問題および解答

プランクスケール
1
1.1
問題
問 1.1 プランク定数 ! は、スピンの単位であることを思い出せば、角運動量の次元をもつ1 。
このことから、質量 m の粒子に対するコンプトン波長 λ が次元解析から得られるこ
とを示せ。
問 1.2 電子の質量と静電エネルギーが等しくなるような長さを電子の古典半径 re と呼ぶ。
re の表式を求め、問 1.1 で求めた電子のコンプトン波長との比が、微細構造定数 α =
e2 /(!c) で与えられることを示せ。
問 1.3 水素原子の基底状態の全エネルギーは
1
E0 ≈ − α2 me c2
2
(1.1)
で与えられる。このことから、ボーア半径 rB と re , λe の関係を示せ。また、それらの
数値を概算せよ。
問 1.4 あまり深く考えることなく単純にニュートン力学を用いて、質量 m、半径 r の天
体からの脱出速度が光速と一致する長さ rS を求めよ。これは、一般相対論で導かれ
るシュワルツシルド半径と一致している。太陽質量の質点に対するシュワルツシルド
半径の値を求めよ。
問 1.5 古典的なシュワルツシルド半径と量子論的なコンプトン波長が等しくなる質量の表
式と、数値を求めよ。これはプランク質量と呼ばれている。
問 1.6 プランク質量に対応する長さと時間スケールを物理定数だけで書け。これらはそれ
ぞれプランク長さ、プランク時間と呼ばれる。またそれらの数値を計算せよ。
どうでも良いことではあるが、以下では、換算プランク定数 ! ≡ h/2π をプランク定数と呼ぶことにす
る。
1
3
1.2
解答例
解 1.1 長さのスケールを λ とすれば、
! = mλc
⇒
λ=
!
.
mc
(1.2)
ちなみに、!c はエネルギー×長さの次元であり、
!c = 200MeV · fm
(1.3)
は覚えておくと役に立つ (fm はフェムトメーター, 10−15 m, を表す)。例えば、原子核
の典型的サイズ λ = 1fm に対応する粒子の質量は約 100MeV となるが、これは核力
を媒介するπ中間子の質量である。
解 1.2 (ガウス単位系では) 静電エネルギーは e2 /r なので、これを me c2 と等値すれば
e2
.
me c2
re =
(1.4)
したがって、
re
e2
=
= α.
λe
!c
(1.5)
解 1.3 古典力学と同様に、水素原子内でも定常状態ではビリアル平衡が成り立っており、
全エネルギーはポテンシャルエネルギーの半分であるから
1
1 e2
E0 = − α 2 m e c 2 = −
2
2 rB
⇒
rB =
e2 1
re
λe
= 2 = .
2
2
me c α
α
α
(1.6)
まず、微細構造定数は
α=
e2
(4.8 × 1010 )2
1
=
≈
−27
10
!c
1.05 × 10
× 3 × 10
137
(1.7)
200MeV · fm
≈ 400fm ≈ 4 × 10−11 cm.
0.5MeV
(1.8)
のように、有名な 1/137 となる。電子の質量は 0.5MeV なので、そのコンプトン波長は
λe ≈
したがって、re = αλe ≈ 3 × 10−13 cm、rB = 0.5 × 10−8 cm=0.5Å。
解 1.4 ニュートン力学を光速の粒子に使って良いのかなどという正しい疑問を無視すれば
1 2 Gm
c =
2
rS
⇒
rS =
2Gm
c2
(1.9)
が得られる。太陽 (m = M⊙ ≈ 2 × 1033 g) の場合は
rS (M⊙ ) =
2GM⊙
= 3km.
c2
4
(1.10)
解 1.5
!
2Gm
= 2
mc
c
⇒
mpl =
!
!c
= 10−5 g.
G
(1.11)
これをプランク質量と呼ぶ2 。c は相対論が効いていることを、! は量子論、G は重力
がそれぞれ関与していることを示す。その意味で、これは我々の自然法則がすべて関
与するような特徴的なスケールを示していることになる。
解 1.6 プランク質量に対応するシュワルツシルド半径 (同じことだが、コンプトン波長) が
プランク長さで
!
!G
rpl =
= 10−33 cm.
(1.12)
c3
さらにこれを光速で横切る時間がプランク時間で
!
!G
tpl =
= 10−43 秒.
5
c
(1.13)
通常、これらより小さいスケールにおける物理現象を記述するためには、既知の物理
法則を超えた究極の物理理論が必要であると考えられている。
ところで、上述の議論に登場した e2 は電磁相互作用の強さを表わす量であるが、重
力の場合には Gm2 がそれに対応する。そこで m として陽子の質量 mp を選んで
Gm2p
αG ≡
=
!c
"
mp
mpl
#2
≈ 5.9 × 10−39
(1.14)
を重力微細構造定数と呼ぶことがある。この無次元量はとてつもなく小さい。その理
由はわからないが、事実として我々の世界をつくる粒子の典型的な質量は、物理定数
から決まる典型的なスケールに比べて異常に小さいわけだ。そしてこの不自然さこそ
が、我々の世界の安定性を保証しているとも言える。なんとも不思議なことだ3 。
細かいことを言えば、換算コンプトン波長と通常のコンプトントン波長のどちらをシュワルツシルド半径
と等値すべきかはわからない。ここでは慣用に従うが、この種の議論の係数には(恣意的な)任意性が残って
いることは覚えておくべきである。これ以降ほとんどの場合数係数の細かい値は無視するが、それはバラン
ス感覚として適切である。
3
須藤靖:
『ものの大きさ』(東京大学出版会、2006年)参照。
2
5
記号
G
h
!
c
kB
mpl
ℓpl
tpl
εpl
Tpl
ρpl
名称
重力定数
プランク定数
プランク定数
光速度
ボルツマン定数
プランク質量
プランク長さ
プランク時間
プランクエネルギー
プランク温度
プランク密度
値
10−8 cm3
注
g−1
s−2
6.67 ×
6.63 × 10−27 erg s
1.05 × 10−27 erg s
3.00 × 1010 cm s−1
1.38 × 10−16 erg K−1
2.18 × 10−5 g
1.62 × 10−33 cm
5.39 × 10−44 s
1.22 × 1019 GeV
1.42 × 1032 K
5.16 × 1093 g cm−3
表 1: 基本物理定数とプランクスケール
6
$
$!c/G
3
$!G/c
5
$!G/c
5
$!c /G
!c5 /G/kB
5
c /(!G2 )
2
2.1
極座標とクリストッフェル記号
問題
3次元の極座標の場合を例として、具体的に接続係数を計算して、親しみをもってもら
おう。3次元極座標系における基底ベクトル、およびそのデカルト座標における成分を
∂r
= (sin θ cos ϕ, sin θ sin ϕ, cos θ),
∂r
∂r
eθ =
= r(cos θ cos ϕ, cos θ sin ϕ, − sin θ),
∂θ
∂r
eϕ =
= r(− sin θ sin ϕ, sin θ cos ϕ, 0).
∂ϕ
er =
(2.1)
(2.2)
(2.3)
と選ぶ (これらは互いに直交しているが、規格化はされていない)。
問 2.1 (2.1) 式を微分し、∇k ej = Γijk eµ からゼロでない接続係数が以下で与えられること
を示せ。
Γrθθ = −r,
1
Γθrθ = Γθθr = ,
r
cos θ
=
.
sin θ
Γrϕϕ = −r sin2 θ,
1
Γϕrϕ = Γϕϕr = ,
r
Γϕϕθ = Γϕθϕ
Γθϕϕ = − sin θ cos θ,
(2.4)
問 2.2 (2.4) 式を用いて、ベクトル A = Ar er + Ar eθ + Ar eϕ の発散 Ai ;i を計算せよ。
問 2.3 上記の答えは、あまり馴染みがない結果に思えるに違いない。その理由は (2.1) 式で
定義した基底が規格化されていないからである。そこで、以下の正規直交基底:
er̂ = er ,
1
eθ̂ = eθ ,
r
eϕ̂ =
1
eϕ
r sin θ
(2.5)
によって展開した時の成分 A = Ai ei = Aî eî を用いて、問 2.2 で得られた結果を書き
直せ。
問 2.4 問 2.2 の Ai に関数 f を微分した ∇f ≡ f ,i ei の成分 f ,i を代入すれば、ラプラシアン
の極座標表示が得られる。しかし (f ,r , f ,θ , f ,ϕ ) = (∂f /∂r, ∂f /∂θ, ∂f /∂ϕ) を代入する
と正しい答えは得られない。どこか間違っているのかを考えて、正しい表式を求めよ。
7
2.2
解答例
解 2.1 (2.1) 式より
∂er
∂er
1
∂er
1
= 0,
= eθ ,
= eϕ ,
∂r
∂θ
r
∂ϕ
r
∂eθ
1
∂eθ
∂eθ
cos θ
= eθ ,
= −rer ,
=
eϕ ,
∂r
r
∂θ
∂ϕ
sin θ
∂eϕ
1
∂eϕ
cos θ
∂eϕ
= eϕ ,
=
eϕ ,
= −r sin2 θer − sin θ cos θeθ
∂r
r
∂θ
sin θ
∂ϕ
(2.6)
となるので、∇k ej = Γijk ei から読み取れば (2.4) を得る。確かに、Γijk は下の2つの
添字に関して対称となっていることにも注意。
解 2.2 共変微分の定義に従って書き下せば良い。
Ai ;i = Ai ,i + Γiki Ak = Ai ,i + Γθrθ Ar + Γϕrϕ Ar + Γϕθϕ Aθ
=
∂Ar ∂Aθ ∂Aϕ 2 r cos θ θ
+
+
+ A +
A.
∂r
∂θ
∂ϕ
r
sin θ
(2.7)
解 2.3 (2.5) 式より、異なる基底に対応する成分は
Ar = Ar̂ ,
1
Aθ = Aθ̂ ,
r
Aϕ =
1
Aϕ̂ .
r sin θ
(2.8)
これを (2.7) 式に代入すれば良い。
Aî ;î = Ai ;i =
∂Ar̂ ∂(Aθ̂ /r) ∂(Aϕ̂ /r sin θ) 2 r̂ cos θ Aθ̂
+
+
+ A +
∂r
∂θ
∂ϕ
r
sin θ r
1 ∂(r2 Ar̂ )
1 ∂(sin θAθ̂ )
1 ∂Aϕ̂
= 2
+
+
.
r
∂r
r sin θ
∂θ
r sin θ ∂ϕ
(2.9)
これならば見覚えがあるだろう。つまり共変微分とは一般相対論だけで重要な概念で
もなんでもなく、例えば極座標変換においてはすでに何度も繰り返して用いていたも
のなのである。成分だけでなくその基底の微分も忘れないという当たり前のことを、
忘れないように共変という名前で注意を喚起しているに過ぎない。
解 2.4 偏微分の定義は
∂µ f = f,µ =
∂f
∂xµ
(2.10)
であり、これは f ,µ とは異なるため、問題文のような操作は間違っている。正しくは
f ,µ = g µν f,ν = g µν (∂f /∂xν ) としなくてはならないので、
f ,r = g rr f,r =
∂f
,
∂r
f ,θ = g θθ f,θ =
1 ∂f
,
r2 ∂θ
8
f ,ϕ = g ϕϕ f,ϕ =
1
∂f
2
r2 sin θ ∂ϕ
(2.11)
を代入すれば良い。したがって、
"
#
"
#
1 ∂
1
∂
∂
1
∂2
2 ∂
∆= 2
r
+ 2
sin θ
+ 2 2
r ∂r
∂r
r sin θ ∂θ
∂θ
r sin θ ∂ϕ2
(2.12)
が導かれる。これからもわかるように、添字の上下を区別する記法を用いていれば無
意味な混乱や間違いを防ぎ、機械的に計算するだけで正解にたどり着くことができる。
9
3
3.1
計量テンソルとリーマンテンソル
問題
問 3.1 計量テンソルの共変微分 gαβ;µ および g αβ ;µ を、定義にしたがってクリストッフェル
記号を用いて書き下せ。
問 3.2 接続係数がクリストッフェル記号:
Γα βγ = g αµ Γµβγ = g αµ
1
(gµβ,γ + gµγ,β − gβγ,µ )
2
(3.1)
で与えられる場合には、問 3.1 で求めた計量テンソルの共変微分は0になることを
示せ。
問 3.3 リーマンテンソルは、任意のベクトル Aµ を 2 回共変微分した際の非可換性と以下
のように結びついている。
Aµ ;βα − Aµ ;αβ = (∇α ∇β − ∇β ∇α )Aµ ≡ Rµ ναβ Aν
(3.2)
この式の左辺を具体的に計算することで、リーマンテンソルが
Rµ ναβ = Γµ νβ,α − Γµ να,β + Γµ λα Γλ νβ − Γµ λβ Γλ να
= ∂α Γµ νβ − ∂β Γµ να + Γµ λα Γλ νβ − Γµ λβ Γλ να
(3.3)
で与えられることを示せ。
問 3.4 (3.3) 式を用いて、リーマンテンソルが以下の対称性を持っていることを示せ。
Rµ αβγ = −Rµ αγβ ,
Rµ αβγ + Rµ βγα + Rµ γαβ = 0.
(3.4)
(3.5)
問 3.5 (3.2) 式は共変形式になっているので、両辺を Aµ と縮約すると
Aµ (Aµ ;βα − Aµ ;αβ ) = Rµ ναβ Aν Aµ = Rµναβ Aν Aµ
(3.6)
Rµναβ = −Rνµαβ
(3.7)
Rµναβ ≡ gµλ Rλ ναβ
(3.8)
が成り立つことを用いて
を示せ。ただし
である。
問 3.6 (3.4) 式、(3.5) 式、及び (3.7) 式を組み合わせて、
Rαβγδ = Rγδαβ ,
を示せ。
10
(3.9)
3.2
解答例
解 3.1 共変微分の定義に従えば
gαβ;γ = gαβ,γ − Γµ αγ gµβ − Γµ βγ gαµ = gαβ,γ − Γβαγ − Γαβγ ,
g
αβ
;γ
=g
αβ
,γ
α
+Γ
µγ g
µβ
β
+Γ
µγ g
αµ
.
(3.10)
(3.11)
解 3.2 (3.1) 式を代入すると直ちに
gαβ;γ = gαβ,γ − Γβαγ − Γαβγ
1
1
= gαβ ,γ − (gβα,γ + gβγ,α − gαγ,β ) − (gαβ,γ + gαγ,β − gβγ,α ) = 0. (3.12)
2
2
同様に、
g αβ ;γ = g αβ ,γ + Γα µγ g µβ + Γβ µγ g αµ = g αβ ,γ + (g µβ g αν + g αµ g βν )Γνµγ
1
= g αβ ,γ + (g µβ g αν + g αµ g βν )(gνµ,γ + gνγ,µ − gµγ,ν ).
2
(3.13)
上式の最後の項の1つ目の括弧は µ と ν の入れ替えに対して対称なので、2 つ目の括
弧の中でも反対称な項は消えて、対称な項だけが残る。さらに、
(g αν gνµ ),γ = (δ α )µ,γ = 0 = g αν ,γ gνµ + g αν gνµ,γ
(3.14)
を用いると、
1
g αβ ;γ = g αβ ,γ + (g µβ g αν + g αµ g βν )gνµ,γ
2
1
1
= g αβ ,γ − g µβ g αν ,γ gνµ − g αµ g βν ,γ gνµ
2
2
1
1
= g αβ ,γ − g αν ,γ δ β ν − g βν ,γ δ α ν = 0.
2
2
(3.15)
解 3.3 共変微分の定義式に従って計算すればよいだけ。
Aµ ;β = Aµ ,β + Γµ νβ Aν ,
A
µ
;βα
= (A
µ
µ
=A
;β ),α
,βα
µ
(3.16)
ν
+Γ
να A ;β
µ
ν
+Γ
νβ,α A
λ
−Γ
µ
+Γ
µ
βα A ;λ
ν
νβ A ,α
+ Γµ να (Aν ,β + Γν λβ Aλ ) − Γλ βα (Aµ ,λ + Γµ νλ Aν )
(3.17)
において、α と β に関して対称でない項にのみ注目すればよいから
Aµ ;βα − Aµ ;αβ = Γµ νβ,α Aν − Γµ να,β Aν + Γµ λα Γλ νβ Aν − Γµ λβ Γλ να Aν
= (Γµ νβ,α − Γµ να,β + Γµ λα Γλ νβ − Γµ λβ Γλ να )Aν .
したがって (3.3) 式が得られる。
11
(3.18)
解 3.4 (3.4) 式は、(3.1) 式が2つの下添字の入れ替えに対して対称であることから明らか。
(3.5) 式は、3 つの項に対して (3.3) 式を実直に書き下せば
Rµ αβγ = ∂β Γµ αγ − ∂γ Γµ αβ + Γµ λβ Γλ αγ − Γµ λγ Γλ αβ ,
Rµ βγα = ∂γ Γµ βα − ∂α Γµ βγ + Γµ λγ Γλ βα − Γµ λα Γλ βγ ,
Rµ γαβ = ∂α Γµ γβ − ∂β Γµ γα + Γµ λα Γλ γβ − Γµ λβ Γλ γα
(3.19)
となるので、3つを足せば0になることがわかる。
解 3.5 問 3.2 より、共変微分と添字の上げ下げは可換であるから
(Aµ Aµ );βα = Aµ Aµ ;βα + Aµ;β Aµ ;α + Aµ;α Aµ ;β + Aµ Aµ;βα
= 2Aµ Aµ ;βα + Aµ;β Aµ ;α + Aµ;α Aµ ;β .
(3.20)
(Aµ Aµ );βα − (Aµ Aµ );αβ = 2Aµ (Aµ ;βα − Aµ ;αβ )
(3.21)
したがって、
となる。一方、Aµ Aµ はスカラー量なので、その共変微分は通常の偏微分であり可換
なので、上式より (3.6) 式の左辺は任意の Aµ に対して0となる。つまり、(3.6) 式の右
辺は上添字 µ と ν の入れ替えに対して対称なテンソルと縮約して常に0となるから、
Rµναβ は、下添字 µ と ν の入れ替えに対して反対称となる。したがって、
Rµναβ = −Rνµαβ .
(3.22)
解 3.6 3つの関係式を繰り返し用いると
Rαβγδ = −Rαγδβ − Rαδβγ = Rγαδβ + Rδαβγ = −Rγδβα − Rγβαδ − Rδβγα − Rδγαβ
= 2Rγδαβ + Rβγαδ + Rβδγα = 2Rγδαβ − Rβαδγ = 2Rγδαβ − Rαβγδ .
(3.23)
となるので、
Rαβγδ = Rγδαβ
が示された。
12
(3.24)
4
4.1
シュワルツシルド時空のクリストッフェル記号
問題
問 4.1 シュワルツシルド時空:
%
'
(
rs & 2
dr2
ds2 = − 1 −
dt +
+ r2 dθ2 + sin2 θ dϕ2
r
1 − rs /r
(4.1)
におけるクリストッフェル記号が以下で与えられることを示せ(これら以外の成分は
ゼロ、あるいは対称性を用いて得られる)。
rs
rs %
rs &
Γt rt = −Γr rr = 2
,
Γr tt = 2 1 −
,
(4.2)
2r (1 − rs /r)
2r
r
Γr θθ = rs − r,
1
Γθ θr = Γϕ ϕr = ,
r
Γr ϕϕ = (rs − r) sin2 θ,
Γθ ϕϕ = − sin θ cos θ,
(4.3)
Γϕ θϕ = cot θ.
(4.4)
以下の公式:
Γα βγ = g αµ
1
(gµβ,γ + gµγ,β − gβγ,µ )
2
(4.5)
を用いて計算しても良いが、変分法を用いて測地線の方程式を導きそれからクリス
トッフェル記号を読み取るほうがずっと簡単である。
問 4.2 問 4.1 の結果と
Rµ ναβ = Γµ νβ,α − Γµ να,β + Γµ λα Γλ νβ − Γµ λβ Γλ να
(4.6)
を用いて、以下を示せ(これら以外の成分はゼロ、あるいは対称性を用いて得られる)。
rs
,
− rs )
rs (r − rs )
=−
,
r4
rs (r − rs )
=
,
2r4
rs (r − rs )
=
,
2r4
Rt rtr =
Rr trt
Rθ tθt
Rϕ tϕt
r2 (r
rs
,
2r
rs
=− ,
2r
rs
sin2 θ,
2r
rs
Rr θrθ
Rr ϕrϕ = − sin2 θ,
2r
r
rs
s
Rθ rθr = − 2
,
Rθ ϕθϕ = sin2 θ,
2r (r − rs )
r
rs
rs
Rϕ rϕr = − 2
,
Rϕ θϕθ = .
2r (r − rs )
r
Rt θtθ = −
Rt ϕtϕ = −
(4.7)
(4.8)
(4.9)
(4.10)
問 4.3 問 4.2 の結果を用いて、シュワルツシルド時空におけるリッチテンソル Rαβ = Rµ αµβ
とリッチスカラー R = Rµ µ を求めよ。
13
4.2
解答例
解 4.1(公式に代入する方法)シュワルツシルド計量は対角成分しかなく、t と ϕ には依存
しないことに注意すれば、公式を素直に用いてもそれなりに簡単である。
% r &
g tt
1
rs
s
(4.11)
Γt rt =
gtt,r = −
× − 2 = 2
,
2
2(1 − rs /r)
r
2r (1 − rs /r)
g rr
1%
rs & % rs &
1
rs
Γr rr =
grr,r =
1−
× − 2
=− 2
,
(4.12)
2
2
2
r
r (1 − rs /r)
2r (1 − rs /r)
g rr
1%
rs & % rs &
rs %
rs &
r
Γ tt = − gtt,r = − 1 −
× − 2 = 2 1−
,
(4.13)
2
2
r
r
2r
r
%
&
g rr
1
rs
Γr θθ = − gθθ,r = − 1 −
2r = rs − r,
(4.14)
2
2
r
%
&
g rr
1
rs
Γr ϕϕ = − gϕϕ,r = − 1 −
2r sin2 θ = (rs − r) sin2 θ,
(4.15)
2
2
r
g θθ
1
1
Γθ θr =
gθθ,r = 2 × 2r = ,
(4.16)
2
2r
r
g θθ
1
Γθ ϕϕ = − gϕϕ,θ = − 2 × 2r2 sin θ cos θ = − sin θ cos θ,
(4.17)
2
2r
g ϕϕ
1
Γϕ ϕr = −
gϕϕ,r = ,
(4.18)
2
r
g ϕϕ
1
Γϕ θϕ =
gϕϕ,θ = 2 2 × 2r2 sin θ cos θ = cot θ.
(4.19)
2
2r sin θ
解 4.1(測地線の方程式から読み取る方法)線素を変分することで測地線の方程式を導出す
れば、0でない成分だけを読み取ることができるので、無駄な計算をする必要がなく
なる。具体的にはドットを τ に関する微分として
%
rs & 2
ṙ2
L≡− 1−
ṫ +
+ r2 θ̇2 + r2 sin2 θ ϕ̇2
(4.20)
r
1 − rs /r
と定義してオイラー・ラグランジュ方程式を立てれば良い。 まず
∂L
d ∂L
d )%
rs & * %
rs &
rs
−
=0 ⇒
1−
ṫ = 1 −
ẗ + 2 ṙṫ = 0.
∂t
dτ ∂ ṫ
dτ
r
r
r
(4.21)
したがって、
Γt rt =
同様に
⇒
rs
.
2r2 (1 − rs /r)
∂L
d ∂L
−
=0
∂r
dτ ∂ ṙ
rs
rs /r2
− 2 ṫ2 −
ṙ2 + 2rθ̇2 + 2r sin2 θϕ̇2
r
(1 − rs /r)2
"
#
d
2ṙ
2r̈
2rs /r2
=
=
−
ṙ2
dτ 1 − rs /r
1 − rs /r (1 − rs /r)2
14
(4.22)
(4.23)
より
Γr tt =
rs (1 − rs /r)
,
2r2
Γr θθ = rs − r,
∂L
d ∂L
−
=0
∂θ
dτ ∂ θ̇
Γr rr = −
2r2 (1
rs
,
− rs /r)
Γr ϕϕ = (rs − r) sin2 θ.
⇒ 2r2 sin θ cos θϕ̇2 =
1
⇒ Γθ rθ = ,
r
(4.24)
d
(2r2 θ̇) = 4rṙθ̇ + 2r2 θ̈
dτ
Γθ ϕϕ = − sin θ cos θ.
(4.25)
∂L
d ∂L
−
=0
∂ϕ dτ ∂ ϕ̇
d 2 2
⇒
(r sin θϕ̇) = 2r sin2 θṙϕ̇ + 2r2 sin θ cos θθ̇ϕ̇ + r2 sin2 θϕ̈ = 0
dτ
1
cos θ
⇒ Γϕ rϕ = , Γϕθϕ =
.
(4.26)
r
sin θ
解 4.2 こちらはやや面倒だが、基本的にはただ代入して計算するだけである。
Rt rtr = Γt rr,t − Γtrt,r + Γt λt Γλ rr − Γt λr Γλ rt = 0 − Γtrt,r + Γt rt Γr rr − Γt tr Γt rt
=
rs 2r − rs
rs2
rs
−
2
×
= 2
,
2
2
2
2
2 (r − rs r)
4(r − rs r)
r (r − rs )
Rt θtθ = Γt θθ,t − Γtθt,θ + Γt λt Γλ θθ − Γt λθ Γλ θt = 0 − 0 + Γt rt Γr θθ − 0
rs
rs
=
× (rs − r) = − ,
2r(r − rs )
2r
Rt ϕtϕ = Γt ϕϕ,t − Γtϕt,ϕ + Γt λt Γλ ϕϕ − Γt λϕ Γλ ϕt = 0 − 0 + Γt rt Γr ϕϕ − 0
rs
rs
=
× (rs − r) sin2 θ = − sin2 θ.
2r(r − rs )
2r
Rr ttr = Γr tr,t − Γrtt,r + Γr λt Γλ tr − Γr λr Γλ tt = 0 − Γrtt,r + Γr tt Γt tr − Γr rr Γr tt
"
#
"
#
rs 2
3rs
rs 1
rs
rs
=
− 4 +2×
− 3 ×
3
2
2 r
r
2 r
r
2r(r − rs )
"
#
rs
3rs
rs rs
rs (r − rs )
= 3 2−
+ 3
=
,
2r
r
r 2r
r4
Rr θrθ = Γr θθ,r − Γrθr,θ + Γr λr Γλ θθ − Γr λθ Γλ θr
(4.28)
(4.29)
(4.30)
rs
r − rs
rs
+
=− ,
(4.31)
2r
r
2r
= Γr ϕϕ,r − Γrϕr,ϕ + Γr λr Γλ ϕϕ − Γr λϕ Γλ ϕr = Γr ϕϕ,r − 0 + Γr rr Γr ϕϕ − Γr ϕϕ Γϕ ϕr
rs
rs − r 2
rs
= − sin2 θ −
(rs − r) sin2 θ −
sin θ = − sin2 θ.
(4.32)
2r(r − rs )
r
2r
= Γr θθ,r − 0 + Γr rr Γr θθ − Γr θθ Γθ θr = −1 +
Rr ϕrϕ
(4.27)
15
Rθ rθr = Γθ rr,θ − Γθrθ,r + Γθ λθ Γλ rr − Γθ λr Γλ rθ = 0 − Γθrθ,r + Γθ rθ Γr rr − Γθ θr Γθ rθ
"
#
1
1
rs
1
rs
= 2+
−
−
=− 2
,
r
r
2r(r − rs ) r
2r (r − rs )
(4.33)
Rθ ttθ = Γθ tθ,t − Γθtt,θ + Γθ λt Γλ tθ − Γθ λθ Γλ tt
rs (r − rs )
= 0 − 0 + 0 − Γθ rθ Γr tt = −
,
(4.34)
2r4
Rθ ϕϕθ = Γθ ϕθ,ϕ − Γθϕϕ,θ + Γθ λϕ Γλ ϕθ − Γθ λθ Γλ ϕϕ = 0 − Γθϕϕ,θ + Γθ ϕϕ Γϕ ϕθ − Γθ rθ Γr ϕϕ
1
rs
= cos2 θ − sin2 θ − sin θ cos θ × cot θ − × (rs − r) sin2 θ = − sin2 θ. (4.35)
r
r
Rϕ ttϕ = Γϕ tϕ,t − Γϕtt,ϕ + Γϕ λt Γλ tϕ − Γϕ λϕ Γλ tt
rs (r − rs )
= 0 − 0 + 0 − Γϕ rϕ Γr tt = −
,
(4.36)
2r4
Rϕ θθϕ = Γϕ θϕ,θ − Γϕθθ,ϕ + Γϕ λθ Γλ θϕ − Γϕ λϕ Γλ θθ = Γϕ θϕ,θ − 0 + Γϕ ϕθ Γϕ θϕ − Γϕ rϕ Γr θθ
1
1
rs
= − 2 + cot2 θ − (rs − r) = − ,
(4.37)
r
r
sin θ
Rϕ rϕr = Γϕ rr,ϕ − Γϕrϕ,r + Γϕ λϕ Γλ rr − Γϕ λr Γλ rϕ = 0 − Γϕ rϕ,r + Γϕ rϕ Γr rr − Γϕ ϕr Γϕ rϕ
"
#
1
1
rs
1
rs
= 2+ × − 2
− 2 =− 2
.
r
r
2(r − rrs )
r
2r (r − rs )
(4.38)
解 4.3 解 4.2 の結果を用いれば、Rαβ = 0、したがって R = 0 となることが容易にわかる。
16
水星の近日点移動 その1
5
5.1
問題
シュワルツシルド時空の原点のまわりを一個の質点が運動する場合を考える。対称性よ
り一般性を失うことなく、粒子の軌道面を θ = π/2 と選ぶことができるので、次の作用:
+
+ , %
rs & 2
ṙ2
2 2
S = L dτ ≡
− 1−
ṫ +
+ r ϕ̇ dτ
(5.1)
r
1 − rs /r
を変分すれば、運動方程式が得られる。ここで、rs = 2GM はシュワルツシルド半径、ま
た · ≡ d/dτ とする。以下同様。
問 5.1 次式で定義される ε と j
ε ≡
%
1−
j ≡ r2 ϕ̇
rs &
ṫ
r
(5.2)
(5.3)
がいずれも運動の定数であることを示せ。
S を r について変分すれば運動方程式が得られるのだが、以下ではその代わりに
%
rs & 2
dr2
dτ 2 = 1 −
dt −
− r2 dϕ2
r
1 − rs /r
(5.4)
に (5.2) 式と (5.3) 式を代入して得られる
rs
1−
= ε2 −
r
"
dr
dτ
#2
を考える。ここで
ε2 − 1
E≡
,
2
%
rs & j 2
− 1−
r r2
rs j 2
GM j 2
δU ≡ − 3 = − 3
2r
r
rs
GM
U0 ≡ − = −
,
2r
r
U = U0 + δU,
(5.5)
(5.6)
とおけば、(5.5) 式はニュートン力学の結果と類似した
"
dr
dτ
#2
= 2(E − U ) −
j2
r2
(5.7)
に変形できる。さらに、(5.3) 式を (5.5) 式の平方根で辺々割り算すれば、軌跡の方程式:
dϕ
j/r2
= ±$
dr
2(E − U ) − j 2 /r2
が得られる。以下、δU ≪ U0 かつ E < 0 の束縛軌道を考える。
17
(5.8)
問 5.2 δU を無視した時、質点は
"
#
j2
GM
j2
2(E − U0 ) − 2 = 2 E +
− 2 =0
r
r
r
(5.9)
をみたす 2 つの実数解 rmax と rmin のあいだの周期運動をする。このケプラー運動が
軌道長半径 a、離心率 e の楕円軌道:
r=
a(1 − e2 )
1 + e cos ϕ
(5.10)
となることを既知として、(5.9) 式から a、e、a(1 − e2 ) の表式を求めよ。
問 5.3 δU を考慮した場合には、近似的な楕円運動の1周期に回転する角度の大きさは
(5.8) 式より
+ rmax
j/r2
∆ϕ ≈ 2
dr $
(5.11)
2(E − U ) − j 2 /r2
rmin
で与えられる。さらに (5.11) 式の被積分関数を展開すれば、δU の最低次で
+ rmax
+ rmax
j/r2
jδU/r2
∆ϕ ≈ 2
dr $
+2
dr
[2(E − U0 ) − j 2 /r2 ]3/2
2(E − U0 ) − j 2 /r2
rmin
rmin
(5.12)
となることを示せ。
問 5.4 (5.12) 式の右辺の第一項は、通常のケプラー運動の場合に対応する。その値はいく
らか。
問 5.5 (5.12) 式の右辺の第二項が、一般相対論による補正項を与える。その被積分関数が
.
/
jδU/r2
∂
1
$
dr = δU
(5.13)
[2(E − U0 ) − j 2 /r2 ]3/2
∂j
2(E − U0 ) − j 2 /r2
と変形できることを利用して、
+ rmax
jδU/r2
2
dr
[2(E − U0 ) − j 2 /r2 ]3/2
rmin
.+
/
rmax
∂
dr
6πGM
$
= − 2GM j 2
=
3
2
2
∂j rmin r 2(E − U0 ) − j /r
a(1 − e2 )
(5.14)
となることを示せ。
問 5.6 水星の軌道長半径は a = 0.387AU、離心率は e = 0.2056、公転周期は 0.24 年であ
る。問 5.5 の結果は c = 1 の場合の表式であることに注意して、水星が太陽の周りを
公転する際に、一般相対論的効果によってその近日点が1世紀あたり移動する角度を
求めよ。
18
5.2
解答例
解 5.1 被変分関数 L は t と ϕ をあらわには含まないので、
%
∂L
rs &
= −2 1 −
ṫ,
r
∂ ṫ
はともに運動の定数となる。したがって
%
rs &
1−
ṫ = ε
r
r2 ϕ̇ = j
∂L
= 2r2 ϕ̇
∂ ϕ̇
(5.15)
(= 定数)
(5.16)
(= 定数).
(5.17)
とおくことができる。
解 5.2 (5.9) 式の解は
2Er2 + 2GM r − j 2 = 0
⇒
GM
r=−
2E
0
1±
!
Ej 2
1+2 2 2
GM
とおける。したがって、
!
!
GM
|E|j 2
j2
a=
,
e= 1−2 2 2 = 1−
,
2|E|
GM
aGM
1
≡ a(1 ± e) (5.18)
a(1 − e2 ) =
j2
.
GM
(5.19)
解 5.3 U = U0 + δU を代入して展開すれば良い。
j/r2
j/r2
"
1
−2δU
1−
2 2(E − U0 ) − j 2 /r2
$
≈$
2(E − U ) − j 2 /r2
2(E − U0 ) − j 2 /r2
j/r2
jδU/r2
=$
+
2(E − U0 ) − j 2 /r2 [2(E − U0 ) − j 2 /r2 ]3/2
#
(5.20)
解 5.4 ケプラー運動では軌道は閉じるので 2π となるという解答でも良いし、(5.8) 式を代
入して
+ rmax
+ π
j/r2
2
dr $
=2
dϕ = 2π
(5.21)
2(E − U0 ) − j 2 /r2
rmin
0
でも良い。もっと直接的には、(5.10) 式を代入して
2E
(r − rmax )(r − rmin )
r2 "
#"
#
a(1 + e)
a(1 − e)
= 2|E|
−1
1−
r
r
"
#2
2
e
eGM
= 2|E|
sin2 ϕ =
sin2 ϕ.
2
1−e
j
2(E − U0 ) − j 2 /r2 =
19
(5.22)
一方、(5.10) 式より
dr
e sin ϕ
= a(1 − e2 )
,
dϕ
(1 + e cos ϕ)2
これらをまとめれば
j
(1 + e cos ϕ)2
=
j
.
r2
a2 (1 − e2 )2
(5.23)
j/r2
j
e sin ϕ
j2
dϕ
$
dr =
×j
dϕ
=
= dϕ (5.24)
2
2
2
eGM sin ϕ
a(1 − e )
aGM 1 − e2
2(E − U0 ) − j /r
となり (5.21) 式に一致することが確認できる。
解 5.5 (5.14) 式に出てくる積分は、問 5.4 で用いた変形を利用すれば
+ rmax
+ π
+ π
dr
1 dϕ
dϕ
$
= =
3
2
3
2(E − U0 ) − j 2 /r2
rmin r
0 r j/r
0 jr
+ π
GM
πGM
= 3
(1 + e cos ϕ)dϕ =
.
j
j3
0
(5.25)
ここで、r = a(1 − e2 )/(1 + e cos ϕ) = (j 2 /GM )/(1 + e cos ϕ) を用いた。したがって、
+ rmax
jδU/r2
2
dr
[2(E − U0 ) − j 2 /r2 ]3/2
rmin
,
πGM
6πG2 M 2
6πGM
2 ∂
= − 2GM j
=
=
.
(5.26)
3
2
∂j
j
j
a(1 − e2 )
となる。
解 5.6 単に代入するだけである。
∆ϕ ≃
6πGM⊙ /c2
∼ 5 × 10−7 rad/公転 (0.24yr) ∼ 43′′ /世紀.
a(1 − e2 )
(5.27)
ただし実際には、ニュートン力学の枠内でも太陽系内の他の惑星の摂動による効果が
一世紀あたり 531′′ ある。また、地球から観測する際には地球自身の歳差運動の効果
を差し引いてから比較する必要があるが、それは一世紀あたり 5600′′ である。すなわ
ち、この効果が一般相対論の検証であるためには、ニュートン力学を用いて他の効果
を極めて精密に計算する必要がある。その意味では、第一義的にはニュートン力学の
高い信頼性を示したという解釈すら可能である。
20
水星の近日点移動 その2
6
6.1
問題
(5.12) 式の右辺の第二項が、一般相対論による補正項を与えると述べたのだが、その実
際の計算にはかなり不自然な技巧を用いている。ケプラー運動の軌道は (5.24) 式で与えら
れているので、仮に計算が面倒であってもそれを素直に代入する方がずっとすっきりして
いるように思えてくる。実際に、(5.22) 式と (5.24) 式を用いて、第二項の被積分関数を変形
すれば
jδU/r2
δU
dr =
dϕ
2
2
3/2
[2(E − U0 ) − j /r ]
2(E − U0 ) − j 2 /r2
GM j 2
j2
j4
dϕ
=−
dϕ
=
−
2
2
3
2
2
2
2
r
e G M sin ϕ
e GM sin ϕ r3
a2 (1 − e2 )2 G2 M 2 (1 + e cos ϕ)3
GM
(1 + e cos ϕ)3
=−
dϕ
=
−
dϕ
a3 (1 − e2 )3
a(1 − e2 )e2
e2 GM sin2 ϕ
sin2 ϕ
(6.1)
となる。したがって、これを ϕ について 0 から 2π まで積分すれば発散してしまう。つまり、
(5.13) 式は、計算をスマートにやるためではなく、発散を防ぐために導入したものだったの
だ。しかし、このままではこの結果が本当に正しいのかどうかわからない。そこで、以下
では問 5.1 の式を異なる方法で計算してみる4 。
問 6.1 再び
を考える。ここで、
dϕ
j/r2
= ±$
dr
2(E − U ) − j 2 /r2
rs
rs j 2
U = U0 + δU ≡ − − 3 .
2r
2r
(6.2)
(6.3)
常識的には誰もが試すように、(6.2) 式の U を展開して、δU の最低次を取り出し、そ
れを計算すると(形式的には)発散してしまう。そこでまず、rs /r ≪ 1 を仮定して、
以下の変形が近似的に成り立つことを示せ。
"
#
, "
#
rs
rs j 2
j2 %
rs &
1 + 2E
j 2 − rs2
2 E+
+ 3 − 2 ≈ 1−
2 E+
rs −
(6.4)
2r
2r
r
r
2r
r2
問 6.2 (6.4) 式を参考にして
$
j 2 − rs2 /r2
dφ
= ±2 "
#
dr
1 + 2E
j 2 − rs2
2 E+
rs −
2r
r2
(6.5)
以下は、ジェームス・ハートル著、牧野伸義訳『重力』(日本評論社)の第 9 章の問題 15 を参考にした
ものである。
4
21
という軌道を考える。|E| ≪ 1, j ≫ rs とすれば、ニュートン力学のケプラー運動の
場合と同じく、その解は
r=
a′ (1 − e′2 )
1 + e′ cos φ
(6.6)
で与えられる。これより、a′ , e′2 、および a′ (1 − e′2 ) を求めよ。
問 6.3 (6.6) 式を用いて (6.2) 式を
dϕ
j
1
dφ
$
=$
≈
dr
j 2 − rs2 1 − rs /r dr
"
r2
1 + s2
2j
#%
1+
と変形して、φ が 0 から 2π 変化する際の、ϕ の変化量 ∆ϕ が
∆ϕ − 2π ≈
3πrs
6πGM
=
2
a(1 − e )
a(1 − e2 )
rs & dφ
2r dr
に帰着することを示せ。ここで、a と e は、問 5.2 で得られたものである。
22
(6.7)
(6.8)
解答例
6.2
解 6.1
"
rs
rs j 2
2 E+
+ 3
2r
2r
#
,
j2 %
rs & E + rs /2r j 2
− 2 = 1−
2
− 2
r
r
1 − rs /r
r
, %
%
&
&
%
rs
rs
rs & j 2
≈ 1−
2 E+
1+
− 2
r
2r
r
r
, "
#
%
&
2
rs
1 + 2E
j − rs2
= 1−
2 E+
rs −
r
2r
r2
(6.9)
解 6.2 (6.9) 式の零点は
"
1 + 2E
2 E+
rs
2r
より、
#
−
j 2 − rs2
=0
r2
2
.
/
1 + 2E
8E(j 2 − rs2 )
r=−
rs 1 ± 1 +
4E
(1 + 2E)2 rs2
(6.10)
(6.11)
となる。これが a′ (1 ± e′ ) に対応するはずなので、
1 + 2E
a =
rs ,
4|E|
′
8E(j 2 − rs2 )
e =1+
,
(1 + 2E)2 rs2
′2
2(j 2 − rs2 )
a (1 − e ) =
.
(1 + 2E)rs
′
′2
(6.12)
ところで、(6.5) 式の解が本当に (6.6) 式で与えられるのか納得できない場合は、以下
のように実際に代入して確認すればよい。まず (6.5) 式を二乗し、(6.12) 式を代入す
ると
"
dφ
dr
#2
j 2 − rs2
r4
=
1 + 2E
j 2 − rs2
2E +
rs −
r
r2
2
4(j − rs2 )2
(1 + 2E)2 rs2 r4
=
8E(j 2 − rs2 )
4(j 2 − rs2 ) 1
4(j 2 − rs2 )2
+
−
(1 + 2E)2 rs2 (1 + 2E)rs r (1 + 2E)2 rs2 r2
a′2 (1 − e′2 )2
r4
=
.
′
2a (1 − e′2 ) a′2 (1 − e′2 )2
′2
e −1+
−
r
r2
(6.13)
一方、(6.6) 式より、
1
1 + e′ cos φ
= ′
r
a (1 − e′2 )
⇒
23
1
e′ sin φ
dr
=
dφ.
r2
a′ (1 − e′2 )
(6.14)
したがって
"
ここで
dφ
dr
#2
=
a′2 (1 − e′2 )2
1
.
4
′2
r
e sin2 φ
(6.15)
"
a′ (1 − e′2 )
e sin φ = e − e cos φ = e −
−1
r
2a′ (1 − e′2 ) a′2 (1 − e′2 )2
= e′2 − 1 +
−
r
r2
′2
2
′2
′2
′2
2
#2
(6.16)
なので、(6.15) 式と (6.13) 式は確かに一致している。
解 6.3 ここで求めた r = r(φ) を、積分をする際の単なる変数変換に過ぎないと考えて直接
計算すれば良い。(6.13) 式より、
"
# + 2π %
rs2
rs &
∆ϕ ≈ 1 + 2
1+
dφ
2j
2r
0
"
# + 2π "
#
rs2
rs 1 + e′ cos φ
= 1+ 2
1+
dφ
2j
2 a′ (1 − e′2 )
0
"
#,
rs2
rs
2π
= 1+ 2
2π +
(6.17)
2j
2 a′ (1 − e′2 )
となる。したがって、
∆ϕ − 2π ≈
ここで、
rs2
πrs
π
+
.
j2
a′ (1 − e′2 )
.
/
" #2
ε2 − 1
1 %
rs &2 dt
E≡
=
1−
−1
2
2
r
dτ
." #
" #2 /
2
1
dt
rs dt
rs
≈
−1−2
≈ O( )
2
dτ
r dτ
r
(6.18)
⇒
|E| ≪ 1
(6.19)
かつ
j
r
≈
rs
rs
!
!
rs
r
≈ O(
)≫1
r
rs
(6.20)
なので、a′ ≈ a, e′ ≈ e とし、j 2 = a(1 − e2 )rs /2 を代入すれば
∆ϕ − 2π ≈
3πrs
6πGM
=
2
a(1 − e )
a(1 − e2 )
(6.21)
を得る。これは問 5.5 の結果と一致する。ただし、なぜ問 5.5 の結果が正しいのかは
よくわからない。
24