CHEMOTHERAPY 泌尿器科領域 におけ るSulbactam・Ampicillinの

CHEMOTHERAPY
372
OEC.1988
泌 尿 器 科 領 域 に お け るSulbactam・Ampicillinの
臨床 的 検 討
富 永 登 志 ・岸 洋 一 ・阿 曽佳 郎 ・新 島 端 夫
東京大学医学部 泌尿器科*
石井泰憲
社会保険埼玉中央病院
河村 毅
泌尿器科
同愛記念病 院 泌尿器科
斉藤 功
東京共済病院 泌尿器科
西 村洋 司
三井記念病院 泌尿器科
Sulbactam・Ampicillinはsulbactamとampicillinの1:2の
注 射 用配 合剤 で あ る。
本 剤 を泌尿 器科 領 域感 染 症 の治 療 に使 用 し,そ の 治療 効果 と安 全性 を検 討 した。
複 雑性 尿路 感 染症17例 と前立 腺 炎2例 に対 して,東 京 大 学泌 尿 器科 お よび関 連 病院 泌 尿器 科 に お い
てSulbactam・Ampicillirrを
UTI藁
使 用 した。
効 評価 基 準 第3版 に よ って評 価 した11例
の総 合 臨床 効 果 は,著 効6例
有
効3例 で,有 効 率 は82%で あ っ た。
主 治医 判定 では,前 立 腺 炎の2例 は 著効 で あ り,17例
防 うち13例 が 有 効以 上 で あ
っ た。
細 菌学的 効果 は81.2%に
み られ た。
副 作用 は 認め なか っ た。1例 にGPTの
この よ うに,SBT・ABPCは
軽 度 の上 昇 が 認め られ た。
尿 路 感染 症 の 治療 に,安 全 で 有効 な薬 剤で あ る と思 わ れ る.
Keywords:Sulbactam・Ampicillin尿
Sulbactam・Ampicillin(以
lactamaseinhibitorで
路 感染 症
下SBT・ABPC)は
β-
あ るsulbactamとampicillinと
の 注射 用 配合 剤(1:2)で
あ る。Sulbactam自
身は 少
数 の菌 種 を除 いて抗 菌 力 は弱 く単 独 で は抗 菌剤 として の
であ っ た。慢性複雑性1尿路感染症7例
の 差礎 疾 患 として
は,前 立腺 肥大 症5例,腎
膀 胱 腫 瘍2例
管 結石2例,そ
結石4例
投 与 方法 は,SBT・ABPC1.59を
有 用性 は少 な いが,各 種 の細 菌 が産 生 す るペ ニ シ リナ ー
量39投
ゼ 型 β-lactamaseを 強 く,セ フ ァ ロ ス ポ リナ ー ゼ 型 β-
お よ び か1actamase産
lactamaseを
開発 セ ン ター に て行 った。
中 等 度 に不 可 逆 的 に不 活 化 す る こ とに よ
り,配 合 され た β-lactam抗 生 剤 の抗 菌 力 を増 強 す る と
され て い る。実 際,SBT・ABPCはampicillin単
べ,耐 性株 でのMIC増
独に比
尿
の 他4例 であ っ た。
与 し,5∼12日
効 果 判 定 はUTI研
朝 ・夕2風1日
間使 用 した。起 炎菌 のMIC測
定
生 の有 無 は 台糖 フ ァ イザ-新 薬
究 会 のUTI薬
効 評 価 基準(第3
版)3)に 準 じて行 い,主 治 医判 定 も行 っ た。
強 が認 め られて い る1)2)。
今 回わ れ
副作 用 に 関 しては,19例 につ いて 投与 開 始 か ら終 了 ま
わ れは,本 剤 を尿路 感 染症 に投 与 し,その 臨床 効 果 お よび
での 自他 覚 的 副作 用 の有 無 を観 察 し,血 液 検 査の 可能 で
安全 性 に つ いて検 討 したの で報 告 す る。
あ った症 例 に つ いて は 血液 一般
I.
昭和61年7月
対 象
か ち62年2月
と 方 法
ま でに 東 京 大 学 附 属 病 院
泌 尿器 科 お よ びそ の関 連病 院 泌尿 器 科 に おけ る入院 患 者
を対象 と した。総 投 与例 は19例 で
性 膀胱 炎8例,慢
● 〒113東
その 内訳 は慢 性 複雑
性複 雑性 腎盂 腎炎9例,前
京 都 文 京 区 本 郷7-3-1
肝機能
腎 機 能につ い
て検 討 した。
立 腺炎2例
II. 成
績
症 例 の概 要 お よび臨 床 成績 をTable1に
示 した。UTI
薬 効 評価 基 準 に合 致 した11例 の総 合 臨 床 効 果 をTable
2に 示 した。 著 効6例(54.5%),有
効3例(27.2%),無
泌 尿 器科 にお け るSBT・ABPCの
VOL.36S-8
Table
*
before/
after
1.,
Clinical
summary
of
complicated
UTI
CCC: chronic
complicated
cystitis
CCP : chronic
complicated
pyelonephritis
臨床 検 討
patients
treated
373
with
SBT •EABPC
CHEMOTHERAPY
374
Table
Table
効2例(18.2%)で
2. Overall
3. Overall
clinical
clinical
efficacy
efficacy
総 合 有 効率 は81.8%で
(36.4%)で
例(81.8%),不
UTI薬
of
of
変4例
あ り,細 菌 尿 に対 す る効 果 では,菌 消 失9
変2例(18.2%)で
あ
る。 単 独 感 染症 例7例 中1例 は カ テー テ ル留 置症 例 で
この症 例 は 無効 で あ っ たが3群4群
in complicated
classified
の各3例 は 有効
れ たが,S.marcescens
は 無 効 であ っ た。
前立 腺 炎2例 を含 む19例 の 主 治医 判定 では,著 効8例,
有 効 率78.9%で
3株
2株,P.aeruginosa
2株P.aeruginosa 1株
が 存続
した(Table4)。
本 剤 とABPC単
独 のMICを
に示 した。β-lactamase高
SBT・ABPCの
効1例 で
infection
細菌 学 的 効 果 をみ る と,E,coli5株E.faecalis
bactamを
や有 効3例,無
of
S.epidermidis2株S.marcescens
群 の カ テー テ ル留 置症例1例 は 有効 であ っ た。6群 の う
有 効7例,や
type
あ った。
以 上 の成 績 で あ った。 混 合感 染 症例 は4例 であ っ た。5
ち2例 が 有効 以 上 で あ った が1例
by
UT!
2株 な ど,起 炎 菌 と して16株 が 認め られ,13株 が 除菌 さ
あ った。
効 評 価基 準 の 分類 に従 い,病 態疾 患群別 に6群
に 分 け,そ の 臨床 効 果 を ま とめ た もの がTable3で
SBT•EBPC
SBT•EBPC
あ っ た。 膿
尿 に 対す る効 果 では,正 常 化7例(63.6%),不
DEC.3088
比較 した成 績 をFig.1
産生 菌1(殊 中2株 の みがsul-
配 合 す る こ とに よ り,MICが
し,ABPC耐
低 値 を示 し,
有 効 性 が 認め られ ただ け で あ った。1し
か
性菌9株 中5株 に,3管
以上 のMICの
低
下 を認 め た。
19例 全 列にお い て 自 ・他 覚的 副作 用 は まっ た く認 め ら
VOL.36
泌 尿器 科 に おけ るSBT・ABPCの
S-8
Table
4.
Bacteriological
response
れ なか った。 本剤 投 与 前後 の 血液一 般,腎 機 能
検査値 をTable5に
SBT•EABPC
in
375
complicated
UTI
肝機 能
示 した。本 剤 に よ る と思 われ る変動
を示 したの は,GPT(24→40単
No18の1例
to
臨 床検 討
位)の 上 昇 を認め た症例
のみ であ った。
III. 考
察
複雑性尿路感染症 17例 の うち,UTI薬
効 評価 基準 に合
致 した11例 の総 合 有 効 率 は81。8%と 優 れ た成 績 で あ っ
た。また,こ の17例 は 主 治医 判 定 で も76.5%の
有効 率 を
示 し,優 れ た臨 床 効果 を示 した。
起 炎菌の うちS.epidermidis2株,E.faecalis3株
は
いず れ も消 失 し,グ ラム 陽性 球菌 に 強 い抗 菌 力 を示 した。
しか しグラム 陰性 桿 菌11株 中S.mercescens2株
びP.aeruginosa2株
中1株
た。この3株 は 投 与前MIC値
の合 わ せ て3株
およ
は存 続 し
が800を 示 してお り,臨 床
試験実 施要 項 に 記 され て い る よ うに,セ ラチ ア属,緑 膿
菌 には,元 来 抗菌 力 を示 さない の で
当然の 結 果 と思 わ
れ る。
近年 β-lactam剤 の 進 歩は め ざ ま し く,抗 菌 スペ ク ト
ラム の拡大
抗 菌 力の 増強 が 行 わ れ て い る。 しか しそ の
Fig.
耐性機 構 と して,β-lactamase産
production
of SBT•EABPC
and
bacteria
(108 cells/
これ らの β-
対 し強 い不 可 逆的 阻害 作 用 を持 っ て い る。
対 す るMICが50μg/ml以
うち5株 に,sulbactam配
activity
isolated
production
ml)
に よる
われ わ れ の 検 討 した 感 染 症 に お け る起 炎 菌 で は,
ABPCに
low or non fl-lactamase
生 に よ る耐性 菌 が 大部
分 を 占め る と さ れ て い る。Sulbactamは
lactamaseに
high 18-lactamase
○
1. Antimicrobial
ABPC
against
使用頻 度 の増 加 と と もに,こ れ ら薬 剤へ の耐 性 菌 の 増加
も臨床 上重 要 な問題 とな って きた。 β-lactam剤
●
上 の 耐性 株9株 の
合 に よ り3管 以上MIC値
が
低 下 してお り,耐 性 菌 の約 半数 に有 効性 が 認め られ た。
全国 集 計 成績 で も,同 様 の傾 向 が認 め られ て い る4)。
複雑 性 尿 路感 染 症 に 対す るUTI薬
副 作 用 の面 で は,自 他 覚的 副作 用 は1例 も認め なか っ
た。1例 にGPTの
く軽 度 の もの で
あ っ た。
以 上 よ り,本 剤 は β-lactamase産
生 菌 に よる複 雑 性
高 い薬 剤 と思 われ た。
文
あ っ た。われ わ
れの成 績 が やや 良 か った のは,成 績 の 悪 い 第2群(前
上 昇 を認 め た が,極
尿路 感 染症 に対 して,非 常 に有 用 で あ り,ま た安 全性 の
効評価基準に よる
全 国集 計 成 績 では 総合 有 効率 は75.1%で
腺術 御 感染 症)を 含 ん で い なか ったか ら と思 わ れ た。
立
1)
献
ENGLISHA R, RETSEMAJ A, GIRARDA E, LYNCH
CHEMOT
376
HERAPY
Table 5. Laboratory
J E,
BARTH
WE
inhibitor
trum
that
of
beta-lactams
characterization.
er
2)
14
Pins
METHA
: CP-45,
extends
: 414•`419,
899,
a beta-lactamase
the
antibacterial
: initial
Antimicrob
agents
3)
Chemoth-
会(代
with
sulbactam•E
4)
第35回
beta-lactamase
25•`34,
表
blocking
1985
大越 正 秋):
UTI(尿
路 感染
効 評 価 基 準(第3版)。Chemotherapy
408∼441,
N E, KNIRSCHA K, LEES L, MCBRIDETJ,
ICC,
Proceeding
UTI研究
症)薬
1978
D J : Experience
findings
ampicillin,,14th
spec-
bacteriological
Agents
DEC.1988
34:
1986
日 本 化 学 療 法 学 会 西 日 本 支 部 総 会(鹿
島),Sulbactam・Ampicillin,
1987
児
VOL.38
泌尿 器科 に おけ るSBT・ABPCのM床
S-8
SULBACTAM•EAMPICILLIN
検討
377
IN UROLOGY
TAKASHI TOMINAGA, HIROICHI KISHI, YOSHIO Aso and TADAO NIIJIMA
Department
of Urology (Director: Prof. Y. ASO), Faculty of Medicine, University of Tokyo,
7-3-1 Hongo,Bunkyo-ku,
Tokyo 113, Japan
YASUNORI ISHII
Department
of Urology,
Saitama
Central
Social
Health
Insurance
Hospital
TAKESHI KAWAMURA
Department
of Urology, Doai Memorial Hospital
ISAO SAITOH
Department
of Urology, Tokyo Kyosai Hospital
YOHJI NISIMURA
Department
of Urology, Mitsui Memorial Hospital
Sulbactam-ampicillin is a fixed combination of sulbactam and ampicillin in a 1: 2 ratio.
We used the drug to treat 17 patients with complicated urinary tract infections and 2 with prostatitis, and
evaluated its therapeutic efficacy and safety.
Eleven cases of complicated UTI were assessed according to the 3rd edition of the Criteria for Clinical
Evaluation of Antimicrobial Agents in Urinary Tract Infection (Japanese UTI Committee).
Overall clinical efficacy in the 11 patients with complicated UTI was excellent in 6 and moderate in 3, an
efficacy rate of 82%.
According
to the doctor's
of complicated
The overall bacteriological
observed.
An abnormal
evaluation,
SBT-ABPC
was effective
in 2 cases of prostatitis
and in 13 of 17 cases
UTI.
laboratory
Thus, SBT-ABPC
appears
response rate for all organisms was 81.2%. No adverse effect during therapy was
finding
after
treatment
was slight
to be a safe and effective
drug
elevation
of GPT
for the treatment
in 1 case.
of UTI.