リサーチ TODAY 2016 年 11 月 24 日 1980年代のデジャブ、トランプノミクスの不安は新興国リスク 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 一昨日のTODAYでは、“Make America Great Again” のスローガンをタイトルに1980年代のレーガン大 統領とトランプ氏の経済政策のポリシーミックスの類似性を論じた。1980年代のレーガン期には「3H」(高失 業、高インフレ、高金利)の「スタグフレーション」の問題があり、金融引締めと財政拡張が高金利とドル高を 招いた。こうした状況下、1980年代半ばに南米を中心に債務累積問題が顕現化した。丁度その頃(1982年) に銀行に入行した筆者は、1980年代前半に南米を中心としたシンジケート・ローンの組成を行うセクション で仕事をしていた。しかし、皮肉にも当時のローンの多くは、その後リスクが顕現化し不良債権化した。当 時、新興国と言えば南米であり、スペイン語要員の確保を各社が競い合っていた時代だった。今回のトラン プ期は「3L」(低失業、低インフレ、低金利)で正反対となる。ただし、来月の金融引き締め、財政拡大が期 待されるなか、トランプ氏当選後の2週間での金利上昇、ドル高状況はレーガン期と共通する。下記の図表 は先進国・新興国の経常収支の推移である。ソブリンのリスク判断の基本はマクロバランスであり、経常収 支が重要な判断基準になるが、2015年以降新興国が赤字に転落していることに注目する必要がある。こう した状況は、1980年代の南米諸国でも同様であり、公共投資を中心とした内需拡大と資源価格の下落で、 経常収支の赤字が拡大したことが当時の問題の起点となった。 ■図表:先進国と新興国の経常収支 (10億ドル) 800 先進国 新興国 600 400 200 0 -200 -400 -600 -800 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)IMF よりみずほ総合研究所作成 次ページの図表は先進国、新興国の債務負担を示したものだ。2008年以降、新興国の債務拡大ペース 1 リサーチTODAY 2016 年 11 月 24 日 が急になっていることがわかる。先に示した新興国のマクロバランスの悪化は、この債務拡大による内需拡 張でマクロバランスが崩れた結果と考えられる。 ■図表:民間債務/名目GDP 180 (%) 先進国 160 新興国 140 120 100 80 60 2005 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (注)家計債務と非金融法人債務の合計。 (資料)IIF よりみずほ総合研究所作成 1980年代の債務累積問題は「2重の負担」が原因とされた。それは債務問題の拡大のなか、借り入れを 行っていたドル建て融資の返済負担が金利上昇とドル高という「2重」の影響により重くなったのだ。その結 果、ドル高のなかで新興国通貨が売られ不安が拡大し、借り換えができず不良債権化した。さらに、ドル高 のなか、1980年半ばには原油価格の下落という「逆オイルショック」が生じた。今日の環境を見れば、金利 上昇は限られるがドル高が進むなか、新興国通貨安や原油を中心とする資源価格下落への圧力が加わり やすい状況だ。トランプノミクスという新潮流ではドル高が生じやすいが、そこでのアキレス腱は新興国問題 という形で顕現化しやすいことを認識する必要がある。 ■図表:非金融企業の外貨建て債務比率(2005/1Q~16/2Q) (%) 80 70 60 50 40 30 20 10 0 チ ェ コ ハ ン ガ リ チ リ イ ン ド イ ン ド ネ シ ア イ ス ラ エ ル 韓 国 マ レ シ ア メ キ シ コ ー ブ ラ ジ ル ー 中 国 ー ア ル ゼ ン チ ン ポ ラ ン ド サ ウ ジ ア ラ ビ ア ロ シ ア ト ル コ タ イ (資料)IIF よりみずほ総合研究所作成 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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