通貨統合と最適通貨圏 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論2016 マクロ金融論2016 単一共通通貨ユーロの導入 • 1999年1月1日より経済通貨同盟(EMU: Economic and Monetary Union)の第3段階に入る。EU(発足当時11か国、現 在、19か国)が金融取引においてユーロを導入。 • 2002年1月1日よりユーロ紙幣・硬貨が流通。 • ユーロ導入国: ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、オース トリア、フィンランド、ポルトガル、アイルランド、ルクセンブルグ、 ギリシア、スロベニア、 キプロス、マルタ、スロバキア、エストニ ア、ラトビア、リトアニア 【未参加:イギリス、スウェーデン、デンマーク、新EU7か国[ポーラ ンド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、]は未参加。 その内、ERMⅡ国は、デンマーク】 2 マクロ金融論2016 ユーロとその導入国 2015年1月1日より リトアニア Source: European Central Bank 3 マクロ金融論2016 表1:ユーロ圏と日・米の比較主要データ ユーロ圏 米国 日本 303 278 127 2,495 9,373 378 GDP** (10億ユーロ) 6,553 10,709 5,145 世界貿易に占 める割合 15.2% 20.3% 8.1% 人口* (100万人) 面積 (1,000 km2) 出典:欧州委員会 4 マクロ金融論2016 通貨同盟への道のり • 1979年に当時のEC加盟国が欧州通貨制度(EMS:European Monetary System)を導入し、為替相場メカニズム(ERM: Exchange Rate Mechanism)を採用。 EMS参加国通貨の加重平均値である欧州通貨単位(ECU: European Currency Unit)が導入。ECUを基準にグリッド方式で EMS参加国通貨間の為替相場を±2.25%(一部の国、時期に は6%や15%)の許容変動幅(band)内に安定化。 • 1990年よりEMUの第1段階 • 1992年に欧州通貨危機が発生 • 1994年よりEMUの第2段階 • 1999年よりEMUの第3段階 • 2002年よりユーロ紙幣・硬貨が流通 5 マクロ金融論2016 経済通貨同盟(EMU)の3段階アプローチ 出所:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_eu/k_kankei/pdf/eu_j_0408.pdf#01 6 マクロ金融論2016 欧州中央銀行制度 • 欧州中央銀行制度(ESCB: European System of Central Banks) 欧州中央銀行(ECB: European Central Bank)と各 国中央銀行(NCB: National Central Bank)によって 組織 • 欧州中央銀行が一元的な金融政策を運営。 • 欧州中央銀行が金融政策を決定し、各国中央銀行が 金融政策を遂行する。 • 欧州中央銀行の金融政策の目標は物価安定の維持 (消費者物価指数を中期的に2%を下回ること)。 7 マクロ金融論2016 図4:ECBと各国中央銀行 欧州中央銀行制度 ECB 各 国 中 央 銀 行 各 国 中 央 銀 行 理事会 【政策決定】 各 国 中 央 銀 行 各 国 中 央 銀 行 【政策運営】 8 マクロ金融論2016 通貨同盟参加のための経済収斂 条件(マーストリヒト基準) • (1) (2) (3) (4) EMUに参加して、ユーロを導入するためには、以下の経済収 斂条件(マーストリヒト基準)を満たす必要がある。 物価:過去1年間、消費者物価上昇率が、消費者物価上昇率 の最も低い3か国の平均値を+1.5%より多く上回らないこと。 財政: GDPに対して財政赤字が3%以下であり、GDPに対し て政府債務が60%以下であること。 為替相場:少なくとも2年間、独自に切下げを行わずに、深刻 な緊張状態を与えることなく、欧州通貨制度EMSの為替相場 メカニズム(ERM)の許容変動幅内にあること(ERMⅡの許容 変動幅は15%) 金利:過去1年間、消費者物価上昇率が最も低い3か国の長 期金利の平均値を2%より多く上回らないこと 9 マクロ金融論2016 表1:ユーロ導入直前(1998年)の経済収斂条件 調整消費者物価 長期金利(%) 指数上昇率(%) 一般政府財政収 一般政府債務残 支 の 対 名 目 高 の 対 名 目 GDP 比(%) GDP 比(%) 基準値 2.7 7.8 -3.0 60.0 ベルギー 1.4 5.7 -1.7 118.1 デンマーク 1.9 6.2 1.1 59.5 ドイツ 1.4 5.6 -2.5 61.2 ギリシア 5.2 9.8 -2.2 107.7 スペイン 1.8 6.3 -2.2 67.4 フランス 1.2 5.5 -2.9 58.1 アイルランド 1.2 6.2 1.1 59.5 イタリア 1.8 6.7 -2.5 118.1 ルクセンブルグ 1.4 5.6 1.0 7.1 オランダ 1.8 5.5 -1.6 70.0 オーストリア 1.1 5.6 -2.3 64.7 ポルトガル 1.8 6.2 -2.2 60.0 フィンランド 1.3 5.9 0.3 53.6 スウェーデン 1.9 6.5 0.5 74.1 イギリス 1.8 7.0 -0.6 52.3 Data: ECB 10 マクロ金融論2016 図5a:ユーロ圏諸国のインフレ率 図1:ユーロ圏諸国のHCPIインフレ率 9.0% 8.0% 7.0% ベルギー ドイツ ギリシア スペイン フランス アイルランド イタリア ルクセンブルグ オランダ オーストリア ポルトガル フィンランド 6.0% 5.0% 4.0% 3.0% 2.0% 1.0% 0.0% 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 Data: ECB 11 マクロ金融論2016 図5b:ユーロ圏諸国の長期金利 図2:ユーロ圏諸国の長期金利(10年物国債) 25 20 ベルギー ドイツ ギリシア スペイン フランス アイルランド イタリア オランダ オーストリア ポルトガル フィンランド 15 10 5 0 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 Data: ECB 12 マクロ金融論2016 図5c:ユーロ圏諸国の財政赤字 図3:ユーロ圏諸国の財政赤字(対GDP比) 10 5 ベルギー ドイツ ギリシア スペイン フランス アイルランド イタリア ルクセンブルグ オランダ オーストリア ポルトガル フィンランド 0 -5 -10 -15 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 Data: ECB 13 マクロ金融論2016 図5d:ユーロ圏諸国の政府債務 図4:ユーロ圏諸国の政府債務(対GDP比) % 160 140 120 ベルギー ドイツ ギリシア スペイン フランス アイルランド イタリア ルクセンブルグ オランダ オーストリア ポルトガル フィンランド 100 80 60 40 20 0 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 Data: ECB 14 マクロ金融論2016 未参加国のユーロ導入とERMⅡ • ERM(Exchange Rate Mechanism)Ⅱ ・ユーロ導入の1999年1月1日から実施 ・通貨同盟未参加国のユーロ導入の準備段階 ・当該国通貨とユーロの為替相場を一定の変動幅 で連動させる。 ・ERMⅡ国:デンマーク 15 マクロ金融論2016 通貨統合の理論:最適通貨圏 • 最適通貨圏とは、通貨同盟に参加して、共通通 貨を利用することが適している地域。 • 各国間で非対称的ショックが発生したときに、通 貨統合後は、為替相場以外の手段で非対称的 ショックによって生じる各国経済間の不均衡を 調整する必要がある。 16 マクロ金融論2016 非対称的ショックに対する対応 A国 好況 労働者不足 為替相場による調整 労働の移動 A国通貨増価 貿易 B国通貨減価 財政移転 B国 不況 失業 17 マクロ金融論2016 最適通貨圏の基準 • • • • ショックの対称性 労働の移動性 貿易面における経済の開放度 財政移転 18 マクロ金融論2016 ショックの対称性 • 非対称的な供給ショック(石油ショック、生産性 ショック) 為替相場以外の調整が必要となる。 • 非対称的な需要ショック(消費者の選好ショック、 投資や輸出に与えるショック) 自然失業率仮説から言えば、各国における物価 による調整によって、長期的な非対称的な需要 ショックは消失する。 19 マクロ金融論2016 表2:総供給ショックの相関(1969~89年) ドイツ フラン オラン ベルギ デンマ オース ス ダ ー ーク トリア スイス イタリ イギリ スペイ ポルト アイル スウェ ノルウ フィン ア ス ン ガル ランド デーン ェー ランド ドイツ 1.00 フランス 0.52 1.00 オランダ 0.54 0.36 1.00 ベルギー 0.62 0.40 0.56 1.00 デンマーク 0.68 0.54 0.56 0.37 1.00 オーストリア 0.41 0.28 0.38 0.47 0.49 1.00 スイス 0.38 0.25 0.58 0.47 0.36 0.39 1.00 イタリア 0.21 0.28 0.39 0.00 0.15 0.06 -0.04 1.00 イギリス 0.12 0.12 0.13 0.12 -0.05 -0.25 0.16 0.28 1.00 スペイン 0.33 0.21 0.17 0.23 0.22 0.25 0.07 0.20 0.01 1.00 ポルトガル 0.21 0.33 0.11 0.40 -0.04 -0.03 0.13 0.22 0.27 0.51 1.00 アイルランド 0.00 -0.21 0.11 -0.02 -0.32 0.08 0.08 0.14 0.05 -0.15 0.01 1.00 スウェデーン 0.31 0.30 0.43 0.06 0.35 0.01 0.44 0.46 0.41 0.20 0.39 0.10 1.00 ノルウェー -0.27 -0.11 -0.39 -0.26 -0.37 -0.21 -0.18 0.01 0.27 -0.09 0.26 0.08 0.10 1.00 フィンランド 0.22 0.12 -0.25 0.06 0.30 0.11 0.06 -0.32 -0.04 0.07 -0.13 -0.23 -0.10 -0.08 1.00 20 マクロ金融論2016 労働の移動性 • 非対称的な供給ショックに対して、労働の移動 性によって対応可能。 B国 不況 A国 好況 労働者不足 賃金上昇 労働者移動 失業 賃金低下 21 マクロ金融論2016 貿易面における経済の開放度 • 需要増大ショック←輸入増で対応 • 需要減少ショック←輸出増で対応 • 貿易面において経済が開放されていないと、需 要ショックを国内で吸収。GDPや物価水準が変 動。 22 マクロ金融論2016 財政移転 • 好況の国で得られた租税を不況の国に補助金として 支払う。 • 国際的な財政移転が可能となるためには、財政政策 における国際政策協調や各国の財政主権の統合が必 要。 • EUにおいては、リスボン条約において財政移転を禁止。 しかし、欧州安定化メカニズム(European Stability Mechanism: ESM)は、2012年10月に恒常的設立。 23
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