オーバーロード ゼットン襲来 ID:99101

オーバーロード ゼットン襲来
乃伊
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︻あらすじ︼
来ちゃった︵・ω<︶ 目 次 オーバーロード ゼットン襲来 ││││││││││││││
1
オーバーロード ゼットン襲来
むかし、むかし、あるところに、小さな王国がありました。
王国のはずれには大きな森が広がっていて、ちかくの村の村人たち
は木の実や草を集めて、それを食べたり薬にしたりしていました。
そんなある日のことです。
村人のひとりが、村長さんのところにやって来て、こう言いました。
なんですって
﹂
﹁おおい、村長のあねさん。空から何かでっかいものが落ちてくるぞ
お﹂
﹁え
村のみんなが尊敬する村長さんも名前で呼び捨てにするし、あれこれ
お茶とお菓子を用意しました。魔法使いさまはとても長生きなので、
魔法使いさまは、りっぱなお部屋に村長さんをまねいて、おいしい
﹁ああ、エンリか。入りなさい。村の様子はどうかね﹂
﹁ごめんください﹂
の顔をしていて、とても怖いのですが。
ないすごい魔法を使うことができるのです。ただ、その外見はドクロ
魔法使いさまは、それはもう色々なことを知っているし、誰も知ら
を訪ねて行きました。
困った村長さんは、森のそばのお墓の中に住んでいる魔法使いさま
さあ、一大事です。
もしれない﹂
﹁きっと口も大きいから、おれたちをみんな、ぺろりと食べてしまうか
まうぞ﹂
﹁なんだって。あんな大きな体で踏まれたら、ぺちゃんこになってし
﹁大変だわ。みんな、あれはきっと、とても大きい生き物よ﹂
です。
も、ようく見てみると、その黒いものは何やらフラフラ動いているの
ものが、ふわりふわりと空のてっぺんから下りてくるのでした。しか
あわてて村長さんが外に出てみると、それはもう大きな大きな黒い
?
子どもみたいに扱うのです。
1
?
﹁おかげさまで、村のみんなも元気です﹂
﹁それはよかった。だが、それなら何の用事で来たのかね
﹂
魔法使いさまはたずねました。村長さんは、少しきんちょうしなが
ら答えます。
﹁空から何かとても大きな生き物がやって来るのが見えたのです。見
たこともない生き物なので、村のみんなも不安になってしまって、魔
法使いさまの知恵をお借りしたいと思ってまいりました﹂
法
の
鏡 を持って
ミラー・オブ・リモート・ビューイング
﹁ほう、ほう。それは面白そうだ。誰か、 魔
来なさい﹂
そう言って魔法使いさまがパン、パンと手を叩くと、どこからとも
なくエプロンをつけた美しい女の人が、大きな丸い鏡を持ってあらわ
れました。
魔法使いさまは、とても偉くてお金持ちなので、たくさんの家来や
お手伝いさんがいるのです。そして、数えきれないほどの魔法の道具
を持っていました。
﹁ふむふむ。これはこれは。﹂
魔法の鏡をのぞくと、そこには、あの黒くて大きな生き物がはっき
りと写っていました。まるでカミキリムシのようにゴツゴツした顔
で、つるつるした体が黒くテラテラと光っています。
﹁きゃあ、かいぶつだわ﹂
村長さんはすっかりおびえてしまいました。
︶
いっぽう、魔法使いさまはとても落ち着いていて、
︵レイドボスかな
せん。
﹁エンリ。エンリよ、わたしの話を聞きなさい。あのように大きな生
き物は、かいじゅうと言うのだ。かいじゅうはたいてい火を吐くか
ら、村のみんなで火の用心をしなければいけないよ﹂
﹁はい。わかりました。ありがとうございます﹂
﹁わたしはこれから、たくさんの家来たちをつれて、かいじゅうの様子
を見に行くつもりだ。あぶないから、ぜったいに近づいてはいけない
2
?
などと正体について考えていたのですが、どうにも見覚えがありま
?
よ﹂
﹁はい。わかりました。ありがとうございます﹂
そう言って、村長さんは何度も何度もお礼をして帰って行きまし
た。
魔法使いさまは、もう一度、魔法の鏡に写ったかいじゅうを眺めま
した。やはり見覚えがありません。魔法使いさまは、とてもうれしそ
うに笑いました。
﹁ああ、このわたしが見たこともない生き物なんて、いったいどれほど
強いのだろうなあ。でも、そんなに珍しいなら、きっとすてきなアイ
テムをもっているに違いないぞ﹂
そして、先ほど鏡を持ってきたお手伝いさんに伝えたのです。
﹁さあ、いそいで行って、守護者たちをよんでくるのだ。全員に伝える
のだぞ﹂
こうして、魔法使いさまとかいじゅうのたたかいが始まったのでし
で、移 動 手 段 が 未 熟 だ っ た 古 代 に は 乗 っ て 移 動 す る の に 使 っ た の
3
た⋮⋮
│││││││││││││││││││││││││││││
│││││││││││││││││││││││││││││
︵臨場感たっぷりに恐ろしい怪獣と偉大な魔法使いの物語を語ってい
たハカセは、そこで一度話を区切りました。生徒兼話し相手の悟くん
は、ちょっと物足りないようです。︶
サトル
ハカセ﹁さあて、切りの良い所で休憩にするかのう﹂
悟くん﹁うわあ、とっても続きが気になるなあ。気になりすぎて宿題
する気が起きないや﹂
﹂
生き馬の目を抜く世の中ってやつだね
?
ハカセ﹁難しいことわざを知っとるな。馬というのは動物の一種
!
ハカセ﹁やる気が無いなら帰ってもいいんじゃよ
ブラック
悟くん﹁わあい辛辣
!
﹂
⋮⋮ところで馬って何
?
﹂
つまり、生き馬=超激レアを一点狙いで引き
じゃ。今はもうほぼ絶滅に近い。感傷的な名前じゃなあ﹂
悟くん﹁なるほど
当てるって意味なんだね
︵⋮⋮しばらくして⋮⋮︶
悟くん﹁宿題終わったー
ハカセ続きー
﹂
!
﹂
?
難しいことは分からないよ
﹂
?
続きあるって言ったじゃん
その先の話はほとんど残っておらんのじゃ﹂
悟くん﹁えーっ
!?
なんか強そう
﹂
!
﹂
億個﹄ドロドロに溶かすエネルギーを放出することになるのです。
め、1兆度などという数字を打ち込むとたった1秒間に地球を﹃60
高温の物体から放射されるエネルギーは温度の4乗に比例するた
︵以下引用︶
読本﹄というのじゃが、ちょっと引用してみようかの﹂
⋮⋮ほれ、ここにゼットンについて書いてある本がある。﹃空想科学
ハカセ﹁うむ。すごく強いぞ。なにせ1兆度の火の玉を吐くらしい
悟くん﹁ゼットン
らなかったのじゃがな、それはゼットンという怪獣だったのじゃ﹂
ハカセ﹁うむ。突然現れた怪獣⋮⋮当時の魔法使いさまは正体を知
悟くん﹁ちぇっ。じゃあ、それでいいや﹂
からな。ある。あるが、ちょっとだけということじゃ﹂
ハカセ﹁あー。嘘は言っとらんぞ。ワシは嘘があまり好きではない
!
ハカセ﹁⋮⋮ま、今は気にせんでよい。さて、続きじゃが⋮⋮実は、
悟くん﹁
うよ。⋮⋮もっとも、進学すれば良いというものでもないがなあ﹂
ハカセ﹁うむ、うむ。このまま成績を維持できれば問題ないじゃろ
悟くん﹁僕、中学校いけるかな
で伸びシロがあるとは、我ながらびっくりじゃわい﹂
ハカセ﹁むぅ、確かに⋮⋮勉強を教えておいてなんじゃが、ここま
!
ハカセ﹁サトルくんはガチャ解釈が好きだのう⋮⋮﹂
!
!
!?
4
?
では、実際にゼットンが1兆度の火の玉を発射したらどうなるのか
1個当たり、太陽の470兆倍のエネルギーを火の玉である。これ
が地表で放出されたわけです。当然、地球は一瞬で蒸発し、太陽系の
星々も順次消滅することになります。 ︵引用終わり。参考資料:柳田理科雄︵1996︶﹃空想科学読本﹄メ
ディアファクトリー︶
悟くん﹁ヤバイ﹂
ハカセ﹁ヤバイのう﹂
悟くん﹁えっこれ魔法使いさま死ぬよね、えっ﹂
ハカセ﹁特撮ヒーロー物を観ていたら最終回でヒーローが敵にやら
⋮⋮それはそれでちょっと引く﹂
れちゃった、みたいな顔をしておる⋮⋮いや、死んどらんよ。死んで
はおらん﹂
悟くん﹁えっ⋮⋮えっ
﹂
?
漂っていたからなあ⋮⋮﹂
悟くん﹁⋮⋮ゼットンは
ハカセ﹁消滅した﹂
﹂
残 っ た 者 も い た か も し れ ん が ⋮⋮ 気 付 い た と き に は 宇 宙 を 孤 独 に
た。魔 法 使 い さ ま の 住 ん で い た お 墓 も、家 来 も 全 部 消 滅 し た。生 き
ハカセ﹁あー。魔法使いさまは生き延びたが、星がまるごと蒸発し
悟くん﹁で、どうなったの
ない限りじゃよ。無課金には無課金の意地というものがじゃなあ﹂
ハカセ﹁ちょっと目を離すとすぐ課金の暗黒面に落ちよるな。情け
悟くん﹁うわあ⋮⋮アイテム強い⋮⋮やはり課金こそ正義⋮⋮﹂
き延びたらしいのう⋮⋮﹂
無効化とか即時復活課金アイテムとか⋮⋮なんかそういう感じで生
ハカセ﹁ワシも詳しいことは覚えておらんが⋮⋮なんか炎属性完全
?
然訪れるという教訓じゃ。今はともかく、社会に出たら身に染みて分
ハカセ﹁⋮⋮ま、色々言いたいことはあると思うが⋮⋮理不尽は突
悟くん﹁意味不明すぎる⋮⋮﹂
?
5
?
かるじゃろうよ﹂
悟くん﹁社会かあ。なんか想像もつかないや﹂
︵悟くん、頭を抱える。ハカセは助言してみることにした。︶
ハカセ﹁別に勝ち組になれとは言わんよ。上に立つ者にも、下で働
く者にも、どちらも苦労はある。だからまあ、納得の行く生き方がで
﹂
﹂
﹂
きればいいんじゃないか。何か、生きていて楽しいと思えるような娯
僕、彼女いるし
楽とか、仲間を見つけるとか⋮⋮⋮⋮⋮⋮あー、恋人を作る、とか
悟くん﹁あ、それなら大丈夫だよ
﹂
ハカセ﹁えっ﹂
悟くん﹁
﹂
同じ学校の子だよ。今度紹介する
ハカセ﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮えっ
悟くん﹁あ、彼女
!
?
悟くん﹁ハーカーセー
﹂
までリア充化するとは⋮⋮すごいな、俺⋮⋮﹂
ハカセ﹁⋮⋮ああ、いや、つい驚いてしまった。指導一つで、こう
?
!
間だろう
﹂
悟くん﹁あっ、本当だ
じゃあ、また明日
おやすみー
﹂
!
⋮⋮﹂
んなことに使う時間はないか
い や、で も、た っ ち・み ー さ ん は
ろうな。悟くんは﹃ユグドラシル﹄をやるのかな。彼女がいるなら、そ
ハカセ﹁さて、これだけ違うなら未来も変わるだろうが⋮⋮どうだ
︵悟くん、部屋を出て行く。ハカセは大きく息を吐いた。︶
!
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│││││││││││││││││││││││││││││
ハカセ﹁⋮⋮あー。でも、彼女。彼女かあ⋮⋮﹂
?
6
?
?
?
ハカセ﹁⋮⋮悟くん、君、そろそろ帰りなさい。ほら、もういい時
?
!
?
不死者の王アインズ・ウール・ゴウンが己を見出したとき、その総
身は宇宙の暗黒の中にあった。最後の記憶は、謎の巨大エネミーに小
ナザリックは⋮⋮﹂
手調べの戦闘要員を送り出したこと。そして視界はホワイトアウト
し、世界が沸騰し⋮⋮
﹁⋮⋮どうなっている
本拠地への転移を可能とするはずの指輪は沈黙し、全身を覆うはず
﹂
の装備の数々も、無残に損壊、あるいは失われていた。
﹁宇宙⋮⋮俺は⋮⋮吹き飛ばされたのか
アインズは漂い続けていた。
アインズは生きていた。
い時が過ぎた。
怒り、足掻き、しかしその全てが宇宙の虚無に消え、そして長い長
でも怒りが蘇った。
不死者の特性が感情を鎮静して尚、業炎が視界を照らすたび、何度
以て帰ろうと試みた。
アインズは怒り狂った。あらゆる罵声を吐き出し、あらゆる手段を
怒りが訪れたのは、一瞬後のことだった。
すとんと、納得がいった。
ならば、あそこに在った全ては既に燃え尽きて⋮⋮
自分は、あそこから来たのだ。あの輝く炎の中から。
宇宙を白に染め上げているのだから。
なにせ、宇宙の一隅が、明るいのだ。異様に、燃えるように、煌々と
それが楽観的な推論であることは、口に出さずとも分かっていた。
?
アインズは、生きて、漂い続けて、長い長い時が過ぎて⋮⋮考える
のを、やめた。
そして、長い長い時が過ぎた。
7
?
時の果てに、一つの流星が、青い惑星へと落ちていった。
そして、長い長い時が過ぎた。
│││││││││││││││││││││││││││││
││││││││││││││││││
アインズ・ウール・ゴウンが目を覚ましたとき、その全身は岩と同
化していた。
随分と長い間、眠っていたらしい。力に任せて身体を動かせば、岩
は砕け、不死者の王は再び大地を踏みしめていた。
⋮⋮再び
記憶の欠落があった。どれだけの時間、眠っていたのだろうか。
砂礫にまみれた全身を払い、ぎこちなく周囲を見渡せば、そこは自
然にあふれた世界だった。
空の青。草木の緑。吹き抜ける熱風。ブルー・プラネット。
﹃柱の岩人形﹄がァ
は終わらなかった。
動くわきゃねェだろォ⋮⋮って、
﹂﹂
﹁⋮⋮馬鹿な⋮⋮吸血鬼をあれほど容易く殺すとは⋮⋮ッ
﹂
﹁あれが柱の男⋮⋮蘇った究極生物の力だというのかッ
の力⋮⋮その強さこそ我ら第三帝国に相応しいッ
今度は人間か。
だが、そ
!
!
そう考えたアインズはふと胸に手をやり、そこに有るべき紅玉が無
うしていた気がする⋮⋮
そうだな、言葉が通じるなら情報を集めてみようか。確か、昔もそ
!
﹂
猿叫を上げて襲ってくる雑魚は、素手の一撃で死んだ。だが、面倒
﹁﹁WWWWRRRRRYYYY
汚らわしい、と思った。この青の星を汚すものだ、と。
振り向けば、見るからに品性下劣なレッサー・ヴァンパイアが2体。
?
!
8
?
﹁おい見ろ、アイツ、動いてやがるぞッ﹂
﹂
﹁アァー
エッ
?
⋮⋮下賤な声がした。
!?
いことに気付いた。
﹁⋮⋮⋮⋮なるほど。眠っている俺から、物を盗むとはな﹂
アインズは感情を抑制したまま沈黙し、訪問者を待ち受けた。第一
の情報提供者、あるいは第一の犠牲者を。
⋮⋮やがてアインズは、彼の宝玉が長い時の中で世界を渡り、
﹁エイ
アルティミット・シイング
ジャの赤石﹂と呼ばれていることを知る。盗まれた物は、取り戻さね
ばならない。かつて、己を至 高 の 御 方とまで讃えた者共に報いるた
めにも。
そして、巡り合う。
只の人間でありながら⋮⋮複合バフ&アンデッド特攻の技能スキ
ル﹁波紋法﹂⋮⋮そして、それを扱うに足るだけの黄金の精神を備え
た﹁波紋使い﹂たちに。
アインズの時計は、再びその時を刻み始めた。
9
それはやがて加速し、巡り、新たなる彼本来の時代⋮⋮西暦213
8年へと至るのだろう。そのとき、彼がどのような姿で在るのかは、
彼自身にも未だ分からないことだが⋮⋮
だが、それは今このときに考えるべきことではない。
戦いのときがきたのだ
不死者の王と定命の勇者たちが繰り広げる、生命讃歌のときが⋮⋮
!
︵第2部﹃戦闘潮流﹄へ続く︶
!