Indicators Update

経済分析レポート
2016 年 9 月 30 日 全 5 頁
Indicators Update
8 月鉱工業生産
生産が増加する中で出荷は減少。業種により強弱が分かれる
エコノミック・インテリジェンス・チーム
エコノミスト 齋藤 勉
エコノミスト 小林 俊介
[要約]

8 月の生産指数は前月比+1.5%と 2 ヶ月ぶりの上昇となり、市場コンセンサス(同+
0.5%)を上回った。また、8 月の出荷指数は同▲1.3%と 3 ヶ月ぶりの低下、在庫指数
は同+0.1%と 2 ヶ月ぶりの上昇、
在庫率指数は同▲3.5%と 2 ヶ月ぶりの低下となった。
出荷が減少し、在庫が小幅ながら増加する形での増産となっており、必ずしもポジティ
ブな結果とは言えない。はん用・生産用・業務用機械工業や化学工業(除.医薬品)な
ど、一部業種で在庫積み増しの動きが生じたことが背景にある。ただし、電子部品・デ
バイス工業や情報通信機械工業、非鉄金属工業などは生産、出荷ともに増加しており、
堅調な結果となっている。業種により強弱の分かれる結果であったと言えよう。

製造工業生産予測調査によると、9 月、10 月の生産指数は前月比+2.2%、同+1.2%と
増産が続く計画となった。ただし、8 月に在庫が増加した業種では在庫調整の動きが予
測されるため、下方修正される可能性が高い。計画上の生産増は割り引いて見る必要が
あり、概ね横ばい圏での推移が続くとみている。

11 月以降に関しても、生産は一進一退の推移が続くとみている。勤労者世帯の可処分
所得および年金受給世帯所得の伸び悩みを背景に、個人消費は横ばい圏での推移が続く
とみている。加えて、円高の進行を受けて企業の収益環境が悪化する中、国内設備投資
の増加も、人手不足対応の省力化投資や研究開発・省エネ関連投資など、的を絞った内
容となる可能性が高い。外需については、一部に堅調な品目が見られるものの、当面横
ばい圏での推移が続くだろう。
図表 1:鉱工業生産の概況(季節調整済み前月比、%)
鉱工業生産
コンセンサス
DIR予想
出荷
在庫
在庫率
2015年
11月
▲1.1
12月
▲1.2
2016年
1月
+2.5
2月
▲5.2
3月
+3.8
4月
+0.5
5月
▲2.6
6月
+2.3
7月
▲0.4
▲2.4
+0.4
+2.2
▲1.4
+0.4
+0.7
+2.0
▲0.3
▲0.1
▲4.1
▲0.2
▲1.5
+1.8
+2.9
+3.3
+1.6
▲1.7
▲2.2
▲2.6
+0.4
+1.8
+1.7
+0.0
▲1.5
+0.7
▲2.4
+1.1
8月
+1.5
+0.5
+0.1
▲1.3
+0.1
▲3.5
(注)コンセンサスはBloomberg。
(出所)Bloomberg、経済産業省統計より大和総研作成
株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー
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生産は 2 ヶ月ぶりに増加したが、出荷は減少。業種により強弱の分かれる結果
8 月の生産指数は前月比+1.5%と 2 ヶ月ぶりの上昇となり、市場コンセンサス(同+0.5%)
を上回った。また、8 月の出荷指数は同▲1.3%と 3 ヶ月ぶりの低下、在庫指数は同+0.1%と 2
ヶ月ぶりの上昇、在庫率指数は同▲3.5%と 2 ヶ月ぶりの低下となった。出荷が減少し、在庫が
小幅ながら増加する形での増産となっており、必ずしもポジティブな結果とは言えない。はん
用・生産用・業務用機械工業や化学工業(除.医薬品)など、一部業種で在庫積み増しの動き
が生じたことが背景にある。ただし、電子部品・デバイス工業や情報通信機械工業、非鉄金属
工業などは生産、出荷ともに増加しており、堅調な結果となっている。業種により強弱の分か
れる結果であったと言えよう。
図表 2:出荷・在庫・在庫率、生産指数財別内訳
生産指数
出荷・在庫・在庫率
財別内訳
(2010年=100)
(2010年=100)
120
140
在庫率指数
予測
130
115
資本財
120
建設財
110
110
100
105
90
在庫指数
80
100
生産指数
耐久消費財
70
95
60
出荷指数
90
12
13
14
15
16
50
(年) 2008 09
10
11
12
13
14
15
16
(年)
(注)生産指数の直近2ヶ月の値は、製造工業生産予測調査による。
(出所)経済産業省統計より大和総研作成
スマートフォン関連、ノートパソコンは堅調。一部業種では在庫の積み増しが見られる
8 月の生産指数を業種別に見ると、全 15 業種中、11 業種が上昇した。中でも、電子部品・デ
バイス工業(同+6.3%)、情報通信機械工業(同+14.0%)の増加率が大きい。9 月に発売され
た新型スマートフォン向け部品生産の増加に加えて、このところ緩やかに輸出の増加が続くノ
ートパソコンなどで生産の増加基調が継続している。一方、はん用・生産用・業務用機械工業
(生産:同+1.9%、出荷:同▲2.9%)、化学工業(除.医薬品)(生産:同+3.6%、出荷:同
▲2.5%)、電気機械工業(生産:同+0.4%、出荷:同▲1.1%)などでは生産が増加する中で
出荷が減少し、結果として在庫が増加している。一部の堅調な業種が生産を下支えする一方で、
在庫水準が高止まりする中、在庫の更なる積み増しが見られる業種が存在する点は懸念材料で
ある。また、8 月に米国向けの輸出が大幅に減少した輸送機械工業(生産:同▲1.7%、出荷:
同▲2.9%)は生産、出荷ともに減少した。生産を左右する海外需要の動向を引き続き注視して
いく必要があると言えよう。
3/5
生産計画は強いが、在庫調整圧力により横ばい圏の推移が続く見込み
製造工業生産予測調査によると、9 月、10 月の生産指数は前月比+2.2%、同+1.2%と増産
が続く計画となった。予測調査を業種別に見ると、今月在庫が増加したはん用・生産用・業務
用機械工業(9 月:同+5.1%、10 月:同+1.8%)
、化学工業(9 月:同+5.7%、10 月:同▲0.8%)
の計画が強いが、これらの業種では在庫調整の動きが予測されるため、下方修正される可能性
が高い。計画上の生産増は割り引いて見る必要があり、概ね横ばい圏での推移が続くとみてい
る。また、8 月に生産が増加した情報通信機械工業(9 月:同▲6.2%、10 月:同+4.9%)
、電
子部品・デバイス工業(9 月:同▲2.0%、10 月:同+8.8%)で減産が予測されていることも、
9 月の生産を押し下げる要因となるだろう。一方、輸送機械工業(9 月:同+5.0%、10 月:同
+2.0%)で増産が続く見込みとなっている点は、ポジティブに捉えて良い点と言える。
図表 3:主要業種の生産推移
(2010年=100)
素材業種
(2010年=100)
予測 130
112
108
金属製品
鉄鋼
パルプ・紙
・紙加工品
120
予測
はん用・生産用
・業務用機械
輸送機械
110
非鉄金属
104
加工業種
100
100
90
96
80
92
電気機械
情報通信機械
70
88
84
2012
電子部品
・デバイス
60
化学(除く医薬品)
13
14
15
16
50
(年) 2012
(注)直近2ヶ月の値は、製造工業生産予測調査による。
(出所)経済産業省統計より大和総研作成
13
14
15
16
(年)
4/5
先行きは一進一退の推移が続く
11 月以降に関しても、生産は一進一退の推移が続くとみている。依然として在庫水準は高止
まりしていることから、在庫調整による生産の下押しが続く公算が大きい。また、勤労者世帯
の可処分所得および年金受給世帯所得の伸び悩みを背景に、個人消費は横ばい圏での推移が続
くとみている。加えて、円高の進行を受けて企業の収益環境が悪化する中、国内設備投資の増
加も、人手不足対応の省力化投資や研究開発・省エネ関連投資など、的を絞った内容となる可
能性が高い。外需については、一部に堅調な品目が見られるものの、当面横ばい圏での推移が
続くとみている。欧州向け輸出については、ECB による量的緩和の効果などから持ち直してきて
いるが、英国の EU 離脱、不良債権問題による金融機関の動揺が与える影響で弱含む可能性に注
意が必要だ。米国経済は家計部門を中心に底堅いが、設備投資の増勢は鈍く、資本財輸出が加
速する可能性は低い。アジア経済に関しては、米国金融政策の引き締め懸念後退などを背景に
資金流出の悪影響が軽減されつつあるものの、他方で欧州に端を発する金融市場の混乱がもう
一段の需要減少を惹起する可能性には要注意である。
図表 4:輸出数量、出荷・在庫バランスと生産
鉱工業生産と輸出数量
(2010年=100)
(2010年=100)
99
105
鉱工業生産指数
(右軸)
97
50
出荷・在庫バランスと生産
(前年比、%)
40
103
95
101
93
99
91
鉱工業生産指数
30
20
10
0
-10
97
89
95
輸出数量指数
87
13
14
15
-30
出荷・在庫バランス
(1ヶ月先行)
-40
85
12
-20
16
-50
93
2008 09
(年)
(注)鉱工業生産の直近2ヶ月の値は、製造工業生産予測調査による。
(出所)内閣府、経済産業省統計より大和総研作成
10
11
12
13
14
15
16
(年)
5/5
主要産業の生産動向(季節調整値)
輸送機械
はん用・生産用・業務用機械
(指数×ウエイト)
(指数×ウエイト)
12
2.5
半導体・フラットパネル製造装置
はん用機械器具部品
乗用車
10
2.0
自動車部品
8
1.5
6
1.0
4
船舶・同機関
トラック
ボイラ・原動機
0.5
2
風水力機械・油圧機器
金属工作機械
0
0.0
08
09
10
11
12
13
14
15
16 (年)
08
09
10
11
電子部品・デバイス
12
13
14
15
16 (年)
電気機械
(指数×ウエイト)
(指数×ウエイト)
5.0
2.0
4.5
電子部品
開閉制御装置・機器
1.8
4.0
1.6
3.5
1.4
3.0
1.2
2.5
民生用電気機械
1.0
2.0
1.5
半導体部品
半導体素子
0.6
1.0
0.4
0.5
0.2
0.0
08
09
10
11
12
回転電気機械
0.8
集積回路
13
14
15
16
(年)
配線・照明用器具
電池
0.0
08
09
化学
11
12
13
14
15
16
(年)
鉄鋼・非鉄金属・金属製品
(指数×ウエイト)
3.5
1.6
1.4
化粧品
3.0
10
(指数×ウエイト)
建築用金属製品
熱間圧延鋼材
鉄素製品
(含.鋼半製品)
1.2
2.5
1.0
2.0
有機薬品
プラスチック
0.8
1.5
0.6
1.0
0.4
0.5
石油系芳香族
0.0
08
09
10
0.2
石けん・合成洗剤・界面活性剤
伸銅・アルミニウム圧延製品
建設用金属製品
非鉄金属鋳物
0.0
11
12
13
14
(出所)経済産業省統計より大和総研作成
15
16
(年)
08
09
10
11
12
13
14
15
16
(年)