リサーチ TODAY 2016 年 9 月 20 日 『みずほ新興国クォータリー』創刊:新興国への資金回帰は本物か 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 みずほ総合研究所は『みずほ新興国クォータリー』1を創刊した。昨年後半から今年年初にかけて中国を 中心とする新興国の減速が世界経済の最大のリスク要因として強く意識された。この背景には、世界的な バランスシート調整が段階的に進むなか、新興国もバランスシート調整の状態に入ったことがある2。ただし、 新興国の成長が減速傾向にあるとしても、先進国を上回る成長を続けていることに変わりはない。下記の 図表は先進国と新興国の成長率格差を示したものだ。2000年代後半以降、新興国と先進国の格差は縮小 を続けているものの、依然、新興国の成長率は先進国を2%近く上回っている。また、新興国の景気は足 元を底にして、今後は再び緩やかに拡大に向かうとの見方も根強い。世界のGDPに占める新興国のウェイ トが年々高まっているため、世界経済や日本経済に影響力の大きい新興国の動向には益々注目する必要 がある。当社はこのような問題意識のもと、新興国全体を俯瞰し、横断的な分析やマーケット動向の分析を 伝えるために、今回『新興国クォータリー』を創刊した。当社の海外拠点ネットワーク、さらにアジア地域に 加えて、中南米や東欧・ロシア、中東専門のエコノミストを総動員して、この横断的な作業にあたった。 ■図表:先進国と新興国の成長率格差 (%) 新興国-先進国 10 先進国 新興国 IMF見通し 8 6 4 2 0 -2 -4 -6 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 (年) (資料)IMF よりみずほ総合研究所作成 今回のリポートでは、昨今の新興国を巡る特徴として、次ページの図表に示すように2016年になって新 興国への資金流入が続いていることを指摘した。昨年来の中国の人民元安ショックを機に新興国からの資 金流出が続き、それが新興国不安の中心となっていたが、今年に入り再び資金流入に転じている。 1 リサーチTODAY 2016 年 9 月 20 日 ■図表:新興国への資本流出入 (億米ドル) 5 株式投資フロー 債券投資フロー 4 流入 ↑ 3 2 1 0 -1 ↓ -2 流出 -3 -4 -5 15/01 人民元安ショック 第一弾 15/04 15/07 人民元安ショック 第二弾 15/10 16/01 16/04 Brexit 国民投票 16/07 (年/月) (注)データは 28 日移動平均値。株式投資はインド、インドネシア、韓国、タイ、南アフリカ、ブラジルの合計。 債券投資はインド、インドネシア、タイ、ハンガリー、南アフリカの合計。 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 下記の図表は先進国と新興国の製造業PMIの推移である。先進国は年初来停滞を続けているが、新興 国では昨年末から回復のトレンドが続いている。多くの新興国では、通貨安に伴う外貨建て債務負担等の 不安があったが、為替相場が落ち着きを取り戻したことが安心感を高めた。為替相場安定化の背景には、 米国の早期利上げ観測の後退から米ドル高が米ドル安に転換したことが大きい。特に、中国は今年になっ てから米ドル安への転換に大きく助けられたといえる。 2016年は新興国が予想以上に回復したが、今後については米国の利上げ等による不安定性を抱えて いることに留意が必要だ。2015年の資金流失・新興国不安の背景に米国の利上げ観測とドル高があった ため、今後、FRBは海外要因も念頭に置いて利上げの判断を慎重に行う必要がある。FRBの利上げは予 想以上にハードルが高いのではないか。 ■図表:先進国と新興国の製造業PMI 54 先進国 新興国 53 52 51 50 49 48 47 15/01 15/04 15/07 15/10 16/01 16/04 16/07 (年/月) (資料)Markit、Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 1 2 『みずほ新興国クォータリー』 (2016 年 9 月号 2016 年 9 月 13 日) 『中国発 世界連鎖不況』(みずほ総合研究所編著 日本経済新聞出版社 2016 年 5 月) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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