“‘They’”における文体研究 一A study of Narrative Art in Kiping,s‘‘‘They,,,一 吉 村 愛 理 101 カめに は. There can be aiternative ways of saying tthe sa皿e’thing’. (Leech&Short 1981:135, 以前R≧Kiplingの作品“‘They’”における』.発話行為の文体(話法)・1Lお よびそれがもたらす効果について考察した。発話行為の多くは発話内容 を直接引用した話法(会話形式)で示され、テクストの4割ほどを占め ている(作品総語数は8,267語。地の文4,971語に対し会話部は3.,296語 で全体の39.9%にあたる)。今回は残りの部分、す・なわちナレ.一シ.ヨン 炉 (地の文).の文体について考えてみたい。 ・ 全般的に地の文には‘inanimate subject’i+dynamic verb’の構文が 目立つ。 〔1}_the humiq・tillness,・heavy with the sce・t’。f b・・, cloaked us deep.{p.389} (2} ...the long shades were POssessing the insolent horsemen one by one.{P.390} {3} An old eaq16−topPed convex mirror gathered.the picture into its 皿ysterious heart, distorting afresh the distorted shado賢s鳳and curving the gallery lines into the curves of a ship.【p.400} 一方、‘1’を主語にもつ文の動詞にはpsychological verb(thought, perception, feeling等}が目立つ。 ’ ⊂4) I judged that the lie of the country would bring me across so皿e westward−running road that went to his feet, −103一 but I did not allow for the confusing veils of the woods. {P.387} {5) I saw the light die from off the top of a glossy−leaved lance and all the brave hard green turn to soft black. {P.390} 本論の目的はこうした文体的特徴がもたらす文学的効果を探ることに ある。 1.分析デ}タ 以下は地の文より語り手の意識(知覚、思考等)、行為、状趨、発話 P 行為*2に関するものを分類し、その数値を主語別にまとめたものである。 TaPle 1 ・ 文体上の主謡にあたるもの 1 その⑳灼 ■幽 ?獅≠獅月Mate 勇魯 ‘They’を射もの …evenヒi state … 言及するもの 雫の種罰 @ 喫寛 @ そ碗の臨 @層 @3 1雌識{21 シcognition⊃ 1 41 Ui3 ⋮ ⋮ − i 冒 ; ⋮ ︳ 1 ︳ ⋮ ⋮ ︳ i ︳ ⋮ P5 even 一2−一 operception⊃ 聴覚 ?哩P嗜stat 93i4 ⋮ ⋮ − i 鴨 ⋮ ⋮ − i − ⋮ ⋮, ■ 1 − ⋮ 32 … ?魔?獅狽堰@stat @ … 48i22 ⋮ 1 .14 i 4 ⋮、i− i’5i. ⋮ 1の翻111 槻 … … … … @ … @ … @ … @ … @ … @ … P8 i13 … S i 7 … 1 Pi4 i 幽 そ碗法鵬講episte皿ic 11 F hの行為 68 1σ状櫨 6 ・speech act 44 11 一 一 一 L 一 一 一 一 一 一 76 一 一104一 概「して語り手の意識、すなわち知覚(中でも視覚が圧倒的である)や 思考などの内面描写が大半を占め、詳細に描かれている。このうち半数 以上の主語がinanimate nounである。発話行為に関するものが比較的多 いが、これ1は作品の約4割が人物同士の会話から成っており、引用符の 合間に発話行為動詞を含んだ挿入句が頻繁に現われるためである。 ‘1’の行為に関し特徴的なことは自発的なものが極めて少ないことで ある。例えば‘6}のような‘inapimate+dyna皿ic verb’の構文は、その行 為が強いられたものであることを示している。 {6, A quick turn plunged me first into a green cutting 冒 brim−full of liquied sunshine, next into a gloomy tunne1 静 where last year’s dead leaves whispered and scuffled about my tyres.{p.387) また主語‘1’がagent’3であることを示す‘1+d。1ng verb’の構文であっ ても、 必ずしも彼自身の意志による積極的な行為に言及してはいない。 以下の文における主語‘1’は明らかに動作の主体ではあるが、前後の文 脈よりその行為が自発的なものでないことがわかる。 {7} As the wooded hills Flosed about me I stood up in the car to take the bearings of thaヒ great Down ...(p.387} (8} As the slope favoured I shut off the power and slid ove「 the whirled leaves...{Ibid.} . 概して‘1’の行為の多くは何らかの外的な要因に対するリアクション である。 2.stylistlc valietlon一三つのレベル さて、文体的傾向と文豪的効果の関係を考える前に、まず文体選択 一105一 ’ (stylistic choice)における三つのレベルーsemantic level, syntactic level, graphologica1ユeve1一を踏まえておきたい。 Fig l ifictional world {‘They’}i ifictional world {‘They’⊃ imeSSage i i皿eSSage l L _ 「 wrlter setaantic leve1 encodes syntactic leve1 graphological level semabtic level reader syntactic leve1 decodes graphological leve1 (text} (cf.Leech&Short 1981:126) graphological variationとはitalicsやcapital lettersによる強調、 非標準的な綴りによる方言等、表記上のバリエーションをいう。以下は 9raPhological variantsの例である。 {9} a, ‘Miss F’lorence will tell ヱ皇≦1皇 very same.’{p.397} b・ ‘Miss Florence will te11 】こ9旦the very same・, syntactic variationとは受動態と能動態等パラフレーズ可能なバリ エーシ・ン(‘qiff・・i・g i・・y・tacti・r・叫b・t・q・ivalent i・ sense”4 jをいう。{10a}と{10b}はsyntactic variantsの例である゜5。 {10} a. Throwing the bal1, Jim broke a window.「The noise’ attracted the attention of the owner, who scolded him. b. When Jim threw the bali and broke the wi.ndow, he was scolded by the owner, whose attention was attracted −106一 by the.noise・ semantic variationとは、意殊は異なるが言及対象が同一であるもの (・d卑fferi㎡g in sense, but equivalent in refergnce’)をいう・ {11 ),はその例であるt6。 .{11⊃ a..The discreet door was shut with a click. b. The door discreetly shut with a click・ c. There was a.click as the discreet door shuヒ. こうしたsemantic leve1におけるVariantsな、事象(event)に対する 慨念化の椙違(variant¢onceptualizations)による(cf. Leech&Short 198’2:130) o 3..文体とntnd strユ● 一つの事象に対し概念化は様々である。.例えば以下のようなフラット な図面・を目にした時、我々は(おそらく無意識のうちに)立体的に見よ うとする。しかし、真上から見た二つの屋根、あるいは正面から見た屏 風等々、その解釈の仕方は一様ではない’7e Fig 2 慨念化の相違は表現の相違につながる。同一の事象もそれが如何に慨念 化されるかにより、semantic levelにおける語彙的・文型的バリエーシ ョンを生む。 概念化が文体に反映する以上、文体上の傾向は慨念化の傾向、すなわ 一107一 ち独自の世界観を示しうる。Fowlerはこうした世界』観を‘mind style’と’ 称し、次のように説明するis。 ” {12}’Ctimul・tively, c・・si・tent・tfuct・・a1。ptt・n・, agreeinq in c・tti・9 the pre・e・t・d w・・ld t・・ne pattern・…h・ther, give rise.to an i囮pression of』a world.−view, what I shall call a ‘皿ind style,. またLeech&Sho.rtは、 Fowle’rのいうmind styleが文体のsemantic level (語彙や文法上のchoice)においてのみ反映しうる点を強調するt9。 ‘13) ...although 皿ind style is essentially a questioh of semantics, it can onlY be observed through formal construction of language in terms of grammar and lexis・ なお、特定の作中人物による語りにみられる文体的特徴とその人物独特 のmind styleについて、 M. HallidayによるW. GoldingのThe Inheritors におけるLockの言語分析、またLeech&ShortによるW. FoulknerのThe Sound and the FuryにおけるBenjyの言語分析が詳しい。 4.耀r血eプ・にみるntnd 8t7ユo “‘They’”は一人称体小説である。語り手が一人称である以上、すべて は‘1’という人物の限定された視点から語られる。従6て地の文にみら れる文体的傾尚は‘1’のmind styleの表れとみなしうる。’1’を取り巻く 世界ではinanimateがani囮teに振舞い、また時には意志や感情をもって 行動する。 (14} ...1ast yeaガs dead leaves whispered and scuffled about my tyres.{P.38η {15} ...the crumpled hills interlaced so jealously that I −108一 could not see where the house had lain.(p.392} 視点人物および皿ind styleの限定(必ずしも一人称とは限らないが) はゴシック小説などの怪奇ものによぐみられる。特定の人物の経験がそ の人物独自の皿ind styleを通じて語られる場合、ストーリーは客観性を 失う。mind sヒyleがuniqueなものであればあるほど、陳述内容は信悪性 を欠く。“‘They’”はこの典型である。すなわち‘1’のみのmind styleを 通じて語られることによりストーリーの不確実性がほのめかされ、その 一方でアニメ化・擬人化により本来inani皿ateな存在が生命を吹き込ま れたかのようにうごめく妖しい舞台が用意される。 5.文学的麺果 “ ‘They’”には皮肉なコントラストがある。 (死者を含め)inani皿ate! 1ifelessであるはずの存在が「動」的である一方、命ある語り手‘1’は 「静」的である。 “‘They’”は子供を亡くした父親の話であり、その舞台は死者のさま よう世界、命亡き者が命ある者のどとく振舞う世界である。語り手‘1’ はある日不思議な館に迷い込む。そこには盲目の婦人フローレンスが住 んでおり、語り手はそこで幾度も子供たちのクスクス笑いや小さな足音 を耳にし、小さな人影を目撃する。語り手が三度目にその館を訪れた時、 暖炉の傍らに腰掛けだらりとたらしていた手が不意に子供の小さな手で 翻され、掌に優しいキスを受ける。それが亡くなった娘であることを知 った彼は、二度と再びその館を訪れてはならないと悟る。 (作品出版の 5年前、Kiplinqは愛娘Josephine(享年六歳)を亡くしており、それゆ え語り手‘1’を作者の分身とみる解釈が一般的である。) ‘They’が幼い幽霊たちであることはテクストのどこにも明示されては 一109一 いない。しかし作者KiPlingは文体操作により数々の含みを残し、また 幽霊物語としての舞台背景を巧みにアレンジしている。まず‘inanimate subject+dynamic verb’の構文によるアニメ化および擬人化は、小説世 界を幻想的なムードで満たすに有効である。また「無生物」が生命を吹 き込まれたかのようにうごめく様は‘1’が誘い込まれていく世界、すな わち死んだ子供たちが生きた子供たち同様に駆け回る世界を暗示する。 さらにこの文体は語り手を他の登場人物たちと区別する上でも有効で ある。近隣の村人たちは‘They’があの世の者と知っていながら会いに出 かけていく。執事のMadden夫妻とて同様である。一方‘1’は亡き娘に再 び会うことを切望してはいたものの、実際会うことに対し意図や計画性 をもっていない。‘1’はあの世の者に会うべくして会いにいく人々とは 教育的・社会的に異なるclassの.人間である。それゆえ娘との再会はあ くまでも偶発的なものでなければならず、彼は「不本意にも」あの世と この世の‘crossroad’に誘い込まれなければならない。 多くの場面において‘1’が事実上actionの‘doer’でない理由はここに ある。(10)は最初の訪れの場面であるが、ここでは車がagentとして‘1’ に対しinitiativeをとっている。 ‘16} As the light beat across my face my forewheels took the t・rf・f a q・eat・till law・・…Hrre・then・lstayed… ⊂P.388} 二度目の訪問では車が完全に擬人化され主導権を握っている。ここで車 は人称代名詞を与えられ、自らの意志をもって行動し、果ては内蔵障害 まで起こしている。 (17) .,.my car ヒook the road of her own volition・ She over冒 ran the fruitless Downs, threaded every turn of the maze 一110一 of lanes below the hills, drew through the high,walled . woods, impenetrable in their full leaf, ca口e out at the cross−roads where the butler had left 皿e, and a little farther on developed an internal trouble which forced me to turn her in on a qrass way−waste that cut into a sutumer−silent hazel wood.{P.392) 一方これとは対照的に、三度目の訪問では文体上‘エ’の方がagentとし て車を動かしている。 {18} Through no 皿erit of my own I was free, and set the car for ヒhe th‡rd ti皿e on that known ro司d.{p.398} これは‘1’が自発的に行動する数少ない場面の一っであるが、こうした 文体操作によるforegrounding(前景化)はクライマックスを暗示する。 皮肉なことに自らの意志で訪れたが最後、「‘1’が再び‘They’に会うこと はない。 Note8 1.厳密にいうと‘inerし(自動力の’ない)subject+dynamic verb’。 inanimate nounの他、植物がdyna皿ic verbをとる構文がみられる (e.9....blue−bells nodded together・P・387) 0 2.Iasked, she cried等の挿入句、および間接話法や自由間接話法等 による陳述を含む。 3.動作主・動作の主体(adoer of the action)。動詞によって示さ れる行為を引き起こす有生名詞(animate noun)。 4.1・eech and Short(1981:130》 一111一 ● 5°678 9 Leech and Short {1981:218) ■ 1、eech and Short {1981:127} 9 , ● E.H. Go皿boich Art and Illusion {1960:222} quoted in Leech {1969:217} R.Fowler C19772:76) Leech and Short (1981:189} 趾bltograPby Banfield, A.{1982} Boston: Routledge&Kegan Paul。 Ke皿p, S.{1988⊃ Kipling’s Hidden Narratives, New York: Basi1 Blackwel1. ・ Leech, G. N.{196gl A Li・qui・. 狽堰E Guide to English Poetr , London: Longman. Leech, G. N. and Shorヒ, M. H.{1981} Style in 180ngman. Fiction, London: Leech, G. N.{19872) rong皿an. London: 弓 楓 Kipling, R.欄‘They’”, in Selected Stories, London: Penguin, 1987. 一 112一
© Copyright 2024 ExpyDoc