今月のおすすめ本 「落語百選 夏」 麻生芳伸 ちくま文庫 「ごめんください」 「あっ、なんです?」 「通り雨だろうとおもうんですけど、ちょっと軒先を拝借したいんですが・・・」 「軒先なんぞ持ってっちゃあ困るよ」 ( 『金明竹』)ほか25話。 「落語百選」全 4 巻(春夏秋冬)のうち、この時期にぴったりな夏の巻がおすすめです。 日本の文化として、今でも暮らしの中に息づいている落語は、笑いとともに私たち の心を癒したり慰めたりしてくれています。演者が一人で全ての登場人物を演じ、効果音 はなし まで担当し、道具は扇子と手ぬぐいだけ。そして 噺 の結末にオチがつくのが特徴です。 お と ぎ しゅう 落語の始まりは室町時代末期に遡ります。戦国大名に仕え、話の相手をした「御伽 衆 」 と呼ばれる人たちがいたそうです。その中の1人が、のちに“落語家の祖”と言われる僧侶の あんらく あん さくでん 安楽庵策伝上人です。戦乱の世に悲しむ人々を笑顔にしたいと願った策伝上人は、字の読 めない人にも話の落ちを使う手法で、おもしろおかしく仏の道を教えました。 時代変わって第二次世界大戦中、寄席はしばしば空襲警報で中断されたり、不謹慎とみ なされ中止されたりしたそうです。しかし、戦後の焼け野原の中で、希望を失い途方にく れた人たちを元気づけ、笑顔にしたのは落語だったのです。 ちょうど今年は戦後 70 年という節目になります。梅雨の季節、雨音を聞きながら落語と いざな 共に歩んできた日本の歴史に思いを馳せ、皆さんも“活字の寄席”に 誘 われてみませんか?
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