佃 No.50 阪大歯学部同窓会報 昭和61年6月20日 第116回臨床談話会抄録 ことばの発達と障害 大阪大学歯学部附属病院顎口腔機能治療部 福田登美子 1.はじめに 発達する。このように、「言語」(language)を発 的教育問題としてとりあげられ対策が講じられ 達させるには、まず言語環境を整え個体の諸機 能の発達を促進することにより言語形成の基礎 となる能カー注意力、記憶力、予測能力、模倣 るようになったのは昭和20年後半からである。 能力、表象能力をピーを発達させていく。一方、 言語障害は発語しかすれば人にはわからない障 口腔器官の発達に伴い、音声の反復が多様化し 最近では、「言語障害」ということばも社会に 定着してきているが、わが国で言語障害が社会 害であるが、社会生活を営む上では言語障害は さまざまな音声を聞き分ける能力とともに、言 重篤を疾患と同じ重みをもっている場合が多く、 この対策も当然のものといえる。 い分ける能力を身につけていく。すなわち、口 言語障害といえば、一般には「吃音」や「口 腔器官が発語器官として機能するようになる。 このようにして、ほとんどの子供はおよそ4歳 蓋裂」などが知られているが、日本語の「言語」 で自国語の基本形を習得し、およそ6歳で全構 ということばにはIanguageとspeechの意味が 音を完成する。 3.言語障害とは 含まれていて、「言語障害」という場合には発語 器官の機能的障害、言語発達遅滞、中枢性の障 子供を対象にした言語障害の出現率は5%と 害等々言語に関する全ての障害が含まれる。今 回は、言語障害のうち特に子供にみられる障害 について述べるが、子供の言語問題には必ず言 報告されている(1951年米国ASHAによる統 語発達が関係するので、まず、正常を言語発達 について説明し、次に言語障害の概略を述べる。 いて障害別出現率をみると、 計)。この調査は治療の対象とすべきものと判定 された子供の数を示しており、この調査に基づ 構音障害…3%、聴力障害…0.5%、吃音…0.7 限られた紙面であり説明不足の点のあることを %、脳性まひ…0.2%、声の障害…0.2%、口蓋 お断わりしておく。 裂…0.1%、言語発達遅滞…0.3% 2.正常な言語発達 で、構音障害が最も多く、吃音、聴力障害の順 子供の言語発達過程をみていると、人には先 になっている。この他にも言語障害は情緒的原 天的に言語能力が備わっていて、生後1年ない し1年半が経過すると自然に話し出すようにみ 因による繊黙症や、言語中枢が侵されておこる 失語症、声帯を失ったために声がでなくなった える。これは、ある意味では事実であるがこの 状態等がある。 自然にみえる言語機能の形成過程は複雑であり、 ない。個体が有する運動、感覚、情緒、知能、 言語障害の判定は、①その人の言語がどの程 度平均から離れているか、②その異常が本人に どれだけの不安や欲求不満を与えているのかの 口腔器官等の全ての機能が発達しなければ言語 2点を基準に行う。臨床的には①と②の判定の 機能も発達しない。個体にみられる未分化を機 能を、より高度な機能にするためには、外部す なわち環境からの刺激が必要であり、個体と環 程度が一致することは少なく、①で著一明を異常 境の両者が相互に作用しあってはじめて言語は みで障害の程度を決めることはできないことが 決して放っておいても話し出すというものでは を認めた場合でも、②ではほとんど問題を示さ ないことやその逆の場合もみられ、言語症状の 昭和61年6月20日 阪大歯学部同窓会報 Nn50 ㈹ わかる。 子供を対象にした言語治療では、その子供の 本院では鼻咽膝閉鎖機能不全による言語障害 一主として口蓋裂に伴う言語障害の治療を行っ Ianguageの発達レベルに応じた治療を行うのが ている。口蓋裂の場合は形成手術後においても 原則である。構音障害を主訴とする子供でも言 語発達が構音治療を行うに適したレベルに達し ていない場合は、構音治療に先だって言語発達 の促進をはかる。構音障害は、言語発達遅滞、 をお鼻咽膝閉鎖機能不全を残すことがあり、そ のために口腔内圧の形成がをされず種々の異常 構音を呈することが多い。しかしながら、最近 では口蓋裂手術法の改善、手術時期の低年齢化、 難聴、発語器官の異常、情緒の発達の遅れや言 ならびに手術後の言語治療との連携等により正 語環境の不備等が原因となって生じるが、構音 の完成年齢は音の種類によって相違があるので、 常言語を習得するものが6歳児で84%以上とな 4∼5歳児では/S,いS,tレ 音等は未完成で バースコープによる視覚的言語訓練や咽頭弁移 っている。残りの16%に関してはさらにファイ も治療の対象としない場合がある。また、嘆合 植術などにより最終的には社会生活を十分可能 異常や前歯の欠損は/S/音の習得に、舌小帯短 にすべく対策が講じられるようになってきてい 小は/r/音の習得に影響することがある。 る。 次に、吃音について述べると、吃音は話しこ このように、医学や言語治療学の進歩により とばのリズムの障害であるが症状により1次性、 言語障害の治癒率は上昇しつつあるが、このよ 移行性、2次性吃音に分類され、各々の治療方 法も異をる。音の繰り返しや引き延ばしの言語 症状のみを呈する1次性吃音の治療は、母親に うか状況においても声帯喪失や失語症など生涯 言語障害をもって生きていく人も存在している。 言語障害児・者とのコミュニケーションでは、 対するカウンセリングや環境の調整を主体に行 い、随伴動作や回避反応のみられる2次性吃音 障害の種類を問わず聞き手は繰り返し聞いても に対しては、対症療法を行うとともに、吃音に すなわち、言語障害児・者とのコミュニケーシ 関する認識や分析等直接子供に係わった治療を ョンも言語障害のない人とのコミュニケーショ 行う。吃音の原因としては環境要因説(母親の 性格、親の期待や要求水準の高さ、言葉に対す る厳しさなど)が有力である。好発年齢は子供 の発語が盛んになる3歳前後であり、この時期 の母子関係や家庭環境には十分配慮することが 重要である。 話の内容を正しく聞き取る態度が必要である。 ンも基本的には同じ態度で行うことが障害児・ 者のニードに応えることであることを認識して おくことである。 参考文献 田口恒夫著「言語障害治療学」医学書院 山下俊郎著「改訂幼児心理学」朝倉書店 臨床談話会ご案内 午後2時30分より 会場‥大阪大学歯学部記念会館 第122回 8月23日仕) 一般開業医の行なった矯正症例を考える ケースプレゼンター:一般開業医 数 名 アドバイザー:大阪市開業 久島文和 富田林市開業 山元欣司 1.初診時症例の説明 第123回 9月20日(土) ファミリードクターをめざして −患者管理を中心に一 講師:西宮市開業 岩壷克哉 阪大歯学部小児歯科学講座助教授 大嶋 隆 吹田市開業 2.出席者全員による治療方針の検討 1.リコールシステムの採用と実際 3.実際に行なった矯正治療の説明 2.リコールシステムの利点・欠点 4.専門医からのアドバイス 当日模型相談も行ないます 3.アンケート結果の示すもの 4.コンピューターを使った患者管理 谷口 学
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