ガドリニウム造影剤の 安全性に関する最近の話題

造影剤
ガドリニウム造影剤の
安全性に関する最近の話題
はじめに
神
田
知
紀
揮するとの報告がある。
る。鉛やカドミウム、水銀、ヒ素などの重金属
必須元素と拮抗・作用することで毒性を発揮す
において必須元素ではあるが、重金属の多くは
生理的には存在しない物質である。金属は人体
ドリニウム造影剤が人体に投与されて 年以上
分な安全性が担保されることが期待された。ガ
ンの構造は強固に結合しており、人体内でも十
付与されている。キレートとガドリニウムイオ
かに人体から排泄されるようにキレート構造を
リニウムが人体に毒性を発揮せずに、②すみや
ガドリニウムがMRIの造影剤として利用さ ガドリニウムが人体に対し有毒であることが
れ、 年近く経過しようとしている。ガドリニ
懸念されたため、ガドリニウム造影剤は①ガド
ウムは原子番号 番の重金属であり、人体には
が人体に毒性を発揮することで過去にも多くの
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では他の重金属と同様に低濃度で強い毒性を発
への毒性ははっきりとしていないが、動物実験
事件を引き起こしてきた。ガドリニウムの人体
きりとせず安全な造影剤として使用され続けら
なアレルギー反応を除いて人体への毒性ははっ
になるが、腎機能正常な患者においてはごく稀
25
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30
リニウムが増加していることが報告されている
するにつれ、海や河川の水など環境中へのガド
れている。ガドリニウム造影剤の使用量が増加
することが強く疑われたため、①
を腎機能障害のある患者に投与することで発症
原因として疑われている。ガドリニウム造影剤
ム造影剤から遊離したガドリニウムがNSFの
︵ mL/
eGFR
が、人体への毒性は報告されていない。
︶2が 以下、②透析治療中、③急性
min/1.73m
腎不全の患者にガドリニウム造影剤を投与する
ンが制定された。日本国内からも二十数例のN
ことは原則禁忌となり、必要な場合は環状型ガ
腎機能低下患者に対するガドリニウム造影剤投
︶
与では、NSF︵ nephrogenic systemic fibrosis
が重篤な副作用として問題となる。ガドリニウ
SFが報告されたが、ガイドライン施行後はあ
内へも進行し、重症例では多臓器不全で死亡す
てキレートとガドリニウムの結合が弱いとされ
ガドリニウム造影剤のキレート構造は線状型
と環状型に大別され、線状型は環状型に比較し
てもNSFの発症はみとめられないという報告
ドール︶において腎機能低下患者に投与を行っ
ることとなる。
で も 胆 汁 排 泄 の あ る Gadobenate Dimeglumine
︵日本未承認︶や一部の環状型造影剤︵ガドテリ
四肢関節の運動制限を引き起こす。線維化は体
しかしながら近年はNSFに対する認識も変
わりつつあり、線状型ガドリニウム造影剤の中
心とした〝オレンジの皮様〟の皮膚硬化が生じ、 らたなNSF症例は報告されていない。
1)
3)
ドリニウム造影剤を使用するようにガイドライ
ム投与後に遅発性︵3カ月以内︶に、四肢を中
腎機能低下患者に対する投与
30
が続いている。
4)
5)
ている。ほとんどのNSFは不安定な線状型ガ
ドリニウム造影剤で発症しており、ガドリニウ
5)
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1)
2)
小脳歯状核の高信号
正常腎機能患者への投与
正常腎機能患者へのガドリニウム造影剤投与
に関しても、劇的な変化が生じている。以前に
はガドリニウム造影剤は投与後に全量尿中に排
泄されるという考え方が主体で、正常腎機能で
ガドリニウムが体内に残留するという報告はあ
年に第 回日本神経放射線学会において﹁ 強
科医にはなじみが薄かった。筆者らは2013
ったが、いずれも科学分析による報告で放射線
6)
7)
T1
と初めて報告を行い、2014年の Radiology
誌に掲載された。ガドリニウム造影剤が体内に
の線状型ガドリニウム造影剤投与と関連する﹂
調像における小脳歯状核の高信号︵図︶は過去
42
ウム造影剤と環状型ガドリニウム造影剤に焦点
続いて造影剤の安定性によりガドリニウムの
残留が異なるかということで、線状型ガドリニ
け止められた。
科医にとって信じがたく、大きな驚きとして受
残留しMRIで評価できるという事実は放射線
8)
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(筆者提供画像)
小脳歯状核・淡蒼球の高信号化は線状型ガドリ
剤を投与された患者を脳MRIの比較で行い、
が当てられた。筆者らと Radbruch
が、線状型
ガドリニウム造影剤と環状型ガドリニウム造影
ム造影剤投与を行うと人体に多かれ少なかれガ
ート構造により差異はあるものの、ガドリニウ
ニウムの残留が多いことを報告しており、キレ
物実験でも Robert
らが線状型ガドリニウム造
影剤は環状型ガドリニウム造影剤の 倍ガドリ
剤の不安定性で起こることが推測される結果で
あった。
おわりに
ニウム造影剤を投与されたときに生じたことを
14)
14
らは 年で 回ガドリニウム造影剤を
Robert
組織内のガドリニウムの直接検出も行われて 投与された患者から皮膚の生検を行い、ガドリ
おり、3つのグループが誘導結合プラズマ質量
15)
ドリニウムが残留することを示唆している。
10)
報告した。脳MRIの所見はガドリニウム造影
9)
11)
12)
13)
らは脳組織には
ており、それに加え McDonald
病理的な破壊が生じていないことを確認してい
らと筆者らが線状型造影剤投与でガ
McDonald
ドリニウムが脳内に蓄積していることを報告し
分析計︵ICP MS︶を用いて試みている。
NSFが引き起こされているかは今後の検討課
NSFがガドリニウム沈着のみで起こるわけで
に報告されているNSF患者の皮膚組織に沈着
ニウムの検出を行っている。驚くことにこの患
このようにガドリニウム造影剤投与により人
はないことを示唆しており、どのような機序で
したガドリニウム濃度より高いことがわかった。
者の皮膚に沈着したガドリニウム濃度は、過去
らはより安定度の高い環状型造影
る。 Murata
剤投与患者でも線状型ガドリニウム造影剤投与
61
題となっている。
11
患者と同様にガドリニウムが脳内に残留してい
11)
るが、残留量が少ないことを報告している。動
−
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12)
13)
体にガドリニウムが蓄積することが示唆され、
同じ市販されているガドリニウム造影剤でも線
状型は環状型より多くのガドリニウムが残留す
る可能性がある。アメリカ食品医薬品局︵FD
A︶も一連の研究結果から﹁ガドリニウム造影
剤は必要最低限の使用にとどめるべき﹂という
注意勧告を出したが、ガドリニウム造影剤の使
用制限やどのガドリニウム造影剤を使うべきか
の示唆は行わなかった。このためどのガドリニ
ウム造影剤をどれだけ使用するかは、現状では
各医師の考え方にゆだねられている。
︵帝京大学医学部
放射線科学講座
講師︶
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