第八回

哲学
第8回 「最大多数の最大幸福」
By ベンサムとミル
2007年5月29日 吉田
パロ「国民主権、平和主義、基本的人権の尊重。政治っぽい話
が続いたね。」
ピロ「カントの言う、相手を人間として尊重せよというのは説得力
があるよね。」
パロ「うん。よく、一人の人の命は地球より重い、とか言うよね。」
ピロ「それは、、」
パロ「何だい?」
ピロ「本当に、一人の人の命は地球より重いのかな?」
パロ「そりゃそうさ。カント先生によれば、一人の人は人格を持っ
ているけど、地球は持ってないからね。」
ピロ「でも、もしも地球が破壊されたら、多くの人の命が失われる
かも。多くの人の命のほうが、一人の人の命より重いので
は?」
パロ「命の重さを較べられるのかな?」
ピロ「・・・・。」
ベンサム
秀才、まじめ、
がんこ、意思、
偏屈、同情家、
孤独
1748年生 法律家の家庭
英才教育 5歳で「哲学者」と呼ばれる
オクスフォード大(12歳-15歳)
法律家の道は挫折、法哲学者へ(30-40歳ごろ)
1776年『政府論断章』、89年『道徳および立法の原理序
論』出版→名声と社交生活の確保
40歳-60歳ごろならぬ恋→ロシアへ、生涯独身
1791-1802年パノプティコン(監獄)の設計
1808年ごろよりジェームズ・ミル(40歳)とその子J.S.ミル
(7歳)と交友
1826年 市民の大学「ロンドン大学」設立に参加
1832年 没 解剖→ロンドン大へ
J.S.ミル
天才、緻密、誠実、
知性、ロマンス、バラ
ンス
ベンサムの友人で功利主義者
活動的官僚の父 1806年生
英才教育+天才(IQ190?)11歳で
ローマ政体史とアリストテレスに関する論文執筆
15歳 ベンサム主義『経済学要綱』(父と)
17歳 東インド会社就職(1863年まで)
1826年(20歳) 美や愛、信仰の尊重とベンサム流功利主
義への疑問
1830- テイラー婦人とのロマンス 51年(45歳)結婚
1837年『論理学体系』、1842年『経済学原理』など
1858年 婦人没 功利主義の改良と自由主義の完成へ
1859年(53歳)『自由論』 1863年『功利主義』
1865年 代議士 1867年セント=アンドリュース大学総長
1873年 没(65歳)
信
仰
・
教
会
ベンサム・ミルの時代
→
理
性
・
王
権
帝
国
主
義
と
福
祉
産
業
の
発
展
J.S.
市
場
と
自
由
主
義
議
会
と
市
民
の
台
頭
1633年 ガ裁判、41年 デ『省察』
1640-60年 清教徒革命、 51年 ホ『リバイア
サン』
1688年 名誉革命、87年ニュ『プリンキピア』、
89年 ロ『統治論』
1733年 ケイ「飛び緋」、65年 ワット蒸気機関
1776年 ベ『政府論断章』、81- カ『○○批判』
1775年 アメリカ独立戦争、89年 フランス革
命、ナポレオン 1815年 ウイーン会議
1832年 選挙法改正(民主化)、46年穀物法
廃止(自由化)
1859年 ミ『自由論』
1868年 日本明治維新
ベ
ン
サ
ム
ミ
ル
ベンサムの「幸福」
人間=快と苦に支配されている存在
快苦は人のなすことの原因
人は快に従う(事実)
科学としての人間科学
人は快に従うべき(価値)
「善く生きる」に関わる倫理学
快=幸福=善を基本とした合理的(科学
的?)倫理学
快楽計算
1.
2.
行為A→結果a、行為B→結果b
快楽計算 a>b
行為の倫理的判断 A(善)>B(悪)
計算の基準
快楽の強度、持続性、確実性、近接性(行為と
結果の時空的な近さ)
豊富さ(プラスの相乗効果)、純粋さ(マイナス
の効果、副作用がないこと)
範囲(快苦を感じる人の数)→次項へ
「最大多数の最大幸福」
快楽計算は範囲を考慮する
社会の総ての人について、
(快の合計)-(苦の合計)を計算
a = (a1+ + a2+ + a3+ +・・)-( a1- + a2- + a3- +・・ )
b = (b1+ + b2+ + b3+ +・・)-( b1- + b2- + b3- +・・ )
a > b なら A > B
快楽計算によって、最大多数の最大幸福を
実現するのが善い選択
個人の行為選択、立法や政策の判断の基準
国民による多数決(議会など)を正当化
ベンサムの功利主義
特徴
人間理性による判断(計算)が道徳を実現する
幸福の定量化 快苦を基本とする生物としての
人間 道徳の科学化(≠カント、ウィトゲンシュタイ
ン)
アトミズム 社会とは個々の人間の集合でしかな
い(個人主義>公共、コミュニティ)
善悪を社会全体と相対的に判断(穏やかな普遍
主義? 相対主義?)
快苦や幸福を善とする(≠カント)
ベンサムへの批判
カント主義(義務論)
道徳は普遍的→欲望や感情での行為は×
結果主義
どんな行為でも結果が善かったらそれでOK?
• 「うそも方便」「わいろも効果しだいでOK」
たまたま結果が善くなれば行為も善くなる?
• 人を殺した→たまたま悪人だった→よい行為だった?
ベ:結果そのものでなく、結果の見積もりが大切
情操や、質的な違いを無視している
「満足なブタよりも、不満足なソクラテスでありたい」
(J.S.ミル)
J.S.ミルの功利主義
ベンサムの功利主義の批判的発展
ベンサムの継承
最大多数の最大幸福が善である
批判「不満足なソクラテス」
ただし、「幸福」な生(善く生きる)には、情操(愛
や美、崇高、利他的感情など)がポイント(T)
快にも質の区別がある(生理的な快に対して、情
操的な快の区別)
快楽計算は、質の高い快に重み付けして、最大
化をはかるべき。
公共性と自由の重視
質の高い快として利他的な快を重視
=公共の領域(他人に関わる領域)における功利
主義(質も考慮した快楽計算)
選挙制度の改良(比例区、専門性に重み付け)
教育(リテラシー)の必要
社会福祉、平等(女性、植民地)の重視(T)
他人に関する領域→まず公共性を優先
人に害を及ぼさないなら自由(危害原理)
自分自身にのみ関わる領域→自由を尊重(T)
参考文献
『人と思想 ベンサム』、山田英世(著)、清水
書院。紹介本
『人と思想 J.S.ミル』、菊川忠夫(著)、清水書
院。紹介本
『公共性の哲学を学ぶ人のために』 安彦一
恵/谷本光男(編著)、世界思想社
ミルの政治論に関する紹介、ほかロックやホッブ
ス、カントらの政治的な思想の整理と紹介など
『世界の名著38 ベンサム J.S.ミル』関嘉彦
(編著)中央公論社(絶版)。ベ『原理序説』、ミ
『自由論』、ミ『功利主義』などの翻訳。
課題
功利主義と義務論(カント)を比較して評価せ
よ。
4人乗りの救命ボートに5人集まった。どうする?
• 義:誰かを選ぶことは誰かを殺すことだから、選ばない。
• 功:社会にとってより有用な人から選ぶ。
政治家が賄賂を受け取っても誰も被害を受けな
い場合、受け取ってもよいか?
• 義:受け取るのは政治家の義務としてよくない
• 功:誰も不幸にならないなら受け取ってかまわない