2016 年 7 月 けんさの豆知識 <第 51 号> 臨床検査部 発行 (微生物検査室) ~起炎菌シリーズ その⑦ インフルエンザ菌~ 今回の『けんさの豆知識』は感染症の原因となる菌(起炎菌)シリーズ第 7 弾、インフルエンザ菌を特集します。 インフルエンザ菌は毎年冬に流行するインフルエンザウィルスとは全くの別物で、Haemophilus influenzae(ヘ モフィルス インフルエンザ)という細菌です。その名前は 1892 年にインフルエンザ患者より発見されたことに 由来しますが、その後の研究でインフルエンザの病原体はウィルスによるものだとわかりましたがそのまま使用 されています。肺炎や中耳炎など主に呼吸器感染症を引き起こします。 細菌を分類する基礎的な手技としてグラム(Gram)染色があります。青色に染まれば陽性、赤色なら陰性です。 染まった形によって球状なら球菌、こん棒状なら桿菌に大別され、色と形の組み合わせで大きく 4 つに分類されます。 グラム染色 (顕微鏡で観察) グラム陰性桿菌(小型の球桿菌) ・腸内細菌などの他のグラム陰性桿菌に比べて かなり小さく、球菌や双球菌にも見え多形性を示します。 ・莢膜(きょうまく)と呼ばれる透明の膜が菌のまわりを覆っており、その種類によって a~f の 6 つの血清型に分けら れます。特に Hib(ヒブ)と呼ばれる b 型は病原性が強く、乳幼児の髄膜炎を起こすとされていて、ヒブワクチンは任意 予防接種の対象となっています。 菌の性状 1 つの菌は、顕微鏡で拡大しないと見えませんが、多数の菌が集まって肉眼的に見えるよう になった 1 つ 1 つの集まりを集落(コロニー)と言います。でもその見え方は様々です。 灰緑色に見えるのが、チョコレート寒天培地に発育した Haemophilus influenzae のコロニーの一例です。 チョコレート寒天培地はその名前から美味しそうな感じがし ますが、実際にはチョコレートは含まれておらず、血液に熱を加 チョコレート寒天培地(35℃18 時間炭酸ガス培養) えできた色がチョコレートに似ているためそう呼ばれています。 発育には赤血球中に含まれる X 因子(ヘミン)や V 因子(NAD)などの発育因子が必要なため、血液を加熱し赤血 球を壊して発育因子を抽出させたチョコレート寒天培地に発育させます。通常使用するヒツジ血液寒天培地には 発育しません。インフルエンザ菌が発育する可能性のある呼吸器系材料からの検体には必ずチョコレート寒天培 地を追加します。 治療 インフルエンザ菌は元々有効であったアンピシリン(ABPC)の薬剤耐性機序によって分 けられ、その使用抗菌薬がかわってきます。日本で増加傾向にある BLNAR はβラクタマーゼ は産生せず、その結合蛋白が変異してアンピシリンに耐性を示すため、βラクタマーゼ阻害薬(SBT/ABPC)は効か ないので、セフォタキシム(CTX)などの第 3 世代セフェム系抗菌薬を使用します。 使用抗菌薬 BLNAS βラクタマーゼ非産生(陰性)アンピシリン感受性インフルエンザ菌 ABPC SBT/ABPC BLPAR βラクタマーゼ産生(陽性)アンピシリン耐性インフルエンザ菌 SBT/ABPC BLNAR βラクタマーゼ非産生(陰性)アンピシリン耐性インフルエンザ菌 CTX CTX CTX
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