
© Copyright 2024 ExpyDoc