造影 CT における 造影剤腎症に関する最近の知見

造影剤
造影剤腎症の定義
ている。
林
宏
光
れ、造影剤腎症の定義も含め大きな話題となっ
れてこなかったが、近年、多くの論文が報告さ
造影剤腎症に関しては、これまで十分に検討さ
造影CTにおける
造影剤腎症に関する最近の知見
はじめに
ヨード造影剤を使用した画像診断は日常臨床
において必須の検査であり、多くの有益な情報
をもたらすことに疑いはない。ヨード造影剤の
出荷本数からみた2014年のヨード造影剤を
用いた検査・治療数は、年間でおよそ980万
件と推定される。内訳として造影CT
%、
造影剤腎症とは、病理学的所見等により裏づ
けられる疾患ではなく、経験則に基づく病態概
%、尿路造影およびその
る。2012年に出版された﹃腎障害患者にお
念であるといえ、それ故に多くの定義が存在す
経静脈的造影剤投与による造影CTにおける
012﹄においてもこの点が指摘され、標準化
けるヨード造影剤使用に関するガイドライン2
他 5%程度と考えられており、全体の使用量
る。
ならびに造影CTの割合は経年的に増加してい
血管造影・治療
80
96
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(902)
15
る﹂がある。
5㎎ / 以上または %以上増加した場合とす
時間以内に血清クレアチニン値が前値より0・
認知された定義として、
﹁ヨード造影剤投与
の必要性が記載されている。造影剤腎症の広く
1)
72
しなかった群とに分け、造影剤腎症のリスクや
予後などが検討されてきたが、そのような方法
論に対して一石を投じたのは、2006 年の
らによる報告であり、経静脈的造影剤投与
Rao
による造影剤腎症は過大評価されており、リス
クを正確に評価するためには適切な対照群を有
10
剤の投与されていない入院患者で連続5日間の
血清クレアチニン値を測定したところ、血清ク
レアチニン値の上昇は過去の造影剤腎症の発現
頻度と変わらないことから、造影剤投与後の造
影剤腎症は過大評価されている可能性も示唆さ
れた。
率をレトロスペクティブに調査し、コントロー
ル群として腎障害患者で単純CTを受けた患者
影CTでは腎機能低下に伴い造影剤腎症の発症
率が上昇するものの、全体としては単純CTと
試験を行い造
造影/非造影群で matched cohort
影剤腎症のリスクを評価したところ、血清クレ
告がいくつも出された。その結果を要約すると、
この報告以降、大規模なレトロスペクティブ報
の間に有意差を認めないことを明らかにした。
4)
アチニン値1・5㎎ / 以下はリスクにならな
dL
また造影剤投与後に造影剤腎症を発症した群と
などの経静脈的造影剤投与にも当てはめてきた。 と比較したところ、慢性腎臓病患者における造
タを用いて検討がなされ、この結果を造影CT
らは造影C
これらの報告を受け、 Murakami
造影剤腎症のリスク評価の方法論をめぐって
T検査を受けた腎障害患者の造影剤腎症の発症
これまで造影剤腎症に関する研究の多くは、
心臓カテーテル検査・治療における腎機能デー
25
する試験が必要であるとした。また 日間造影
2)
(903)
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3)
dL
いとする報告、安定した腎機能患者を対象とし
急性腎障害の評価を加えたリスク評価
試験を行
これらの報告から、造影CTによる腎機能へ
て、造影/非造影群で
matched
cohort
い造影剤腎症の発現リスクを層別化して検討し
の影響はこれまで考えられていたものより小さ
∼
く、場合によっては無視できるのではないかと
0
3
<
で警鐘的な論文も報告されている。これは単一
4
4
0
3
は 有 意 な リ ス ク 因 子、
施設での1年間のプロスペクティブ試験で、造
5
4
≧
れの群においても造影剤腎症の発現率に差は認
の造影剤腎症の発現率を比較したところ、いず
︶分
え A K I N︵ Acute Kidney Injury Network
類により副作用を調査している。結果として造
のであるが、これまでの造影剤腎症の定義に加
∼
められないとする報告、造影/非造影CTが行
じなかった群より高く、年齢等で調整した対照
0
3
<
9
5
影CTにて急性腎障害を生じた群の死亡率は生
0
6
0
9
≧
0
3
9
8
約1・7倍に上るとするものであった。造影剤腎
8)
最近
誌においても、 Controversies
Radiology
考えるべきではないか、などを問うものである。
また短期間の腎機能変化のみでなく生命予後を
9)
群に比較し、造影剤腎症を生じた群のリスクは
の
討したところ、造影剤腎症の発現率は eGFR
低下に伴い有意に増加したが、造影/非造影群
症の評価法として従来の定義でよいのかどうか、
る。
では有意差はみられなかったとする報告等があ
∼
われた患者を eGFR
,
,
,
に分け、造影群と1 1のマッチングを行い検
影CT施行1年後の重篤な副作用を検討したも
も考えられたが、最近前述の論文を踏まえた上
は有意傾向、 eGFR はリスク
eGFR
にならないとする報告、血清クレアチニン値を
た と こ ろ、 eGFR
1・5㎎ / 未満、1・5∼2・0㎎ / 、2
・0㎎ / 超で分け、各群での造影/非造影で
dL
6)
7)
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(904)
5)
dL
dL
おわりに
in Contrast Material-induced Acute Kidney Injury
このような状況下において、われわれ放射線
として二つの考えが紹介された。その一つは前
科医はどのように造影検査に臨むのがよいか意
を使用、非造影CT群を対照群に設定、
eGFR
腎機能に応じた造影剤投与量ではない、腎臓以
あ る。 も う 一 方 は、 リ ス ク 層 別 化 に お い て
る腎損傷が発現する可能性は低いとするもので
法を受けている患者において臨床的に重要とな
はないにせよ極めて低いことから、標準的予防
投与後の造影剤腎症発現リスクは、全くゼロで
∼中等度の慢性腎臓病における経静脈的造影剤
れる。具体的には eGFR の場合には経静
脈的造影剤投与後の造影剤腎症のリスクは低い
小限にするための努力を払うことが必要と思わ
までの知見に基づき造影検査に伴うリスクを最
分に解明されていないと考えられるため、これ
急性腎障害︵造影剤腎症︶については、未だ十
経静脈的造影剤投与後に発症する危険性のある
見が分かれるところではあるが、私見としては
述の流れを汲むもので、腎機能正常および軽度
外のリスク因子について注意が払われていない
と考えられ、一方、 eGFR の場合には造影
剤投与前後に標準的予防法を行うなどして、急
5
4
≧
によ
等 の 理 由 か ら、 propensity score matching
る解析では極端な結論が導かれる可能性が否定
限り低いものとするのが望ましいと考えられる。
性腎障害︵造影剤腎症︶の発症リスクをできる
5
4
<
できず、造影剤腎症は依然として実際に起こる
現象と考えるとするものである。このように現
︵日本医科大学
放射線医学
教授︶
1)
会編 腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関す
在のところ経静脈的造影剤投与後の造影剤腎症
えざるを得ない。
に対しては、一定の見解が得られていないと考
文献
日本腎臓学会、日本医学放射線学会、日本循環器学
11)
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10)
るガイドライン2012、東京医学社、東京︵20
12︶
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intravenous administration of contrast material : a
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