高级日语Ⅰ 第11课 島で見たことから 高田 宏 授業の内容 ●背景知識 ●本文の解説 ●単語の勉強 ●文法・表現の勉強 ●練習 ●本文の内容について考えよう 背景知識 作者について 高田 宏(たかだ ひろし、1932年8月 24日 - )は日本の作家・随筆家。 1975年に退社し、文筆専業に専念と なる。代表作に『島焼け』などの歴史 小説をはじめ、樹木・森・島・旅・雪な どの自然、猫などをテーマに随筆・ 評論・紀行など著書百冊ある。 背景知識 天売島 北海道苫前郡羽幌町にある羽幌港 の西30kmの日本海に浮かぶ島。島 の東側に並んで浮かぶ焼尻島ととも に羽幌町に属している。面積5.50 km2、周囲約12㎞、人口は377人 (平成22年4月現在)。島の名は、ア イヌ語の「テウレ」(魚の背腸)、もしく は「チュウレ」(足)に由来すると言わ れている。 本文の解説 【一】「身を乗り出すものだから」: 「~ものだから」(以下は、『日本語文型辞典』による) 原因・理由を表わす。「から」に言い換えることができるが、 後に意志表現、命令表現はつけられない。 (誤)近いものだから、歩こう。 (正)近いから歩こう。 「事態の程度が激しい、或いは、重大で、そのせいで何か をしてしまった」ということを述べるのに用いられることが多 い。話し言葉で使われるのが普通で、くだけた言い方では 「もんだから」となる。 本文の解説 ★私の前を走っている人が転んだものだから、それにつま づいて私も転んでしまった。 ★「父危篤すぐ帰れ」という電報が来たものだから、慌てて 新幹線に飛び乗って帰ってきた。 ★彼がこの本をあまりに進めるものだから、つい借りてし まった。 本文の解説 ★駅まであまりに遠かったものだから、タクシーに乗ってし まった。 ★A:昨日は練習に来なかったね。 B:ええ、妹が熱を出したものですから。 ★英語が苦手なものですから外国旅行は尻込みしてしま います。 本文の解説 (以下は、『日本語表現文型辞典』による) *~もので/*~ものだから/~んだもの 名詞 : である/な + もので 動詞・形容詞:普通形<ナ形ーな> もんで<口> ものだから もんだから<口> んだもの<口> 本文の解説 ♪ 会話 ♪ 李 :学生の頃によく通った飲み屋を、八方手を尽くして探し たけれど、だいぶ昔のことなもので、見つからな くてね。がっくりきたよ。 良子:本当に残念ね。最近は至る所が再開発されてるもの だから、取り壊されたのかもしれないわ。 李 :記念にビデオに撮っておこうと思ったのに。 本文の解説 ♯ 解説 ♭ 「~もので/~ものだから/~んだもの」は「ので」系の原 因・理由を表す表現ですが、予定しない事情や不本意な事 情があって、「そうするつもりはなかったんですが~ので/ そうしたくはなかったんですが~ので」という意味を表しま す。謝るときの言い訳によく使われる表現です。 会話での注意として、謝るときの理由には「~から」は使わ ないことです。「~から」は原因・理由を強調しますから、自 己の責任回避の印象を与えるのです。謝罪の時は「~の で」か「~もので」を使いましょう。 本文の解説 ★電車が遅れたもので、遅刻しました。<不本意な理由> ★電車が遅れたので、遅刻しました。<客観的な理由説明 > ★電車が遅れたから、遅刻しました。 <私は悪くない。JR が悪い> 本文の解説 【二】「~ていてくれる」と「~てくれている」: 前者は相手がこれからのある時点で好意的な行動をしてく れると確信し評価することに重点があるのに対して、後者 は今現在相手の好意的な行動が進行中、あるいはその好 意的行動がすでに完了している、という意味である。 ★終わるまで待っていてくれました。(謝意を表す表現) ★終わるまで待ってくれていました。(事実・状況確認) 本文の解説 人に何かをしてくれ、と頼む時は、「~ていれくれるか」と。 ★うるさいな。黙っていてくれないか。(遠藤周作-協奏曲) ★もう一つ、番組の収録があるんです。終るまで待ってい てくれますか。(赤川次郎・幽霊湖畔) ★少し待っていてくれる? 母の顔をちょっと見てくるから。 (森瑤子・風物語) ★そうですね。それでしたら、そこでちょっと待っていてくれ ませんか。(金達寿・日本の中の朝鮮文化 7) 以上の例では、相手が好意的なことをやって「くれるかくれ ないか」が問題なのである。 本文の解説 ★いったい、上官は練習生の健康について考えてくれてい るのだろうか。(工藤美代子・工藤写真館の昭和) ★おい聞いてくれているのか、岩松さん。(新田次郎・槍ヶ 岳開山) ★いったい、わたしの友人はわたしを思いだしてくれている のか。(森敦・月山・鳥海山) ★ほう、そうか。そんなに私を愛してくれているのか。(稲垣 美晴・サンタクロースの秘密) 以上の例では、相手がこっちの利益になるようなことをして 「いるかいないか」が問題なのである。 本文の解説 しかし、あまりこの違いを意識しないで、適当にどっちかを 使っている人もずいぶんいるようである。例えば: ★山の中腹には、既に皆さんおなじみのO青年が迎えにき てくれていた。(遠藤周作・ぐうたら交友録) ★室内の埃や汚れは、すでに管理人の竹山夫婦がほとん ど掃除してくれていた。(二階堂黎人・奇跡島の不思議) ★入っていくと、すでに飲む用意をして待っていてくれた。 (かんべむさし・かんちがい閉口坊) ★やがて車が着き自分たちの家まで来てみると、角治郎さ んと井戸屋の茂ちゃんとが既に戸じまりを明けて待ってい てくれた。(福永武彦・別れの歌) 本文の解説 もっとひどい場合、つい「いる」の部分を二回言ってしまう。 ★それだけ自分のことを心配していてくれていたのだと知っ ただけで嬉しい。(渡辺淳一・メトレス 愛人) ★室内の空気はこころよい。窓の電子冷暖房装置がつねに 適温に保っていてくれているからだ。(星 新一・きまぐれ博 物誌) ★ああこの人は本当に私のことを心配してくれているんだ。 大事に思っていてくれているんだ、と感じることができる。 (森瑶子・ある日、ある午後) ★この十子一人だけが、私の額をなでていてくれている。 (林芙美子・放浪記) 本文の解説 “ていてくれてい” のGoogle検索結果: 本文の解説 本文の解説 本文の解説 【三】「暮れかかる海を帰る」: ここでは、「海から帰る」でなく、「海を帰る」と言った理由を 考えてください。 起点、出発点: 経由、経路: から を ★母は夕食の支度をするために4時にデパートを出た。 ★私は毎日7時に家を出る。 ★(先生が悪戯をしている学生に)「教室から出なさい」。 ★(警察が犯人に)「そのビルから出ろ!」 -(杉村 泰) 本文の解説 「海から帰る」は、「海」をただの起点、出発点と見ているの で、海辺から自分の家へ帰る、の意である。それに対して、 「海を帰る」というと、「海」を「点」としてではなく、帰る時の「 経路」として捉えたことになる。つまり、沖から海辺へと帰る 、という意味になる。 本文の解説 ★いちばん近い道を帰るほかはなさそうだ、と文四郎は思 った。(藤沢周平・蝉しぐれ) ★二人して、それから野道を帰るころ黄昏《たそがれ》てお りました。(五味康祐・刺客) ★雪がしんしんと降っている窓の外を耕作は見た。この分 だとどんどん積もって、少し町から離れた細道を帰る子供 たちは、難儀するかも知れない。(三浦綾子・続泥流地帯 草のうた) ★ウィークリーマンションの殺風景な白い廊下を帰るとき、 おれはちょっと涙ぐんでいた。(石田衣良・池袋ウエストゲ ートパーク) 本文の解説 【四】「~海辺の散策程度の体験でしかない」: 「である」の「で」と「ある」の間に色々な意味の助詞や副詞 が入ることがよくある。 ★「心配するな、刑事でなんかない――」(大藪春彦・名の ない男) ★賞めたたえているのでは決してない。せいいっぱいの皮 肉であった。(滝口康彦・拝領妻始末) ★よその家や施設などの訪問では絶対ない。もっと個人的 な、おしのび的な用件だ。(天藤 真・大誘拐) 本文の解説 【五】「自然が変わることなく続く」: 「~ことおなく」(『日本語文型辞典』): ★ひどい雪だったが、列車は遅れることなく京都に着いた。 ★我々は、いつまでも変わることなく友達だ。 ★その子は、もうこちらを振り返ることもなく、両手を振り、 胸を張って、峠の向こうに消えて行った。 本文の解説 ③のように「~こともなく」の形もある。「~ないで」や「~ず( に)」に近いが、「~ことなく」は書き言葉で、また意味的に は、例で言えばそれぞれ「遅れる・変わる・振り返る」可能 性もあるのに、そういうこともなく、というような意味合いで 使われる。 本文の解説 【六】「~させていただく」:310頁の翻訳は間違って いる。 ★あなた、何もしてあげられなかったことを、今このわたし がさせていただきます。(駒田信二・一条さゆりの性) ★金婚式のお祝いに、子供たちにハワイに行かせてもらっ た。(日本語文型辞典) ★(結婚式のスピーチ)新婦の友人を代表して、一言ご挨 拶させていただきます。(日本語文型辞典) ★(パーティで)では、僭越ではございますが、乾杯の音頭 を取らせていただきます。(日本語文型辞典) 単語の勉強 【一】つっこむ【突っ込む】【突込む】 (他五) (一)△勢いよく(むぞうさに)入れる。 「ポケットに手を突っ込んで歩く」 (二) 突いて△中へ入れる(貫く)。 (三) 〔問題点を〕鋭く△指摘(追及)する。 (四)〈なにニなにヲ―〉 深く関係する。 「学問に首を―」 単語の勉強 【二】ぐっと__副__ __瞬間的に力を入れるさま。「─押し返す」 __感動したり困ったりして、胸や息などがつま るさま。「事情を聞いて胸に─きた」「だし ぬけの質問に─つまる」 __それまでと比べて程度の差がはるかに大 きいさま。一段と。ずっと。「値段が─高く なる」 単語の勉強 【三】はらはら__副ト__ __小さなものや軽いものが少しずつ静かに落ちる さま。「花びらが─(と)散る」「─(と)涙を落とす」 __髪の毛が乱れて垂れかかるさま。「後れ毛が─ と__ほおにかかる」 __ことの成り行きが心配で落ち着かないさま。「─ しながら曲芸を見る」 単語の勉強 【四】なら・す【▽均す・▽平す】__他五__ __地面などの高低や凹凸をなくす。平らにする。 「土地[火鉢の灰]を─」 __平均する。 「利益を─・して配分する」「月に─と五冊の本を読 む」 「─・して~」「─と~」「─・せば~」の形が多い。 単語の勉強 【五】すっぽり__副ト__ __全体を包み隠すようにおおうさま。 「ふとんを頭から─(と)かぶる」 __物がうまくはまりこむさま。また、はまって いたものがたやすく抜けてしまうさま。 「壁際に─(と)納まるサイドボード」 単語の勉強 【六】そうけい【早計】 _名・形動__ よく考えないで軽率に判断を下すこと。また、は やまった考えや判断。 「─に結論を出そうとするな」 文法・表現の勉強 【一】~と見える 「~と見える」は外見からの推量・判断を述べる。感覚推量 の表現で、ほとんど「~ようだ」と同義になります。 1.彼は相当酔っていると見えて、足下がふらついている。 2.商いの方も暇だと見えて、店員達はおしゃべりに興じて いた。 3.あの落ち着き払った態度からして、相当自信があると思 われる。 練習 次の文中の( )にいれるのに最も適切なものを選び なさい。答えは必ずしも一つとは限らない。 1、( )まで交渉したけど、かつかつ食べるボーナスし か出なかったよ。 すれすれ ぎりぎり 2、締切( )に願書を出したが、すぐ入学通知書を 送ってくれたので助かった。 すれすれ ぎりぎり 3、上の子は父親にお金を( )時しか家に帰ってこない。 せびる ねだる せがむ 本文の内容について考えよう ●筆者はなぜ東京という町たいいと言うのか。 ●筆者はなぜ自分の見方を楽観にすぎると言うの か。
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