X線結晶学 授業ノート7 (2016年6月17日アップロード)

X 線結晶学
授業ノート
第 7 回目
「結晶による X 線回折…回折 X 線の強度(第 5 章)」
授業のポイント
各回折ピークの強度比を比較することにより、消滅則だけでは判断ができない構造の決
定が可能となる。そこで、粉末 X 線回折測定から得られる実験データの情報で重要な
回折強度の主要な要因について学ぶ。
(h k l)面からの X 線の散乱ピークから読み取れる情報
1. ピークの位置 … ( ブラッグ条件(2dsin = n)より、格子定数の決定
2. ピークの有無 … ( 構造因子計算による消滅則から、結晶構造の同定
3. ピークの強度 … ( 特定の面の原子情報、原子変位などの様々な情報
)
)
)
※ X 線回折測定による構造解析では、回折ピークの位置、有無、強度の全てを考慮す
ることにより、物質の構造の決定を行う。例えば、Rietveld(リートベルド)解析。
・散乱 X 線の強度
散乱 X 線の強度を決定する主な 5 つの要因
① ( 構造因子
)
② ( 多重度因子
)
③ ( ローレンツ偏光因子 )
④ ( 吸収因子
)
⑤ ( 温度因子
)
散乱 X 線の強度の一般式
(
𝐼 = |𝐹 |2 𝑃 (
2𝜇𝑡
1 + cos 2 𝜃
1
−
sin𝜃 ) 𝑒 −2𝑀
)
(1
−
𝑒
2 sin2 𝜃 cos 𝜃 2𝜇
)
① 構造因子 |𝐹|2
2πi(ℎ𝑢𝑗 +𝑘𝑣𝑗 +𝑙𝑤𝑗 )
( 𝐹ℎ𝑘𝑙 = ∑𝑁
の式から算出される構造に由来する散乱強度。特定
𝑗=1 𝑓𝑗 e
の h k l 面において X 線の散乱強度が変化する。
)
例)
原子散乱因子 fA 及び fB を持つ原子 A 及び B から成る NaCl 型構造における構造因子
2
⌈𝐹 ⌉2 = |[1 + eπi(ℎ+𝑙) + eπi(ℎ+𝑙) + e2πi(𝑘+𝑙) ][𝑓𝐴 + 𝑓𝐵 eπi(ℎ+𝑘+𝑙) ]|
NaCl 型構造においては、h + k + l が偶数、奇数が混合のときに散乱強度が 0 となり、
回折ピークが観測されない。
| F |2 は、h + k + l が偶数のときに 16(fA + fB)2、h + k + l が奇数のときに 16(fA - fB)2)の散
乱強度となる。
原子散乱因子が分かっていれば、各 h k l 面における散乱強度の見積もりが可能。
② 多重度因子 P
( 面間隔が同じでかつ同じ構造因子を示すが、方位が異なる結晶面の数を表す。 )
例) ※ここで-1 は 1 の上にバーがついた状態を表す。
立方晶における多重度因子
{100}の場合 … (
(100)、(010)、(001)、(-100)、(0-10)、(00-1)の 6 個
)
{110}の場合 … (
(110)、(-110)、(1-10)、(-1-10)、(101)、(-101)、(-10-1)、(10-1)、
(011)、(0-11)、(01-1)、(0-1-1)の 12 個
)
{111}の場合 … (
(111)、(-111)、(1-11)、(11-1)、(-1-11)、(-11-1)、(1-1-1)、(-1-1-1)
の8個
)
立方晶の多重度因子のまとめ
hkl
hkk
48
24
hk0
24
hh0
12
hhh
8
h00
6
粉末試料内の微細な結晶が完全にランダムな方向に向いているなら、ブラッグの回
折条件を満足する方向に結晶が向か確率は多重度因子で表記できる。例えば、{1 1 1}
面からの回折ピークの強度は、{1 0 0}に比べて多重度因子の比較では 8 / 6 になる。
③ ローレンツ偏光因子
1+cos2 𝜃
2 sin2 𝜃 cos 𝜃
粉末 X 線回折測定では、無限小の物体からの散乱ではなく、ある大きさの物体から
散乱される。そのため、回折ピークはある広がりを持ち、散乱強度が変化する。こ
の広がりを表す因子をローレンツ因子という。 )
※ ローレンツ因子は入射 X 線、散乱 X 線、試料の配置によって様々な式の形態をと
る。上式は、フィルターで入射 X 線を単色化した際に用いられる式であり、通常は
この式でよい。
(
④ 吸収因子
1
2𝜇
2𝜇𝑡
(1 − 𝑒 −sin𝜃 )
入射 X 線、散乱 X 線ともに試料の中を通過する際には一部が吸収される。その吸
収に関する補正項。
)
・試料が十分に厚いとき:t = ∞
(
2𝜇𝑡
1
1
1
1
(1 − 𝑒 −∞ ) =
(1 − 0) =
(1 − 𝑒 −sin𝜃 ) =
2𝜇
2𝜇
2𝜇
2𝜇
※ 通常、試料の厚さが十分に厚ければ散乱 X 線強度の相対値の議論に吸収係数の補
2𝜇𝑡
正は不要である。1 − 𝑒 −sin𝜃 の項は、おおよそ 25μm で 0.95、50μm で約 1 にな
る。そのため、通常は 100μm 以上の厚みを持たせた試料を用意する。
⑤ 温度因子 𝑒 −2𝑀
原子は格子の特定の位置に存在するが、実際は熱振動によって室温でおおよそ数%
動いている。この熱振動によって散乱 X 線は減衰する。この振動に関する因子を
デバイワラー因子と呼ぶ。 )
※ 静止原子の構造因子 f を用いると、実在の原子構造因子 f0 は熱振動により f よりも
小さくなり、f0 = f e-2M で表される。ここで、M は以下の式で表される項である。
(
2
𝑀 = 8𝜋
2 〈𝑢 2 〉
sin2 𝜃
sin2 𝜃
(
) = 𝐵(
)
𝜆
𝜆
2
ここで、〈𝑢2 〉は反射面に垂直な方向の原子の平均二乗変位であり、B の項を原子変
位パラメータと呼ぶ。異方性を持つ物質では、熱振動も異方性を有するため、更なる
補正が必要となることもある。