三嶽 幸子

ことばの教室
自立活動
学習指導案
日にち
平成20年1月15日
場
ことばの教室
所
指導者
調布市立第一小学校
教諭
1
三嶽
幸子
はじめに
(1)ことばの教室の指導内容
特別支援学級では,学級の種類にかかわりなく,通常の学級では実施していない「自立活動」の領
域の指導を行っている。この学習は,現在や将来の生活をより豊かにするために必要な知識や技能を,
児童の課題(や障害)とのかかわりを考えつつ,学んでいくところに価値があると考えている。
ことばの教室では,「発音に関する指導」「ことばの流ちょう性に関する指導」「ことばの発達を伸
ばす指導」の三種類の指導を行っており,教育課程ではそれぞれ「構音障害」
「吃音」
「言語発達遅滞」
に分けている。
なかでも「言語発達遅滞」の指導は,言語機能の指導(話すこと・聞くこと・読むこと・書くこと)
だけでなく,言語理解,言語思考,場面や状況に応じて言葉を使ういわゆる「コミュニケーションの
指導」までの広い範囲の指導を含んでいるため,個々に応じて指導を組み立てる部分が大きく,体系
的な指導方法を説明することが難しい。つまり,「個の適性や課題を整理」し「指導の方針」を立て,
「ねらいを設定」し,「指導内容・方法」を決め,指導した後「評価」をするという流れに,質が伴っ
て初めて指導ができると考えられる。
(2)言語発達遅滞の子どもの指導
今までの経験のなかで,「言語発達遅滞」の子どもの指導内容を整理してみると,大まかに3つのタ
イプに分けられる。それぞれのタイプに合わせて,学習をどのように組み立てたか下表のとおり整理
した。通常の学級では,学習内容が系統的でかたよりがないことが求められるが,通級指導学級では,
個々の特質を見極めて,重点的に指導を行うことが多い。
以下にそれぞれの子どものタイプと指導内容を決めるときの配慮事項をまとめた。
また,言語学習を行う上で押さえるべきポイント(図1参照)のどの部分を中心として学習してい
るかを最右に記入した。
子どものタイプ
指導計画を組み立てるときのポイント
図1と
の関連
言語だけでなく,認知,○興味関心のレベルに合わせたことば遊びを通して,「話す・聞く (2)
思考などもゆっくり発達
している子どもの場合
・読む・書く」活動がまんべんなく体験できること。
○言語を使い,言語思考する場面を増やすこと。
(3)
(4)
○自信を失っている場合が多いので,得意なこと,できることを
学習に組み込み,自信を育てるよう配慮すること。
集中力・記憶力等に課 ○スモールステップで,苦手な課題に取り組む体験をさせること。 (2)
題があったり,能力にば ○言語に関して自信をなくしている場合が多いので,話したり書 (4)
らつきがあったりし,言
いたりして伝わり嬉しい思いをすること,間違えたり訂正され
語学習が積み上がりにく
たりしても構わないことを多く経験させ,自信を育てるように 場合に
い子どもの場合
配慮すること。
よって
○日常生活では得意なことを生かして,自己を発揮させること。
は(3)
○苦手な部分を整理し,周りの大人(保護者・担任の先生)への
理解を促すこと。
対 人 関 係 の 認 知 が 弱 ○担当者との愛着関係を形成すること。
主に
く,ルール理解や気持ち ○感情のやりとりに関して,配慮をしながらかかわり,「楽しさ, (1)
の読み取りが苦手な子ど
もの場合
うれしさ,愛情」などの共有場面を多くすること。
場合に
○担当者や少人数の他児との間で,ルールや繰り返しのやりとり よって
の経験を豊かにさせること。
は
○いろいろな場面で言葉を「使う」こと。
(3)
○状況の受け取りが,かたよっていないか配慮し,指導すること。
○コミュニケーション上のかたよりについて,周りの大人(保護
者・担任の先生)への理解を促すこと。
(図1
言語発達の基礎となる言語学習)
(4)個別指導の特質
ことばの教室は,開級当初から個別指導を原則に指導を行ってきた。個別指導では,子どもの興味
や関心に合わせた指導ができ,達成度をいつもフィードバックしながら指導のペースを変えることが
できる等,スモールステップでの個に応じた指導が行いやすい反面,「他の児童の考えを聞き,自分の
考えを高めていける」「他の児童の行動がヒントやモデルになる」「相手を意識して言動を調整するこ
とを学ぶ」といった,集団指導のもつ利点が使えないところがある。そこで,担当者が,指導者であ
ると同時に,同等の立場で意見を言ったり,モデルになったりする集団指導での他の子どもの役目も
負う必要が生じる。また,集団指導では,集団全体への大きなねらいが前提にあって,個に配慮する
のであるが,個別指導ではねらいそのものを個に合わせると言う大きな違いがあると思う。
1
本児の指導について
(1)対象児童
A児(言語発達遅滞・構音障害)
(2)ことばの教室入級時の情報・様子(個人情報のため略)
(3)指導についての考え方
本児は,行動特徴や検査の結果から,聴覚的記憶力が弱く,音韻の分節化が不十分であること,聞
いて理解できる語いはある程度あるが,自分でその語いを使って表現することが難しいことが伺えた。
発音の誤りについては,音韻のとらえが曖昧であることと,発語器官の未熟さの両方が原因としてあ
ると考えた。また,集中力があり,コミュニケーションは自然であると考えた。
つまり,上記の「能力のばらつきがあり言語学習が積み上がりにくいタイプ」に「発音の誤り」を
併せもっているタイプと考え,指導を組み立てることとした。
(4)個別指導計画(略したもの)
年間のねらい
1 表現したいイメージが十分に伝わる体験を積ませる。
(長期目標)
2 音韻意識を高め,視覚的な手がかり(主に文字)を使いながら,相手の話の内
容を聞き取ることができる。
3 発語器官の機能の向上をはかり,摩擦音(サ行音,ツ音等)の発音を改善する。
通級回数: 週1回(2単位時間)
指導開始:平成19年6月
1学期のねらい 1 本児の言語力・コミュニケーション,在籍学級での様子などの情報を得,本児
の課題を整理する。
2 担当者と,一つの活動をかかわり合って発展させることができる。
【主な指導内容】1 各種検査を行う。
2 絵日記を使って体験を話し合う,状況絵を見て,見付けたものの名前や人の動
作などを言葉でおさえる等の活動を通して,本児なりの言葉で活発に担当者と
やりとりをする。
2学期のねらい 1 視覚的な援助のある状態で言いたいことを担当者に分かるように伝えることが
できる。
2 3~4音節の単語の拍を意識し,文字と結び付けることができる。一目読みで
きる言葉を増やす。
【主な指導内容】1 家で書いてきた絵日記を手がかりに,体験を話す。状況絵を見てお話を作る。
2 音韻数を数えるすごろく,逆さ言葉ゲームなどを行う。
指 導 経 過
1について
絵日記や,季節にかかわりのある話題(行事や学校で習っているトピックなど
を取り上げ話す)では,話量が増え,短い表現をいろいろ使って話すようになっ
た。書き誤りはあるが文を書こうとするようになった。助詞やちょっとした言い
回しが,日本語として正しくないことがまだある。また,文字を読む際には,意
味を知らない言葉があると,読むのにつっかえてしまうことがみられる。
2について
9月には,3音の音削除(たぬきことば)で誤りがあったが,12月ごろには,
3音節の言葉の音韻を入れ替えたり,逆唱したりできるようになった。
3について
サ行音の発音に近い構音動作ができたので,経過を見ていたところ,2学期後
半,会話でサ行音の正音がみられた。
3学期のねらい
1
単語や短い文を読み,意味が分かる。その経験を繰り返す。
2
拗長音・促音の理解を確実にし,書き誤りを減らす。
【主な指導内容】1
2
絵日記,状況絵を見て話し,担当者が書き取ったものを読む。なぞなぞ。
拗長音・促音の拍を数えたり,体感したりするゲーム。
単語かるたづくりなど
3
学習指導案
(1)本時のねらい
1
冬休みの生活について,担当者にわかるように説明できる。5文字以上の言葉を視覚的に確認
し正確に覚える。
2
シャ行チャ行の拗音の拍のリズムをつかみ,文字であらわすことができる。
(2)本時の活動
ねらい
8:40 本日の学習の流れを知る
導入
8:50
学習活動
配慮事項・教材
○担当者の話を聞き、今日するこ
とをノートに書く。
○体験のイメージを担当者に分か ○絵日記をお互いに読み合う。質 ○本児の絵日記
るように話すことができる。
問をし合う。
○担当者の絵日記
○お正月に関係のある絵を見て、 ○冬の絵やキーワードカードを読 ○お正月の生活の絵
知っていることを話す。
みながら、知っていることを話 ○文字カード
す。
ねんがじょう お年玉
おせちりょうり おぞうに
はつもうで 等
9:10
○拗音(しゃ・しゅ・しょ・ちゃ ①絵カードを使ってすごろくゲー かけっこすごろく
ちゅ・ちょ)の含まれる言葉の ムをする。裏を向けて引いたカ コマ
音韻リズムを掴むことができ、 ードの名称の拍を数えながら進 絵カード
文字と一致できる。
む。
○シャシュショ音の含まれる単語
の拍を数えることができる。 ②シャシュショ・チャチュチョの 拗音清音のチップ
文字位置を確認する。
③絵カードを、なぞなぞカードに なぞなぞカード
変えて、答えの拍ですごろくを
する。
○短文を正しく書き取ることがで ○「先生の読んだ文をノートに書
きる。
き取りましょう。」
・おもちゃで あそびましょう。
・ちょっと こわい おいしゃさん
文カード
9:40
○本児が選んだ遊びや教材を一緒 ○最初に決めておいた遊びを、ル ルールを言葉で確認してから
にする。
ールを話し合いながらする。 始める
9:50
○連絡帳書き・保護者との連絡
挨拶をする
(3)評価
1
冬休みの生活について,言葉で表現できたか。新しい言葉に興味をもったか。
2
シャ行チャ行が含まれる短文を正しく表記できたか。