斑模様 Pennyface,3. 黄鼻模様 Yellowneb の 3 タイプに分け(図 2

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斑模様 Pennyface,3. 黄鼻模様 Yellowneb の 3
ける瓢湖,鳥屋野潟の合算値とχ 2 検定をもち
タイプに分け(図 2)
,
それぞれの数をかぞえた.
いて比較した.更に,本調査における本埜地区
すなわち,嘴正面部に,黒色が額から先端まで
における 3 タイプの割合と,河邉(1999)が
連続しているものが黒筋模様 ,嘴正面部の黒
示した,同地における割合を比較した.なお,
色が額から嘴先端まで連続しているが,さまざ
河邉(1999)では,
本調査および Scott(1981)
まな黄色部分が見られるものが丸斑模様,嘴正
で黄鼻模様 としたものを,額部分の黒色の有
面部の黒色が連続しておらず左右の黄色部分が
無からさらに 2 つのタイプに分けている.本調
連続しているものが黄鼻模様 である.これら
査の結果と比較するにあたっては,この 2 タイ
の例を図 3 に示した.幼鳥は嘴模様が確定しな
プの合算値を黄鼻模様として扱い,比較した.
い(林 1982)ため,対象から除外した.また,
2010 年から 2011 年にかけての,各調査地
Evans & Sladen(1980)
,Scott(1981)では,
におけるコハクチョウの嘴模様 3 タイプの割
黒筋模様の英語表記は Darky であるが,本稿で
合を,図 3 に示した.各調査地とも,黄鼻模様
はより新しい Rees(2006)に従い,Blackneb
が最も多く 60% を超え,次いで黒筋模様が多
とした.これらの調査は,2010 年 11 月から
かった.各渡来地における各タイプの割合に,
2011 年 2 月にかけて行なった.得られた 3 タ
有意差は認められなかった(χ 2= 13.72,df =
イプの割合を,各調査地間でχ 2 検定をもちい
12,P = 0.32)
.
て比較した.続いて,本調査における越後平野
続いて,Scott(1981)による新潟の各タイプ
一帯の 3 タイプの割合と,Scott(1981)にお
の割合と,本調査における各タイプの割合を比
㻜㻑
㻱㼏㼔㼕㼓㼛㻌㻼㼘㼍㼕㼚
越後平野
㼚㻩㻡㻜㻤
菅生沼
㻿㼡㼓㼍㼛㻌㻹㼍㼞㼟㼔
㼚㻩㻠㻝
本埜
㻹㼛㼠㼛㼚㼛㻌㼍㼞㼑㼍
㼚㻩㻣㻝
夏目の堰
㻺㼍㼠㼟㼡㼙㼑㻌㻼㼛㼚㼐
㼚㻩㻥
猪苗代湖
㻸㼍㼗㼑㻌㻵㼚㼍㼣㼍㼟㼔㼕㼞㼛
㼚㻩㻞㻠㻞
荒川
㻭㼞㼍㻌㼞㼕㼢㼑㼞
㼚㻩㻟㻥
多々良沼
㼀㼍㼠㼍㼞㼍㻌㻹㼍㼞㼟㼔
㼚㻩㻡㻟
㻡㻜㻑
67
86
355
30
7
4
18
10
1
43
χ 㻞㼠㼑㼟㼠
N・S
8
52
37
6
7
㻝㻜㻜㻑
6
153
27
42
4
黒筋模様
㻮㼘㼍㼏㼗㼚㼑㼎
丸斑模様
㻼㼑㼚㼚㼥㼒㼍㼏㼑
黄鼻模様
㼅㼑㼘㼘㼛㼑㼚㼑㼎
図 4.各調査地で記録されたコハクチョウの嘴模様各タイプの割合
Fig.4. Proportions of three pattern types of Bewick’s Swan bills in the study sites.
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㻜㻑
㻡㻜㻑
㼍
㻿㼏㼛㼠㼠㻌㻝㻥㻤㻝
㼚㻩㻝㻝㻝
㻴㼥㼛㼗㼛㻌㻒㻌㼀㼛㼥㼍㼚㼛㼓㼍㼠㼍
㻝㻜㻜㻑
10
38
62
χ 㻞㼠㼑㼟㼠
㻖㻖
本調査
㼀㼔㼕㼟㻌㼃㼛㼞㼗
㼚㻩㻡㻜㻤
㼎
河邊 1999
㻷㼍㼣㼍㼎㼑㻌㻝㻥㻥㻥
㼚㻩㻠㻠
86
67
355
6
10
28
χ 㻞㼠㼑㼟㼠
N・S
本調査
㼀㼔㼕㼟㻌㼃㼛㼞㼗
㼚㻩㻣㻝
18
43
10
黒筋模様
㻮㼘㼍㼏㼗㼚㼑㼎
丸斑模様
㻼㼑㼚㼚㼥㼒㼍㼏㼑
黄鼻模様
㼅㼑㼘㼘㼛㼑㼚㼑㼎
図 5. 越後平野 (a) 及び本埜地区 (b) における本調査と過去の調査の比較
Fig.5. Comparisons between the results of this and previous studies in the Echigo Plain (a) and at Motono
area (b).
較すると(図 4a),有意差が認められた(χ 2=
17.06,df = 2,P < 0.001)
.Scott(1981)では,
かったのかもしれない.
Scott(1981)で,やはり黒筋模様が多いと
30% 以上の出現率であった黒筋模様が,本調査
された,宮城県仙北平野の伊豆沼や,西日本な
においては 20% に満たず,黄鼻模様は 70% 近
どにおける現状の把握が必要と考える.更に,
い出現率となった.
国内に渡来越冬するコハクチョウ個体群に関し
続いて,河邊(1999)による千葉県での調
ては,嘴模様の頻度観察を通じて,個体群動態
査と,本調査で得られた同じ調査地での各タイ
をモニタリングするとともに,標識個体などか
プの割合を比較すると(図 4b)
,有意差は認め
らその頻度が変化する詳しいメカニズムを明ら
られなかった(χ =0.12,df =2,P =0.94)
.
かにする必要があるだろう.
2
本調査により,越後平野においては,少なく
とも 1980 年当時と 2010 年では,黒筋模様の
本稿作成にあたり有益な助言をいただいた 2 名の
占める割合が減少し,黄鼻模様の占める割合が
匿名査読者,および Strix 編集担当に厚く御礼申し
増加したものと考えられた.越後平野一帯で越
上げる.
冬するコハクチョウの個体群の遺伝的な構造
に,何らかの変化があったのかもしれない.長
野県諏訪湖で,嘴模様から本種の個体識別を行
った林(1982)は,本調査のようなタイプ分
けをしていないが,示された図から判断すると,
黒筋模様が 7 羽で,5 羽の黄鼻模様より多いこ
とがわかる.1980 年当時は,日本国内の広い
範囲で,現在よりも黒筋模様の占める割合が高
引用文献
Albertsen, J. O. & Kanazawa Y. 2002. Numbers
and Ecology of Swans Wintering in Japan.
Waterbirds25 ( Special Publication1 ): 74–85
Bateson, P. P. G. 1977. Testing an observer's ability
to identify individual animals. Anim. Behav.
25: 247–248.