PCV7,ヒブワクチン普及後の肺炎球菌および インフルエンザ菌感染症

492
2014
日本小児感染症学会若手会員研修会第 5 回福島セミナー
PCV7,ヒブワクチン普及後の肺炎球菌および
インフルエンザ菌感染症診療における課題
―A グループの GW に関連して―
グループ A ショートレクチャー
成 相 昭 吉*
腔上咽頭培養を行ってきた.そして,インフルエ
ンザ菌については 2004 年からスライド凝集法に
年度
2012
2011
0%
2013:∼10月
を推測することと,分離検出された肺炎球菌とイ
ンフルエンザ菌の薬剤感受性の監視を目的に経鼻
0.5%
2008
当科では,乳幼児下気道感染症における原因菌
0
1.2%
2007
もに経鼻腔上咽頭培養を行うことが大切である.
2
2006
児における原因菌検索においては,血液培養とと
4
2005
したがって,重症細菌感染症と臨床診断した乳幼
6
2004
pharynx)
への無症候性定着が発症契機となる1,2).
2010
8
所感染症も全身感染症も,上咽頭(後鼻腔:naso-
2009
ルエンザ菌は重要な原因菌である.両菌による局
Hib検出率(%)
10
導入
HibV
乳幼児市中感染症において,肺炎球菌とインフ
図 1 上咽頭培養を施行した下気道感染症乳幼児
における Hib 検出率の推移
より血清型 b の判別を行ってきた.2009 年 1 月か
ら実質始まったヒブワクチンの接種が普及するに
くこととともに,乳幼児が上咽頭に保菌するイン
つれて,当科での下気道感染症乳幼児の上咽頭か
フルエンザ菌の疫学について調査をしていく必要
らの Hib 株の検出率は減少し,2011 年以降は検出
がある.
3)
されなくなった(図 1)
.
また,当科では 2010 年から,下気道感染症乳幼
しかし,乳幼児下気道感染症例におけるインフ
児の上咽頭から検出された肺炎球菌株を対象に血
ルエンザ菌の検出率は,15∼20%で推移している
清型の調査を行ってきた5,6).7 価肺炎球菌結合型
3)
(図 2)
.近年インフルエンザ菌感染症では,無莢
ワクチン(PCV7)接種普及により,PCV7 血清型
による早期乳児の全身感染症例や反復性中耳炎幼
し,肺炎球菌の検出率は約 20%で変化はない(図
膜型インフルエンザ菌(nontypeable Hi:NTHi)
児例の報告が散見されるようになった4).今後も
6)
株は 2013 年にはほぼ排除された(図 3)
.しか
4).これは,乳幼児の上咽頭には血清型が置き換
乳幼児におけるインフルエンザ菌感染症の疫学を
わって肺炎球菌が定着し続けていることを意味す
俯瞰するために,侵襲性感染症例の把握と分離イ
る.PCV7 は 2013 年 11 月に PCV13 へと移行され
ンフルエンザ菌について血清型の特定を行ってい
たが,非 PCV7 血清型株による侵襲性肺炎球菌感
*
横浜南共済病院小児科
2014
小児感染免疫 Vol. 26 No. 4 493
100
上咽頭培養施行例 2,192 1,907 1,382 1,134 885 1,024 819 521 598 598 664 361
導入
HibV
検出例平均年齢:1.9∼2.6歳
60
<0.001
23.0%
13.9%
年度
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
0
2002
20
2013:∼10月
40
2012
検出率(%)
80
図 2 下気道感染症乳幼児上咽頭からのインフルエンザ菌検出率
染症とインフルエンザ菌感染症は重要な位置を占
%
100
80
腔上咽頭培養を行うように努め,乳幼児の上咽頭
12.6%
40
0
下気道感染症や急性中耳炎・細菌性副鼻腔炎の乳
幼児における原因菌検索の際に,われわれは経鼻
60
20
め続けるものと予測される.日常診療のなかで,
19.7%
15.0%
61.4%
10年
32.6%
11年
16.3%
12年
23.1%
6.4%
13年
1∼10月
に定着する肺炎球菌とインフルエンザ菌に関する
26.4%
0%
13年
11月∼
14年
5月
非PCV13血清型
PCV13追加6血清型
PCV7血清型
PCV7血清型株検出率:2010年と2013年の比較 <0.001
図 3 下気道感染症乳幼児上咽頭から検出された
肺炎球菌株における PCV7 血清型株の検出
率と+6 血清型株検出率の変化
染症(IPD)が報告され続けている7).やはり,乳
幼児の肺炎球菌感染症においても,IPD 症例から
検出された肺炎球菌株の血清型の特定とともに,
IPD や局所感染症の発症契機となる乳幼児が上咽
頭に保菌する肺炎球菌の疫学についても,並行し
て調査していく必要がある.
述べてきたように,細菌ワクチン接種の普及に
よっても,乳幼児市中感染症において肺炎球菌感
疫学の変化を追跡していくことが大切である.
文 献
1)Bogaert D, et al:Streptococcus pneumoniae colonisation:the key to pneumococcal disease. Lancet Infect Dis 4:144 154, 2004
2)Moxon ER:The carrier state:Haemophilus
influenzae. J Antimicrob Chemother 18:17 24,
1986
3)成相昭吉,他:乳幼児におけるインフルエンザ菌
b 型株の保菌率とアンピシリン感受性に関する検
討.日児誌 117:1254 1259,2013
4)Kaur R, et al:Relationship with original pathogen in recurrence of acute otitis media after
completion amoxicillin/clavlanate. Pediatr Infect
Dis J 32:1159 1162, 2013
5)成相昭吉,他:7 価肺炎球菌結合型ワクチンが導
入された 2010 年における乳幼児下気道感染症例
の上咽頭から検出された肺炎球菌株における疫
学.日児誌 117:1759 1766,2013
6)成相昭吉,他:7 価肺炎球菌結合型ワクチン普及
494
2014
検出率(%)
PCV移行
7導入
PCV
上咽頭培養施行例 2,192 1,907 1,382 1,134 885 1,024 819 521 598 598 664 361 208
100
検出例平均年齢:1.7∼2.8歳
80
13
60
NS
40
21.6% 24.5%
21.9%
20
13年11月∼14年5月
13年∼10月
12年
11年
10年
09年
08年
07年
06年
05年
04年
03年
02年
0
年度
図 4 下気道感染症乳幼児上咽頭からの肺炎球菌検出率
による乳幼児下気道感染症例の上咽頭から検出
された肺炎球菌株における血清型の変化.小児感
染免疫 26:213 219,2014
*
7)常 彬,他:小児侵襲性感染症由来肺炎球菌の細
菌学的解析から見た肺炎球菌結合型ワクチン
PCV7 の効果.IASR 34:64 66,2013
*
*