日消外会誌 27(5)11075∼ 1079,1994年 画像上充実性腫瘍 が疑われた前腸性肝裏胞 の 1手 術例 茨城県立中央病院外科, 同 朝戸 裕 二 吉 見 富 洋 古川 菱 川 修 司 聡 雨宮 隆 太 小林 尚 志 小 泉 澄 彦 キ 福 田 芳 郎 放射線科 ',同 病 理 tt 石 塚 恒 夫 小 野 久 之 大久保貴生 太田 岳 洋 長谷川 博 松 枝 い 板橋 正 幸 清 中 を した。症例 は4 9 画像診断上, 充 実性腫瘍 との鑑別 が 困難 で あ った線毛性前腸性肝襲胞 の 1 4 / 1 1経験 歳 の 男性. 近 医 にて エ コーで肝腫瘤 を指 摘 され当科紹介受診 し, m a g n e t i c r e s o n a n c e i m a g i n g ( M R I ) にて充実性腫瘍 が疑 われ入院 した。腹部超音波検査 で は径3 c m 大 の 内部 エ コーを有す る低 エ コーの腫 は周 囲肝組織 よ り低濃 度 で あ った。M R I の T l 強 調 画像 で は の で肝細胞癌 が疑 われたが, 血 管造影, 経 動脈性 門脈造影 C T で は, 悪 性所 軽度 h i g h i n t e n s i t y腫瘤 見 はみ られ なか った。 エ コー下穿刺 にて粘柄 な液体 が 吸引 され, 寄 生虫性嚢胞 が疑 われたが十 二 指腸 瘤 で, c o m p u t e d t o m o g r a p h y ( C T ) で 液 か らは虫卵 は検 出 され なか った。粘液産生腫瘍 の可能性 を否定 で きず開腹 した。胆襲 内 よ り肝 吸虫 卵 が検 出 されたが, 嚢 胞 は病理組織学的 に前腸性肝嚢胞 と診 断 され肝 吸虫 との関連 は否定 された。本 疾患 は画像上充実性腫瘍 と鑑別 が困難 で 注意 が必要 で あ る。 Key words: ciliated hepatic foregut cyst, congenital liver cyst 1. はじめに 近年, 外 来診療 。健康診断 な どで腹部超音波検査 が 汎用 され るよ うにな り肝 の先天性嚢胞 が発見 され る機 会 が増 加 して きた 1 1 肝 機 能障害 の精 査 中 に腹部 超音 水, 腫 瘤 も認 め な か った。 入院時検査成績 : G O T , C P T , γ よび H C V 抗 ‐ G T P の 高値, お 体 陽 性 以外 に は 異 常 所 見 は 認 め な か っ こ. ブ 波検査 にて発見 され, 興 味あ る画像 を呈 し病理学的 に 画像所見 │ 前腸性肝裏胞 と診断 された症例 を経験 したので報 告す 1 ) 腹 部 超 音 波 検 査 : 肝 の 内 側 区 域 に境 界 明 瞭 な をめ 肝 嚢 胞 が 3 . 5 ×2 . 5 c m 大 の h y p O e c h o i c l e s i o n認 る, 2 . 症 例 患者 i 5 9 歳, 男 性 主訴 : 肝 の精査治療 家族 歴 : 特 記事項 な し. 既往歴 : 4 9 歳時, 黄 疸 の既往 あ り. 現病歴 ! 平 成 4 年 4 月 , 近 医受診 時血 液生化学校査 において血 清 トランスア ミナ ーゼ値 の異常 を指摘 され た。 また, 腹 部超音波検査 に よ り肝腫瘤 を指 摘 され 4 疑 われた ( F i g 。1 ) 。し か し, 通 常 見 られ る衆液性嚢胞 と異 な り内部 エ コーを有 し, 充 実性腫瘍 の可能 性 が否 定 で きなか った. 2)MRI: Tl強 調画像 で i s o からやや h i g h i n t e n ・ な として描 出 s i t y , T 2 強調画像 で h i g h i n t e n s i t y腫瘤 され, 腫 瘍 との併存 の可能性 が示唆 された ( F i g . 2 ) . 3 ) C o m p u t e d t o m o g r a p h y ( 以下, C T と 略記) : 均 一 か つ 境 界 明瞭 な l o w d e n s i t y a r e a と して描 出 され 月2 7 日当科外来受診 した。M a g n e t i c r e s o n a n c e i m a g ‐ た (Fig.3)。 し か し, CT値 は80と 水 よ りもかな り高 i n g ( 以下, M R I と 略記) に て肝 の充実性腫瘍 が疑 われ たため, そ の精 査治療 目的で 7 月 1 3 日入 院 した 。 入院時現症 ! 体 格 中等度, 栄 養 良好, 結 膜 に黄痘 ・ 貧血 は認め なか った。腹部 は平坦, 肝 は触知 せ ず, 腹 <1994年 1月 12日受理>別 刷請求先 t朝戸 裕 二 〒30い17 茨 城県西茨城郡友部町鯉渕6528 茨城県立 中央病院外科 値 を示 し, 充 実性 の腫瘍 が疑わ れた, 4 ) 血 管造影 ! 選 択 的肝動脈造影 で は, 腫瘤 は全 く造 影 され なか った。動脈造影下 の d y n a m i c C T で も, 経 動脈 性門脈造影 C T で も腫瘤 は造影 され なか った 。 穿刺細胞診 │ エ コー ガイ ド下穿刺生検 に よ り腫瘤 内 部 よ り黄色透 明 で粘羽度 の高 い液体 が 吸引 され , 細 胞 診 では悪性所見 は認 め なか った。 78(1076) 画像上充実性腫瘍が疑われた前腸性肝菱胞の 1手 術例 Fig. 1 Ultrasonography showed hypoechoic mass 日 消外会誌 27巻 Fig. 2 Maenetic resonanceimage. (upper) Tl-weighted image showed slightly high intensity mass. (botom) T2-weighted image showed high intensity mass. 穿刺 吸引 された液体 が衆液性で ない こと, 本 人 の職 業 が漁師 で川魚 の生 食歴 が あ る こ とか ら寄生虫性襲胞 の可能性 も考慮 されたが, 十 二 指腸液 か らは虫 卵 は検 出 され なか った。 明 らかな悪性所 見 はみ られ なか ったが, 穿 刺後 も腫 瘤 の縮小傾 向を認 め なか ったので, 粘 液産生腫瘍 の可 能 性を も考慮 して, 8 月 2 7 日手術 を施行 した。 手術所見 : 肝 表 面 に異常所見 は な く, 術 中 エ コーに よ り裏胞 内部 に粘羽 な液体 の動 きが観察 された。腫瘍 の 一 部 が h y p e r e c h o i c で正 常 肝 との 境 界 が不 明瞭 で あ ったため, 粘 液産生腫場 を疑 い内側 区域切除 を行 っ た。 摘 出標本所見 i 嚢 胞壁 は平滑 で, 隆 起性病 変 は認 め ず, 内 部 に血 液 を混 じた粘 柄 な液 体 の 貯 留 を認 め た ( F i g . 4 ) . 肉眼的 には先天性嚢胞 の所見 で, 出血 は術前 の穿刺 が原 因 と思われた。 嚢胞 内容 と胆裏 内 の担汁 の検索結果, 胆 汁 中に肝 吸 虫卵 が検 出 された。 なお, 術 後 の便検 査で虫卵 は検 出 され なか った。 病理組織所見 : 裏 胞上皮 の一 部 は 1 層 の線毛上皮 が 存在 し, 外 側 には平滑筋繊維 が 認 め られ, 前 腸性肝嚢 胞 と診断 された。裏胞 周囲には炎症性細 胞 浸潤 が著 明 で あ ったが, リ ンパ球 が主 体 で肝 吸虫 の影響 は な い も 5号 FiS. 3 CT showed low density mass 79(1077) 1994年5月 Fig. 4 Rettcted specilnen. There was bloody hyperviscous liquid(right)Cytt Wall was smooth and there、vas no polypoid lesion in the cyst. ヲ ...千 芋 Fig, 5 Pathohistological microscopic finding. (upper: H-E x 200) The cyst wall was coveredone layer of the columnal cells with cilia ( J ). (middle . H-E x 100) The epithelium was sorrounded by a band of smooth musclefibers. (bottom: H-E x50) Chronic hepatitis existed in the sorrounding liver. I:i ;-s'qi-ejiXfl;*:iu* kt"";:i ";,#:l;3t"ife# .tbso: 1欄‖ 柚 の と思われた。 なお, 周 囲肝組織 には慢 性活動性肝炎 の所見 が認 め られた ( F i g 。5 ) . 3 . 考 察 肝裏胞 は エ コー上 ,そ の特徴的 な画像 か ら他 の腫瘤 との鑑別 は比較 的簡単 で あ る.ま た ,肝 嚢胞 は良性疾 患 で,多 くは無症状 のため外科的切 除 の対象 にな る こ とは まれであ る。 自験例 で は内部 エ コーを認 め,MRI の T25白調 画像 で 高信 号 を呈 した こ とか ら充実性肝 腫 瘍 との鑑別 が 困難 とな った.血 管造影,CTな どの所 見 か ら肝癌 は否定的であ ったが,鑑 別疾患 として肝嚢胞 腺癌 や職業 が漁師 で川 魚 の生 食 の習慣 が あ った こ とか ら寄生虫性 の裏胞 も考 え られた.肝 嚢胞腺癌 の場合, 内部 に隆起性病変 を認め る こ とが多 く,血 管造影 で も 辺縁 が濃 染 され るな どの特 徴 が あ る2)。自験例 で は単 房性 で 内部 は均 一 ,血 管造影 で も腫瘤陰影 は造影 され ず,良 性疾患 の可能性 が高 い と推察 された。寄生虫 の 関与 としては生活歴 よ り肝 吸虫性 が考 え られたが,肝 吸虫性 の嚢胞 は まれで,一 般 には胆管 との交通性 が確 認 され て い る。.自 験 例 の嚢胞穿刺 液 には胆 汁 を認 め ず,十 二 指腸液 か らも虫卵 は検 出 され なか った 。以 上 の 所 見 よ り寄 生 虫 性裏 胞 の可 能 性 は 否 定 的 で あ った が,確 定診断 が つ かず,切 除 の方針 とな った 。 線毛 上皮 を有す る肝裏胞 は1923年,JoneSつに よって 初 めて報告 されてい るが,病理組織所 見 の記載 はない. Wheelerら ゆは線毛上皮 を有す る裏胞 が気管支 。食 道 に よ くみ られ,発 生学的 に肝 が気管支 ・食道 と同様 胎 し え た 限 り 自 験 例 を 含 め1 1 例で あ った ( T a b l e l ) い1 り . 特 徴 としては, ( 1 ) 単 発, 単 房 性であ る, ( 2 ) 部位 的 に肝正中部付近 の被膜直下 に存在す る, ( 3 ) 大 きさが4 c m 以 下 と小型 で あ る と報告 されて い る。画像 所 見 の特徴 として, エ コー所 見 は h y p o e c h o i c なもの がほ とん どで, C T で と 検出 も l o w d e n s i t y a r e aして され る例 が 多 く, 一 見, 単 純性嚢胞様 で あ る。 しか し, 生期前腸 か ら発達す る こ とか ら,気 管支 ・食道 の原器 C T 値 が7 2 ∼8 0 と高値 で あ る こ と, M R I の が肝臓 に迷入 した結果発生す る と推定 し,前 腸性肝嚢 )と 命名 してい る.肝 におけ 胞 (hepatic foregut cy並 あ る こ とが通 常 の 嚢 胞 と 像 で i s o ∼h i g h i n t e n s t y で べ 々木 1 い は カル シ ウ ムの た佐 異 な る。嚢胞 内溶液 を調 る この よ うな嚢胞 は まれで,本 邦 におけ る報告 は検索 存在 が C T 値 を高 くした原 因 と推定 してい る。 T 1 5 負調 画 80(1078) Author 協 価 Case 画像上充実性腫場が疑われた前腸性肝嚢胞の 1手術例 日 消外会誌 27巻 5号 Table l Review of cases Of ciliated hepatic foregut cytt in」 apan Echo flnding Location cT anding Preoperative diagnosis or reason for operation MRI finding 1 Mukai6) 28× 18 S4 liver cyst low density area 2 KimuraT) 30× 24 S4 cystic mass 謎景 3博算 繊 Kadoyas) 30× 20 S4 hypoechoic mass hypovas盤! S i a t t e n u a u n tocular gevaluate tumor Kadoya8) 20× 20 anechoichypoechoic mass Kadoya8) 20× 20 S4 Sasakiり 30× 30 S4 Sasaki10) 24× 24 S4 SatOH) 36× 26 left iobe Kanzakl12) 15× 15 Kanzaki12) 15× 15 our case 30× 25 liver cyst 〕 零 1li針 猟 :81ま 将 hypovascular HCC (CT number 80) 5 7 nuaung 磁絆 enuaungT1: hypointensity 磁献 T2: hyperintensity to evaluate tumor cystic lesion high density area liver cyst hypoechoic mass :栃 零 〕 豚綿 と 1轍::縦 終ty to evaluate HCC cystic mass isodensity area suspect of HCC hyperechoic lesion isodensity area 縄。 ち 8掛 8te cyStiC 品 low density area to evaluate cystic neoplasma hypoechoic mass S8 ︲ a i d e m 却 S8 S: Couinaud's sgment Tl: 1翼 ittChttC hypoechoic lesior low density area Tl weighted magnetic resonance image 診 断 と して は 肝 の 充 実 性 腫 瘍 との 鑑 別 が 問 題 とな り, 肝 細 胞 癌 や 嚢 胞 性腫 瘍 を否 定 で きず 切 除 され て い る1 / 1 が 多 い 。我 々 の 症 例 も同様 の 所 見 で , 画 像 診 断 か らは 良性 の可能 性 が 高 い と思 わ れ た が 最 終 的 な判 断 が つ か ず , 外 科 的 切 除 を行 った 。 しか し, 本 疾 患 の 悪 性 化4 / 1 1報 の告 は な く術 前 診 断 が つ け ば経 過 観 察 で もよか った と思 わ れ る。 今 後 , 本 疾 患 を疑 った 場 合 は 嚢 胞 壁 の生 検 を行 い 線 毛 上 皮 の 存 在 を確 認 す る こ とが確 定 診 断 を つ け る上 で 有 用 で あ る と 思われた。 文 献 1 ) 笠 原 洋 , 森 下明彦, 竹 本雅彦 ほか : 先 天性肝襲 胞, 最近 の本邦報告例 についての考察. 近畿大医誌 11 : 319--326, 1986 2 ) 小 久保守, 古 井 滋 , 大 友 邦 ほか t 肝 裏胞腺腫 ・ 腺癌 の画像診断. 臨 放 3 0 i 5 4 9 - 5 5 4 , 1 9 8 5 3 ) 中 谷 正 , 久保 田佳嗣, 関 寿 人 ほか i 肝 嚢胞 を合 併 した肝 吸虫症 の 1 例 . 肝 臓 3 1 : 1 1 2 3 - 1 1 2 8 , 1990 4)Jones FX: Removal of a retention cyst from the liver,Ann Surg 77 1 68-89, 1923 5)Wheeler DA,Edomondson HA i Ciliated he‐ patic foregut cyst Am J Surg PathO1 8i to evaluate malig nant tumor 堪!断胤 貯嗣y to evaluate neoplasma solid cystic T2 : T2 weighted magnetic resonance image 467--470, 1984 6 ) 向 井常人, 高橋正 一 郎, 石井 誠 ほか : 裏 胞内に腫 瘍様 エ コー像 を認めた気管上皮迷入に よる先天性 肝 裏 胞 の 1 例. J p n 505--510, 1988 J Med Uitrasonics 7)Kimura A,Makuuchi M,Takayasu K et al: Ciliated hepatic foregut cystvith 、 sOlid tumOr appearance on CT J Comput Assist Tomogr 14i 1016--1018, 1990 8)Kadoya M, Matsu1 0, Nakanuma Y et al: Hepatic fOregut cyst:radiologic feature Radi‐ ology 175:475--477, 1990 9)佐 々木素子,寺 田忠史,中沼安二 ほか !線 毛性前腸 性間嚢胞 の 1例 .肝 臓 31:1235-1239,1990 10)佐 々木正寿,八木真悟,鈴木 衛 ほか :充 実性腫瘍 像 を呈 した先天性肝嚢胞 (前腸性肝嚢胞)の 1例 . 日消外会誌 2412579-2583,1991 11)佐 藤知己,塚 田芳久,滝沢英昭 ほか !画 像診断上嚢 胞 性疾 患 と鑑 別 困難 で あ った Ciliated hepatic fOregut cystの 1手 術例.肝 臓 31(suppl):137, 1990 1 2 ) 神 崎修一 , 福 田俊夫 , 藤 本俊史 ほか : C i l i a t e d h e ‐ 日 画像医誌 1 1 : p a t i c f o r e g u t c y画像診断. stの 633, 1992 15: 1994年 5月 81(1079) A Case of Hepatic Foregut Cyst Yuji Asato,FuyoYoshimi,TakaoOhkubo,TsuneoIshitsuka,SatoshiFurukawa,Syuji Hishikawa, TakehikoOta,HisayoshiOno,RyutaAmemiya,SumihikoKoizumi, HiroshiHasegawa, KiyoshiMatsueda*,HisashiKobayashi*, YoshiroFukuda*+andMasayukiItabashi** Departmentof Surgery,Radiology*, Pathology**,IbarakiPrefecturalCentralHospital Abdominalechography by a family physicianof a 59-year-old malepatientrevealeda 3.5cm X 2.5cm X 2.0cm abnormaltumor in the medialsegmentof the liver. Hewas referredto our hospitalandadmittedonJuly 13,1992. Our pre-operativesurvey included abdominalechography,magneticresonanceimagrng,computedtomography, abdominalangiography,and cytologyof the liver tumor, but it could not providean accuratediagnosis.To eliminate the possibility of a malignancya medial segmentectomy of the liver was performedon August 27. The final histopathological diagnosisof the tumor wasof a ciliatedhepaticforegutcyst. Reprint requests: Yuji Asato Departmentof Surgery,IbarakiPrefecturalCentralHospital 6528Koibuchi,Tomobe-machi, Nishiibaraki-gun, 309-17 JAPAN
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