29Z-am07

29Z-am07
心臓血管手術の人工心肺使用下における ampicillin/sulbactam の手術部位感染予防
投与法の至適化
井本 浩 3 ,
猪川 和朗 4 ,
◯横山 雄太 1 ,松元 一明 2 ,山本 裕之 3 ,井畔 能文 3 ,
渡辺 英里香 1 ,
下堂薗 権洋 2 ,
森川 則文 4 ,石田 志朗 5 ,岡野 善郎 5 ,
武田 泰生 1,2 ,山田 勝士 1,2
( 1 鹿児島大院医歯,2 鹿児島大病院薬,3 鹿児島大病院・
心臓血管外科,4 広島大院医歯薬,5 徳島文理大薬)
【目的】心臓血管外科領域で手術部位感染(SSI)の予防のために使用される抗菌
薬には、ブドウ球菌属に抗菌活性の高いβ-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系
薬の ampicillin/sulbactam(ABPC/SBT)が繁用されている。しかし、手術中の
ABPC/SBT の投与量、投与間隔に関する詳細な報告はない。そこで、鹿児島大学
医学部・歯学部附属病院で心臓血管手術時のオンポンプ手術における ABPC/SBT
の血中濃度を測定し、薬物動態を解析することにより、SSI の原因となるブドウ球
菌の感染を予防するための投与法(投与量、投与間隔)を検討した。
【方法】本研究は鹿児島大学医学部・歯学部附属病院臨床研究倫理委員会で承認
されたものである(承認番号:21-32)
。2009 年 10 月から 2010 年 8 月の期間に、
同意が得られた患者を対象とした。血中濃度は高速液体クロマトグラフィーによ
り測定を行い、ABPC の薬物動態解析は 1-コンパートメントモデルを用い、MULTI
によりシミュレーションを行った。
【結果・考察】症例は男性 6 例、女性 3 例。オフポンプ手術患者での ABPC と SBT
の濃度比は至適濃度である 2 対 1 を維持して推移していた。薬物動態解析により、
ABPC の平均分布容積(Vd)は 16.1 L、平均消失速度定数(ke)は 0.551 h–1 であ
った。本配合注射剤の投与量を 1.5 g、投与時間を 15 分、ポンプ開始を術前初回投
与 1.5 時間後とし、投与間隔を 3 時間としてシミュレーションを行った場合、ABPC
の血中濃度は常に 8 μg/mL 以上の濃度を示した。投与間隔を 4、6 時間とした場
合、常に 2 μg/mL 以上の濃度は得られたものの 8 μg/mL 以上は保てなかった。
12 時間とした場合、2 μg/mL 以上の血中濃度を維持することは困難であった。以
上の結果より、投与量を 1.5 g として、MIC90 が 8 μg/mL の場合は約 3 時間の投与
間隔、MIC90 が 2 μg/mL の場合は約 6 時間の投与間隔で十分な殺菌効果が期待で
きることが示唆された。本知見は手術部位感染予防の重要な基礎資料になると考
えられる。