哲学 第3回 「善い社会を作る」 by プラトン ピロ 「せっかく人に生まれたら、人間らしい人生、人 として意味のある人生を求めるのは当然だね。」 パロ 「ソクラテスは『善く生きる』と言い、プラトンがこ だわったのは『イデア』だったね。」 ピロ 「でも、ソクラテスは結局社会によって殺され た。 」 パロ 「・・・」 ピロ 「人が善くあろうとしても、社会がそうさせてくれ ないということは意外と多いんだ。」 パロ 「独り正しくってのは難しいし、それになんだか 独りよがりかもね。」 ピロ 「人がそれぞれ善く生きられるための社会。つま り『善い社会』をつくることが必要だろうね。」 ピロ 「それもまた、善く生きるってことになるかな。」 ソクラテスを殺したアテネ 1. 2. 3. 4. 5. 6. BC399年 ソクラテスの教育活動は 「青年に害悪を与えている」として、裁判に 『弁明』で「よく生きる」等々を主張 陪臣員の賛成多数で死刑宣告 友人のクリトンや弟子らの脱獄の勧め 『クリトン』での対話による脱獄の拒否 規定どおり毒杯を仰いで刑死 ソクラテスの時代 (4~5C BC) 都市国家(ポリス)アテネの最盛期 奴隷も入れて人口20-30万人? 政治に参加する「市民」は3-5万人 市民による民主主義 広場での討論 同盟国や植民地との交流 ワイン講座11回 ギリシャワインを極める http://www.asahibeer.co.jp/enjoy/wine/school/h/h_11.html アテネの民主主義の歴史 1. BC594 ソロンの改革 市民に参政権を与える 貴族との調停 2. 最盛期 3. 4. 5. 6. 7. BC508-507 クライステネスの改革 陶片追放(独裁者追放のしくみ) BC490(マラトン)、480(サラミス沖)対ペ ルシャ戦争 BC446-429 ペリクレス時代 BC431-404 ペロポネソス戦争(対スパ ルタ戦) BC334-323 アレキサンダーの大遠征 BC322 アテネ、マケドニア王国に屈服 470 ~399 ソ ク ラ テ ス 427 ~347 プ ラ ト ン 384 ~322 ア リ ス ト テ レ ス アテネの民主主義 直接民主政 王制、貴族政などをとらない 平等で自由な市民全員による討議と決定 行政官は市民から選ばれる ただし、市民は奴隷を除く成年男子(2-3万人)の み 公共の場(民会、裁判所、広場)での討論 暴力や感情でなく、理性による議論を重んじる ポリス的人間像 ペリクレス 自由な気風、創造的精神、多様性や適応性への感覚、質 朴な生活感覚、叡智への愛、ポリスへの義務、勇気の涵 養、自己犠牲の精神、遵法精神、公共精神(ツキュディ ディス『戦史』) ポリス的人間ソクラテス 広場や裁判所での理性による言論(対話、批判) カネやモノにこだわらない生活 死にたじろがず「悪法も法なり」と迎えた最期 ソクラテスの善く生きる=ポリス市民としての生 民主主義の末路 僭主による権力奪取(クーデター)の危険 ペイシストラトス、ペリクレス デマゴーグ(扇動的指導者)らの扇動→衆愚へ ソフィスト(職業弁論家)の活躍 衆愚 指導者なしの混乱・思慮の欠如 BC406 戦没者らの告発→戦勝した将軍らの召喚→保証 人や取り下げ請求→戦没者への感情を利用した圧力→ 処刑→告発者らの告発→逃亡 BC399 ソクラテスの処刑 民主政の批判者プラトン 「イデア論」 理想主義者 古代アテネの人BC427-347 ソクラテスの指導(~28歳) アテネの敗北(プ23歳) 独裁政権&恐怖政治の混乱 ソクラテスの処刑(28歳) さすらいの理想主義者(~ 40歳) 教育者、思想家(~80歳) 「アカデメイア」を創設(40歳) 学校教育、国家制度の礎を残 す 生涯独身を通す ソクラテスの「善く生きる」の継承 「ソクラテスの死」のショック 感情ではなく理性による善悪の判断を ソクラテスの「対話術」継承 論理的対話の精神 • =ロジック=ロゴスの重視 絶対的な「魂の善さ」の探求 • 安易な相対主義批判 「イデア論」による「善く生きる」(倫理)理論 「善」のイデアを知ることで善く生きることができる 「イデア」の認識 イデアを認識することが大切だ。 コップ性を理解するからコップを判別できるし、コップを作 ることができる 「美」を認識しているから、美しいものを作るとこができる。 「善」を認識しているから、善い行為ができる。 (ソ:「善く生きる」への理論的解答の一歩) イデアは経験できない(線の太さもない純粋な「三角 形」を見たことがあるか? ) 感覚経験でなく、経験を生かしながら、最終的には 理性で「観る」「把握する」しかない。 モノゴトに共通する相を探す、「対話法」による理性的アプ ローチ(帰納法?)が大切 プラトンの民主主義批判1 プ「この人々は自由であり、またこの国家には自由が支配して いて、何でも話せる言論の自由が行きわたっているとともに、 そこでは何でも思いどおりのことを行なうことが放任されてい るのではないかね?」 ア「いかにも、そう言われています」・・ プ「思うにこの国制のもとでは、他のどの国よりも最も多様多種 な人間たちが生まれてくることだろう」 ア「ええ、むろん」・・ プ「ここでは、国事に乗り出して政治活動する者が、どのような 仕事と生き方をしていた人であろうと、そんなことはいっこう に気にも留められず、ただ大衆に好意をもっていると言いさ えすれば、それだけで尊敬されるお国柄なのだ。」 ア「たしかに」と彼は答えた、「おおらかな国制には違いありませ ん」・・ 『国家』pp.204-206 プラトンの民主主義批判2 プ「民主制国家が善と規定するところのものがあって、そのもの へのあくことなき欲求こそが、・・民主制を崩壊させるのでは あるまいか?」 ア「民主制はなにを善と規定していると言われるのですか?」 プ「<自由>だ」 (・・略・・) プ「支配者に従順な者たちを自分から奴隷になるようなつまら ぬやつらだと辱めるだろう。個人的にも公共的にも賞賛され るのは、支配する人々に似たような支配者たち、支配者に似 たような被支配者たちだということになる。(・・)」 プ「 (要約)そして息子が父親に、居留民は市民に、生徒は先 生に、若者は年長者に、女は男に、真似し、平等になり、入 れ替わってしまう。かれらは、わがままになり、最後には法律 さえもかえりみなくなってしまうだろう。」『国家』p.218 プラトンの提案 個人に「善く生きる」が必要だったように、国家にも 「善い国家体制」がある 善い人間と善い国家の類比魂の三分説 魂=知性(思慮)、気概(勇気)、欲望(節制) 国家=愛知者(行政)、軍人(軍事、治安)、農夫や職人 (生産) 正義=三者が自分の「分」を守る(徳を実行)する バランスのとれた人間と同じようにバランスのとれた社会 を 理性によって管理された社会(結婚、育児、教育、etc) 哲人政治 プラトンの政治学 国家:愛知者(行政)+軍人(軍事、治安)+農夫や 職人(生産) 政治は愛知者によって行われるべき • 政治的判断は欲望や感情によってではなく、理性と言 論によってなされる • 「善のイデア」を把握できるほど善い政治ができるはず だから • モノや名誉でなく、魂の善さを大切にするから プラトンその後 BC387 40歳のとき、アテネに帰還して、自分 の学園「アカデメイア」を創設 (アカデミー、アカデミックの語源) 自分の理想「哲人政治」の教育の実践 「問答法」→哲学&政治、法律家を輩出 『国家』などの対話編を執筆 60歳、66歳で、哲人政治の実現を夢見てシ チリアへ渡航する→挫折 アテネに帰還→死 写真 http://home9.exblog.jp/2238624/ 参考文献 『プラトンの哲学』岩波新書、藤沢令夫。プラトン紹 介本。言語や技術についての現代的な問題ともリン クさせている。 『人と思想 プラトン』清水書院、中野幸次。 定番紹介本。 『国家』岩波文庫、プラトン。イデア論のほか、 哲人政治の理念が対話を通して力強く語られ る 『デモクラシー』千葉眞、岩波書店。古代の民 主主義、近-現代の民主主義について。
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