Economic Indicators 定例経済指標レポート

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Asia Trends
マクロ経済分析レポート
中国市場を巡る「狐と狸の化かし合い」
~世界経済や商品市況の「不確定要素」となる状況は変わらず~
発表日:2016年11月8日(火)
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主席エコノミスト 西濵
徹(03-5221-4522)
(要旨)
 昨年来国際金融市場では中国発のイベントリスクに揺さぶられる動きがあったが、足下では落ち着いた推
移が続く。ただし、外国人投資家を中心に中国経済への不信感は根深いとみられ、外貨準備の大幅減少な
どに現われている。また、中国国内の債務残高は「危険水域」に近付いているとの見方もくすぶる。当局
は金融市場を力ずくで抑え込む姿勢をみせるが、今後も外国人投資家との間の神経戦が続くとみられる。
 政府の景気対策に伴い中国の景気減速に一服感が出る向きもあるが、依然外需は弱含んでいる。人民元は
ドルに対して低下するも、通貨バスケットに対して底這いで推移するなど通貨安とはなっていない。過剰
生産解消への道のりも不透明ななか、構造改革が前進するかも見通しにくい。先行きも中国の動きが国際
金融市場や商品市況を左右することが予想され、その動きに一喜一憂する展開が続くことになろう。
 このところの国際金融市場を巡っては、米大統領選の行方に対する思惑が左右する動きがみられたものの、年
末における米国の利上げ実施を織り込む状況が徐々に広がっていることに加え、その一方で世界的な金融緩和
に伴う「カネ余り」とも云える展開が続くなか、比較的落ち着いた状況が続いている。昨年の中国株式市場に
おけるバブル崩壊的な値動きに加え、実質的な人民元の切り下げとなった当局による相場管理制度の変更、さ
らに、年明け直後の株式市場におけるサーキットブレーカーの「暴発」など、昨年来国際金融市場においては
中国発の材料による混乱が相次いできたものの、ここ
図 1 外貨準備高の推移
数ヶ月はこうした状況に陥ることもない展開となって
いる。しかしながら、足下の人民元を巡っては当局が
直接的に影響力を行使しにくいオフショア市場を中心
に人民元の対ドル為替レートが下落基調を強める展開
となるなか、オンショア市場においても当局による人
民元安の容認を示唆する動きがみられるなど、緩やか
な人民元安基調が続いている。ただし、この背後では
当局による積極的な人民元買い(米ドル売り)の為替
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
介入によって人為的に動きが緩やかなペースに抑えられている可能性も考えられる。10 月末時点における外
貨準備高は 3.1207 兆ドルと前月末から▲457.27 億ドルと年明け直後以来となる大幅な減少圧力が掛かってい
ることが明らかになるなど、外国人投資家を中心とする「中国売り」の様相が依然としてくすぶっている。足
下の中国経済は政府主導によるインフラ投資の拡充や減税措置などの景気下支え策の効果もあり、景気の減速
基調に底打ちの兆候がうかがえる動きもみられる一方、国有企業改革をはじめとする成長率への下押し圧力と
なり得る課題が山積するなど、経済の先行きに対する不確実性が少なくない。さらに、世界金融危機後に同国
政府が実施した巨額の経済対策に伴い押し上げられた国内信用のGDP比は、その後の構造改革期待を受けて
頭打ちする展開が続いてきたものの、ここ数年は景気の減速基調を強めていることもあり再び上昇ペースが加
速しており、今年3月末時点では 200%を突破するなど「危険水域」に近付いているとの見方が強まっている。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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当局は債務の規模自体は問題なく、その裏側にある資産
図 2 国内信用(非金融部門)の対 GDP 比の比較
にも注目する必要があるとの見方を示しているものの、
足下の債務膨張を招いている背景には都市部を中心に再
び活発化している不動産投資が影響していることを勘案
すれば、資産の「質」そのものに疑問符が付いている可
能性も否定出来ない。また、債務膨張いわゆる「シャド
ーバンキング」の存在も無視し得ない展開が続いており、
当局が監視・監督を強化しているにも拘らず、法の網を
潜り抜ける形で利殖行為が多岐に広がっており、結果的
(出所)国際決済銀行(BIS)より第一生命経済研究所作成
に債務膨張に歯止めが掛けられていない実態も透けてみえる。当局による金融市場への強力なグリップにより
市場が暴走する事態は免れているものの、足下における外国人投資家を中心とする動きはこうした当局による
コントロールが効かなくなるリスクを懸念した動きと捉えられる。
 足下では上述のような政府の景気対策の効果が製造業を中心に景況感の改善を促す動きがみられるものの、外
需については依然として厳しい見方が続いており、このところの緩やかな人民元安の進展が必ずしも輸出の押
し上げに繋がっていない様子がうかがえる。その背景
図 3 人民元指数(CFETS RMB Index)の推移
として、人民元は米ドルに対しては緩やかに下落する
展開が続いている一方、昨年来当局が重視している 13
通貨で構成される通貨バスケットに対してはユーロや
英ポンドなどの主要通貨の下落に伴い底這いで推移し
ていることも影響している。この結果、足下の世界経
済を巡っては国際金融市場の落ち着きなども背景に底
打ちする兆候が出ており、アジア新興国のなかにはそ
うした流れを追い風に輸出の底入れが促される動きが
(出所)中国外貨交易中心(CFETS)より第一生命経済研究所作成
みられる一方、中国についてはその動きに追い付けていない。中国においてはここ数年の高い経済成長を追い
風に人件費が大幅に上昇する展開が続いており、それに伴う生産コストの上昇を受けて同国の生産拠点として
の魅力が低下していることも少なからず影響していると考えられる。10 月の輸出額は前年同月比▲7.3%と前
月(同▲10.0%)からマイナス幅こそ縮小したものの、7ヶ月連続で前年を下回る伸びに留まるなど厳しい展
開が続いており、当研究所が試算した季節調整値ベースの前月比も2ヶ月連続で減少するなど底入れが難しい
状況となっている。国・地域別では、ASEANをはじ
図 4 石炭の輸入量の推移
めとするアジア新興国向けには比較的堅調な動きがみら
れる一方、米国やEU、日本といった先進国向けには一
服感が出るなど一進一退の展開が続いており、世界経済
の底打ちが外需の底入れを促す形にはなっていないと判
断出来る。なお、世界的なディスインフレの元凶とされ
ている鉄鋼製品については輸出量が頭打ちしている一方、
アルミ製品や石油製品などについては依然輸出量は高水
準で推移しており、同国内における過剰生産問題が解消
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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しているかは不透明である。一方の輸入額も前年同月比▲1.4%と前月(同▲1.9%)からマイナス幅こそ縮小
しているものの2ヶ月連続で前年を下回る伸びとなるなか、前月比も横這いで推移しており、足下で景況感が
改善しているにも拘らず輸入が伸び悩む展開が続いている。政府による景気対策が内需の下支えとなっている
ことを反映して内需向け輸入は底堅い一方、輸出財の生産に向けた素材及び原材料などの輸入には下押し圧力
が掛かっており、外需の低迷が生産の足かせとなる可能性も考えられる。石炭価格の上昇などに伴う生産コス
トの上昇や、政府による国有企業などに対する減産圧力などを反映して鉄鋼生産に下押し圧力が掛かった結果、
鉄鋼石の輸入量は鈍化する動きがみられる一方、価格抑制に向けた輸入拡大の動きに伴い石炭の輸入量は急増
したほか、原油や銅などの輸入量も堅調な推移をみせている。足下の同国市場においては石炭などの価格高騰
が投機的な動きを喚起している可能性もあるなか、当局は国内における増産を指示する動きもみられるなど、
先行きについてはタイト化している需給が急速に緩むことも懸念される。他方、需給の緩みに伴ってコストが
低下すれば、再び鉄鋼関連などで増産の動きが広がる可能性も予想されるなど、中国国内における動きが世界
的な商品市況を揺さぶる展開が続くことは避けられないと判断出来る。その意味では、今後も中国国内におけ
る動きが国際金融市場や国際商品市況を通じて世界経済に影響を与えるなか、その見方が様々な形で資金の動
きを左右することになろう。
以
上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。