雪女 原作 :小泉八雲 アレンジ :ヤマチャピ み の き ち ある村に巳之吉という若い木こりがいました。 み の き ち もさく 冬の初めの、ある日のことです。巳之吉は先輩の木こり茂作といっしょに山仕事に出かけ ました。 み の き ち もさく 昼過ぎからチラチラと雪が降ってきました。巳之吉と茂作は仕事を早めに切り上げ、村へ 帰ることにしました。雪はだんだん激しくなり、村はずれの峠に差しかかったところで、と うとう吹雪になってしまいました。 そこで二人は峠の番小屋で一晩を過ごすことにしました。薪を燃やし、火のそばで二人は 丸くなって眠りました。ピュー、ピュー。すさまじい風の音とともに、雪はますます激しく なっていきます。 み の き ち あまりの寒さに巳之吉は目を覚ましてしまいました。寒いはずです、焚き火の火が消えて み の き ち もさく います。巳之吉がふと、横を見ると、隣に寝ている茂作の上に白い、白い女がのしかかって もさく いました。そして、フッと氷のような息を茂作の体に吹きかけました。 み の き ち み の き ち あまりの怖さに巳之吉は動くことが出来ません。白い女が振り向きました。女は巳之吉の 上に乗りかかると、じっと顔を見つめ、こう言いました。 「おまえもあの人と同じようにしようと思ったのだけれど、おまえがあまりにも若くて、 かわいそうなので、助けてあげる。約束よ。このことは絶対にだれにも言わないで。も し、おまえがこのことを誰かに一度でも話したら、そのときはおまえの命をもらいにく るからね。わかったわね。」 もさく み の き ち 茂作は氷のように冷たく、固くなって死んでしまいましたが、巳之吉は寒さに震えながら 一晩を過ごし、翌朝村に帰ることができました。 み の き ち 冬も深まったある日。巳之吉が母親と囲炉裏のそばで晩ご飯を食べていると、 「ごめんください。ごめんください」 表のほうから声がします。 こんな吹雪の晩にだれだろうと、戸を開けてみると若い娘が立っています。 「雪に降られ、道もわからず、困っております。どうか、一晩だけ泊めていただけない でしょうか」 み の き ち 困ったときはお互い様。巳之吉と母親は娘を一晩泊めてやることにしました。 次の日も吹雪でした。娘はどこに行くこともできません。そしてその次の日も、そのまた 次の日も吹雪で、娘はとうとう 10 日ほど泊まることになり、、、。 み の き ち その間に巳之吉とその娘はお互いに惹かれ合い、愛し合い、結局二人は夫婦になりました。 娘の名前はユキといいます。 み の き ち それから 15 年。巳之吉とユキの間には9人の子どもが出来ました。ユキは働き者のいい妻 で、優しい母親でした。 み の き ち ある冬の夜。子どもたちが寝た後、囲炉裏のそばで巳之吉はお茶を飲みながら、ふと言い ました。 「こんな吹雪の寒い夜にはいつも思い出すんだ。15 年前のあの日のことを」 針仕事の手を休め、ユキが言いました。 「15 年前のあの日?何を見たんですか。よろしかったら、聞かせてくださいな」 「オレはお前とそっくりな白い顔の女を見たんだ、15 年前の吹雪の寒い日に峠の番小 屋でな。あれは雪女か、幻か、いや、悪い夢を見ていたのかもしれない」 すると、ユキはすっと立ち上がった。 「あれは幻でも夢でもありませんわ。あのときの雪女はわたし、わたしだったのです。 あの時、約束しましたね。誰かにこのことを話したら、あなたを殺すと、、、。で も、こんなに可愛い子どもが9人もいるのだから、あなたを殺すことは出来ません。 ですから、どうか、子どもたちの面倒をちゃんと見てくださいね。たのみました よ」 そう言うと、ユキは15年前の雪女の姿に変わり、冷たい風とともに暗い冬の空に消えて いきました。
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