1.家計の経済活動 家計の経済活動 予算制約の下で効用最大化 => (財・サービスの)需要決定 (労働の)供給決定 効用:消費から得られる満足の程度 (満足が高いほど、値の大きな効用) 𝑞2 効用:20 効用:23 24 効用:20 無差別 O 3 𝑞1 5 𝑞1 :第 1 財の消費量 ; 𝑞2 :第 2 財の消費量 𝑞2 効用:20 24 効用:20 効用:20 無差別曲線 O 3 𝑞1 5 無差別:消費から得られる効用が同じ 無差別曲線:無差別な消費の組み合わせの軌跡 1 無差別曲線の形状から、その家計の選好(財・サービスに対する好き嫌い)が分かる 食料 食料 O O 衣料 左側:お洒落さんの無差別曲線 衣料 右側:食いしん坊さんの無差別曲線 無差別曲線の一般的な性質 1.右下がり 一方の財の消費量を増やすと効用が高まるので、他方の財の消費を減らさな いと無差別(同じ効用)とならない 𝑞2 効用の上昇と低下が同じ大きさでなければ無差別とならない 効用:上昇 効用:低下 無差別曲線 𝑞1 O 2 2.右上の無差別曲線ほど高い効用に対応する 右上の消費の組み合わせでは、すべての財の消費量が増えているので効用は 高くなっている 𝑞2 消費量の増加⇒効用上昇 𝑞1 O 3.無差別曲線はお互いに交わらない 無差別曲線が交わっていると、選好に矛盾が存在する 𝑞2 無差別 無差別? 無差別 𝑞1 O 4.無差別曲線は原点に向かって凸(原点に向かって凹んだ形とはならない) 限界代替率逓減より 限界代替率が逓減すると、無差別曲線は原点に対して凸になる 限界代替率をこの後で考察 3 特殊な無差別曲線:完全補完 コーヒーを飲むときには必ずコーヒー用のミルクを入れる家計 コーヒー1 杯に対してコーヒー用のミルクが 1 杯が必ず必要 コーヒー用のミルクが 1 杯の時にコーヒーが 2 杯以上あっても、実際にはコーヒー を 1 杯しか飲めず、コーヒー1 杯とコーヒー用ミルク 1 杯の組み合わせと無差別 コーヒーが 1 杯の時にコーヒー用のミルクが 2 杯以上あっても、実際にはコーヒー を 1 杯しか飲めず、コーヒー1 杯とコーヒー用ミルク 1 杯の組み合わせと無差別 コーヒー用 のミルク 3 2 1 O 1 コーヒー 2 3 特殊な無差別曲線:完全代替 コーヒーと紅茶が全く区別できず、どちらも食後のお茶としか認識できない家計 コーヒー3 杯と紅茶 0 杯の組み合わせも、コーヒー2 杯と紅茶 1 杯に組み合わせも、 コーヒー1 杯と紅茶 2 杯の組み合わせも、コーヒー0 杯と紅茶 3 杯の組み合わせ も、すべて食後のお茶 3 杯の消費となり、すべて無差別 紅茶 3 2 1 O 1 2 3 コーヒー 4 限界代替率 代替率:無差別曲線上での、第 1 財と第 2 財の代替(入れ替え)の比率 代替率= 第 2 財の変化量 第 1 財の変化量 𝑞2 10 代替率= 10 = 1 10 単位 減少 無差別曲線 𝑞1 O 10 単位増加 食料 食料 5 代替率= = 5 1 代替率= = 0.2 5 1 5 単位 減少 1 単位 減少 O 1 単位増加 衣料 O 5 単位増加 衣料 代替率の大きさで、家計の選好にとっての、第 1 財と第 2 財の相対的な重要度が 判断できる 第 1 財が相対的に重要であれば代替率は大きい 第 2 財が相対的に重要であれば代替率は小さい 一人の家計にとっても、消費の組み合わせが異なれば、代替率も異なりうる 5 代替率逓減の法則 無差別曲線の上で第 1 財の消費量が増えるにしたがって代替率が低下していく 第 1 財が増えるにしたがって希少性が低下し、選好にとっての第 1 財の相対的重要 性が低下 無差別曲線の上で第 1 財が増えれば、第 2 財は減ることになるが、第 2 財が減れば、 第 2 財の希少性が高まり、選好にとっての第 2 財の相対的重要性が上昇 第 1 財の相対的重要性が低下し、第 2 財の相対的重要性が上昇することによって、 代替率が低下する 𝑞2 第 1 財が希少・第 2 財豊富⇒代替率が大 第 1 財が豊富・第 2 財希少⇒代替率が小 𝑞1 O 第 1 財の消費量が増えるにしたがって代替率が低下 限界代替率 数量の変化量がごくわずかの時の代替率 代替率は、変化量が大きいか小さいかによって、値が変わってしまう ある消費の組み合わせの下での代替率を一つに定めることが必要 代替率 RS(rate of substitution) RS = − ∆𝑞2 ∆𝑞1 限界代替率 MRS(marginal rate of substitution) MRS = − ( 𝑑𝑞2 ∆𝑞2 ) = lim − 𝑑𝑞1 𝑑𝑢=0 ∆𝑞1→0 ∆𝑞1 ∆𝑥:𝑥の変化量 6 𝑞2 ∆𝑞2 傾き: ∆𝑞1 ∆𝑞2 (第2財の 変化量) 𝑞1 O ∆𝑞1 (第 1 財の変化量) ∆𝑞2 代替率:二つの消費の組み合わせでできる三角形の傾き( ∆𝑞1 ∆𝑞 )の絶対値(− ∆𝑞2 ) 1 ∆𝑞2 ∆𝑞1 > 0なら∆𝑞2 < 0(または∆𝑞1 < 0なら∆𝑞2 > 0)となるため、 ∆𝑞1 < 0となってし まうが、値がプラスの方が比較しやすいので、プラスとなるように頭にマイナ スをつける 𝑞2 傾き≠傾き 𝑞1 O 代替の大きさ(∆𝑞1 と∆𝑞2 の大きさ)によって代替率が異なる 7 𝑞2 ∆𝑞2 ∆𝑞1 𝑞1 O ∆𝑞1 を小さくしていく 𝑞2 ∆𝑞2 ∆𝑞1 ∆𝑞2 ∆𝑞1 →0 ∆𝑞1 lim 𝑞1 O ∆𝑞1 → 0 ∆𝑞1 を小さくしていって、ゼロとなった時の極限 限界代替率:無差別曲線の接線の傾きの絶対値 限界代替率逓減 ⇒ 無差別曲線の傾きの絶対値は右に行くに従い小さい ⇒ 無差別曲線は原点に対して凸 8 予算制約 𝑝1 :第 1 財の価格 𝑝2 :第 2 財の価格 価格は一定 完全競争市場の下で家計はプライス・テイカー 𝑚:所得 所得は一定と仮定 予算制約式 𝑝1 𝑞1 + 𝑝2 𝑞2 ≤ 𝑚 𝑝1 𝑞1 :第 1 財を𝑞1 だけ購入する場合の支出額 𝑝2 𝑞2 :第 2 財を𝑞2 だけ購入する場合の支出額 第 1 財と第 2 財を𝑞1 と𝑞2 だけ購入した場合の支出額が所得の範囲内 ここでは、財は二つだけで、所得の額も決まっているし、将来の問題も考えない 労働供給も自ら決めるなら、所得の額は変化する 将来があるなら、現在は借金をして、所得以上に支出することも可能 予算線 𝑝1 𝑞1 + 𝑝2 𝑞2 = 𝑚 ⇔ 𝑝2 𝑞2 = −𝑝1 𝑞1 + 𝑚 𝑞2 = − 𝑝1 𝑚 𝑞1 + 𝑝2 𝑝2 𝑝 傾き:− 𝑝1 2 𝑚 縦軸切片:𝑝 2 𝑞2 縦軸切片 傾き 𝑚 𝑝2 − 𝑝1 𝑝2 横軸切片 𝑚 𝑝1 𝑞1 O 9 予算制約の下での効用最大化 𝑞2 A での 無差別曲線 の接線 最適消費点 E A 𝑞1 O B での 無差別曲線 B の接線 最適消費点:点 E 点 A も点 E も予算制約を満たしている ⇒点 A も点 E も予算の下で購入可能 点 A を通る無差別曲線よりも点 E を通る無差別曲線の方が上に位置する ⇒点 A よりも点 E の方が高い効用をもたらす ⇒点 A を選ぶことはない 点 B も予算制約を満たしている 点 B を通る無差別曲線よりも点 E を通る無差別曲線の方が上に位置する ⇒点 B よりも点 E の方が高い効用をもたらす ⇒点 B を選ぶこともない 同様にして、予算線上の点 E 以外のどの点よりも、点 E の方が高い効用をもたらす ので、この家計は点 E を最適消費点として選択する 点 A や点 B:無差別曲線と予算線が交わっている 点 E:無差別曲線と予算線が接している 予算制約の下での効用最大化の均衡条件:予算線と無差別曲線の接点 10 最適消費点の性質 予算線上の点 E 以外の点では、無差別曲線と予算線が交わっている 予算線上の点 E 以外の点では、無差別曲線の接線と予算線は別の曲線1 最適消費点 E では、無差別曲線の接線と予算線が同一 無差別曲線の接線の傾きと予算線の傾きが同じ 無差別曲線の接線の傾きの絶対値と予算線の傾きの絶対値が同じ 無差別曲線の接線の傾きの絶対値:限界代替率((− 𝑑𝑞2 ⁄𝑑𝑞1 )𝑑𝑢=0) 予算線の傾きの絶対値:価格比(𝑝1 ⁄𝑝2) 最適消費点では、限界代替率((− 𝑑𝑞2 ⁄𝑑𝑞1 )𝑑𝑢=0)と価格比(𝑝1 ⁄𝑝2)が等しい 予算制約の下での効用最大化の均衡条件:限界代替率=価格比 (− 𝑑𝑞2 𝑝1 ) = 𝑑𝑞1 𝑑𝑢=0 𝑝2 𝑞2 最適消費点 E 限界代替率=価格比 𝑞1 O A 点では限界代替率>価格比となっている。例えば限界代替率=5>1=価格比とすると、 限界代替率=5 より、第 1 財を 1 単位増やした場合に第 2 財を 5 単位減らすと無差別にな る。一方で価格比=1 より、第 1 財を 1 単位増やすためには第 2 財を 1 単位減らすだけで 十分である。つまり無差別な状態よりもより多くの消費が可能となり効用が高まるので、 第 1 財の消費を増やそうとする。B 点では限界代替率<価格比となっている。例えば限界 代替率=1/5<1=価格比とすると、限界代替率=1/5 より、第 1 財を 5 単位減らした場合に 第 2 財を 1 単位増やすと無差別になる。一方で価格比=1 より、第 1 財を 5 単位減らすと 第 2 財を 5 単位増やせる。つまり無差別な状態よりもより多くの消費が可能となり効用が 高まるので、第 1 財の消費を減らそうとする。 1 11 所得変化の影響 上級財(正常財) 所得増加 ⇒ 消費量増加 所得減少 ⇒ 消費量減少 普通であれば、所得が増えて予算に余裕ができれば、消費量を増やそうとする 逆に、所得が減って予算に余裕がなくなれば、消費量を減らそうとする 下級財(劣等財) 所得増加 ⇒ 消費量減少 所得減少 ⇒ 消費量増加 予算に余裕があるほど、逆にその財の需要を減らす場合がある (例)本格的なコーヒーが好きな人にとってのインスタント・コーヒー 逆に、所得が減って予算に余裕がなくなると、消費量を増やそうとする (例)本格的なコーヒーが好きな人は、所得が減り予算に余裕がなくなると、 従来あまり消費しなかったインスタント・コーヒーの消費を増やそうとする 価格一定 => 予算線の傾き(−(𝑝1 ⁄𝑝2 ))一定 所得増加 => 縦軸切片(𝑚⁄𝑝2)は上へシフト => 予算線は上へ平行シフト 左図:最適消費点は右上へ 右図:最適消費点は左上へ 𝑞2 𝑞2 所得増加 O 𝑞1 𝑞1 O 第 1 財:上級財 第 1 財:下級財 第 2 財:上級財 第 2 財:上級財 財の数が二つしかなければ、二つとも下級財となることはあり得ない 二つとも下級財であれば、所得が増えた場合に、二つとも消費量を減らすが、その場 合、所得が余るので、消費量を増やそうとするはずである 12 価格変化の影響 価格低下 ⇒ 需要量増加 価格上昇 ⇒ 需要量減少 通常は、上の関係が成り立つと考えられる 上の関係を「需要の法則」と呼ぶ 価格低下の分析:𝑝1 低下;𝑝2 一定;𝑚一定(第 1 財の価格の影響だけを分析) 𝑞2 𝑚 𝑝2 𝑝 𝑝1 低下 ⇒ 傾き− 𝑝1の絶対値低下 2 傾き緩やか 三角形の面積増加 − O 𝑝1 𝑝2 − 𝑚 𝑝1 𝑝1 ′ 𝑝2 相対価格の低下:傾きの絶対値の低下 => 𝑚 𝑝1 ′ 𝑞1 代替効果 価格が相対的に高い財の需要量を減らして、価格が相対的に低い財の需要量を増 やす 価格が相対的に高い財と低い財とを代替 実質所得の増加:三角形の面積の増加 => 所得効果 名目所得が一定でも、財の価格が低下すると、実質的に所得が大きくなり、予算 制約に余裕が生じ、そのことがもたらす効果 予算制約に余裕 => 上級財:需要量増加 => 下級財:需要量減少 下級財の場合、価格が低下した時に所得効果で需要量が減少 => 分に大きいと最終的な需要量が減少 価格が低下すると、需要の法則の場合と逆に、需要量が減少する 13 所得効果が十 価格低下 ⇒ 需要量減少 価格上昇 ⇒ 需要量増加 上の関係を「ギッフェンの逆説」と呼び、この逆説が成り立つ財をギッフェン財と 呼ぶ 価格低下(上昇)=>代替効果 + 所得効果 = 上級財:𝑞 ↑ (↓) = 𝑝 ↓ (↑) => 𝑞 ↑ (↓) + 最終的な需要量の決定 𝑞 ↑ (↓) :需要の法則 𝑞 ↑ (↓) :需要の法則 下級財:𝑞 ↓ (↑) = 𝑞 ↓ (↑) :ギッフェンの逆説 下級財の場合、所得効果での需要量の変化の方向が逆となり、所得効果が十分に大きく て代替効果を上回ると、最終的な需要量の変化が、 「需要の法則」と逆となる 上級財なら必ず需要の法則が成り立つ ギッフェンの逆説が成り立つのなら必ず下級財 ただし、需要の法則が成り立つからといって上級財とは限らないし、下級財だからと いってギッフェンの逆説が成り立つとは限らない(需要の法則が成り立ち、下級財 の場合がある) 新たな最適 𝑞2 消費点E′ 𝑚 𝑝2 代替効果だけが働く予算線と 従来の最適消費点を通る無差別曲線 との接点E′′ 従来の最適 消費点E 代替効果だけが働く予算線 − O 𝑝1 𝑝2 − 𝑚 𝑝1 14 𝑝1 𝑝2 ′ 𝑚 𝑝1 ′ 𝑞1 図での分析 代替効果と所得効果を分ける:所得効果を除去して代替効果だけが働いている予算線 を作成(図中の破線) 代替効果を考察するために、予算線の傾き(マイナス価格比)は新しい予算線の傾 き(−(𝑝1 ′⁄𝑝2 ))とする => 新しい予算線を平行移動 所得効果を除去して、代替効果だけが働いている状況を分析するために、三角形の 面積を小さくする 代替効果だけが働いている予算線の導出 従来の最適消費点Eを通る無差別曲線と接する点E′′が出てくるまで、新しい予算線 を平行移動 従来の最適消費点であるEと、代替効果だけが働いている予算線と無差別曲線の 接点であるE′′は無差別 従来の予算線の下では、従来の最適消費点Eが選ばれる;代替効果だけが働いて いる場合は、代替効果だけが働いている予算線と無差別曲線の接点E′′が選ば れる 両者は無差別だが、予算線の傾きが従来の価格比(−(𝑝1 ⁄𝑝2 ))の場合は従来の 最適消費点E、新しい価格比(−(𝑝1 ′⁄𝑝2 ))の場合は代替効果だけが働いている 予算線との接点E′′が選ばれる 両者の違いは価格比つまり相対価格の違い => 代替効果 代替効果だけが働いている予算線と無差別曲線の接点E′′と新たな最適消費点E′の違 いが所得効果 上級財の場合(必ず需要の法則が成り立つ) :前頁の図 所得効果では、代替効果だけが働く予算線の下での最適消費点E′′(代替効果だけが 働く予算線と従来の最適消費点Eを通る無差別曲線の接点)から新たな最適消費点 E′へと消費が変化する、 第 1 財の消費量は増えていることから、第 1 財は上級財 代替効果では、従来の最適消費点Eから、代替効果だけが働く予算線の下での最適消 費点E′′へと消費が変化する:第 1 財の需要量は増えている 代替効果でも所得効果でも第 1 財の消費量は増えている 上級財なら必ずその財について需要の法則が成り立つ 需要の法則が成り立つ場合にその財が上級財とは限らない(次々頁の図) 15 ギッフェンの逆説の場合(必ず下級財):下図 従来の最適消費点Eから新たな最適消費点E′へと第 1 財の消費量は減少していること から、ギッフェンの逆説が成り立っている 代替効果では、従来の最適消費点Eから、代替効果だけが働く予算線の下での最適消 費点E′′(代替効果だけが働く予算線と従来の最適消費点Eを通る無差別曲線の接点) へと消費が変化する:第 1 財の需要量は増えている 代替効果だけが働く予算線の下での最適消費点E′′から新たな最適消費点E′に向かっ て、第 1 財の消費量は減っていることから、第 1 財は下級財 代替効果での第 1 財の消費量の増加よりも、所得効果での(下級財ゆえの)第 1 財 の減少の方が大きいので、最終的に第 1 財の消費量は減少し、ギッフェンの逆説 が成り立っている ギッフェンの逆説が成り立つためには、その財が下級財であって、しかもその財の 価格変化による実質所得への影響が大きく、所得効果が大きく働くことが必要と なる (例)生活に余裕がなく食費が支出の大半を占めている学生が、ほぼ毎日のよう に学食のカレーを食べており、しかも、学食のカレーはその学生にとって下級 財 学食のカレーへの支出が全体の予算に占める割合が高いために、学食のカレー が安くなった場合、所得効果が大きく働く ギッフェンの逆説が成り立つなら必ずその財は下級財 下級財の場合にその財についてギッフェンの逆説が成り立つとは限らない(次頁の図) 新たな最適 𝑞2 消費点E′ 𝑚 𝑝2 代替効果だけが働く予算線と 従来の最適消費点を通る無差別曲線 との接点E′′ 従来の最適 消費点E 代替効果だけが働く予算線 − O 𝑝1 𝑝2 − 𝑚 𝑝1 16 𝑝1 𝑝2 ′ 𝑚 𝑝1 ′ 𝑞1 需要の法則が成立し、下級財の状況 代替効果では、従来の最適消費点Eから、代替効果だけが働く予算線の下での最適消費 点E′′(代替効果だけが働く予算線と従来の最適消費点Eを通る無差別曲線の接点)へ と消費が変化する:第 1 財の需要量は増えている 代替効果だけが働く予算線の下での最適消費点E′′から新たな最適消費点E′に向かっ て、第 1 財の消費量は減っていることから、第 1 財は下級財 代替効果での第 1 財の消費量の増加の方が、所得効果での(下級財ゆえの)第 1 財 の減少よりも大きく、需要の法則が成り立っている 新たな最適 𝑞2 消費点E′ 𝑚 𝑝2 代替効果だけが働く予算線と 従来の最適消費点を通る無差別曲線 との接点E′′ 従来の最適 消費点E 代替効果だけが働く予算線 − O 𝑝1 𝑝2 − 𝑚 𝑝1 𝑝1 𝑝2 ′ 𝑚 𝑝1 ′ 𝑞1 練習問題 1.無差別曲線の 4 つの性質を確認せよ。 2.予算制約を確認し、予算線を導き出せ。 3.最適消費点の性質を確認せよ。 4.上級財・下級財・需要の法則・ギッフェンの逆説について確認せよ。 5.ある財が上級財である。この財の価格が低下した場合と上昇した場合それぞれについ て、代替効果および所得効果で、この財の消費量がどうのように変化するか確認せよ。 6.ある財が下級財である。この財の価格が低下した場合と上昇した場合それぞれについ て、代替効果および所得効果で、この財の消費量がどうのように変化するか確認せよ。 7.ある財が上級財である。この財について需要の法則が必ず成り立つのかもしくはギッ フェンの逆説が必ず成り立つのか判断できるか。判断できるとすれば、どちらが成り立 つか。また、ある財についてギッフェンの逆説が成り立つ。この財が上級財であるか下 級財であるかが判断できるか。判断できるとすればどちらか。 17 2.企業の経済活動 企業の経済活動 技術制約の下で利潤最大化 => 生産物(財・サービス)の供給の決定 生産要素の需要の決定 利潤=収入-費用 𝑞𝑂 :生産物の量(産出量: output) 𝑝𝑂 :生産物の価格 𝑞𝐼 :生産要素の量(投入量: input) 𝑝𝐼 :生産要素の価格 <= 一定(プライス・テイカー) 利潤(Total Profit) 𝑇𝑃:𝑇𝑃 = 𝑝𝑂 ∙ 𝑞𝑂 − 𝑝𝐼 ∙ 𝑞𝐼 技術:生産関数 (生産要素と生産物の関係を記述)生産要素→生産物 費用関数 (生産物と生産費用の関係を記述)生産物→生産費用(Total Cost) 生産関数:𝑞𝑂 = 𝑓(𝑞𝐼 ) 費用関数:𝑇𝐶 = 𝑇𝐶(𝑞𝑂 ) 生産関数と利潤最大化 𝑇𝑃 = 𝑝𝑂 ∙ 𝑞𝑂 − 𝑝𝐼 ∙ 𝑞𝐼 = 𝑝𝑂 ∙ 𝑓(𝑞𝐼 ) − 𝑝𝐼 ∙ 𝑞𝐼 𝑞𝑂 生産関数 𝑞𝑂 = 𝑓(𝑞𝐼 ) 𝑞𝐼 O 18 限界生産力(Marginal Product)MP MP = 𝑑𝑞𝑂 ∆𝑞𝑂 = lim 𝑑𝑞𝐼 ∆𝑞𝐼→0 ∆𝑞𝐼 生産要素を 1 単位増やした時の生産物の増加分 生産要素を 1 単位減らした時の生産物の減少分 生産関数のグラフでは、生産関数の曲線の接線の傾き 𝑞𝑂 生産関数 𝑞𝑂 = 𝑓(𝑞𝐼 ) ∆𝑞𝑂 ∆𝑞 傾き: ∆𝑞𝑂 𝐼 𝑑𝑞 傾き: 𝑑𝑞𝑂 𝐼 𝑞𝐼 O ∆𝑞𝐼 限界生産力逓減:生産要素の投入量を増やすと、限界生産力は小さくなる 生産規模を大きくするにしたがって生産性が低下していく 生産関数のグラフは上に凸 𝑞𝑂 生産関数 𝑞𝑂 = 𝑓(𝑞𝐼 ) 接線の傾き:小 =>限界生産力:小 MP=0.5 =>生産要素を 1 単位増やすと 生産物が 0.5 単位増える 接線の傾き:大 =>限界生産力:大 MP=3 =>生産要素を 1 単位増やすと生産物が 3 単位増える 𝑞𝐼 O 19 価値限界生産力:生産物価格×限界生産力 𝑝𝑂 ∙ 𝑀𝑃 = 𝑝𝑂 𝑑𝑞𝑂 𝑑(𝑝𝑂 ∙ 𝑞𝑂 ) = 𝑑𝑞𝐼 𝑑𝑞𝐼 <= 𝑝𝑂 が一定(<= プライス・テイカ―) 生産要素を 1 単増やした時の収入(𝑝𝑂 ∙ 𝑞𝑂 )の増加分 生産要素を 1 単位減らした時の収入(𝑝𝑂 ∙ 𝑞𝑂 )の減少分 価値限界生産力>生産要素価格 生産要素投入量を 1 単位増やすと価値限界生産力の分だけ収入が増える 生産要素投入量を 1 単位増やすと生産要素価格の分だけ費用が増える 生産要素投入量を 1 単位増やすと利潤が増える =>生産要素投入量を増やして生産物の生産を増やす 価値限界生産力<生産要素価格 生産要素投入量を 1 単位減らすと価値限界生産力の分だけ収入が減る 生産要素投入量を 1 単位減らすと生産要素価格の分だけ費用が減る 生産要素投入量を 1 単位減らすと利潤が増える =>生産要素投入量を減らして生産物の生産を減らす 利潤最大化の均衡条件:価値限界生産力=生産要素価格 𝑝𝑂 𝑑𝑞𝑂 = 𝑝𝐼 𝑑𝑞𝐼 生産物価格上昇 => (価値限界生産力>生産要素価格) => 生産物の生産増加 => 生産物の供給量増加 生産物価格低下 => (価値限界生産力<生産要素価格) => 生産物の生産減少 => 生産物の供給量減少 右上がりの供給曲線 生産要素価格上昇 => (価値限界生産力<生産要素価格) => 生産物の生産減少 => 生産物の供給量減少 供給曲線左シフト 生産要素価格低下 => (価値限界生産力>生産要素価格) => 生産物の生産増加 => 生産物の供給量増加 供給曲線右シフト 20 費用関数と利潤最大化 𝑇𝑃 = 𝑝𝑂 ∙ 𝑞𝑂 − 𝑝𝐼 ∙ 𝑞𝐼 = 𝑝𝑂 ∙ 𝑞𝑂 − 𝑇𝐶(𝑞𝑂 ) 限界費用(Marginal Cost)MC MC = 𝑑𝑇𝐶 ∆𝑇𝐶 = lim ∆𝑞 →0 𝑑𝑞𝑂 ∆𝑞𝑂 𝑂 生産物を 1 単位増やした時の費用の増加分 生産物を 1 単位減らした時の費用の減少分 限界費用逓増:生産量が増えるほど限界費用が大きくなる 生産量を大きくするほど、費用が増えるだけでなく、増え方が大きくなる 生産量を増やそうとするほど、追加でさらに余分の費用が必要 生産物価格>限界費用 生産物を 1 単位増やすと生産物価格の分だけ収入が増える 生産物を 1 単位増やすと限界費用の分だけ費用が増える 生産物を 1 単位増やすと利潤が増える =>生産物の生産を増やす 生産物価格<限界費用 生産物を 1 単位減らすと生産物価格の分だけ収入が減る 生産物を 1 単位減らすと限界費用の分だけ費用が減る 生産物を 1 単位減らすと利潤が増える =>生産物の生産を減らす 利潤最大化の均衡条件:生産物価格=限界費用 𝑝𝑂 = 生産物価格上昇 => 𝑑𝑇𝐶 𝑑𝑞𝑂 (生産物価格>限界費用) => 生産物の生産増加 => 生産物の供給量増加 生産物価格低下 => (生産物価格<限界費用) => 生産物の生産減少 => 生産物の供給量減少 右上がりの供給曲線 21 生産関数と費用関数 TC = 𝑝𝐼 ∙ 𝑞𝐼 => MC = 𝑑(𝑝𝐼 ∙𝑞𝐼 ) 𝑑𝑞𝑂 𝑑𝑞 = 𝑝𝐼 𝑑𝑞 𝐼 𝑂 価値限界生産力=生産要素価格 ⇔ 生産物価格=限界費用 𝑝𝑂 𝑑𝑞𝑂 = 𝑝𝐼 𝑑𝑞𝐼 ⇔ 𝑝𝑂 = 𝑝𝐼 𝑑𝑞𝐼 𝑑𝑞𝑂 生産関数を用いても費用関数を用いても、企業活動の説明の実質的内容は同じ 限界生産力逓減・限界費用逓増 限界生産力逓減 限界生産力が逓増していれば、企業は生産量を無限に増やそうとする 価値限界生産力>生産要素価格 => 生産量増加 => 限界生産力上昇 => 価値限界生産力>生産要素価格 => 生産量増加 => ・・・ => 完全競争市場では供給量が無限となり、多数の企業が市場で存在できず => 完全競争市場とならずに独占市場もしくは寡占市場となる2 限界費用逓増 限界費用が逓減していれば、企業は生産量を無限に増やそうとする 生産物価格>限界費用 => 生産量増加 => 限界費用低下 => 生産物価格>限界費用 => 生産量増加 => ・・・ => 完全競争市場では供給量が無限となり、多数の企業が市場で存在できず => 完全競争市場とならずに独占市場もしくは寡占市場となる 練習問題 1.生産関数と費用関数が、それぞれ何と何の関係を表したものか確認せよ。 2.生産物を 1 つ、生産要素を 1 つとして利潤の定義を確認せよ。 3.限界生産力、価値限界生産力、限界費用について確認せよ。 4.生産関数と費用関数で企業の技術が表されている時それぞれの利潤最大化の条件を確 認せよ。 5.生産物価格が上昇すれば生産物の供給量はどうなるか、また生産物価格が低下すれば 生産物の供給量はどうなるか確認せよ。 6.生産要素価格が上昇すれば生産物の供給量はどうなるか、また生産要素価格が低下す れば生産物の供給量はどうなるか確認せよ。 2 限界生産力逓増もしくは限界費用逓減のように、生産規模を大きくするほどより生産性が 高まるもしくは費用が抑えられる場合、つまり一種の「規模の経済性」が存在する場合は、 完全競争市場とならず、独占市場もしくは寡占市場となる。 22 3.独占・寡占 3.1.独占市場 独占企業:市場価格を自分で決定;価格支配力を持つ 完全競争市場:各主体はプライス・テイカー 𝑞:取引量(需要量;供給量) 𝑝:価格 価格は市場の需要に応じて独占企業が決定 例えば、独占企業の生産計画・供給計画が𝑞2 独占価格を𝑝1 としてしまうと、需要が𝑞1 で超過供給となり、利潤が小さくなる 独占価格を𝑝3 としてしまうと、需要が𝑞3 で超過需要となり、利潤が小さくなる 独占価格を𝑝2 とすると、需要が𝑞 2 で需要と供給が一致し、この生産計画の下では、 最も利潤が大きい 独占企業は市場の需要の大きさに従って独占価格を決定 独占企業は需要曲線の上で独占価格を決定 生産計画・供給計画が𝑞1 なら独占価格は𝑝1 生産計画・供給計画が𝑞2 なら独占価格は𝑝2 生産計画・供給計画が𝑞3 なら独占価格は𝑝3 経済活動は需要と供給から決まる 𝑝 𝑝1 𝑝2 𝑝3 需要曲線 O 𝑞1 𝑞2 𝑞3 23 𝑞 利潤:𝑇𝑃 = 𝑝(𝑞) ∙ 𝑞 − 𝑇𝐶(𝑞) 𝑝 = 𝑝(𝑞):独占企業による独占価格の決定 生産計画・供給計画𝑞に依存 𝑞と𝑝の関係は需要曲線の形で決まる:独占企業は需要曲線の上で独占価格を決定 限界収入(Marginal Revenue)MR MR = 𝑑(𝑝(𝑞) ∙ 𝑞) ∆(𝑝(𝑞) ∙ 𝑞) = lim ∆𝑞→0 𝑑𝑞 ∆𝑞 生産量を 1 単位増やした時の収入の増加分 生産量を 1 単位減らした時の収入の減少分 MR = 𝑑(𝑝(𝑞) ∙ 𝑞) 𝑑𝑝(𝑞) = 𝑝(𝑞) + 𝑞 𝑑𝑞 𝑑𝑞 𝑝(𝑞):独占価格 <= 生産を 1 単位変えると価格分だけ収入が変化する 𝑑𝑝(𝑞) 𝑑𝑞 𝑑𝑝(𝑞) 𝑞:独占価格変更の影響 <= 生産量を1単位変えると、 𝑑𝑞 だけ独占価 格を変える必要があり、それに従来の供給量を掛け合わせた分だけ収入が変 わる3 限界収入>限界費用 生産量を 1 単位増やすと限界収入の分だけ収入が増える 生産量を 1 単位増やすと限界費用の分だけ費用が増える 生産量を 1 単位増やすと利潤が増える => 生産量・供給量を増やす 限界収入<限界費用 生産量を 1 単位減らすと限界収入の分だけ収入が減る 生産量を 1 単位減らすと限界費用の分だけ費用が減る 生産量を 1 単位減らすと利潤が増える => 生産量・供給量を増減らす ∆(𝑝𝑞) = (𝑝 + ∆𝑝)(𝑞 + ∆𝑞) − 𝑝𝑞 = 𝑝∆𝑞 + ∆𝑝 ∙ 𝑞 + ∆𝑝∆𝑞となり、∆𝑞がゼロに収束すると∆𝑝 もゼロに収束することから∆𝑝を無視して計算すると ∆(𝑝𝑞) 𝑝∆𝑞 + ∆𝑝 ∙ 𝑞 ∆𝑝 = =𝑝+ 𝑞 ∆𝑞 ∆𝑞 ∆𝑞 となる。𝑑(𝑓(𝑥)𝑔(𝑥))⁄𝑑𝑥 = (𝑑𝑓(𝑥)⁄𝑑𝑥)𝑔(𝑥) + 𝑓(𝑥)(𝑑𝑔(𝑥)⁄𝑑𝑥)の公式で、𝑥を𝑞として、𝑓(𝑥)に 𝑓(𝑞) = 𝑝(𝑞)、𝑔(𝑥)に𝑔(𝑞) = 𝑞を代入しても得られる。 3 24 利潤最大化の条件:限界収入=限界費用 MR = MC 限界収入曲線 MR = 𝑑(𝑝(𝑞) ∙ 𝑞) 𝑑𝑝(𝑞) = 𝑝(𝑞) + 𝑞 𝑑𝑞 𝑑𝑞 𝑝(𝑞):需要曲線上の価格 𝑑𝑝(𝑞) 𝑑𝑞 < 0(<= 需要曲線は右下がり) 限界収入曲線は需要曲線の下に位置する 𝑝 独占の均衡 クールノーの点 𝑝𝑀 限界費用曲線MC A 独占の均衡条件 MR = MC 需要曲線 限界収入曲線MR O 𝑞 𝑞𝑀 独占の均衡条件:限界収入曲線と限界費用曲線の交点 => 独占の均衡での取引量𝑞𝑀 => 独占の均衡での独占価格𝑝𝑀 図での独占の均衡A:クールノーの点 独占価格𝑝𝑀 の下で需要量も供給量も𝑞𝑀 練習問題 1.独占企業の生産計画と独占価格の設定の関係を確認せよ。 2.限界収入について確認せよ。 3.独占企業の利潤最大化の条件について確認せよ。 4.クールノーの点について確認せよ。 25 3.2.寡占市場:クールノー・モデル 市場において、企業が複数存在するが、企業数が少なく、各企業が独占力を持つ クールノー・モデル 企業数は有限;各企業が生産する財は同質性を満たす 企業数を2つとして分析:複占 企業 A 生産量・供給量:𝑞 𝐴 費用関数:𝑇𝐶(𝑞 𝐴 ) 企業 B 生産量・供給量:𝑞𝐵 費用関数:𝑇𝐶(𝑞𝐵 ) 需要曲線:𝑝 = 𝑝(𝑞) = 𝑝(𝑞 𝐴 + 𝑞𝐵 ) 𝑝 企業 A の供給量が𝑞 𝐴 で、企業 B の供給量が𝑞𝐵 の時の独占価格 企業 A の供給量が𝑞 𝐴 で、企業 B の供給量が𝑞𝐵 ′の時の独占価格 𝑝 𝑝′ 𝑞 O 𝐵 𝑞𝐴 𝑞𝐵 ′ 𝑞 𝐴 + 𝑞𝐵 需要曲線 𝑞 𝐴 + 𝑞𝐵 ′ 𝑞 財の同質性 => 企業 A と企業 B の財は同じ価格 企業 A の利潤:𝑇𝑃 𝐴 = 𝑝(𝑞 𝐴 + 𝑞𝐵 ) ∙ 𝑞 𝐴 − 𝑇𝐶(𝑞 𝐴 ) 企業 B の利潤:𝑇𝑃𝐵 = 𝑝(𝑞 𝐴 + 𝑞𝐵 ) ∙ 𝑞𝐵 − 𝑇𝐶(𝑞𝐵 ) 企業 A の利潤は、企業 A 本人が選択する𝑞 𝐴 だけでなく、ライバルである企業 B が選択 する𝑞𝐵 にも依存 企業 B の利潤は、企業 B 本人が選択する𝑞𝐵 だけでなく、ライバルである企業 A が選択 する𝑞 𝐴 にも依存 お互いに戦略的に依存 => ゲーム理論を使って分析 26 等利潤曲線:企業の利潤が同じとなる各企業の生産量の組み合わせの軌跡 企業 A の等利潤曲線 通常は山型 生産量が少ない状況では、企業 B が生産量を増やすと、独占価格が下がるため、 一定の利潤を維持するためには、企業 A も生産量を増やさなくてはいけない 生産量が多い状況では、二つの企業とも生産量を増やすと、独占価格が下がり 利潤を減らしてしまうために、他方の企業の生産量が減っていなければなら ない 下に位置する等利潤曲線ほど高い利潤に対応 下に位置する(相手企業の生産量が少ない)ほど、独占価格を高くできて、利 潤が大きくなる 𝑞𝐵 企業 A の等利潤曲線 下に位置するほど高い利潤 𝑞𝐴 O 企業 A の最適反応 相手企業(企業 B)の生産量をある水準に想定した場合に、企業 A にとって最適な 生産量 次図で、企業 B の生産量を𝑞1𝐵 と想定した場合、企業 A は、自らの生産量𝑞 𝐴 を決め ることによって、次図の中の𝑞 𝐵 = 𝑞1𝐵 となる水平線の上を実現できる 𝑞𝐵 = 𝑞1𝐵 となる水平線の上で、企業 A の利潤が一番高くなる生産量𝑞 𝐴 (企業 A の 等利潤曲線が一番下に来ている点に対応する生産量𝑞 𝐴 )が企業 A の最適反応 企業 A の等利潤曲線の頂上の点が、企業 B のある生産量とそれに対する企業 A の 最適反応の組み合わせ 企業 A の反応曲線 企業 A の最適反応の軌跡をグラフにしたもの 27 企業 A の反応曲線 𝑞 𝐵 企業 B の生産量を 𝑞1𝐵 と想定した 𝑞3𝐵 場合に企業 A が最適反応した結果 𝑞2𝐵 𝑞1𝐵 企業 B の生産量を 𝑞1𝐵 と想定した 場合に実現可能な状況 𝑞𝐴 O 企業 B の等利潤曲線と反応曲線 企業 B の等利潤曲線:縦軸から見て山型 𝑞𝐵 企業 B の反応曲線 𝑞3𝐵 𝑞2𝐵 𝑞1𝐵 𝑞𝐴 O クールノー均衡4:二つの企業の反応曲線の交点 次図の(𝑞 𝐴∗ , 𝑞𝐵∗ ) 4 独占市場の均衡点である「クールノーの点」と混同しないように。どちらも、独占・寡占 市場の論理的考察のパイオニアである数学者クールノーに敬意を表して命名されている。 28 クールノー均衡は、ゲーム理論の概念では、クールノー・モデルのナッシュ均衡5に該 当する => クルーノー・ナッシュ均衡と呼ぶことも 企業 A の反応曲線 𝑞𝐵 クールノー・ナッシュ均衡 𝑞𝐵∗ 企業 B の反応曲線 O 𝑞 𝑞𝐴 𝐴∗ 二つの企業が合理的で、おかれた状況を正しく認識していて、こうしたことが共有知 識となっていれば、ナッシュ均衡以外は論理的にはあり得ない 𝑞𝐵 企業 A の反応曲線 𝑞2𝐵 クールノー・ナッシュ均衡 𝑞1𝐵 O 企業 B の反応曲線 𝑞2𝐴 𝑞𝐴 𝑞1𝐴 上図の状況で、企業 A が𝑞1𝐴 を選んだとすれば、企業 A は「企業 B は𝑞1𝐵 を選ぶ」と予 想している。6この様に予想するためには、 「「企業 A は𝑞2𝐴 を選ぶ」と企業 B は予想 5 ナッシュ均衡とは、すべてのプレイヤーの戦略が、他のプレイヤーの戦略に対して最適反 応となっている状態を意味する。 6企業 B の𝑞 𝐵 に対する企業 A の最適反応は𝑞 𝐴 となっている。 1 1 29 しているから企業 B は𝑞1𝐵 を選ぶ」7と予想していなくてはならない。この様に予想 するためには、 「 「 「企業 B は𝑞2𝐵 を選ぶ」と企業 A は予想しているから企業 A は𝑞2𝐴 を 選ぶ」8と企業 B は予想しているから企業 B は𝑞1𝐵 を選ぶ」と予想していなくてはな らない。ところが、この推論の最初に出てくる「企業 B は𝑞2𝐵 を選ぶ」ことはあり 得ない9ので、以上の推論は合理的でない。 企業 A についても企業 B についても、ナッシュ均衡以外の生産量については、上と 同様の矛盾が導き出される。 企業 A と企業 B が合理的にで、直面している状況を正しく認識し、そうしたことが 共有知識となっているなら、ナッシュ均衡しか選び得ない。 練習問題 1.企業 A と企業 B からなるクールノー・モデルで、企業 A の等利潤曲線と反応曲線を確 認せよ。 2.企業 A と企業 B からなるクールノー・モデルで、企業 B の等利潤曲線と反応曲線を確 認せよ。 3.企業 A と企業 B からなるクールノー・モデルで、クールノー・ナッシュ均衡を確認せ よ。 A の𝑞2𝐴 に対する企業 B の最適反応は𝑞1𝐵 となっている。 8企業 B の𝑞 𝐵 に対する企業 A の最適反応は𝑞 𝐴 となっている。 2 2 9企業 A のどのような𝑞 𝐴 に対しても、企業 B の最適反応は𝑞 𝐵 とならない。 2 7企業 30 4.市場均衡と社会的余剰(前期の内容の整理) 完全競争市場:各経済主体がプライス・テイカー 家計:予算制約の下で効用最大化 => 財・サービスの需要 価格高い => 需要量少ない 価格低い => 需要量多い 右下がりの需要曲線 下級財で所得効果が大きいとギッフェンの逆説が生じる(例外的) 企業:技術制約の下で利潤最大化 => 財・サービスの供給 価格高い => 供給量多い 価格低い => 供給量少ない 右上がりの供給曲線 完全競争市場の均衡:需要量=供給量 均衡価格:𝑝∗ 均衡取引量:𝑞∗ 𝑝 供給曲線 𝑝∗ 需要曲線 O 𝑞 𝑞∗ 完全競争市場の均衡 => 社会的余剰最大 効率的な経済活動を実現 経済活動は原則として自由な競争に任せる 31 完全競争市場の均衡 => 公正な経済活動を実現しているとは限らない 自由な競争 => 独占・寡占市場 => 完全競争市場の均衡が実現しない 市場の失敗:完全競争市場の均衡が効率的な経済活動を実現しない 公共財:非競合性と排除不可能性を満たす財 すべての人にとって利用可能な財となるが、そのために、市場の自由な競争の下で は、各個人は積極的に必要な費用負担をしない(フリー・ライダー問題) 外部性(外部効果) :ある経済主体の経済活動が、市場を経ることなく、直接他の経済 主体に影響を与える 外部効果:正の影響を与える外部性 教育:各主体が教育を受ければ本人が得する(この効果は外部効果ではない)だ けでなく他の主体も助かるが、市場での自由な競争の下では、他の主体への 影響を考慮して意思決定をしないために、効率的な経済活動が実現しない。 途上国の子供たちが、初等教育を受けずに、路上で仕事をしている、など 外部不経済:負の影響を与える外部性 環境破壊:各主体が化石燃料を使用すると、地球温暖化が進み地球環境が悪化す るが、市場での自由な競争の下では、そうした効果を考慮して意思決定をし ないために、効率的な経済活動が実現しない。 規模の経済性(費用逓減産業) :規模の経済性が存在するために、生産規模が大きいほ ど、1単位当たりの生産費用(平均費用)が小さくなる 大規模生産を実現した企業が優位性をもってしまい、市場を独占する。 :自然独占 プライス・テイカーとして行動させると、規模の経済性の実現に必要な最初の固 定費用が回収できなくなる。 情報の非対称性:ある経済主体が持つある情報を他の経済主体が持たない状況 逆選択:相手の性質に関する情報が非対称的 相手が望ましくない性質の主体である可能性を考えて、望ましい性質の主体に対 しても、それにふさわしい条件が示せなくなり、望ましい性質の主体が不利に なって、淘汰されてしまう。 モラル・ハザード:相手の行動に関する情報が非対称的 相手が努力をしているか否かが確認できないために、報酬・評価システムを工夫 しないと、相手が努力をしなくなる。 自由な競争は様々な問題を生み出す可能性がある 32 5.経済活動の厚生 公正の基準 社会的余剰 <= 部分均衡分析(一つの市場だけを取り上げた分析) パレート効率 <= 一般均衡分析(二つ以上の市場の相互関係を考慮した分析) パレート改善:ある状態と別の状態を比較した時に、別の状態に移行することによって、 効用が低下する主体は存在せず、少なくとも1人の主体の効用が高くなるのであれば、 別の状態への移行はパレートの意味で「改善」である 状態 1 から状態 2 に移行すると、主体 A の効用は 10 から 12 となり、主体 2 の効用 は 8 から 9 になる => 状態 1 から状態 2 への移行はパレート改善 状態 1 から状態 2 に移行すると、主体 A の効用は 10 から 12 となり、主体 2 の効用 は 8 から 8 になる => 状態 1 から状態 2 への移行はパレート改善 状態 1 から状態 2 に移行すると、主体 A の効用は 10 から 12 となり、主体 2 の効用 は 8 から 7 になる => 状態 1 から状態 2 への移行はパレート改善とならない パレート効率:パレート改善の余地の残っていない状態 => 任意の主体の効用を高めようとすれば、必ず少なくとも一人の主体の効用が低 くなる状態 純粋交換経済:生産が存在しない経済 社会で利用可能な財の総量がすでに決まっている経済(賦存量一定) 2 主体(主体 A;主体 B) ;2 財 𝑞1𝐴 :主体 A の第 1 財の消費量 𝑞2𝐴 :主体 A の第 2 財の消費量 𝑞1𝐵 :主体 B の第 1 財の消費量 𝑞2𝐵 :主体 B の第 2 財の消費量 ̅̅̅:第 𝑞1 1 財の賦存量 ̅̅̅:第 𝑞2 2 財の賦存量 エッジワース・ボックス・ダイアグラム:純粋交換経済をグラフ化したもの 左下の原点𝑂 𝐴 :主体 A の原点 𝑂 𝐴 から右に主体 A の第 1 財の消費量𝑞1𝐴 を量る 𝑂 𝐴 から上に主体 A の第 2 財の消費量𝑞2𝐴 を量る 右上の原点𝑂𝐵 :主体 B の原点 𝑂𝐵 から左に主体 B の第 1 財の消費量𝑞1𝐵 を量る 𝑂𝐵 から下に主体 B の第 2 財の消費量𝑞2𝐵 を量る 四角形の横の幅を第 1 財の賦存量𝑞 ̅̅̅1 33 四角形の縦の幅を第 2 財の賦存量𝑞 ̅̅̅2 𝑞2𝐴 𝑞1𝐵 (𝐸) 𝑞1𝐵 𝑂𝐵 𝑞2𝐵 (𝐸) ̅̅̅ 𝑞2 𝐸 𝑞2𝐴 (𝐸) 𝑂𝐴 𝑞1𝐴 𝑞1𝐴 (𝐸) 𝑞2𝐵 ̅̅̅ 𝑞1 前図の中の𝐸:主体 A の消費量(𝑞1𝐴 (𝐸), 𝑞2𝐴 (𝐸));主体 B の消費量(𝑞1𝐵 (𝐸), 𝑞2𝐵 (𝐸)) 各主体の無差別曲線 𝑞2𝐴 𝑞2𝐵 𝑂𝐴 主体 A 𝑞1𝐴 𝑂𝐵 主体 B 𝑞1𝐵 主体 A の無差別曲線はそのまま、主体 B の無差別曲線は 90 度回転させてエッ ジワース・ボックスの中に書き込む 34 𝑞2𝐴 𝑂𝐵 𝑞1𝐵 𝐸3 𝐸′′ 𝐸2 主体 A の 𝐸1 無差別曲線 𝑞1𝐴 𝑂𝐴 主体 B の 𝑞2𝐵 無差別曲線 𝐸′ エッジワース・ボックス図中𝐸′:お互いの無差別曲線が交わっている 主体 A の無差別曲線よりも右上:主体 A の効用は高まる 主体 B の無差別曲線よりも左下:主体 B の効用は高まる お互いの無差別曲線が交わっている:主体 A の無差別曲線よりも右上で、主体 B の無差別曲線よりも左下の領域が存在 => この領域に資源配分を移行させる(例えば𝐸′′へ移行させる)と、パレー ト改善 => お互いの無差別曲線が交わっている場合はパレート効率ではない => 資源配分がパレート効率であればお互いの無差別曲線が接している 図中の𝐸1 , 𝐸2 , 𝐸3 など パレート効率な資源配分は無数に存在する => 資源配分がパレート効率であればお互いの限界代替率が等しくなっている <= 無差別曲線が接している 無差別曲線の接線が共通 無差別曲線の接線の傾きが同じ 無差別曲線の接線の傾きの絶対値=限界代替率 純粋交換経済におけるパレート効率な資源配分:各主体の限界代替率が同じ状態 35 𝑞2𝐴 𝑂𝐵 𝑞1𝐵 パレート効率な 資源配分での 無差別曲線の 共通接線 𝑞1𝐴 𝑂𝐴 𝑞2𝐵 契約曲線:パレート効率な資源配分の軌跡 左下の原点と右上の原点をつなぐ曲線 𝑞2𝐴 𝑂𝐵 𝑞1𝐵 契約曲線 𝑞1𝐴 𝑂𝐴 𝑞2𝐵 原点もパレート効率 𝑂 𝐴 から別の状態へ移行すると必ず主体 A の効用が下がる 𝑂𝐵 から別の状態へ移行すると必ず主体 B の効用が下がる 36 厚生経済学の基本定理 厚生経済学の第 1 基本定理 完全競争市場の均衡はパレート効率な資源配分となる <= 各主体が効用最大化した結果、完全競争市場の均衡が得られれば、すべて の主体の限界代替率は等しくなっている 各主体は予算制約の下で効用最大化 (限界代替率=価格比) 価格比はすべての主体にとって共通 経済活動は、市場での自由な競争に任せておけば、結果として、社会にとって望ま しい資源配分が実現する 完全競争市場の均衡はパレート効率であっても不公平な資源配分となる可能性も 厚生経済学の第 2 基本定理 任意のパレート効率な資源配分は、適切な所得再分配の下で、完全競争市場の均衡 として実現できる 目標とするパレート効率な資源配分の下での、各主体共通の無差別曲線の接線 が予算線となるように初期保有点(所得分配)を変更すれば、所得再分配後 の完全競争市場の均衡は、目標とするパレート効率な資源配分と等しくなる より公平と考えられる資源配分を実現しようとするのであれば、それに応じた所得 再分配を実行し、あとは、市場での自由な競争に任せればよい ただし、独占・寡占市場では完全競争市場の均衡が実現しない 加えて、市場の失敗が生じると、完全競争市場の均衡であってもパレート効率な資源 配分とならない 練習問題 1.パレート改善の意味や具体的な状況の移行を確認せよ。 2.パレート効率の意味を確認せよ。 3.エッジワース・ボックス・ダイアグラムにおいて、パレート効率な資源配分を確認せよ。 4.純粋交換経済での、パレート効率な資源配分の条件を確認せよ。 37 補論 1.生産が存在する経済におけるパレート効率 生産要素一つ 𝑞𝐼1 :第 1 財の生産に投入される生産要素 𝑞𝐼2 :第 1 財の生産に投入される生産要素 𝑞̅𝐼 :生産要素の初期賦存量 𝑞𝐼1 + 𝑞𝐼2 = 𝑞̅𝐼 第 1 財の生産関数:𝑞1 = 𝑓 1 (𝑞𝐼1 ) 第 1 財の生産関数:𝑞2 = 𝑓 2 (𝑞𝐼2 ) 生産可能性曲線:一定の生産要素賦存量の下で、生産可能な生産物の組み合わせの軌 跡 𝑞𝐼1 = 0 & 𝑞𝐼2 = ̅̅̅ 𝑞1 𝑞2 全ての生産要素を 第 2 財の生産に投入した結果 𝑞𝐼1 = ̅̅̅ 𝑞1 & 𝑞𝐼2 = 0 全ての生産要素を 第 1 財の生産に投入した結果 O 𝑞1 生産要素の初期賦存量が一定 =>第 1 財生産への投入𝑞𝐼1 を増やすと第 2 財生産への投入𝑞𝐼2 が減る 第 1 財の生産量𝑞1 が増え第 2 財の生産量𝑞2 が減る 生産可能性曲線の線上を左上から右下へ移動 第 1 財生産への投入𝑞𝐼1 を減らすと第 2 財生産への投入𝑞𝐼2 が増える 第 1 財の生産量𝑞1 が減り第 2 財の生産量𝑞2 が増える 生産可能性曲線の線上を右下から左上へ移動 (𝑞1 , 𝑞2 ) = (𝑓 1 (𝑞𝐼1 ), 𝑓 2 (𝑞𝐼2 )) 1 2 ̅̅̅ 𝑞 +𝑞 =𝑞 𝐼 𝐼 𝐼 𝑞1 = 𝑓 1 (𝑞𝐼1 ):第 1 財の生産量 𝑞2 = 𝑓 2 (𝑞𝐼2 ):第 1 財の生産関数 𝑞𝐼1 + 𝑞𝐼2 = 𝑞̅𝐼 :生産要素の賦存量が一定 38 限界変形率(Marginal Rate of Transformation) (− 𝑑𝑞2 ∆𝑞2 ) = lim − ∆𝑞 →0 𝑑𝑞1 𝑑𝑞 =0 ∆𝑞1 1 𝐼 第 1 財の生産を 1 単位増やした時の第 2 財の生産の減少分 第 1 財の生産を 1 単位減らした時の第 2 財の生産の増加分 生産可能性曲線の接線に傾きの絶対値 限界変形率逓増:第 1 財の生産を増やすにしたがって、限界変形率は大きくなる 第 1 財の生産を増やすにしたがって、第 1 財の生産性が低くなり、より一層、第 2 財の生産から第 1 財の生産へ生産要素を振り替えないと、第 1 財の生産をさら に増やすことができなくなる 𝑞1 限界変形率:小 第 1 財の生産を増やしても 第 2 財の生産は少ししか減らない 限界変形率:大 第 1 財の生産を増やすと 第 2 財の生産は大きく減る 𝑂⬚ 𝑞1 第 1 財と第 2 財の生産の組み合わせを決めると、その生産物を各主体の間にどのよう に配分するかの問題となる 元々のグラフの原点を主体 A の原点𝑂 𝐴 、定められた生産の組み合わせの点𝑃を主体 B の原点として、エッジワース・ボックス・ダイアグラムと同様の分析を行う 次図の消費の組み合わせ𝐶1 => 無差別曲線がエッジワース・ボックスの中で背中合わせ => 財の賦存量が一定であれば、パレート効率 => 生産が存在 => 限界変形率を考慮に入れる必要 => 限界変形率≠限界代替率 (図中𝐶1では限界変形率>限界代替率) => 生産と消費の組み合わせを変えることによってパレート改善可能 39 (限界変形率=1 => 第 1 財の生産 1 単位減少させると第 2 財の生産が 1 単位増加 => 主体 A(もしくは B)の第 1 財の消費を 1 単位減少 => その主体の第 2 財の消費を 0.5 単位増やせば、その主体は無差別 <= 限界代替率=0.5 => まだ第 2 財が 0.5 単位残っている => 主体 A(もしくは B)の第 2 財の消費を 0.5 単位増加 => 主体 A(もしくは B)の効用上昇 => パレート改善) 𝑞1 𝑞𝐼1 + 𝑞𝐼2 = 𝑞̅𝐼 となるように (𝑞𝐼1 , 𝑞𝐼2 ) をある水準に決める => (𝑞1 , 𝑞2 ) がある水準に決まる 𝑃 = 𝑂𝐵 傾き:-0.5 =>限界代替率 0.5 𝐶1 傾き:-1 =>限界変形率 1 𝑂𝐴 𝑞1 生産が存在する経済でのパレート効率な資源配分の条件 主体 A の限界代替率=主体 B の限界代替率=・・・=限界変形率 (すべての主体の限界代替率と生産における限界変形率の均等) 次図の生産𝑃 = 𝑂𝐵 と消費𝐶の組み合わせ 40 𝑞1 𝑃 = 𝑂𝐵 傾き:-1 =>限界代替率 1 傾き:-1 =>限界変形率 1 𝐶 𝑂𝐴 𝑞1 パレート効率な資源配分は無数に存在 次図の生産𝑃 = 𝑂𝐵 と消費𝐶の組み合わせ生産𝑃′ = 𝑂𝐵 ′と消費𝐶′の組み合わせ、同じ生 産𝑃′ = 𝑂 𝐵 ′と消費𝐶′′の組み合わせなど 𝑞1 𝑃′ = 𝑂𝐵 ′ 𝑃 = 𝑂𝐵 𝐶′′ 傾き:-1 =>限界代替率 1 𝐶′ 傾き:-1 =>限界変形率 1 𝐶 𝑂𝐴 𝑞1 41 補論 2.純粋交換経済での完全競争市場 純粋交換経済と完全競争市場の均衡 各主体が財の一定量を初期に保有 ̅𝑞̅̅𝐴̅:主体 A の第 1 財の初期保有量 1 ̅𝑞̅̅𝐵̅:主体 1 ̅𝑞̅̅𝐴̅:主体 A の第 2 財の初期保有量 2 ̅𝑞̅̅𝐵̅:主体 B の第 2 財の初期保有量 B の第 1 財の初期保有量 ̅̅̅ 𝑞1 = ̅𝑞̅̅1𝐴̅ + ̅𝑞̅̅1𝐵̅ 2 ̅̅̅ 𝑞2 = ̅𝑞̅̅2𝐴̅ + ̅𝑞̅̅2𝐵̅ 𝑞2𝐴 ̅𝑞̅̅𝐵̅ 1 𝑞1𝐵 𝑂𝐵 ̅𝑞̅̅𝐵̅ 2 ̅̅̅ 𝑞2 初期保有点 ̅𝑞̅̅𝐴̅ 2 𝑂𝐴 𝑞1𝐴 ̅𝑞̅̅𝐴̅ 1 ̅̅̅ 𝑞1 𝑞2𝐵 各主体は、自分の初期保有量の一部を市場で売却(供給)し、必要な分を市場で購入 (需要)する 𝑝1 :第 1 財の価格(一定) 𝑝2 :第 2 財の価格(一定) 𝑞1𝐴 :主体 A の第 1 財の消費量 𝑞2𝐴 :主体 A の第 2 財の消費量 𝑞1𝐵 :主体 B の第 1 財の消費量 𝑞2𝐵 :主体 B の第 2 財の消費量 主体 A 𝐴 𝐴 ̅𝑞̅̅̅ 1 − 𝑞1 > 0:第 1 財を市場で供給 𝐴 ̅𝑞̅̅̅ − 𝑞 𝐴 > 0:第 2 財を市場で供給 𝑞1𝐴 − ̅𝑞̅̅1𝐴̅ > 0:第 1 財を市場で需要 𝑞 𝐴 − ̅𝑞̅̅𝐴̅ > 0:第 2 財を市場で需要 主体 B 𝐵 𝐵 ̅𝑞̅̅̅ 1 − 𝑞1 > 0:第 1 財を市場で供給 𝐵 𝐵 ̅𝑞̅̅̅ 2 − 𝑞2 > 0:第 2 財を市場で供給 𝑞1𝐵 2 2 42 2 2 − ̅𝑞̅̅1𝐵̅ > 0:第 1 財を市場で需要 𝑞𝐵 − ̅𝑞̅̅𝐵̅ > 0:第 2 財を市場で需要 2 2 主体 A の予算制約:𝑝1 ∙ 𝑞1𝐴 + 𝑝2 ∙ 𝑞2𝐴 ≤ 𝑝1 ∙ ̅𝑞̅̅1𝐴̅ + 𝑝2 ∙ ̅𝑞̅̅2𝐴̅ ̅̅̅𝐴̅ − 𝑞 𝐴 ) 第 1 財を供給し第 2 財を需要していれば𝑝2 (𝑞2𝐴 − ̅𝑞̅̅2𝐴̅) ≤ 𝑝1 (𝑞 1 1 𝐴 𝐴 𝐴 ̅ ̅ ̅ ̅ ̅ ̅ ̅ ̅ 第 2 財を供給し第 1 財を需要していれば𝑝 (𝑞 − 𝑞 ) ≤ 𝑝 (𝑞 − 𝑞 𝐴 ) 1 1 1 2 1 2 2 2 2 2 ̅̅̅𝐴̅, ̅𝑞̅̅𝐴̅)を通り、傾きが− 𝑝 ⁄𝑝 初期保有点(𝑞 1 2 1 2 𝐵 𝐵 ̅ ̅ ̅ 主体 B の予算制約:𝑝1 ∙ 𝑞1 + 𝑝2 ∙ 𝑞2 ≤ 𝑝1 ∙ 𝑞1𝐵̅ + 𝑝2 ∙ ̅𝑞̅̅2𝐵̅ ̅̅̅𝐵̅ − 𝑞𝐵 ) 第 1 財を供給し第 2 財を需要していれば𝑝2 (𝑞2𝐵 − ̅𝑞̅̅2𝐵̅) ≤ 𝑝1 (𝑞 1 1 𝐵 𝐵 𝐵 ̅ ̅ ̅ ̅ ̅ ̅ ̅ ̅ 第 2 財を供給し第 1 財を需要していれば𝑝 (𝑞 − 𝑞 ) ≤ 𝑝 (𝑞 − 𝑞𝐵 ) 1 1 ̅̅̅𝐵̅, ̅𝑞̅̅𝐵̅)を通り、傾きが− 𝑝 ⁄𝑝 初期保有点(𝑞 1 2 1 2 主体 B の 𝑞2𝐴 最適消費点 𝑂𝐵 𝑞1𝐵 ③ 初期保有点 ④ 予算線 ② ① 𝑂𝐴 傾き− 𝑝1 ⁄𝑝2 𝑞1𝐴 主体 A の 最適消費点 𝑞2𝐵 前図では、予算線を決めている価格比𝑝1 ⁄𝑝2の下で、主体 A の最適消費点(予算線と 主体 A の無差別曲線の接点)よりも主体 B の最適消費点(予算線と主体 B の無差 別曲線の接点)が左上 ̅̅̅𝐴̅ − 𝑞 𝐴 ) < (𝑞𝐵 − ̅𝑞̅̅𝐵̅) & (𝑞 𝐴 − ̅𝑞̅̅𝐴̅) < (𝑞 ̅̅̅𝐵̅ − 𝑞𝐵 ) => (𝑞 1 1 2 2 1 1 2 2 => 第 1 財:供給量(①)<需要量(③)& 第 2 財:需要量(②)<供給量(④) => 第 1 財:超過需要 & 第 2 財:超過供給 => 第 1 財の価格上昇 & 第 2 財の価格下落 => 予算線の傾きが絶対値で大きく 次図では、予算線を決めている価格比𝑝1 ⁄𝑝2の下で、主体 A の最適消費点(予算線と 主体 A の無差別曲線の接点)よりも主体 B の最適消費点(予算線と主体 B の無差 別曲線の接点)が右下 ̅̅̅𝐴̅ − 𝑞 𝐴 ) > (𝑞𝐵 − ̅𝑞̅̅𝐵̅) & (𝑞 𝐴 − ̅𝑞̅̅𝐴̅) > (𝑞 ̅̅̅𝐵̅ − 𝑞𝐵 ) => (𝑞 1 1 1 2 1 1 1 2 43 => 第 1 財:供給量(①)>需要量(③)& 第 2 財:需要量(②)>供給量(④) => 第 1 財:超過供給 & 第 2 財:超過需要 => 第 1 財の価格下落 & 第 2 財の価格上昇 => 予算線の傾きが絶対値で小さく 𝑞2𝐴 主体 A の 最適消費点 𝑞1𝐵 𝑂𝐵 ③ ② 初期保有点 ④ 予算線 ① 𝑂𝐴 傾き− 𝑝1 ⁄𝑝2 𝑞1𝐴 主体 B の 𝑞2𝐵 最適消費点 完全競争市場の均衡:エッジワース・ボックス内で各主体の最適消費点が一致してい る状況(次図) 𝑞2𝐴 𝑂𝐵 𝑞1𝐵 初期保有点 傾き− 𝑝1 ⁄𝑝2 𝑂 𝑞1𝐴 𝐴 完全競争市場の均衡 44 𝑞2𝐵 ̅̅̅𝐴̅ − 𝑞 𝐴 ) = (𝑞𝐵 − ̅𝑞̅̅𝐵̅) & (𝑞 𝐴 − ̅𝑞̅̅𝐴̅) = (𝑞 ̅̅̅𝐵̅ − 𝑞𝐵 ) => (𝑞 1 1 1 2 1 1 1 2 => 第 1 財:供給量=需要量 & 第 2 財:需要量=供給量 厚生経済学の第 1 基本定理:完全競争市場の均衡はパレート効率 ただし、 (完全競争市場の均衡として実現する)パレート効率な資源配分は公平な資源 配分とは限らない => より公平と考えられるパレート効率な資源配分を目標 => その点での無差別曲線の共通接線の上に初期保有点が移動するように、所得(初 期保有財)を再配分 => 再配分後は、完全競争市場での自由な取引に任せる => 再配分後の完全競争市場の均衡として目標とするパレート効率な資源配分が実 現 𝑞2𝐴 𝑂𝐵 𝑞1𝐵 完全競争市場の均衡 目標とする 初期保有点 パレート効率な 資源配分= 再配分 再配分後の 完全競争市場 𝑂 𝑞1𝐴 𝐴 再分配後の の均衡 初期保有点 𝑞2𝐵 厚生経済学の第 2 基本定理:任意のパレート効率な資源配分は、適切な所得再分配の 下で、完全競争市場の均衡として実現できる どのパレート効率な資源配分を目標とするか・どのような資源配分が「公平」「公正」 か? => 様々な立場が(前期教科書対応箇所を参照) 45
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