現代日本語

高级日语Ⅰ
第1课
海の中に母がいる
辻 邦生
授業の内容
●背景知識
●本文の解説
●単語の勉強
●文法・表現の勉強
●練習
●本文の内容について考えよう
背景知識
作者について
辻 邦生(つじ くにお、
1925年(大正14年)9
月24日 - 1999年(平
成11年)7月29日)は、
日本の小説家、フラン
ス文学者。
背景知識
1957年からのパリ留学後、1963年『廻廊にて』
で近代文学賞。その後は、『安土往還記』や『背
教者ユリアヌス』などの歴史小説で様々な賞を
受賞。歌人西行の生涯を描いた歴史小説『西
行花伝』で谷崎潤一郎賞を受賞。1996年、日本
芸術院会員。1999年、軽井沢滞在中に急逝。
2004年には新潮社より『辻邦生全集』が刊行さ
れた。また、映画評や演劇評などの評論も数多
く残している。
本文の解説
【一】「不忍池のほとりを通りかかると、池端に、母
がしゃがみこんで池の面をじっと見ている。」:「偶
然条件」の「~と」。
接続助詞「~と」は大別して、主に三つの意味で使われる。
本文の解説
一、『恒常条件』。ある条件が備わると,いつも同じことが起
こるということを表す。
★夏休みになると、海は海水浴客でにぎわう。
★猫がいなくなると、鼠がふえる。
★春になると花が咲く。
★夏休みになると海に行ったものだ。
★5を7倍すると35になる。
★まっすぐ行くと郵便局がある。
本文の解説
二、同じ主体の動作・作用が引き続いて起こること
を表す。
★電車を降りると、ホームをかけだした。
★机に本を置くと、すぐ出て行った。
本文の解説
三、『偶然条件』。二つの動作・作用が同時に行わ
れることを表す。
★家にはいると、プーンといいにおいがしてきた。
★庭に出ると、犬がとんできた。
★ガラッと戸が開くと、洋子が立っていた。(赤川次郎-おや
すみ、テディ・ベア(上))
★その若葉の色をよくよく眺《なが》めると、一々違っていた
。(夏目漱石-こころ)
本文の解説
偶然条件の「~と」は「~たら」と意味が近い。
★汽車がよっぽど動き出してから、もう大丈夫《だいしょう
ぶ》だろうと思って、窓から首を出して、振り向いたら、やっ
ぱり立っていた。(夏目漱石-坊っちゃん)
★今裏へ回って見たら、この文庫が落ちていて、中にはい
っていた手紙なんぞが、むちゃくちゃに放り出してあった。(
夏目漱石-門)
★舳《へさき》へ行って見たら、水夫が大勢寄って、太い帆
綱《ほづな》を手繰《たぐ》っていた。(夏目漱石-夢十夜)
本文の解説
【二】「大学を出る年」:
日本語では、「~た」は過去・完了の助動詞だから
、ただ「昔、以前」のある時間にある動作が行われ
た、ということを表わすだけでなく、ある動作がそ
の時点で既に完了した、いうことをも一緒に表わす
ことに注意しなければならない。
本文の解説
★私は昨夜家を出たとき空に星がでていたかどうか思いだ
そうとしたが、駄目だった。(村上春樹・世界の終わりとハ
ードボイルド・ワンダーランド)
★病院出るとき、おしめは替えたんだけど、ミルクをあげる
わ。(赤川次郎・怪談人恋坂)
★看護婦は部屋を出るときたしかにドアに鍵をかけていっ
た。(横溝正史・悪魔の寵児)
本文の解説
【三】「留学生は船に乗るように、という指示があっ
た。」:
「~ように(と)いう」は日本語では「伝言」と言って、誰かに
対する誰かの命令・要求などを伝える言い方である。翻訳
の時は、中国語の“叫、让、要求、拜托”などの言い方で
翻訳する。
似た表現に「~しろという」がある。
本文の解説
★さる人物から、この事件を調査してくれるようにという、依
頼をうけたもんですからね。(横溝正史・幽霊男)
★亜紀も、一人で帰らないようにという先生の言葉を思い
出して、送ってもらうことにした。(赤川次郎・くちづけ)
★少し先に行って待つように、翔は運転手に言った。(赤川
次郎・やさしい季節)
★スヴィドリガイロフはテーブルのまえに腰を下ろして、そ
ばに坐るようにソーニャに言った。(罪と罰)
本文の解説
★待てよ。そりゃ君は彼女を殺してくれと僕に言った。でも
、僕は本気にしちゃいなかったんだ。(赤川次郎・ミステリ博
物館)
★わたしは二時に帰れとあんたに言ったのだよ。それだの
にもう三時十五分前です。(赤毛のアン)
★それを黙っていてくれと頼んだが、菅原君子は、上司に
いうといった。(西村京太郎・夜間飛行(ムーンライト)殺人事
件)
★他の連中に僕から伝えてくれと、おやじさんにいわれた
んでね。(西村京太郎・浅草偏奇館の)
本文の解説
★張さんが「辞書を貸してくれ」と言っていました。(原书译
文:小张说了,把词典借给我!)(標準日本語)
★トムが玄関にいるのでなかに入るように言ってください。
★留守中にもし彼がきたら、私が帰るまで待つように言っ
てください。
★他人の事は口出ししないように言ってくれ。
本文の解説
【四】「牢獄さながらだ」:「牢獄そのままだ」の意。
「さ」は古文の副詞で、現代語の「そう」のような意味である
。現在でも色々な表現にこの「さ」が見られる。昔は「然」と
漢字で書くこともあった。
◆さぞ
◆さもないと(さもなければ)
◆さも~そうに(ように)
◆さほど
◆さよう
本文の解説
★大した家だ、と大宮は思った。さぞ金持ちだったろう。 (
赤川次郎・悲歌)
★静かに座ってもらおう。さもないとこのお嬢さんを撃つ。(
赤川次郎・赤いこうもり傘)
★やれ!さもなきゃ、貴様をクビにしてやる!(赤川次郎・
死体は眠らない)
本文の解説
★爽子の言葉にも、昭子はさほど驚いた様子はなかった。
(赤川次郎・招かれた女)
★さもうまそうに煙を吹き出すと、彼女はのんびり歩き出し
た。(赤川次郎・僕らの課外授業)
★じゃ、京子、さようなら。(赤川次郎・素直な狂気 )
単語の勉強
【一】かる【駆る】
1【走らせる】牛を~/赶牛。自動車を駆って急行する/坐汽
车飞奔前往;驱车急去。馬を駆って行く/策马而去。
2【むりにやらせる】国民を戦争に~/驱使国民参加战争。
3【追いたてる】(思想感情等)受→ある激しい感情に動かさ
れる。「不安に―・れる」「好奇心に―・れる」
★魔が差すという言葉があるように、人は遭遇するタイ
ミング次第で誘惑に駆られてしまうことがあります。
単語の勉強
【二】すれすれ 名・形動
もう少しで触れ合うほど近づいていること。
「海面─にカモメが飛ぶ」
もう少しでその限界を越えそうなこと。
「発車時間─に到着する」
「違反─の運転」
単語の勉強
【三】まんきつ 【満喫】 (名)スル
(1)十分に飲み食いすること。
「山海の珍味を―する」
(2)十分に楽しみ,心ゆくまで味わうこと。また,欲
望がみたされ満足すること。
「京都の秋を―する」「山気を―した」
単語の勉強
【四】しゃが・む 自五
ひざを曲げ腰を落として低い姿勢になる。
「道に─・んで話し込む」
・寝ころんでいる父にしゃがんで新聞を渡す
・校庭にしゃがんで友と話した
・草むらにしゃがんで隠れる
単語の勉強
【五】あれる【荒れる】(自下一)
(一)本来の△静かで落ち着いた(整った)状態が失われる。
「海が―〔=波が高くなる〕/天気が―〔=風雨が強まる〕/肌が
―〔=かさかさになる〕/舌が―〔=ざらざらになる〕/筆が―
〔=表現がずさんになる〕」
(二)〔畑・庭・家などが〕手入れが行き届かなかったり 乱暴に使っ
たり などして、本来の機能を失った状態になる。
(三)ふだんの秩序が失われるような何かが原因となって、そのも
のの進行・規律などが乱れる。
「会議が―/荒れた生活」
(四)〔口頭〕 乱暴な事を言ったり したり する。
文法・表現の勉強
【一】*~としたら/*~とすると/*~とすれば
「する」は「仮定する」の意味で用いられていて、「~としたら/
~とすると/~とすれば」は「~と仮定したら/~と仮定する
と/~と仮定すれば」と同義です。
1.行けるとしたら明日しかないんだけど、それでいい?
2.えっ、あの銀行が倒産しそうだって?それが事実だとしたら、
国中が大騒ぎになりますよ。
3.それが本当だとすれば、彼が真犯人ということになる
文法・表現の勉強
【二】*~だけでも/*~だけでは~ない
「~でも」「~では」には元々条件の用法がありま
すが、それが限定の「だけ」と結びついたのがこ
の文型です。
1.全額とは言わないが、利子だけでも払ってくれ。
2.見ているだけではつまらないよ。君もやってみ
たら?
文法・表現の勉強
【三】~てやまない/~てやまぬ
「や(止/停)む」は「雨が降り止んだ」のように使われる動詞で
す。この「~てやまない/~てやまぬ」は「止む」の否定形「止
まない」から作られていて、「ずっと~ている」「永遠に~する」
という話者のひたすら思い続けている感情を表すようになり
ます。
1.先生の一日も早い御健康の回復を念願してやみません。
2.彼が求めてやまぬ権力とは、果たしてどれほどの価値がある
ものなのか。
3.御結婚おめでとうございます。お二人の末永いお幸せを願っ
てやみません。
練習
次の語群から適切な言葉を選んで、( )に書き入れ
なさい。
刻々 ひたすら ねっとり
1、こんな( )として甘味のある里芋を生まれてこの
方、食べたことがない。
2、人の大事なものをなくしてしまって、弁償のできな
い私は( )相手に謝るしかなかった。
3、彼は毎晩毎晩や、いや( )の「時」さえも、いかに
有効に過ごすべきかを考えている。
本文の内容について考えよう
●「人生の過ごし方も学んでいた」とあるが、それ
はどのように理解すればいいか。
●筆者は「海よ、~」という詩が好きなのか。それ
はなぜか。