第29回大会要旨集

発表要旨集
Abstracts
1. 渡邉 要一郎(東京大学大学院博士課程)
Saddanīti の議論の特性について
―動詞接辞議論を中心として―
パーリ文法学の一大大著である Saddanīti は、Kaccāyana を中心に、Kaccāyana が依拠する
Kātantra 文法、Kaccāyana に対する注釈書である Mukhamattadīpanī、Rūpasiddhi、現在までに散
逸した Cūḷanirutti などの議論の詳細を踏まえて本論を構成しており、その特性は、動詞接辞の
議論のなかに特に顕著に窺える。すなわち、Kaccāyana 以来、動詞接辞はそれぞれが固有の時間
を意味するものとして区別はされてきたものの、その内実は曖昧であり、ことに命令法接辞・願
望法接辞・条件法接辞がどのような時間を意味するのかについて注釈伝統は一定の結論に至って
はいない。Saddanīti は動詞接辞の時間を論じる際に、こうした過去の文献群の解釈と詳細な整
理を行っている。本当発表では、この議論の解明を通じて Saddanīti の先行文献の受容の方法と、
その革新性とを提示する。
2. 馬場 紀寿(東京大学准教授)
上座部大寺派のパーリ語原理主義
四世紀から十二世紀にかけて南アジアと東南アジアで知識人の公用語としてサンスクリット
が用いられた国際空間、
「サンスクリット・コスモポリス」に代わり、十二世紀から十五世紀に
スリランカと東南アジア大陸部で「パーリ仏典圏」が拡大した。本発表では、この転換の背景を
考察するため、上座部大寺派が展開したパーリ語の言説戦略を、サンスクリット語仏典を伝承し
た他部派の仏語論と比較することによって、その思想的特殊性とその後の歴史に果たした役割を
解明したい。
3. Shantu BARUA(Ph.D. Candidate, Graduate School of Letters, Ryukoku University)
Funeral Rites of Oraon Buddhist Community in Bangladesh: A Case Study
Oraon is one of the oldest indigenous communities in Bangladesh, anthropologically who belongs to
Dravidian group. Previously the Oraons of Bangladesh were the followers of animism; but nowadays
many of them have been converted into Theravada Buddhism. Though they follow Theravada Buddhism,
they observe many colorful socio-popular rituals and ceremonies, which are different from other ethnic
Buddhist communities of Bangladesh and through these rituals and ceremonies they keep their identity as
a distinct community. Funeral is one of the noteworthy obligatory ceremony among them. In my paper I
will introduce various rites and rituals of funeral ceremony. After introducing these, I will consider their
belief and understanding regarding the rituals, and identify the differences from other communities.
Moreover, I will point out the ways in which the funeral rites are specific to the Oraons.
4. 川本 佳苗(日本学術振興会特別研究員 DC(龍谷大学))
アナパナ瞑想による集中力の意義と実際的恩恵
本論文の目的は、入出息念(ānāpānasati)の瞑想がもたらす集中力の重要性をパーリ文献および
筆者自身の実践から明らかにすることである。vipassanā 瞑想の国際的な興隆に対し samatha 瞑想
は衰退しているが、本研究では jhāna (禅定) が vipassanā 瞑想の必須条件として意義ある修練で
あることを議論していく。Mahāparinibbāna-sutta や Jātaka aṭṭhakathā、Visuddhimagga などの検証
を通じて、jhāna は四聖諦の道諦つまり八正道の一枝を成す正定と同義であり、仏教思想に深く
内包されていることを証明する 。また筆者のビルマでの瞑想実践はこれらの論拠を強固づけ、
samatha jhāna が涅槃への重要な要素であると同時に日常生活にも恩恵をもたらすことを結論づ
ける。
5. 佐藤 良純(大正大学名誉教授)
ブダガヤ大菩提寺 1945-2015
マハンタの管理下にあった大塔が Buddhagaya Temple Act(Bihar State Law)の成立によって新
しいスタートをきって 70 年がたった。依然として委員会は委員長であるボ―ドガヤ警察署長の
一票で非仏教徒の多数決となるが、混乱は起きていない。ただ最近の社会、政治の流れの中で“遺
跡”は“聖地”となり信仰の直接の対象となっている。プージャが行われ灯油やお線香で周辺が
汚れ放題になっている。文化遺産と信仰にはさまれてどこへ行くのかを考える。