経済分析レポート 2016 年 6 月 30 日 全5頁 Indicators Update 5 月鉱工業生産 出荷の停滞と在庫の積み上がりが顕著に エコノミック・インテリジェンス・チーム エコノミスト 小林 俊介 [要約] 2016 年 5 月の生産指数は前月比▲2.3%と、3 ヶ月ぶりの低下となった。市場コンセン サス(同▲0.2%)対比でも大幅に下振れしている。出荷指数も同▲2.3%と 3 ヶ月ぶり に大幅に低下し、在庫指数は同+0.3%、在庫率指数は同+1.3%と、いずれも 2 ヶ月ぶ りの上昇に転じた。予測調査指数は 6 月同+1.7%、7 月同+1.3%と小幅ながら増産計 画を示しているが、過去の平均的な予測実現率や、今回の予測調査(6 月 10 日)以降 に決定した英国の EU 離脱に端を発する金融市場の混乱などを踏まえれば、当面の生産 は弱含む公算が大きい。 先行きの生産は当面弱含むとみている。勤労世帯の可処分所得上昇率および年金受給世 帯所得の伸び悩みを背景に、消費を中心とした内需の本格的な回復には時間がかかるだ ろう。加えて円高の進行を受けて企業の収益環境が悪化する中、国内設備投資の増加も、 人手不足対応の省力化投資や研究開発・省エネ関連投資など、的を絞った内容となる可 能性が高い。外需についても、英国の EU 離脱に伴う金融市場の混乱などを反映し、も う一段の減少が懸念される。欧州向け輸出については、原油価格下落や ECB による量的 緩和の効果などから持ち直してきたが、今回の政治的判断が欧州域内の需要回復に水を 差す可能性は否定できない。米国経済は家計部門を中心に底堅いが、他方で伸び悩む資 本財需要など企業部門の動向が気がかりだ。アジア経済に関しては、米国金融政策の引 締め懸念後退などを背景に資金流出の悪影響が軽減されつつあるものの、他方で欧州に 端を発する金融市場の混乱がもう一段の需要減少を惹起する可能性には注意が必要で ある。 図表 1:鉱工業生産の概況(季節調整済み前月比、%) 鉱工業生産 コンセンサス DIR予想 生産者出荷 生産者在庫 生産者在庫率 2015年 8月 ▲0.7 9月 0.3 10月 1.2 11月 ▲1.1 12月 ▲1.2 2016年 1月 2.5 2月 ▲5.2 3月 3.8 4月 0.5 0.2 0.2 3.2 ▲0.3 ▲0.1 ▲1.0 2.6 ▲1.2 ▲1.8 ▲2.4 0.4 2.2 ▲1.4 0.4 0.7 2.0 ▲0.3 ▲0.1 ▲4.1 ▲0.2 ▲1.5 1.8 2.9 3.3 1.6 ▲1.7 ▲2.2 5月 ▲2.3 ▲0.2 0.2 ▲2.3 0.3 1.3 (注)コンセンサスはBloomberg。 (出所)Bloomberg、経済産業省統計より大和総研作成 株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和 証券㈱は、㈱大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です。内容に関する一切の権利は㈱大和総研にあります。無断での複製・転載・転送等はご遠慮ください。 2/5 出荷の停滞と在庫の積み上がりが顕著に 2016 年 5 月の生産指数は前月比▲2.3%と、3 ヶ月ぶりの低下となった。市場コンセンサス(同 ▲0.2%)対比でも大幅に下振れしている。出荷指数も同▲2.3%と 3 ヶ月ぶりに大幅に低下し、 在庫指数は同+0.3%、在庫率指数は同+1.3%と、いずれも 2 ヶ月ぶりの上昇に転じた。予測 調査指数は 6 月同+1.7%、7 月同+1.3%と小幅ながら増産計画を示しているが、過去の平均的 な予測実現率や、今回の予測調査(6 月 10 日)以降に決定した英国の EU 離脱に端を発する金融 市場の混乱などを踏まえれば、当面の生産は弱含む公算が大きい。 図表 2:出荷・在庫・在庫率、生産指数財別内訳 出荷・在庫・在庫率 生産指数 150 財別内訳 (2010年=100) (2010年=100) 160 140 在庫率指数 予測 130 資本財 120 140 在庫指数 130 110 120 100 110 90 100 80 90 70 80 70 2008 09 60 出荷指数 10 11 12 建設財 13 14 15 50 16 (年) 2008 09 生産指数 10 11 耐久消費財 12 13 14 15 16 (年) (注)生産指数の直近2ヶ月の値は、製造工業生産予測調査による。 (出所)経済産業省統計より大和総研作成 個別業種・財別の方向性は乏しく、全体的に弱含む 5 月の生産指数を業種別に見ると、全 15 業種中、11 業種が低下した。化学工業(除.医薬品) (前月比▲7.5%)、金属製品工業(同▲4.5%)、窯業・土石製品工業(同▲3.9%)、非鉄金属工 業(同▲2.3%)などの素材業種に加え、はん用・生産用・業務用機械工業(同▲2.2%)、電子 部品・デバイス工業(同▲3.2%)、電気機械工業(同▲3.2%)などの加工業種も弱い。5 月の 生産指数を財別に見ると、建設財(同▲3.0%)、耐久消費財(同▲1.3%)、非耐久消費財(同 ▲2.3%)など広範な部門で減産が確認された。生産全体で見れば大幅な下振れを記録したにも かかわらず、個別業種・財別では特段の方向性は見られない。熊本地震や円高など、複合的な 要因の影響を受けている印象だ。 3/5 予測指数も冴えない 予測調査によれば、6 月、7 月の生産指数はそれぞれ前月比+1.7%、同+1.3%と小幅ながら 増産が見込まれている。予測調査を業種別に見ると、情報通信機械工業(6 月:同+10.4%、7 月:同+0.0%)や輸送機械工業(6 月:同+4.2%、7 月:同+3.1%)が好調である他、電気 機械工業(6 月:同+0.0%、7 月:同+4.6%)、化学工業(6 月:同+1.2%、7 月:同+3.2%)、 金属製品工業(6 月:同+4.2%、7 月:同+0.6%)など、5 月に弱含んだ業種の一部で回復が 見込まれている。予測調査を財別に見ると、足下で弱含んでいる建設財(6 月:同+4.6%、7 月:同+0.9%)、耐久消費財(6 月:同+4.4%、7 月:同+2.3%)の生産計画が強い。 図表 3:主要業種の生産推移 (2010年=100) 素材業種 (2010年=100) 予測 予測 130 112 108 加工業種 鉄鋼 はん用・生産用 電気機械 ・業務用機械 120 金属製品 110 104 100 100 90 96 80 92 88 非鉄金属 84 2010 11 情報通信機械 70 パルプ・紙 ・紙加工品 60 化学(除く医薬品) 12 13 14 15 16 電子部品 ・デバイス 輸送機械 50 (年) 2010 (注)直近2ヶ月の値は、製造工業生産予測調査による。 (出所)経済産業省統計より大和総研作成 11 12 13 14 15 16 (年) 4/5 英国の EU 離脱を端緒とした金融市場の混乱も影響し、当面は弱含む局面へ 先行きの生産は当面弱含むとみている。勤労世帯の可処分所得上昇率および年金受給世帯所 得の伸び悩みを背景に、消費を中心とした内需の本格的な回復には時間がかかるだろう。加え て円高の進行を受けて企業の収益環境が悪化する中、国内設備投資の増加も、人手不足対応の 省力化投資や研究開発・省エネ関連投資など、的を絞った内容となる可能性が高い。外需につ いても、英国の EU 離脱に伴う金融市場の混乱などを反映し、もう一段の減少が懸念される。欧 州向け輸出については、 原油価格下落や ECB による量的緩和の効果などから持ち直してきたが、 今回の政治的判断が欧州域内の需要回復に水を差す可能性は否定できない。米国経済は家計部 門を中心に底堅いが、他方で伸び悩む資本財需要など企業部門の動向が気がかりだ。アジア経 済に関しては、米国金融政策の引締め懸念後退などを背景に資金流出の悪影響が軽減されつつ あるものの、他方で欧州に端を発する金融市場の混乱がもう一段の需要減少を惹起する可能性 には注意が必要である。 図表 4:輸出数量、出荷・在庫バランスと生産 鉱工業生産と輸出数量 130 (2010年=100) (2010年=100) 120 50 115 40 120 鉱工業生産指数 (右軸) 110 110 105 100 100 90 95 90 80 輸出数量指数 70 60 2008 09 10 11 12 13 14 15 出荷・在庫バランスと生産 (前年比、%) 鉱工業生産指数 30 20 10 0 -10 -20 85 -30 80 -40 -50 75 2008 09 16 (年) (注)鉱工業生産の直近2ヶ月の値は、製造工業生産予測調査による。 (出所)内閣府、経済産業省統計より大和総研作成 出荷・在庫バランス (1ヶ月先行) 10 11 12 13 14 15 16 (年) 5/5 主要産業の生産動向(季節調整値) 輸送機械 はん用・生産用・業務用機械 (指数×ウエイト) (指数×ウエイト) 12 2.5 半導体・フラットパネル製造装置 はん用機械器具部品 乗用車 10 2.0 自動車部品 8 1.5 6 1.0 4 船舶・同機関 トラック ボイラ・原動機 0.5 2 風水力機械・油圧機器 金属工作機械 0 2008 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) 0.0 2008 09 10 11 電子部品・デバイス 12 13 14 15 16 (年) 電気機械 (指数×ウエイト) (指数×ウエイト) 5.0 2.0 4.5 1.8 電子部品 4.0 1.6 3.5 1.4 3.0 1.2 2.5 1.0 2.0 半導体部品 半導体素子 0.6 1.0 0.4 0.5 0.2 0.0 2008 09 10 11 12 回転電気機械 0.8 集積回路 1.5 13 14 15 16 (年) 配線・照明用器具 電池 0.0 2008 09 化学 10 11 12 13 14 15 16 (年) 鉄鋼・非鉄金属・金属製品 (指数×ウエイト) 3.5 1.6 1.4 化粧品 3.0 民生用電気機械 開閉制御装置・機器 (指数×ウエイト) 建築用金属製品 熱間圧延鋼材 鉄素製品 (含.鋼半製品) 1.2 2.5 1.0 2.0 有機薬品 プラスチック 0.8 1.5 0.6 1.0 0.4 0.5 石けん・合成洗剤・界面活性剤 石油系芳香族 0.0 2008 09 10 11 12 13 (出所)経済産業省統計より大和総研作成 14 15 0.2 伸銅・アルミニウム圧延製品 0.0 16 (年) 2008 09 建設用金属製品 非鉄金属鋳物 10 11 12 13 14 15 16 (年)
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